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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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39 YESロリータNOタッチ

――ユノ視点――

 朔の言ったとおり、コレットの居場所は、調和の神たちに訊けばすぐに――とはいかなかったものの、結果としては調べてもらうことができた。


「ユノ様もご存じのとおり、我々の使命はこの世界の調和を保つこと。ひいてはこの世界そのものを守護することですので、基本的に特定個人の監視などは行わないのです」


 などともったいぶられたものの、彼らが私を重点的に監視していることはよく知っている。


 私の言動で各所に迷惑が掛かることを懸念しているところもあるらしいので、殊更責めたりはしない。

 しかし、ほぼほぼ興味本位であることも、別支部の神から聞いているのだ。



『湯の川と違って、あそこには透視や盗聴を防ぐ機能がないから、お風呂なんかも丸見えだったんじゃないの?』


「な、なな、何のことでしょうか!? 我々は世界平和のため、日夜全裸――ではなく、全力で活動しておりますれば――」


 嘘を吐き慣れていない彼らの嘘は、怒りよりも憐れみを感じてしまうレベルのものだった。



『ボクらは見られても構わないんだけど、ほかの子たちにはバレないようにしなよ?』


「その点については心配ご無用。我らが神の目、人の子のレベルで看破できるものではありませぬゆえ」


 語るに落ちたとか、そういうレベルですらなかった。


 いろいろと思うところはあるけれど、時間が惜しいので追及はしない。


 朔による変装のプレゼンについても同様だ。

 コレットが無事なら、魔法少女だろうが戦乙女だろうが、私だとバレなければ何でもいい。




 調和の神々による高レベルのログの追跡により、コレットの居場所が特定できた。


 そこは魔界村郊外の地下施設。


 私が領域を展開して捜した方が早かったようにも思うけれど、それでは認識したくないものまで認識してしまう。

 特に、そこにはこの地下施設を作ったと思われる――現在は管理をしているのであろう昆虫系の悪魔族が沢山いたので、大きな負担になっていたのは間違いない。



 それに、リリーのように勘の鋭い子がいれば、領域が感づかれてしまうおそれもある。


 それに対して、ログの閲覧は、ログと閲覧者の間だけで完結するので、余計なものを認識する事故は起きないし、ほかの誰かにバレることもないらしい。


 もっとも、情報量が膨大なので時間がかかるとか、プライバシーはどうなっているのかという問題もあるけれど、利便性の高さを考えれば目を瞑らざるを得ない。

 今後も機会があればお願いしようと思う。




 さておき、彼らに指定された地点を領域で探ってみると、そこには確かにコレットがいた。


 コレットは現時点では無事であるようで、そのことには安堵したものの、あまり悠長には構えていられないことも事実であるようだ。



 コレットが眠らされていたのはログで確認済み。

 時間が惜しかったので詳細までは確認していないけれど、その間は無事なことは間違いないようだ。



 しかし、どうやら目覚めたばかりの彼女の近くで、不穏な言動をしている3人の輩がいて、彼女が怯えている。



「へっへっへっ、お嬢ちゃん、目が覚めたのかい? だったら、おじさんたちと良いことしようか?」


「ぐへへ、そう心配そうなツラしなくてもいいんだぜ? 俺たちゃ、お嬢ちゃんの目が覚めたら遊んでやれって言われてるだけだからなあ。たっぷりと可愛がってやるよ!」


「お嬢ちゃん、こいつをどう思うよ? 太くて、大きくて、こんなにも黒光りしてる……! こいつでお嬢ちゃんを甘美な世界へ連れてってやるぜ!」


 ヤバい。

 ルイスさんたちに反抗しているテロリストかと思っていたら、やはりロリコンだった。

 いや、合わせてロリリスト? テロリコン?

 まあ、名称はどうでもいい。


 それより、太くて大きくてゴツゴツしていて黒光りしているアリを持ってコレットに迫っている昆虫っぽい人は、嗜好が特殊すぎないかな?


 とにかく、一刻の猶予も無いっぽい。




 現場に瞬間移動すると同時に、コレットに迫ろうとしていたオークっぽい男性の頸椎(けいつい)を圧し折る。

 そして、アリを持っていた昆虫系悪魔族の人には、なるべく意識を向けないように片手剣を投擲して、頭部と胸部を串刺しにして壁に縫いつけた。

 どちらも無駄に体液を飛び散らせないための配慮である。


 ただ、前者は頸椎を破壊する感触が生々しくて慣れないのと、少し力加減を誤ると頭部を握り潰してしまって大惨事になるので、首を斬り落とす――血はいっぱい出るけれど、感触はほとんどないのとどちらがマシかは迷うところだ。



 なお、ひとり残しているのは尋問用である。


「なっ、何だおま――がっ!?」


 事態に反応しきれていない人型の彼の首根っこを掴んで、そのまま背後の壁に叩きつけた。

 これが噂に聞く「壁ドン」というものだろうか。


「子供を攫って、何をするつもりだったの?」


「あ、がっ……えんか……オークチ〇ポはら……ァント、ペロペロ……」


 ……チ〇ポって言っちゃったよ。

 それに、「はら」って何だ? 腹――孕ませるとでも?

 ペロペロって、何を?


 自分で訊いておいてあれだけれど、これ以上は聞くに堪えない。



「外道め」


 これはもう言い訳できないレベルでロリコンであると判断して、首を圧し潰して止めを刺した。


 外道であっても必要以上に苦しめたりはしない。

 来世では――彼という自我はないと思うけれど、普通の子供好きとして生きてほしい。



 ひとまず、タイミング的にはギリギリだったようだけれど、当面の危機は回避できた。

 後はコレットを安全なところに逃がして、残りのロリコンどもを駆逐すればお仕事は終了である。



「今から逃げるけれど、大丈夫?」


 身体的な問題はないのは確認しているけれど、精神的な影響を確認する意味で訊いてみた。


 もちろん、私の目には、特に影響が出ていないことは分かっている。

 ただ、巨漢のオークに襲われそうになっていたのだから、問題が無い方が問題なのかもしれない。



「あっはい、大丈夫です。えと、助けに来てくれたんですよね? ユノさん、ありがとうございます」


 まだ状況を把握できていないだけなのか、混乱している気配はあるものの、恐怖はないようだ――って、今何と?

 正体がバレている!?


 話が違う!

 いつもと違う格好で、目元を隠していれば大丈夫って言ってたのに!



(子供特有の勘の良さとかじゃないかな? バレちゃったものは仕方ないし、それより先のことを考えるべきだよ。設定を無視することもできなくなったわけだしね)


 なるほど。


 残念だけれど、確かに朔の言っていることの方が正しい。

 それに、何を言ったところで最終的な判断を下したのは私なので、朔に当たるのは筋違いである。



『コレットが危ないときには助けるって約束していたしね』


 それどころか、フォローまでされてしまっては、もう何も言えない。



「ユノさんのその格好、お姉様が言ってた『戦乙女』ってやつですか? すっごく可愛くて、すっごく似合ってます! ――って、聞いたの内緒にしなきゃいけなかったんだ!」


『それとは少し違うんだけど、似たようなものかな。喋っちゃったのは黙っててあげるから、このことはみんなには内緒にしててね』


 デネブ事件のことは、噂として流れている分は仕方がないとして、詳細は緘口令(かんこうれい)が敷かれていたはずなのだけれど……。

 リディアも、私のことになると(たが)が外れやすくなっている気がする。



「はい! あ、逃げる前にちょっとだけいいですか?」


『いいよ。でも、手短にね』


「すぐ済みます!」


 何か奪われたものでもあるのだろうか――と見守っていると、コレットは昆虫系悪魔族に刺さっていた片手剣を「よいしょ、よいしょ」と、可愛らしい掛け声を発しながら引き抜いていた。


 当然、そこからどろりとした薄緑色の体液が零れる。

 これは青汁……青汁……。


 そして、剣に付いている青汁をクンクンと嗅いだ後、ペロリとひと舐めして「うん」と頷くと、そのまま昆虫系悪魔族を滅多矢鱈(めったやたら)に切りつけ始めた。


 一体何をやっているのか。

 それは死体損壊だよ?

 日本では犯罪だよ?

 いや、殺人や死体遺棄も犯罪だけれど。


 もしかして、知り合いでなければ食材なのか!?


 それにしても、同じ食材としてなら、昆虫よりブタ――イノシシか? の方がよくないだろうか?

 いや、どっちも駄目だと思うのだけれど。



「むむぅ、硬い。ユノさん、これの解体をお願いしてもいいですか?」


 正解!

 いや、間違いであってほしかった!



「あ、あのね、コレット。その人たちは病気だから食べちゃ駄目なの。料理なら、また私が創ってあげるから、それは置いて行こう?」


「えっ!? そうなんですか!? あ、私ひと口味見しちゃった……!」


 ロリコンはうつるものではないと思うので大丈夫だと思うけれど、不安は消しておくに越したことはない。



「これを飲めば大丈夫」


「あっ、ヤク〇ト! ユノさん、大好き!」


 私のことが好きなのか、ヤク〇トが好きなのかは分からないけれど、ヤク〇トが昆虫の体液に負けることなどあり得ないので、これで大丈夫だろう。


「あ、じゃあ、せめてこれだけでも」


 あっという間にヤクルトを飲み干したコレットは、昆虫系悪魔族の手の中でもがいていた気持ち悪いアリをその手から抜き取ると、嬉しそうに自身のポシェットに突っ込んだ。


 ポシェットの中でもぞもぞと動くアリを大人しくさせようとしてか、ポンポンと軽く叩くコレットを見て、ポケットの中にはビスケットがどうとかという童謡を思い出したけれど、その先は恐ろしいので考えないことにした。



「これも!」


 無邪気な顔のコレットが、体液のべったりついた片手剣を差し出してくる。


 来た時よりも美しく、ゴミは持って帰れ――ということなのだろうか。

 確かにそのとおりなのだけれど、それは、さすがに、しかし――。



『物を大事にするのは良いことだけど、今一番大事なのはコレットだから、それ以外の物は全部置いていくよ。もちろん、余裕があれば後で回収しにくるけどね』


「ユノさん! ――分かりました!」


 朔!

 ありがとう!

 そして、ありがとう!


 コレットが片手剣を投げ捨てた際に飛び散った体液をひょいと躱しながら、感極まって抱きついてきたコレットを受け止めた。

 もちろん、アリの入ったポシェットや体液塗れの手には触れないよう細心の注意を払って。

 とにかく、これ以上変なことになる前にさっさと逃げた方が良さそうだ。


◇◇◇


――第三者視点――

 雷霆(らいてい)の一撃のアジトのひとつに、《転移》魔法の得意な仲間が、幹部の女と一緒に素性の分からない子供を連れてきたのが数十分前のこと。


 女幹部からの、「その子供を丁重に扱え」という指示で集められた3人は、事情も分からないまま、役割を果たすための準備を始めた。



 彼らは何も知らされていないことに不満はあったが、尋ねたところで答えが返ってくることはないと理解している。


 むしろ、団長のお気に入りであるその女幹部は、一兵卒である彼らをナチュラルに見下しているというのは有名な話である。

 下手に口答えをしようものなら、激しい癇癪(かんしゃく)を起こして罵られるとか、つい最近、彼女の任務の捨て駒にされて命を落とした団員がいるという噂もある。


 とはいえ、その女幹部は、人望の無さとは裏腹に能力だけは高く、結果も出し続けていたため、団員たちも手を抜いたりはできない。




 少女の相手として集められた3人は、それぞれの手法で彼女を楽しませようと準備を進めていた。


 しかし、彼らの本業はテロリストであり、子守りのスキルなど持ち合わせていない。



 そこで白羽の矢が立ったのが、昨年末の忘年会での宴会芸が好評だったオークの青年と、とにかく合いの手が上手いお調子者、趣味でブツブツアントという、甘みと香ばしさと(ほの)かな苦みが癖になる大型のアリを飼育している中年昆虫系悪魔族だ。



 オークの青年の持ち芸は、腹踊りだった。


 その貫禄のある腹にユーモラスな顔を描き、肉を揺らすことで表情をつけて笑いを誘う伝統芸であったが、彼のそれは逆さ絵の技法も取り入れていた。

 もっとも、クオリティ自体は低く、逆立ちすると立派な性器が前髪のようになるという非常に下品なものだったが、酒の席だったこともあってかバカ受けしたのだ。

 それに、酒の席ではなくても、子供はウ〇コとかチ〇チ〇が大好きである――ということで、彼以上の人選は考えられなかった。



 昆虫系悪魔族は、ただ趣味でブツブツアントを飼育しているからという理由だったが、ブツブツアントを常食している彼自身の体液もほんのり甘い――糖尿病予備軍でもあった。

 ついでに、甘やかすということにおいて、彼以上の人選はなかった。



 そして、顔が良いだけのお調子者の彼は、ただの賑やかしだった。



 このように、人選というのも烏滸(おこ)がましいメンバーが集められていたが、本気で暴力的手段による世界の変革を目指している雷霆の一撃に、遊ばせておける人的余裕は無いのだ。




 少女が魔法の眠りから目覚めると、それが彼らの作戦開始の合図となると同時に、理不尽な人生終了の合図ともなった。


 《転移》阻害とまではいかないまでも、《認識阻害》などを張り巡らせて、座標取得を防止していた室内に突如として現れた侵入者は、侵入と同時に3人のうちのふたりを殺害し、残るひとりも抵抗どころかろくに反応することすら許さず無力化した。


 彼らは、芸人としては三流以下でも、テロリストとしては一流である。

 それが、不意打ちとはいえこうも一方的にやられたのは、この侵入者が単純に「侵入者」で片付けられるような生易しいものではないことを証明していた。



 そして、現在進行形で尋問を受けていたお調子者も、戦闘能力はこのアジトで上位五指に入るほどの強者であったが、押さえつけられているのは首だけであるにもかかわらず、指の一本すら動かすことができなかった。


 彼はあまりの格の違いに、一瞬にして生還を諦めた。

 それでも、この危険すぎる存在を仲間たちに報せなければと、そのために少しでも長く生き延びようと、酸素の足りない脳を、動かぬ身体をどうにか動かした。

 時間を稼ぎ、隙を窺うために。



「外道め」


 しかし、その想いは叶うことなく、何ら理解の及ばぬうちに彼の意識は闇に沈んだ。




 雷霆の一撃の活動の目的は、悪魔族の置かれている状況の打破である。


 初代大魔王がそうしたように、人間界へ侵攻して――蹂躙(じゅうりん)して、その全てを手中に収めるために活動している。

 大筋は体制派の掲げるものと同じだが、一向にそれを実現しようとしない彼らに代わり、自分たちがそれをなすのだと本気で取り組んでいたのだ。

 私利私欲や功名心といったものが全くないわけではなかったが、根本にあるのは悪魔族全体の環境改善である。



 もっとも、いくら大層なお題目を唱えたところで、理想だけで実現できる類のものではない。



 まず、組織が活動するためには先立つものが必要になる。


 体制派のように税金などで得られるならともかく、彼らの活動資金は彼ら自身で稼ぐしかない。

 そのためには彼らの理念と合わない者からの仕事を受けたり、そうした者たちを襲撃して得ることもあった。


 当然、それは彼らの理念の中にある「悪魔族全体の」という部分と矛盾している行為となるが、それは大事の前の小事と切り捨てていた。

 彼らは、「最終的にひとりでも多くの悪魔族が救われればいい。報いはその後でいくらでも受けよう」という、覚悟が決まっている系のテロリストなのだ。



 そんな雷霆の一撃には、体制派以外にも多くの敵がいる。


 しかし、所属しているのは理想に身命を捧げている、敵をひとり斃せば理想にひとつ近づくと思い込んでいる狂戦士たちである。

 いつどこで命を落とすことになっても後悔はしないという覚悟は完了していた。



 それでも、純白のドレスアーマーに身を包み、神々しさすら感じさせる銀の髪を(なび)かせた少女に、「ロリコン死すべし」と罵られながら蹂躙されるのは想定外であった。

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