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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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40 ロリコンの末路

――ユノ視点――

 見た感じは坑道のような、構造的には(アリ)の巣のような地下施設には、出入り口がひとつしかない。

 この世界のリスクマネジメントはどうなっているのだろう。


 そして、扉は薄いだけではなく、隙間だらけで、目隠し以上の役割を果たしていない。


 なので、私たちの起こした騒動――というか、恐らくコレットの元気の良い返事が原因だけれど、何事かと様子を見に来たロリコンどもに気づかれてしまった。


 そのたびに息の根を止めていくのだけれど、当然というか、いくらも進まないうちにすっかり取り囲まれてしまった。



「貴様、どこから侵入した!? 何者だ!?」


「おい、ジャン! ――死んでる!? そんな、莫迦な!?」


「あっちの部屋でもダニエルたちが殺されてたぞ! こいつの仕業か!?」


 瞬間移動で逃げようかとも思ったけれど、それが気軽に使える能力だと知られてしまうと、いろいろなところに問題が出てしまう。


 特に、大空洞でのコレットとのやり取りと照らし合わせると、彼女の私に対する評価を一気に下げる可能性がある。

 何しろ、いつでも脱出できたのに、彼女に《帰還》魔法とやらの準備をさせていたのだ。

 とんだ外道である。


 それに、私には魔法が効かないから、《帰還》魔法そのものを無効化するかもしれないからと、一緒に帰ることを拒んだのも印象が悪い。

 ここはひとつ、瞬間移動にはいろいろと条件とか代償が必要なのだということにしておこうか――やはり無理があるか。



「おい、何とか言ったらどうなんだ!?」


「それとも投降するってのか!? へっ、仲間を殺しておいて、今更てめえだけ無事になんて虫の好いことは通らないぜ!」


「そっちの嬢ちゃんの命だけは保証するが――」


「黙れ、ロリコン」


 このロリコンどもは、殺さなければ何をやってもいいと思っているのだろうか。

 コレットは――子供は貴方たちの欲望を満たす道具ではない。



「誰がロリコンだゴルァ!」


 ロリコンに対してその事実を指摘すると、大体において否定するものだ。


 少なくとも、「私はロリコンだ」などとカミングアウトする人は見たことがない。

 オブラートに包んで「私は子供が好きだ」というのはあるかもしれないけれど。

 ……あれ?

 違うよ?


 とにかく、異常者は、自身がそうであると気づかないからこそ異常者なのだ。若しくは疚しいことがあって誤魔化しているか。



「BBAは論外だが、俺はノーマルだ! それと、おっぱいはでかい方がいい!」


 この人はこの人で、何をカミングアウトしているのか。


 クリスに聞いたところ、ロリコンにとっては成人――15歳以上は年寄り扱いなのだとか。

 全くもって理解に苦しむ。


 さらに、「ロリ巨乳」なる(ごう)の深いジャンルがあるそうで、早熟な子を好むロリコンもいるのだとか。

 彼がなぜそんなことをカミングアウトしたのかは分からないけれど、恐らく彼にとっては重要なことなのだろう。

 度し難いけれど。



「ぐだぐだ言ってねえでヤッちまおうぜ! オラ、後ろから突っ込め!」


「おうよ! 《穿孔げぼぁ!?」


 本音が出たな。


 私は下ネタ程度なら流してあげるけれど、コレットには下品な言葉を聞かせないでほしいものだ。

 とにかく、そんなに突っ込みたいなら突っ込ませてあげよう。

 壁にでも。



「!? こいつ、ヤバいぞ!」


「ひとりで行くな! 全員でかかれ!」


「《瞬影けべっ!?」


「何なんだ、この痴女はよお!? 俺たちは別にロリコンじゃねえし、ロリコンに何の恨みがあるんだ!? こんな奴に、こんな奴に俺たち雷霆のいちも゛っ!?」


 コレットを背に庇いながら、ゆっくりと前進する。


 そして、間合い、若しくは攻撃態勢に入ったロリコンどもを一匹、また一匹と、壁に埋め込んでいく。

 もちろん、相手はロリコンなので、容赦はしない。


 そうして、コレットには気づかれないように注意しつつ、壁に埋め込む際に壁と一体化させている。

 無駄に苦しませるのは好みではないけれど、ロリコンなのだから仕方がない。



 さておき、相変わらず手よりも口ばかりが動いているロリコンどもがいろいろと喚いているけれど、いちいち気にしたりはしない。

 どうせ大したことは言っていないだろうし。

 さっき壁に埋め込んだ人も、この期に及んで下ネタに走ろうとしていた生粋の変態だったし。



 そんなことより、問題が発生した。


 続々と現れる増援の中に、昆虫系悪魔族の姿が散見される――というか、ワラワラと出てきた。

 いや、いるのは知っていたけれど。

 対峙することなく終わればいいな――と思っていたけれど、考えが甘かったようだ。


 もっとも、彼らもロリコンなら、いつかは処分しなければならないのだけれど。


 とはいえ、素手で触るのは絶対に嫌だ。

 私にとってはデネブよりも難敵である。


 しかし、さすがに調和の神の力を借りるようなことでもない。

 というか、ここは郊外とはいえ魔界村の地下なので、そんなものをぶっ放せばどうなるかくらいは私にも想像はつく。



 先ほどのように投擲で斃すにしても、片手剣のようなものだとコレットが回収しようとするかもしれない。


 回収しなくてもいいと釘は刺しているけれど、コレットのように聡い子は、ちょっとした隙を見つけて回収しようとするだろう。

 だからといって、これは使い捨てにする物だと教えるのも教育上よろしくない。


 というより、物を大切にするということは、必要なときに適切な使い方をすることであって、後生大事に持っていることが必ずしもそうではない。

 場合によっては、使い捨てることがそれに該当することもある――のだけれど、今回のケースでは「体液が付いたのは回収したくない」という、極めて個人的な理由である。

 そんなことを説明できるはずもない。



 ここが坑道のような狭い場所でなければ、石ころでもよかっただろう。

 ただの石ころでも、私が投げれば立派な凶器、下手をすれば神器である。

 基本的に、回収して使い回すものではないところもグッドだ。


 しかし、敵は進行方向にもいて、粉砕した彼らの欠片や体液に塗れたところを通過するなど考えたくもない。

 そういう意味では、銃などの兵器も却下である。


 出口まで百メートルもないのに、遥か遠くに感じてしまう。



 とにかく、直接接触せずに、再利用可能な道具を使わず、体液や体の破片が飛び散らないような、それでいてコレットを失望させない行動が必要なのだ。


(だったら極炎は?)


 さらっと朔が物騒な提案をしてくる。

 あれは炎のように見えなくもないけれど、物理的にはお肉も焼けない出来損ないである。


 というか、苦手克服のために開発したものの、その仕様上、制御を放棄する必要があるので、火加減が非常に難しいというか、違う苦手要素が出てきて困る能力になってしまっているのだ。

 さすがに根源にまで干渉してしまうようなのは、いくら彼らがロリコンでも酷すぎると思う。



(でも、ロリコンって死んでも治らないっていうし)


 マジで?


(ユノのやってる部分的な崩壊だと生易しすぎる。そんなんだと彼らはロリコン界の面汚しで、すぐにパワーアップした第二、第三のロリコンが現れるよ?)


 朔が何を言いたいのかは分からないけれど、とにかくロリコンを消滅させたいことは分かった。

 やはり、ロリコンは百害あって一利なしなのだろう。



 しかし、その極炎を出すためには、今解放している髪飾りに見せかけた光輪だけではなく、翼も出す必要がある。


 それをコレットにどう言い訳するかを考えると、やはりおいそれとは出せない。


 まあ、コレットの認識速度を超える速さでやれば大丈夫な気もするけれど、結局は「あの炎は何だ」とか、「そこまでする必要があったのか」という話になると説明に困る。


 もう瞬間移動で逃げるのが最善の気もするけれど、これだけの数のロリコンを野放しにするのは危険すぎる。



 ……そうだ!


 こんなときのためのアクマゾン!

 端末操作も、湯の川にいる私でやればいい!


 アリ、殺虫剤――令和最新版だと? これ、何かヤバい感じの電撃が出ているのだけれど……?

 これでいいか?

 いや、漏電とか、違う意味で大丈夫かな?


 まあ、いいか。

 私には電撃は効かないし。

 注文は湯の川の私で、お届け先は魔界の私――と、よし! 配達中になった――到着まで1時間!?


 どう考えても間に合わない!

 エリート配達人のセーレさんは――アイリスが召喚している!


 受け取りに行くか――いや、さすがにあれは邪魔できない。

 やはり自力で何とかするしかないのか。



 とにかく、一度に全てを片付けるのではなく、できることからひとつずつやっていくしかない。


 触れないという条件は変えられないので、道具に頼ることになる――いや、そういえば、私にも風を起こす魔法が使えたはず。

 私にとって魔法とは料理なのですっかり忘れていた。


 とにかく、一旦それで吹き飛ばして進路を確保してしまえば、後は投石でも充分ではないだろうか。

 失敗しても大惨事になるとは考えにくいし、とりあえずやってみよう。


「うおっ!? 何だこの風は!?」


「くそっ、目潰しか!? 滅茶苦茶やりやがって! 奇襲と同士討ちに気をつけろ!」


「くっ、火魔法は使うなよ! 石炭だって置いてあるんだからな!」


 私は魔法が使えない設定なので、何の変哲もない団扇(うちわ)を取り出して、勢いよく扇ぐ。

 当然のように団扇は塵になるけれど、それと同時に風を発生させて、魔法道具で起こした風に見せかける。


 ……そう見えただろうか?

 もう少し団扇をアピールしてから扇ぐべきだったか?

 いや、《鑑定》されても困るし……。


 それよりも、私の魔法で起こした風は、思いのほか勢いよく吹いたのだけれど、ロリコンどもを吹き飛ばすには至らなかった。

 多少怯ませることはできたけれど、それは風圧というより、巻き上がった埃などが原因だろう。



(まあ、攻撃用じゃなくて演出用の魔法だしね。こんなものでしょ)


 そうだったのか……。


(説明してたはずなんだけど)


「なるほど! たった一手で敵の目と攻撃を封じるなんて! しかも、魔法の風はレジストできても、それで舞い上がった目潰しは物理だからレジストできないんだ! それに、ユノさんは普段からバケツを被ってるから目潰しは効かない! ユノさん、すごい!」


 思ったような効果は出なかったけれど、コレットが絶賛しているからまあいいか。


 いや、一応とはいえ変装しているのに、名前を連呼されるのは良くないのだけれど。

 どのみちロリコンは殲滅するとしても、名前を明かすメリットはないのだ。



 さておき、風で吹き飛ばすというアイデアは悪くなかったと思う。

 ただ、威力が足りなかっただけ。


 だったら威力を上げればいいだけのことなのだ。

 早速、いくつか思いついた手段のうちのひとつを試してみることにする。



 手順は単純。


 拳圧で風を起こして、離れた位置にある蝋燭(ろうそく)の火を消す芸の拡大版である。

 といっても、普通にやれば衝撃波で直近のものを粉砕するだけで終わると思うので、ただ打てばいいというものでもない。


 求められるのは点の貫通力ではなく、面で圧し潰す制圧力だ。

 殺傷能力は必要無い。

 というか、力任せにやると坑道が崩落するかもしれない。



 例えるなら、注射器のシリンダーを押して中身を出す感じだろうか。


 そういえば、この世界で注射器を見たことがないな。

 体力回復でも外傷でもポーションを飲めば治ってしまう世界だと、必要が無いのだろうか。


 そんな《回復》魔法も、さすがに病気には大して効かないし、癌などの特定のものでは悪化することもあるらしいけれど、この世界でも医療の発展する余地があると、前向きに受け止めるべきだろう。



 少々思考が逸れてしまったけれど、手が止まっていたわけでもないので問題は無い。

 目の前の空気を掴んで――私の手は少し気合を入れれば魂でも幽体でも掴めるのだから、空気だって掴める。


 というか、もっと意味が分からない「空気を読む」こともできるのだから、掴むくらいは余裕なのだ。

 とにかく、掴んだ空気をピストンヘッド代わりにして、「えいっ!」と勢いよく押した。


 爆ぜた。

 盛大に。


 ついでに私とコレットの側の気温が一気に下がった――というか、凍てついている。

 もちろん、私や朔が保護してくれているコレットには影響はないけれど。

 なぜだ。


 爆発による被害も、私たちにはなかった――コレットの目が閃光でやられて「目が! 目があ!」と悲鳴を上げていたくらいだけれど、ロリコンたちが木端微塵になっているところを見るに、相当な規模の爆発だったと思われる。


(ユノの掴んだ空気の面を境に、あっち側は断熱圧縮で粉塵――いや、炭塵に引火して爆発。こっち側は断熱膨張かな。発想は悪くなかったと思うけど、力加減を間違えたね。まあ、近くにいた分については、爆死というより圧死だと思うけど。ボクが保護しなかったらコレットも大惨事になってたよ? というか、ユノはこの手の失敗多いよね)


 粉塵爆発は聞いたことがある。


 しかし、断熱圧縮とかは何だったか。

 聞いたことはあるような気もするのだけれど――まあいい。



 問題はそこではなく――というか、問題が無くなったのだ。

 ロリコンたちの魂、略してロリ魂はあるべきところへ還った。


 いや、まだその辺りに漂っているけれど、戻るべき身体がバラバラの黒焦げでは還るしかない。



 とにかく、後は地上へ出て、入り口を埋めて証拠を隠滅すればお仕事終了だ。


 その頃にはコレットの視力も回復して――というかさせていたので、状況を説明して、私が関与したことを秘密に――むしろ、事件そのものを無かったことにしてもらった。


 ちゃっかり口止め料は要求されたのだけれど、それも「ここから実家に近いので、里帰りに付き合ってください」という可愛いものだった。




 なお、彼女の実家で待ち受けていたのは、いつの間にか立派な狂信者と化していた母親と、ヤク〇トに飢えているジョージくんの姿だった。


 そして、いつか私が訪ねてきたときのためにと、山盛りの雑草と多種多様な活きの良い虫を用意していた村人たちにも嗅ぎつけられた。


 そんな彼らに詰め寄られて、更にコレットもポケットから大きなアリを出して、「一緒に食べましょう!」と詰め寄ってくる。



 殺虫剤は、まだ届かない。

 届いたところで、もう遅いけれど。

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