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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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35 覗いているのはお風呂ですか?

「「「はぁ……」」」


 私が服やバケツを脱ぐと、みんなから熱っぽい溜息が漏れる。

 そんなことにも慣れた――いや、やっぱりないな。



 湯の川でもそうだけれど、可愛い私に目が行くのは仕方がないとしても、何度も見ていれば慣れるものではないだろうか。


 特に、同性なら、多少の差異はあれど、自前のものがついているのだ。

 本能的に揺れたり動いたりするものを目で追っているのだとしても、胸ならアイリスの方が大きいし、尻尾は私以外にもついている。



「今日もユノのお肌の調子は最高ですね」


「艶があって、張りがあって、やっぱり若いって良いわねえ」


「殿下、若いだけでは駄目なのです! アイリスさんがいつも言っているように、神の加護が掛かっているのでしょう!」


「そうねえ。全く鍛えていなさそうなのに垂れない胸やお尻。瘴気すら浄化してしまいそうなくらい不純物ひとつない肌と、この世の真理を現しているかのような滑らかな髪。神に愛されて当然よね」


 むしろ、同性だからなのか、一部の人たちは堂々と私の身体を(まさぐ)ってくる。

 直接的接触を好む女性は意外と多いということをどこかで聞いた記憶があるけれど、魔界でもそれは変わらないようだ。



 もちろん、それが悪意を持ってのことなら拒否もするのだけれど、精々が下心程度のこと。

 それにいちいち目くじらを立てていてもきりがない。


 とはいえ、尻尾の付け根や局部のような敏感な場所を触られると、思わず変な反応や声が出たりするので、勘弁してほしいところだ。

 それも、わざわざ言ったりすると面白がられてエスカレートする可能性もあるので、想うに止めておくしかないのだけれど。



「腕力、権力、財力――拙はこれまで暴力は全てを解決すると信じて修行してきましたが、真に最強の力は女子力であったとは……。お師匠様や先生は、面やバケツで視界を制限していても進むべき道を見失わないというのに、拙の目は開いていても何も見えていないのです……。己の不見識を恥じるばかりです」


 メイには一体何が見えているのだろう?


「暴力は勝てなきゃ正義にならないけど、先生の可愛さ綺麗さは絶対正義だからねー。その上料理も上手いし、家事も完璧! なのに、控え目で相手を立てることを忘れない。お師匠様が手合わせで負けるのは悔しいけど、先生とは勝負のしようがないっていうか、負けても幸せなんて反則だよう! そりゃあ、お師匠様だって戦う前から負けを認めるよねー」


 メアも何だかバグっているし。

 コミュ障を拗らせるとこうなってしまうのだろうか?


 トライさん以外の人との繋がりがほとんどなかったために経験が足りない。

 そんなところに、いきなり人の数が増えたのが原因か。

 ソフィアも注意しておいた方がいいかもしれない。


 とにかく、元々は他人の影響を強く受けやすいのだろう。

 騙された経験なども少ないので、根が素直なのだ。


 つまり、この娘たちはどこかで歯止めをかけなければ、狂信者コースまっしぐらな気がする。


 しかし、料理などの家事はできて困るものではないし、年頃の女の子が美容に拘ることも悪いことではない。

 私を褒めているうちはまだいいけれど、崇拝するようになるとまずい。

 どうしたものだろうか。



「ユノさんには敵いませんけど、私たちもアイリスさんの聖属性マッサージでお肌がツルツルになって、その、胸も少し大きくなったような気がします」


「そうですね。最初は聖属性に良いイメージはありませんでしたが、まさか効果を調節すれば美容に効果があるなど――」


 ルナさんとジュディスさんが言うように、今はアイリスによる聖属性を付与してのマッサージが流行っている。

 もちろん、伝統とか実績のようなものは何もない。


 ただ、みんなが私の身体にペタペタと触ることに気分を悪くしたアイリスが、「ユノのお肌がツルツルなのは、本人の素質によるところが大きいですが、毎日の聖属性マッサージを欠かしていないからなんですよ」などと口走ってしまった。

 そして、「それなら、自分たちにもやってほしい」となったのが発端だ。


 咄嗟のこととはいえ、私には魔法は通じない設定のこととか、そんなことを言えばこうなることくらい分かるはず――と、アイリスらしくない失敗だったけれど、彼女だっていつも完璧なんてことはない。

 だって人間だもの。



 ただ、いつの間にか美肌だけではなく豊胸効果まで謳われるようになっていて、聖属性魔法が使えるのはアイリスだけなこともあって、彼女は毎日私以外の誰かの肌をマッサージさせられる機会が増えた。


 さらに、実際に美肌も豊胸効果もあったものだから、止める機会を失ってしまった。


 もっとも、美肌効果の方は、聖属性で傷付いたお肌に、私が浸かって私成分が溶け出したお湯が染み込んでいるからだと思われる。

 豊胸効果については、たまにとはいえ私の創った料理を摂取して、栄養状態とか精神状態などが改善しているからだろう。



 余談だけれど、私がマッサージすると、コレットのようなお子様にはお見せできない状態になる人もいるので禁術指定された。

 そして、なぜか代わりに触らせろということになっている。

 それもどうかと思う絵面になるのだけれど。



「はぁ……! このピリピリする感じ、堪りません……!」


 死んだ魚のような目をしたアイリスのマッサージを受けているリディアは、彼女と対照的な恍惚とした表情を浮かべていた。


「そういえば、陛下から聞いたのですけれど、聖属性とは生――生きる力の属性、そして性――男女の差とか繋がりを司る属性かもしれないということでしたわ」


 順番を待つイングリッドさんが、よく分からない蘊蓄(うんちく)を語っていた。

 というか、ルイスさんもどうしてしまったのか。

 心労で病んでしまったのだろうか?



「はあ、はあ……。さすがは陛下、力だけではなく頭脳の方も明晰でいらっしゃいます」


「はあ、はあ……。お嬢様、私たちも座学の時間を増やすべきではないしょうか?」


 息を荒くして、私の身体を洗っているというか(まさぐ)っているのは、ルナさんとジュディスさんだ。

 私に奉仕しているということではなく、彼女たちが愉しむためである。


 忘れがちだけれど、ルナさんたちは、サキュバスという、他人の生気というか精気? 性器? を吸って活力に変える種族である。

 まあ、こちらは吸血鬼のように必須ということではなく、しなくても生活はできるらしいのだけれど、とにかく、こういったプレイは本能的に大好物らしい。


 ……彼女もまた亜門さんの子孫なのだと思うと、何だか強烈な説得力と妙な感慨がある。



 またまた余談だけれど、私の魔素を取り込んで肌艶やプロポーションが良くなる人が多い中、ジュディスさんの胸だけはサイズの変化が見られない。

 代わりに、全身の筋肉量が増えていて、そのうち父さんの魔装のようにならないかが心配である。



 さて、私を弄り回したいのは彼女たちだけではないので、時間や日ごとの交代制である。


 時にはコレットに順番が回ってきたりするのだけれど、泡だらけの小さな身体で私にしがみつくようにして洗う様子はどう見てもアウト――いや、アウトなのはただ一生懸命な子供を見てそんなふうに考える穢れた大人だけだ。

 私はただ、そんな大人から彼女を護るだけでいい。



 そんな経緯から、私の――というか、朔による新たな魔法が完成した。

 それが、「謎の光」「不自然な闇」「局地的濃霧」「物理的モザイク」に続く、「不動の泡」である。

 風が吹こうが、水を掛けられようが、びくともしない。

 それどころか増殖するという、ロケーションに合ったものだ。


 ただし、同時に展開できるのは2か所までで、なぜか3か所目を出すと破裂する。

 朔曰く、「恥じらいが大事」ということらしいのだけれど、分体も含めての適用なため、扱いが難しいものになってしまった。



 さておき、洗いっこタイムが終わると、私にもようやく平穏が訪れる。


 湯船に浸かって全身で温泉を満喫する。


 温泉は良いものだ。

 心が洗われる。


 外気温はおろか、太陽の直火でも大して影響を受けない私が、なぜ温泉でポカポカするのかは分からないのだけれど、温泉とはそういった概念的なものなのかもしれないということで納得しておく。

 どうせ、その原因が分かったからといって誰かが喜ぶようなことでもないし、せっかくの温泉タイムに余計なことを考えるのはもったいない。

 今は全力で温泉を楽しむのだ。


◇◇◇


――第三者視点――

 それまでは騒がしかった浴場も、ユノが湯船に浸かると、それまでとは一転して水を打ったように静まり返った。


 ユノを愛でる者たちにとって、背中を流すという名目で、背中以外の愛撫をして得られる反応も捨て難いが、温泉に浸かってほんのりと上気し、気持ちよさそうにしているユノを眺めるのもまた格別な時間だった。



 基本的に、ユノはいつも姿勢を正していて、所作についても特段指摘するところはない。


 むしろ、バケツを振る姿ですらも優雅であり、戦闘時においても自然体で居続けられるのは、技術だけではなく存在そのものの階梯が高いことを証明していた。



 そんな彼女が、お湯に浸かっている時だけは蕩けるのだ。


 決して姿勢や表情が崩れているわけではないが、全ての(しがらみ)から解放されて、リラックスしている彼女から無意識に溶け出す良質な魔素は、お湯を通して聖属性マッサージでダメージを受けた彼女たちの身体だけではなく、魂や精神までも優しく癒す。


 その結果、彼女以上に蕩けた者たちが出来上がる。



 彼女たちの多幸感に包まれた時間は、ユノが物音や動きに反応して通常の状態に戻るまで続く。

 そのため、誰ひとりとして声を出さず、身動きもしない。

 当然、髪をお湯に浸けたりして、彼女に苦言を呈させるようなこともない。


 しかし、それもよくて十数分ほどのことである。



 ユノの魔素の溶け出したお湯は、弱めのユノの領域である。


 そこに浸かる彼女たちは、物理的な入浴効果以上に、ユノによる侵食を受けている状態にある。

 いかに高い耐性を持った悪魔族といえど、神域の中では耐性など大した意味を持たない。


 結果、逆上せてしまったり、意識などがイッてしまったりして終わりを迎える。




 一方、浴場と扉を一枚隔てた脱衣場では、大魔王ルイスがひとり葛藤していた。


 魔界の頂点に立つ大魔王である彼が、女湯に踏み込んだからといっても大して非難を受けることはない。

 というより、跡継ぎがボンクラひとりしかいないという点を考えると、歓迎されるべきことである。

 大魔王が世襲制ではないとはいえ、優秀な血筋が栄えるに越したことはないのだ。



 しかし、元日本人――そして、正義の味方を目指していた彼には、いまだに倫理観というものが残っていた。


 それ以上に、無遠慮に踏み込んで、ユノに嫌われたりするかもと想像すると、なかなか足が前に出なかった。


 それでも、イングリッドたちから聞く、一糸纏わぬユノの姿には興味があった。


 それこそ、夢にまで見るほどに。

 別荘に来るたびに真っ先に浴場に通うほどに。



 これが彼の掲げる正義とは相容れないことは理解していた。


 それでも見たい。

 本当は巨乳好きの彼が、見たくないはずがない。


 だが、覗きはいけない。


 正直なところ、超見たい。

 嫌われるかもしれない。

 ちょっとだけなら、うっかりとか事故なら仕方ない。


 ルイスは、何度も何度も繰り返した葛藤を、今日もまた繰り返していた。




「よし、行くぞ!」


 ルイスは気合を入れて引戸に手を掛けるが、正義の重さが掛かった扉は頑として動かなかった。


 ただ、それを何度も繰り返すうちに、彼の正義は性欲によって削られていく。


 男とは悲しい生き物なのだ。


 そもそも、この場に足を運んでいる時点で欲望に負けているようなものであり、そう遠くない未来に扉は開き、真の大魔王が誕生するはずだった。



 ルイスが扉を前に懊悩(おうのう)している間に、ガラリと音を立てて扉が大きく開いた。


 当然、自動ドアだったとか、ポルターガイスト現象だったなどという落ちではない。



 ルイスの前には、先ほどまでの飾り気のない扉とは打って変わって、一糸纏わぬユノの姿があった。


 身長こそ低いものの、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ、見事なプロポーション。

 魔界基準ではなく、異世界日本での記憶と知識を持ち合わせているルイスの目から見ても、文句のつけようのない――それ以上のものである。


 そして、傷やシミなど皆無の肌には、当然のようにムダ毛どころか産毛すらもなく、それら全てが生来のもの、生来のままであるとなれば、完璧な処女性というほかない。


 沈魚落雁(ちんぎょらくがん)羞花閉月(しゅうかへいげつ)解語之花(かいごのはな)などと、月並みな表現ではまるで足りない。

 大魔王が大魔王であることを忘れる――それどころか、一切の思考能力を奪われるほどのものだった。


 ゆえに、目を逸らそうなどという発想にも至らない。

 そして、ガン見である。


 

 ユノには、人間には当然に存在するもの――産毛や角質に指紋、関節の屈伸による皺や、肋骨などの骨格や内臓などによって生じるはずの凹凸(おうとつ)までが存在しない。

 その造形は、人間とは根本的に違っていた。


 さらにそれらは物理的な要素としてだけではなく、骨格や内臓なども素敵な何かで構成されている。

 心臓や胃などの左右非対称な物が存在していながら外見上はほぼ左右対称と、彼女に掛かっているスパイスは道理すらねじ伏せる。


 そして、全ての生命の根源たる極上の甘さで、全ての生命を誑かす。


 彼女は、生物の理から外れているが、その実何よりも生命である。

 それが芸術的ともいえる容姿に反映されているだけで、彼女としては、意図するところは何も無い。


 後は、趣味嗜好なども含めて、全て受け手の問題である。




 ルイスにとって、全裸のユノは、ただの1球で三振してしまうような超ストライクだった。


 強いて欠点を挙げるとすれば、このようなラッキースケベ展開にはお約束の、恥じらいなどのリアクションがなかったことだろう。


 とはいえ、それすらも、そういう知識がない――ある種の処女性と捉えることもできる。


 事実はどうあれ、可愛さの極致の更に向こう側にある、身も心も無垢な少女に上目遣いに見つめられたルイスは、風呂に入る前から逆上せてしまった。



「あっ、悪い! ちょっと汗を流そうかと思ったんだが、こんな時間に誰か入ってるとは思わなくて――」


 ルイスの口から咄嗟に言い訳が出たが、当然嘘である。


 入っていることを期待して来た。

 入っていると知って喜んだ。


 しかし、ユノが落ち着いている分、心に疚しいところのあるルイスは焦ってしまう。



「「「へ、陛下!?」」」


 それとほぼ同時に、浴場ではルイスの出現に驚いた女性陣から、非難の色が混じった声が上がった。



 彼我の立場上、それ以上の非難は出なかったが、一部からは、


「まあ、ルイスったら。最初からこれくらい積極的でしたら、私たちも苦労しなかったのだけれど」


「陛下の魔王様があんなに(たぎ)って――。妻として少々悔しいですが、ユノが相手では致し方ありません。むしろ、私の心の魔王様は、陛下の魔王様に負けていないと張り合うべきでしょうか」


 などと、感心や欲望の声が上がっていた。



 しかし、そんな彼女たちの声も、ルイスには届いていなかった。


 彼の意識は全裸のユノ一色に染められていて、彼女が小脇に抱えていた、逆上せて意識が朦朧(もうろう)としているルナの姿も見えていない。


 ルナはサキュバス族としての特性上、皮膚や粘膜からの魔力の吸収が他種族より優れているため、ユノと一緒にお風呂に入ると、一番に逆上せることが多かった。

 そして、本来なら彼女の護衛や補助をするはずのジュディスにもまたサキュバスの血が入っていたため、ルナがダウンする頃にはジュディスも腰が抜けていたりグロッキー寸前だったりする。


 そんな理由で、こうなってしまった場合に彼女たちを介抱するのは、専らユノの仕事になっていた。


 なお、ルナがお姫様抱っこではなく荷物のように小脇に抱えられているのは、前者だとアイリスから不穏な気配が発せられるからである。



「こんにちは、陛下。ここのお風呂には男女も時間の別もありませんから、きっとみんなのものです」


 慌てるルイスに、ユノが落ち着いて返事をする。



 ユノにとって、浴場で肌を見られることは、特に気にするようなことではない。


 彼女にとっては、裸でいてもおかしくない場所で、見られても恥ずかしくない身体を曝したところで、何もおかしなことではないのだ。

 それに、見られて失うものも無い。



 そんなことよりも、ルナを介抱するために浴場の外へ運ぼうとしていたところを、出口をルイスの巨体で塞がれたことの方が問題だった。



 素性を隠しているユノにとって、ルイスは命令どころか、本来はお願いもできないような存在である。


 ルイスが風呂に入るというならユノが下がるべきなのだが、棒のように立ち尽くしているルイスに動く様子がない。

 そうなると、ユノも下手に下がって弱気になっていると思われるのは面白くない。


 彼女は変なところに対抗心を抱く癖があった。



 脇をすり抜けるにしても、ルイスがそれに合わせて振り向けば、彼のいきり立った魔王様が、安全装置のない回転ドアのごとく追従してきて挟まれるかもしれない。


 かつてはユノ自身にもついていたモノ――変形はおろか小用にも使用したことのない無用の長物だったが、それ自体に忌避感はない。

 変形についても、知識としてはそうなることは知っていたし、生理現象であるなら仕方がないことでもある。


 その上、「お前が魅力的だから」と強弁されては責めづらい。

 それ自体は事実なのだから。


 結局、見せつけられたり向けられたりして面白いものでもないが、ミミズなどのようにウネウネヌメヌメしていないだけマシだった。

 それに、尻尾が蛇の頭になっている魔獣もいる世界では、彼女にとって優しい部類である。


 

 それでも、ルイスの魔王様は、湯の川で見たアルフォンスやアーサーたちのモノを遥かに凌駕するものだった。

 多少とはいえそれに気圧されてしまったことが面白くない彼女は、なぜか妙な対抗心を抱いてしまったのだ。



「えっ!? ああ、いや、まあそうなんだが、男に見られて恥ずかしいとか嫌とかないのか?」


 そんなユノの態度に驚いたのはルイスの方だった。


 ユノの後方、ルイスの意識の外側では、イングリッドやエヴァ以外の女性たちが、肌を隠そうと(うずくま)ったりお湯に浸かったりしている。

 ユノも当然そうするだろうと思っていたところを、まさかのスルー。

 それどころか全開である。


 そして、隠しようもないくらいに漲ってしまった暴れん坊将軍にもスルーである。


 初めて妻に見せた時には、大魔王の妻となるべく様々な訓練を受けてきたはずの彼女に、「無理です」と涙ながらに訴えられてトラウマになりかけた逸品がである。



「見られて恥ずかしい身体はしていないと思います」


 その言葉を聞いたルイスは、脳天に稲妻が落ちたような衝撃を受けた。


 見られて恥ずかしい身体をしていない。

 だから、見られても平気。


 分かるような分からないような理屈だが、ユノの肢体がどこに出しても恥ずかしいものではないことは万人が認める事実である。

 そして、彼女の自信に満ち溢れている態度も相まって、彼は自身の常識の方を疑い始めた。




 この時のユノは、彼らの目に映っている以上には領域を展開しておらず、当然、彼らを侵食する意図など全くなかった。


 ただし、それは彼女の認識の上でのことである。



 自身の領域――世界を確立できていない者にとって、ユノを認識するということは、その不安定な世界を揺るがすことであり、自覚できないレベルで侵食されているのだ。


 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている――などという生易しいものではない。


 自身が深淵を覗いているどころか、落下していることにも気づかない。



 ユノの方も、見られていることは認識していても、それだけで相手が正常な思考能力を失うとは思いもしていない。

 生物的な本能を理解できていないことも影響しているのだろう。


 客観的に見れば、ユノを認識するだけで多少なりとも侵食されてしまうルイスたちと、能動的に侵食しなければセーフだと思っているユノとの間で起こる、当然の現象である。



 ユノにとっては、一般人から大魔王、人族神族悪魔などの個人や種族の差は誤差の範囲なのだが、彼らにとっては、ユノが力を制限しているか否かは重要であり、それと同じくらいに、顔や身体を出すか隠すかでも影響に差が出る。


 しかし、どちらにしても何らかの影響を受けているという点では同じであり、ユノにはその良し悪しを測ることができない。


 そんな彼女たちは、理解できないことをスルーしつつ、表面上は穏やかな生活を送っていた。

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