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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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幕間 感想戦

――アイリス視点――

 特殊ハンディマッサージャーを使ったユノ攻略は、失敗に終わり――いえ、時期尚早だったようです。


 ユノというお手本があり、彼女もよく言っている「ヤレると思ったことは大体できる」という言葉を信じて賭けに出たのですが、結果は危うく死にかける――彼女が言うには、「ただ死ぬよりも酷いこと」になる寸前だったそうです。



 確かに、多少は意識が残っていたものの、完全に制御不能でした。

 それに、後からセーレに聞いた状況を照らし合わせると、かなりまずい状態だったのは間違いないのでしょう。

 古竜の彼の魔法がなければ、どうなっていたことやら。



 もっとも、彼の魔法も充分に即死できる威力のものでした。

 私が今も生きているのは、運良く胸元に入れていた、ユノからの誕生日プレゼント――いえ、ユノの愛のおかげです。



 このハンカチは――失礼な言い方になってしまいますが、ユノから頂いたものにしては、とても実用的です。


 古竜の攻撃をも弾くほどの、神器級の性能があるので当然といえば当然のことですが、何より素晴らしいのは、このハンカチはユノの香りが全く薄れないのです。


 とても捗ります。


 ずっと嗅いでいたいところですが、さすがに体面が悪いので、人前では控えなければなりません。

 それでも、少しでも近くにユノを感じたくて、心臓に近い所に仕舞っておくのが日常になっていたのですが、そのおかげで命拾いしたというのは、やはり運命を感じてしまいます。


 結局、私のハートを貫けるのは、ユノだけなのです。



 ところで、私たちには、ユノが言っていることを本当の意味で理解することはできません。


 それでも、珍しく怒っていたユノを見るに、あれは相当に駄目なことだったのでしょう。


 随分な醜態を曝してしまって、大魔王陛下にも迷惑を掛けてしまったことも事実らしく、それでユノに見限られてしまっていたらと考えると、本当に死んでいた方がマシだったでしょう。

 怒っているユノもとても可愛いのですが、嫌われてしまったり、興味をなくされてしまうのには耐えられません。



 それでも、ひとしきりお叱りを受けた後、私の言い分もきちんと聞いてくれるあたりは、これまで積み上げてきた信頼の賜物でしょうか。

 ユノなら、興味の無い話を聞かないことも充分にあり得たのですから。


 それなら先に言い分を聞いてもよかったのではとも思ったのですが、よくよく考えると、どんな言い分があっても駄目なことだったのかもしれません。

 余計なことを口にしなくてよかったと思います。



 なお、ユノは、あれが彼女に向けられる予定だったなどとは全く思っていないようでした。


「魔界という特殊な環境において、物理も魔法も効かない相手が現れたときのために、少しでも有効な対策を模索していたんです」


 なので、そんな苦しい言い訳でも、すっかり信じてくれました。


 とはいえ、一応、嘘ではありませんし。


 魔界でユノとふたりきりの状況で、物理も魔法も効かないユノを相手にする手段を模索していたのですから。



「領域を展開するのに、他人の――神の力だとしても、借りるのはよくないよ。そういうのは、もっと階梯が上がってから――自分と他人じゃなくて、自分と自分とは違う可能性の先にいる自分だって認識できるくらいじゃないと」


 むしろ、アドバイスまでいただいてしまいました。

 言葉を理解する以上のことは難しそうですが。


「何かを核にするって考え方も、駄目とまでは言わないけれど――まずは、もう少しアイリスとの親和性のある物とか、手作りした物にするとかしないと」


 さらに、それは誰がどう見てもアウトな物についてまで及びました。

 ここまで天然ですと、さすがに罪悪感も湧いてきます。


 ですが、欲望には勝てません。



 そして、「なるほど」と思うところも多々あります。

 女神様の力を借りたのも悪手、アレを核にしたのも少々欲望だけが先行する感じになってしまったのでしょう。「欲は身を失う」とはよくいったものです。



 ですが、欲望なくして何が人間か。

 人が人であるためには欲望は必須です。

 欲望とどう付き合っていくかが命題であって、解脱など、私にとっては論外です。


 いえ、欲望の先にこそ解脱に至る道があるのです。

 賢者タイム的なあれです。


 つまり、まずは欲望を満たさなければならないのです。



「それでも、不可能を可能にしたアイリスの努力は褒められるべきだと思う。方向性は間違っていたけれど、ただそれだけのこと。アイリスにはまだまだ可能性が眠っているよ。だから、もっと私に見せてほしいな」


 さらに、間違い、醜態を曝したはずの私を、そんなことを言いながら抱きしめるなど、少しお母さんのような感じはありましたが、ユノの優しさが身に沁みます。

 そして、欲望の増大が止まるところを知りません。


 こうしてユノに可愛がってもらえるなど、命を張った甲斐があったというもの。

 次はもっと上手くやってみせます!



 ですが、領域の扱いについては、リリーが一歩先に行っているようです。


 といっても、年齢的にそういう対象にはならないでしょうが、あの娘は生粋の女狐です。

 油断していると、変化や進化で対応してくることも考えられます。

 こちらも猶予はあまりないと思うべきでしょう。


 もちろん、負けるつもりはありませんが。


◇◇◇


――ルイス視点――

 老師との戦いは、アイリスの召喚した悪魔の、恐らく強制力の強い《転移》魔法で有耶無耶になった。


 言葉にすると簡単に聞こえるが、そこらの有象無象ならともかく、老師に対してそれができる存在など、そうそういるもんじゃない。

 あの悪魔でも、直接接触できる距離まで詰めて、更に老師の心の隙をついてようやくだったんだろう。



 だが、悪魔だけでそれをやってのけたわけじゃねえ。


 そこに大きく貢献したのが、アイリスの自己犠牲ともいえる活躍だ。



 あの時はちょっと混乱してたが、本当なら、あんな距離では魔法はおろか声すらも届かないはずだ。

 何かのタネがあるんだろうが、それが何かは最後まで分からなかったな。



 というか、俺はといえば、時間稼ぎもろくにできなかったような為体(ていたらく)だった。


 一芸に特化してるユノの関係者と張り合っても仕方がないのは分かってるが、この役立たず振りはさすがに悔しい。

 忙しさを理由に訓練をサボっていたのがまずかったか――いや、訓練してたら勝てたかは微妙だが、どのみち鍛え直さないとな……。



 どうでもいいが、あのアイリスの生活能力の無さはヤバいな。


 頭の回転は早いし、口も達者で、かろうじて礼儀作法はこなせるものの、運動神経はゼロ――いや、マイナスじゃねえかな。


 料理なんかのセンスが問われるものは、問答無用のマイナス補正が働いてるらしい。

 火も使ってないのに丸焦げになるとか、怪奇現象としか思えん。


 それに、家事ができないのはどうでもいいが、年頃の女の子が化粧すらできないってどういうことだ。

 いや、魔除けも化粧の原型のひとつだとは思うが――と、そんな奴の後塵を拝したという事実は、自信を失くすには充分なものだ。

 たとえ、一芸が上手く嵌っただけなのだとしても、何の言い訳にもならない。



 それで、せめて後片付けくらいはと考えたのがまずかったか。


 というか、どう見ても()()なあれに手を出すとか、いろんな意味でアウトだろ。



 ただ、その時は、諸悪の根源にもなりかねない呪われた存在に、《正義執行》をするだけのつもりだった。


 ……まあ、それは確かにある意味では諸悪の根源というか、それのせいでトラブルを起こす人が後を絶たないが、一方では豊穣さなども象徴する、紛うことなきチ〇コだ。


 それとの戦いは、理性と本能の戦いとでもいうのだろうか。



 もう少し深く考えていれば、あんなことには――。


 いち個人の理性――それも、たびたび欲望に負けるような脆弱なものと、具現化した欲望そのものともいえるファルスとでは、勝負になるはずがないことくらい分かったはずだろう。



 結果は、惨敗というのも烏滸(おこ)がましい。


 手を出そうとした瞬間、一本の巨木――巨根だったそれが、根元からいくつにも分裂した。

 それが俺に絡みついて――ろくに抵抗もできないまま手足の自由を奪われて、口も塞がれた。

 初めての珍味――むせかえるような欲望の臭いに眩暈(めまい)がした。


 そのせいで助けを呼ぶこともできなかったが、呼べたとしても呼んだかどうか。

 《正義執行》で纏ったヒーロースーツを器用に脱がされて、全身を(まさぐ)られている姿を見られては、どのみちこの先生きてはいけない。


 そういや、前世の俺が小学一年生だったときの担任のみちこ先生、優しかったな。

 あの人が後押ししてくれたから、本気でヒーローになろうと思ったんだよな。

 元気にしてるかな?

 さすがに百年以上経ってるし、生きてるわけがないか。



 とにかく、豊穣の象徴のはずのそれが、俺の非生産的な不浄の門へと迫っていた。


 当然、必死に抵抗はしていたが、力で敵うはずもなく、ケツ壊――いや、決壊寸前。

 被害に遭っても訴えられない被害者の気持ちが、今になって分かった。


 しかも、心とは裏腹に身体はしっかりと――いつも以上に反応してしまうのが悔しくて仕方がない。



 だが、その反応のおかげで最悪に至らなかった。

 正義の敵がまた別の正義であるように、ファルスに対抗できるのもまた別のファルスだったのだ。


 いや、マジかよ。



 俺のファルスと対面した奴は、気圧されたようにぶるりと震えると、急速に萎んで軍門に下った。

 というか、俺のファルスに吸収されてしまった。


 後ろの尊厳を奪われないで助かったと考えるべきか、もっと特殊な尊厳を奪われたと考えるべきか。

 吸収する際、痛みや快楽は無かったので助かったのだと考えよう。


 しかし、肉体は無事だったが、奴は俺のファルスに吸収された際に、俺に《性技執行》というユニークスキルを植えつけやがった。

 日本人にしか分からない駄洒落に、この世界で何の意味が……?


 何かムラムラ――いや、モヤモヤする。



 なお、《性技執行》の効果だが、ヒーロースーツの至る所から触手が生やせるようになった。

 ヒーローというよりローパーになった気分で、酷く魂を穢された感がある。


 くっ、アイリスの奴め……。

 だが、こんなことを公言して追及するわけにもいかん。

 それに、あいつのおかげで助かったことも事実。




 だが、あまりに酷い展開に、あまりに酷い仕打ちに、全裸のまま打ちひしがれていたところ、いつの間にかすぐ側までやって来ていたユノ――ママに優しく頭を撫でられた。


 言葉には出していなかったが、「いいんだよ」と、全てを許すといわんばかりの優しさは、心地良すぎてついさっきまでのつらい記憶もどうでもよくなった。



 だってそうだろう?


 普通に考えれば、全裸で股間を大きくした大人の男に「よしよし」するなんて、筋金入りの聖母か風俗嬢しかいない。

 前世でも風俗に行ったことはないから想像だけどな。


 当然、ユノが風俗嬢などであるはずもなく――そうであれば、破産するまで毎日通うだろう。



 俺の一部と化してしまった《性技執行》も本能的に何かを感じているのか、ムラムラモヤモヤした気分も晴れて穏やかな気持ちになっていた。

 例えるなら、出す物出した後の充足感から、虚しさを取り除いた――いや、達成感をプラスしたような感覚だ。



 ここには真の世界平和があった。


 これは、決して正義では手に入れることができないもの――むしろ、性技の方が可能性があるかもしれないものだ。



 そうか、正義とは力や外見上の質ではなく、そうあろうという心が正義だったのだ。


 そんな簡単なことも知らずに、見せかけのヒーロー像を心の拠り所にして、暴力で正義を押しつけていた俺は何と愚かだったのだ。

 俺にその勇気さえあれば、スーパーヒーローではなく、スーパーローパーとしてでも正義はなせるはずなんだ。


 ママがいたからそれに気づけた。

 ママが信じていてくれるなら、俺、頑張れるよ!




 この後、正気に戻ってめちゃくちゃ悶絶した。


◇◇◇


――コウチン視点――

 僕がユノと戦った?


 何の話――ああ、定期的に開催される訓練のことかな?



 それは戦いっていうより、彼女が僕たちのためにしてくれているレクリエーションというか、愛情的なものと考えるべきだろうね。

 そもそも、彼女は「世界樹を司る女神」っていう、神族の中でも最も力がある女神なんだよ? 


 本人は「邪神だ」って(うそぶ)いてるけど、そんな謙虚なところも可愛い――と、神族の中でもイレギュラー扱いされるくらいの力を持ってるんだ。

 彼女と戦うなんて、世界そのものに立ち向かう以上のことだよ?

 そんなの莫迦にもほどがあるじゃないか。



 いくら僕が防御力や体力に自信があるといっても、世界そのものをどうこうできると思うほど傲慢じゃない。


 むしろ、彼女のおかげで僕らは生きていられるんだ。

 そんな彼女の助けになりたいという想いはあっても、戦いたいなんて思うはずがない。


 そもそも、僕には幼馴染の彼女と戦うなんてできないよ。

 まあ、僕にできるのは彼女の盾になるくらいしかできないんだけど――と、「彼女の盾」というのは良い響きだね。


 ほかの古竜たちにはできない、僕だけの役目――いいじゃないか!


 彼女に盾が必要なのかはさておくけど。



 古竜が群れているのがおかしくないか――だって?


 それこそ何を言っているんだい?



 ユノは強く、美しく、気立てもいい。

 少々話が通じないところもあるけど、神族としてはマシな方だし、そこが可愛いところでもある。


 何より、彼女は竜にとって理想的な存在だ。


 これは個人の嗜好じゃない。

 断言してもいい。

 どの竜に訊いても答えは同じだよ。


 古竜だからこそ、彼女の下にいるんじゃないか。

 むしろ、ここにいない金や緑たちの方がどうかしてると思うよ。



 ところで君、「ジュードー」って知ってるかい?


 僕の戦闘スタイルだと、打撃よりそっちの方がいいんじゃないかってユノから教えてもらってるんだけど、すごいね、あれ。

 掴まれたと思ったら一瞬で投げられてて、起き上がらなきゃと思ったら押さえつけられてて起き上がれない。


 確かに、相手の攻撃に合わせて殴り返すより、とにかく捕まえるだけ――後のことは後のことって考えると、かなり難度は下がるよね。


 何よりすごいのはさ、打撃だとダメージ無くてもムカッと来たりするんだけど、彼女に投げられてもそうならないんだよね。

 むしろ、幸せになるくらいなんだ。


 今日は「()四方固」っていう技を掛けられたんだけど、柔らかくて、良い匂いがして、恥ずかしながら全然立ち上がれないんだけどムラム――ドキドキしちゃってね。

 すぐに失神しちゃったんで長くは味わえなかったんだけど、また掛けられたいって思っちゃうんだ。


 いいよね、ジュードー。


 みんながユノくらいのジュードーの使い手なら、世界は平和になるのにね。

 まあ、技術的にも美術的にも無理だと思うけど、彼女のことを考えるだけでも、世界は少し平和になってるんじゃないかな。



 おっと、そろそろ夕食の時間だから行かなくちゃ。

 じゃあね、君にも良い人ができるといいね。

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