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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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20 邪神vs精霊

「あー、私が出ますので、ジュディスさんとエカテリーナさんは、これを皆さんに配ってください」


 彼女たちの意志や覚悟を踏みにじるのは心苦しいけれど、今回は私の都合を優先させてもらう。


 一応、その旨を主神たちにも伝えたのだけれど、「うん? いいんじゃないの?」と、適当すぎる承認をいただいた。


 これをどう受け止めるべきなのか――彼らには物事の道理が分かっていないのか、それとも飽くまで人間として対処するなら構わないということか。

 まあ、普通に考えれば後者なのだろうけれど。



「これは?」


「見たら分かるっす! 美味しいやつっす!」


「これはヤ〇ルトです。乳酸菌が生きて腸まで届く特定保健用食品です。身体に良いので魔力酔いも治りますし、トラウマも消えます」


 これくらいはもう散々やっていることだし、今更「アウト」と言われても困るので、セーフで押し通す。



「そのついでに、少し後退していただくように伝えていただけますか?」


 できれば完全に撤退してもらいたいのだけれど、さすがにそれは難しいだろう。

 そこまで信頼されているはずもないし、されていても怖い。


 なので、せめて詳細が分からない程度に離れてもらえれば嬉しい。



「貴殿、正気――本気か!? デネブをひとりで相手取るつもりなのか!?」


 トライさん、私の意志ではなく、頭の方を疑おうとしなかった?


「あ、あんたなんかにそんなことができるわけが……! 莫迦なんじゃないの!?」


「こんな時に意地を張るなんて、やはり愚かです! 身のほどを考えなさい!」


 彼のお弟子さんたちにも貶された。

 それはそうと、貴女たちはなぜここにいるの?



「重要なのはできるかできないかではなく、その意志があるかどうかです。とはいえ、感情だけで特攻して皆さんに迷惑や心配を掛けるのは本意ではありませんので、少し本気を出すことにします」


 まあ、口で何を言っても信用されることはないだろうし、事実をもって認めさせるほかない。


 それに、タンクの人たちが精彩を欠き始めたことで、デネブが私の方に意識を向けていることが多くなったように思う。

 私を弱者だと感じているのか、湯の川にいる精霊たちのように本能的に惹きつけられるのか。


 どちらにしても、そのうちビームがこちらに飛んでくるのは間違いない。


 私には効かないけれど、余波で死んでしまう人もいそうだ。



 私たちの様子を怪訝(けげん)な表情で眺めていた指揮官リディアさんにも、「行ってきます」と告げて、デネブに向けて歩きだす。



「ま、待ちなさい! 何を考えているのですか!?」


 リディアさんにも止められたけれど、問答するのは面倒なので無視しよう。



「ユノさん、デネブは物理攻撃反射属性持ちです! 気をつけて!」


 背後からルナさんの声がかかる。


「了解です」


 何のことかさっぱり分からないけれど、とにかく殴ってみれば分かることだ。


◇◇◇


 デネブは巨人のような姿をしているけれど、精霊の亜種である。


 つまり、唯一身に纏っている腰蓑(こしみの)のようなものも含めて精霊である。


 私の服も朔の用意した領域であることを考えると、ある種の同類といえるかもしれない。

 尻尾があるところにも親近感を覚える。


 違いといえば、私は女性であるのに対し、デネブは無性であることだろうか。



 なぜ今になってこんな話をしているかというと、デネブに攻撃を仕掛けるために、大振りな薙ぎ払いや踏みつけをくぐり抜けて、手っ取り早く大ダメージを与えてやろうと足の間を駆け上ったものの、そこにあると思っていたモノが無かったのである。


 腰蓑の中を覗くのはさすがにプライバシーを侵害しすぎだと、いつもの癖で情報を遮断していたのが仇になった。



 とはいえ、このまま何もせずに仕切り直したりすれば、ローアングラーという不名誉な称号をつけかねられないので、とりあえず会陰(えいん)部に一撃入れてみることにした。

 もっとも、世界の改竄もせず、システムのサポートも受けられない私の空中での攻撃では、大したダメージは与えられないと思うけれど。



 とにかく、行き止まりまで駆け上ると、水泳のターンのようにくるりと上下反転して、上方向へのドロップキックのような形でデネブの会陰部を蹴りつけた。

 その瞬間、「ガキン」という金属同士をぶつけ合ったような、予想もしない硬質な音がして、反作用だけでは説明がつかない力で地面へと叩き落された。



「ええっ!? 物理攻撃を反射するって言ったじゃないですか!」


「いえ、あれだけの速度で叩き落されたにもかかわらず、受け身を取っています!」


「どちらもノーダメージ……! いや、デネブが僅かに削れている――まさか、物理攻撃が貫通したのか!」


 格好悪いところを見せてしまったかと思ったけれど、心配していたほどではなかったようだ。

 というか、これが物理攻撃反射というものなのか。



『ダメージ判定が発生した瞬間に、その全部か一部を相手に返すってスキルらしいよ。不意を突かれた形になったからモロに受けちゃったけど、しょせんはシステムスキルだから、ユノなら無効化できると思うよ』


 理屈はよく分からないけれど、無効化して殴るのは何だか負けた気分がする。


 それに、妹が言っていたのだ。

 レベルを上げて物理で殴るのが最高なのだと。


 妹がそう望むなら、お姉ちゃんはそれを証明しなくてはならない。



『何言ってるの?』


 何かがあると聞いていたので、壊してしまわなかったのはいい。


 しかし、僅かとはいえデネブにダメージを与えてしまったのは、私の気合が貫通したためだろう。

 不本意というほかない。


 もちろん、これを含めて物理攻撃だと思うのだけれど、物理攻撃反射などというふざけた能力は、純粋な物理攻撃で打ち砕かなければならない。



『いや、本当に何を言ってるの? ユノがバグるのはよくあることだけど、今回はちょっと酷いよ? さっさとボクのプランを実行しようよ?』


 できればそれも御免被りたい。

 頭がおかしい人だと思われるのは嫌だし。



 とはいえ、物理攻撃反射とやらを抜きにしても、精霊――意志を持った魔力の塊を、気合の入っていない物理攻撃で霧散させるのは難しい。

 というか、物理的な力だけでは不可能だと思う。


 星を砕くくらいの力で殴れば、あるいは概念的なダメージを与えられるかもしれないけれど、それも物理攻撃とは違うような気がする。


 そもそも、以前のシステムならともかく、現在のシステムは私が手を入れて強化されているので、その程度の力を反射することは造作もないはずだし。


 さすがにこの世界を反射ダメージで木端微塵にするわけにもいかないので、ここはやはり、物理攻撃反射能力を物理攻撃で攻略するという点だけに目的を絞ろうと思う。



 もっとも、その攻略法の糸口は、先ほどの一合で掴んでいる。


 ダメージが発生した瞬間に、その点を起点に力を跳ね返すという謎のシステム処理が行われるのは、我が身をもって体験した。


 そして、反射するのは、システムが「相手からの攻撃」と判断したものだけであることは、デネブの攻撃でデネブ自身がダメージを受けないことからも疑いようもない。


 それを検証するために、デネブの足に軽く触れてみたところ、弾かれるようなこともなく、普通に触れることができた。

 そのまま押してみても、押し返される感じはない。


 すぐにそのまま上へと蹴り飛ばされたけれど、その力がデネブに反射している様子もない。



 ならばやはりあれだろう。

 打撃技において、表面を破壊するのではなく、内部に直接打撃を与える方法があるという。


 浸透勁とかいうあれだ。


 私も一応それっぽい修行はしてみたものの、私の打撃は、軽くであっても表面も内部もことごとく吹き飛ばすので、習得できていたのかは定かではない。

 それでも、かめ〇め波のようなビームを撃つ修行よりは手応えがあったように思う。


 もっとも、それにしても、それより速く走ってぶん殴れば済むのではないかという結論に達したため、そこまで力を入れて修行をしたわけではないのだけれど。

 間合い操作の観点では、こちらが正解だし。


 とにかく、かめ〇め波っぽいこともできる今なら、浸透勁くらい簡単にできるのではないかと思う。



 そんなことを考えている間に、空中に打ち上げられていた私に、デネブの追撃が迫っていた。

 遠方では、「危ない」とか何とか声に出している人たちがいる。


 心配されているのだろうか。

 心外である。

 なんちゃって。


 デネブも、空中の私が死に体だと感じたのかもしれないけれど、舐めてもらっては困る。



「ああっ、危な――ええっ!? 受け身!? え、パンチに受け身を合わせた!? どういうこと!?」


「しかも、何かデネブの方がダメージ受けてます! ユノ殿は無傷で、更に返しの左にも受け身を!?」


「師匠、すげーっす! 受け身、すげーっす!」


「何だこれは!? オレはこんなの初めて見るぜ!?」


「受け、身……? 受け身ってあんなアグレッシブなものだったか?」


 私の受け身は空中でもできる。

 それに、衝撃波も発生していない攻撃に合わせるなど造作もないこと。


 ついでに、受け身の瞬間に、浸透勁を撃ち込むことにも成功したらしい。

 何より、受け身は攻撃ではないので、反射は発生しない。

 さらに、世界にアンカーを打ち込むほどではないけれど、反作用を打ち消す工夫もしているので、侵透勁の効果アップにもつながっているのではないかと思う。


 このように、鍛え上げた私の身体は全身凶器なため、手足だけではなく背中とかお腹も凶器になるのだ。

 無論、防具にも。


 ゆえに、少し本気を出した私に死角は存在しない。

 完璧じゃないかな。



『いや、想定外すぎてシステムも混乱してるんだと思うよ』


「まずい! デネブが破滅の光のモーションを! ユノ殿はまだ空中に――これでは避けられん! 間に合わん――」


「誰か、援護を! ――って、受け身!? え、破滅の光も受け身できるの!? ってか、反射してる!」


「すげえ、デネブがダメージで悶絶してるぜ。あんなデネブ初めて見たわ」



 デネブのビームは、ミーティアのブレスをかなり劣化させた感じのものだった。


 既に侵食したことのあるものなので、それがどんなものなのかは分かっている。

 そもそも、魔法の本質から外れて現象と化したものなど、そのあたりの事情が分かっていれば、私でなくとも乗っ取るくらいは造作もない。


 つまり、少し本気を出して全身凶器となった私なら、受け身で充分跳ね返せる。



 とはいえ、気合の入っていない浸透勁のダメージなど微々たるもので、そっくりそのままデネブにお返ししたビームも、そこまで大きなダメージは与えていない。


 デネブのサイズが二割ほど縮んでいるところを見るに、後何回か繰り返せば斃せるかもしれないけれど、デネブが莫迦でなければ、もうビームを撃ってはこないだろう。

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