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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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28 因果あれこれ

 朔の主目的は、私の自由を確保すること。

 そのために、私は厄介事を引き寄せるとか、私には狙われる理由がいろいろとあると警告したかったらしい。


 もちろん、彼らが「私を護る」という発想になることも想定済み。


 そんなことをしてもらわなくても、私にも自衛能力はある。

 むしろ、下手にかかわると因果に巻き込まれて大変ですよ――例えるなら、デネブの餌になった人たちのようになるよと、要は、「干渉は程々に」と警告したかったのだ。



 しかし、そのために語った事実は彼らには重すぎたらしい。


 とはいえ、長年外界進出を目標としていた彼らの目の前に、その鍵のひとつがありながら、使ったら終わりだと釘を刺したのだ。

 それもただの脅しではなく、神の実在とその実力を見せつけられた上でのことなので、迂闊に強硬策に出ることもできない。


 彼らの目標は、彼ら自身を支える柱でもあったのだろう。

 その根元がぐらついてしまえば、立ち続けることも困難で、新しい支えもすぐに見つけられるものではない。


 穏健派の主張に乗り換えるとしても、人族側に受け入れ態勢が整っていないし、やはり瘴気の問題をクリアしないと、どう足掻いても侵略者という立場は変わらない。



 私としては、「だったら瘴気問題を改善していけばいいじゃないか」と思うのだけれど、彼らにとっての瘴気問題解決とは、反体制派の粛清――つまりは戦闘である。


 それは一時的なものとはいえ瘴気の増加を意味している上に、反体制派を根絶やしにすることは難しい――と、問題の根本的解決にはならない。


 確かに、上辺だけの対話よりは暴力の方が本気にさせられる分だけマシかなと思うこともあるけれど、そう極端な振れ方をしなくてもいいのではないだろうか。


 アルがやったように、食料事情の改善や、娯楽の創造だけでも随分と変わるのだ。

 彼と同じく異世界での記憶を持つであろうルイスさんなら、思いつくこともあるのではないかと思う。


 ただ、今はショックが大きすぎて、そんなことを考える余裕も、もしかするとアドバイスを聞く余裕すらも無いかもしれないので、しばらくは経過観察に止める。



 朔は、彼らがここまで繊細だったとは思ってもいなかったらしい。

 とにかく、彼らがショックから立ち直ってくれないと、朔の作戦が完遂できない。

 それまで、今しばらくは彼らのケアをすることになりそうだ。



 ケアといえば、朔の話を聞いて最も落ち込んでいたのはコウチンさんだった。

 とはいえ、彼の事情は私には関係してこないので、特にケアする必要性は感じない。



 なお、古竜の中で最年長である青竜カンナに訊いたところによると、彼が黄竜で間違いなさそうだった。


 当時のことを知るカンナによると、魔界誕生以前、黄竜は女神ヘラに一方的で異常な好意を抱いていて、彼女のペットのような状態――例えるなら、私に対する赤竜アーサーのような関係だったらしい。


 竜の誇りとやらはどうした? という疑問はさておき、結果だけを見ると、黄竜は魔界誕生時にヘラに置いてけぼりにされてしまったのだ。


 とはいえ、カンナが語った老黄竜の姿と現在の彼の姿の差からすると、当時の黄竜と彼とは別の存在であると考えるのが妥当である。

 それでも、古竜には古竜なりの因果がついて回るので、先代が強い執着を持っていたヘラとの関係にも、それなりの因果があると考えられる。


 彼が外界進出に拘るのも、その望みが断たれて落ち込んでいることもそれに由来しているのだとすれば、外界に出たところで女神ヘラはいないというのは残酷か。


 女神ヘラがどういう存在だったかは知らないけれど、成れの果てのアナスタシアさんを認められるか否か、それ以前に、結界を破壊した場合は彼女に嫌われるであろうことを考えると、ケアのしようがないというのが正しい。


 時間が解決してくれることを願って、今はそっとしておいてあげよう。




 そうして、魔王城での私は、以前までと同じくイングリッドさんたちとお茶をして、メイドさんたちに料理魔法の手解きをする、そんな生活に戻っていた。


 問題が何も解決していない。

 それどころか、ヤク〇トの味を知ってしまったメイドさんたちのやる気スイッチが入りっぱなしで切れなくなってしまった。

 彼女たちを応援する兵士さんたちも必死である。


 そんな中、何かよく分からないロマンスが生まれたり、素材の野草にも甘酸っぱい何かが生まれたりして、私にもよく分からない何かが起きていた。


 恋をすると世界が変わるそうだけれど、そういうことなのだろうか?

 恋をするふたりには、何でも甘酸っぱく感じられるとか?


 理解が追いつかない。




 さておき、魔王城の外ではいろいろと事態が動いていた。



 その中のひとつが、大聖堂への家宅捜索の実施である。



 まず、私のお願いを聞いてくれたリディアが、闘大に戻るとすぐにコレットの許に駆けつけて、そこで彼女が巻き込まれた事件の詳細を知るに至った。



 なお、大聖堂での件や、火事現場でのあれこれが体制派に伝わった時もひと悶着(もんちゃく)あったのだけれど、すぐに「ヤク〇トとは何だ?」と主題がズレて、更に「自分たちも飲みたい!」と暴走を始めて収拾がつかなくなった。

 しかも、それが一般の兵士さんやメイドさんたちにまで波及して、魔王城が機能不全に陥るレベルである。

 ヤバいね、ヤク〇ト。


 仕方ないのでみんなに1本ずつ配ったら、当然のように大好評で、あまりの美味しさと湧き上がるパワーで、元の問題も忘れ去られた。

 ヤバいね、悪魔族。



 さておき、リディアはすぐにその確認と、これまでの態度に対しての和解、今後の協力の要請のためにアイリスの許を訪れた。



 一方で、アイリスにはいろいろと口裏を合わせてもらう必要があったため、デネブ討伐後すぐに事情を話したのだけれど、「何で私のいないところでそんなことをしているんですか!?」と怒られた。


 ただ、「魔界ではアイリスの指示に従って大人しくしておく」と言っておきながら好き勝手をしていることを怒っているわけではなく、「ユノの活躍を見逃すなんて、一生の不覚です!」と、少しずれたところで怒っていたのだけれど。


 なお、アイリス的には、私の「大人しくしておく」発言は、「魔界を滅ぼすレベルでなければ大人しい方なんじゃないですか?」と、最初から期待していなかった模様である。



 そんなことより、その話の最中に、アイリスが端末を使ってアクマゾンで注文していた、「ユノ様名場面集(24巻)」という物が非常に気になった。


 60分で10万(JPY相当)という、強気というか狂気の値段設定に、グッズ取り扱い開始からそう日も経っていないのに24という巻数に、百万を超えるレビューの数に評価の高さと、私のプライバシーがどこにも見当たらないことに、どこからどうツッコんでいいのか分からなかった。



「大丈夫ですよ。精々がパンチラまでですから」


 などとアイリスがフォローしてくれたけれど、それがどう大丈夫なのかは訊けなかった。



 後日、湯の川に来ていたセーレさんに聞いた話では、特に神族から、「我々の管轄外で、ユノ様が何をやっているのかの情報を共有しておいた方が都合が良いのだが」との要望を受けて、シロの《過去視》の竜眼や、アルが開発した脳内映像出力魔法をベースとして、編集や検閲を経て製品化に成功したものらしい。


 その理由を聞くと、一概にプライバシーを主張することもできず、一応ではあるものの検閲も受けているとのことなので、正当な理由も無く拒否もできない。

 というか、私が強力に反対すると、疚しいことがあると勘繰られてしまう。

 巧妙な罠にしか思えなかった。



 とにかく、いつでもどこでも見られているのだと意識して、常に恥ずかしくない言動をするように気をつけるしかない。

 それに気づけただけでもよかったと、前向きに考えよう。



 さておき、リディアはアイリスと和解――というほど悪い関係ではなかったけれど、これまでの態度を謝罪して妹になった報告をして、ある意味では別の火種を作った。



 リディアはその後、女神教――特にその総本山である大聖堂を告発するべく内偵を始めた。


 ただ、大聖堂を探っていたのはリディアだけではなく、以前から女神教を快く思っていなかった体制派も内偵を進めていたため、そんな両者が接触するのは当然の流れだったといえる。



 そして、女神教――少なくとも大聖堂に勤めている一部の人たちの腐敗は、さきの一件により明らかである。


 それが、朔の話で精神的なダメージを負って、進むべき道を見失っていたルイスさんたちではなく、イングリッドさんたちの耳に入ったのも、当然の流れだったのかもしれない。



「あんボケがあ! うちのユノちゃんに何するつもりだったんじゃあ!?」


「ほほほ、はしたないですわよ、イングリッド。でも、まあ、粛清が必要かしらね」


 多分に私怨が混じっているような気もするけれど、そうして体制派による、リディアを先鋒とした女神教への介入が開始された。

 実際には、「証拠物の押収」という名の略奪だったそうだけれど。




 もちろん、女神教側も黙ってされるがままになっていたわけではない。


「この弾圧は女神様への冒涜であり、必ずや神罰が下るであろう」


 などと体制派を牽制していたものの、抵抗とよべるものはそこまでだった。



 まず、体制派の首脳陣の一部は、女神ヘラが魔界にはいないことを聞かされている。

 つまり、天罰など下らないことを知っている。

 むしろ、天界では「女神(わたし)を冒涜した彼らにこそ天罰が必要なのでは?」と議論されているけれど、これは悪魔族の知らないことなので関係無い。


 そして、女神教への介入が決定されて、それをルイスさんが追認する際に、「恐れるな。神は俺たち――ママと共にある」と言及したことがひとつ。


 先鋒であるリディアが、神罰を恐れなかったことがひとつ。


 真のヤク〇トを知る人たちにとって、それを冒涜する彼らが許せなかったこともひとつ。


 さらに、こういう時に実力行使をするはずだった、女神教上層部と癒着関係にあった大商会の会頭さんたちが次々と不審死を遂げていたことで、抵抗するための戦力の供与はおろか支援さえも滞って、最早抗弁くらいしかできなかったのだ。



 なお、商人さんたちの不審死は、アドンが――というか、彼を(けしか)けた私が犯人である。


 当初は、阿漕(あこぎ)なやり方で稼いだお金だけ回収できればいいかな――程度のつもりだったのだけれど、「命の値段」などと軽々しく口にして、彼のやる気に火をつけてしまったのがまずかったのかもしれない。


 それに、バケツ代金の全額を回収できている商人が、思いのほか少なくて、予想していたよりも稼ぎが少なかったこともあるかもしれない。

 とはいえ、考えてみれば、手付だけでもバケツ代金としては法外な金額だったし、その上で本人の財産や本人自身をも押さえられるとなれば、それでも充分な儲けだったのかもしれない。


 ただ、結果として、回収額に不満を覚えたアドンが、回収先を拡大させていく原因になったのだと思う。


 大して儲けていなかった商人さんたちには災難としかいいようがないけれど、神の名を騙った因果が回ってきたと考えれば相応にも思える。

 必ずしも悪因悪果になるとは限らないし、そもそも善悪に大した意味は無いのだけれど、自分たちでは抱えきれない因果を背負い込んだのは事実で、それはさすがに擁護できない。



 余談だけれど、後日、こういうことを教訓として湯の川の子供たちに教えたいのだけれど――とシャロンたちに相談してみたところ、それならばと定期的に「ユノ様名場面集」の鑑賞会が開催されることになった。

 なぜだ。



 その後のことはいつもの流れになる。


「ユノ様かっけえ!」


「ユノ様可愛い!」


「ユノ様に喧嘩売るとか、魔王の見る目も大したことないな!」


「分かりましたか? ユノ様に挑もうなどと考える愚か者がどれほど思い上がっているのか、そのような者にまで丁寧に相手をしてくださるユノ様のお優しさが」


「「「はい!」」」


「俺、大きくなったらユノ様の騎士になるんだ! それで、ユノ様があんな莫迦の相手をしなくていいように頑張るんだ!」


「俺も俺も!」


「私は巫女になるわ! ユノ様の素晴らしさをみんなに広めて、争いのない世界を造るの!」


「立派な心がけです。その想いを忘れず、精進を続けることこそが、夢を実現させるただひとつの道です」


 子供たちには大好評だったけれど、私が教えたかったこととは少し――いや、かなり違う。

 とはいえ、ポジティブな因果を作っているようだし、これはこれでいいのか?

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