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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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19 デネブ

 デネブとは、年に一度、特定の時期に発生する2体のネームドモンスターが合体して生まれる特殊な魔物である。

 何をいっているのかよく分からないけれど、とにかく危険な魔物であるという認識で間違いない。



 デネブは、一見すると巨人のようだれど、実際には何の種族にも該当しない――あえていうなら、精霊の近縁種に当たるというのが妥当か。

 肉体という物理的な器に束縛されていないことに加えて、非常に高い攻撃力と耐性のせいで、討伐することが非常に難しいそうだ。


 なので、基本的には、最初の2体が合流する前に各個撃破、最悪でも、どちらか一方を撃破して合流を防ぐのだそうだ。



 しかし、今年は不運が重なった。


 魔王軍は、大空洞崩落の調査と、そこに棲む竜や悪魔の外部への流出を警戒しなければならなかったし、デーモンコアの移送にも軍が動くことになった。


 結果、軍の出動は見送り――再編成はしているようだけれど、派遣できる時期は遅くなって、まとまった戦力を送ることもできそうにないという状況らしい。


 それを知った多くのハンターさんたちが、日和見(ひよりみ)して参加を見合わせた。

 その結果、一方が完全に野放し状態となって、合流が予想よりかなり早くなった。


 有り(てい)にいうと、足りない戦力を一方に戦力を集中させたものの、倒しきれずに合流を許したということだ。



 繰り返すけれど、私のせいではなく、ただの不運である。



 幸いにも、すぐに応援に駆けつけたリディアさんたち有志のおかげで、死者は出ていない。


 しかし、異常なほどの耐久力を持つデネブを斃すためには、持久戦――デネブ自身に魔力を放出させることで弱体化させていくという、消極的なものになるそうだ。


 もちろん、ダメージを与えることでもデネブの魔力を漸減(ぜんげん)させられる。


 ただし、個人の攻撃などデネブの耐久力の前では微々たるもので、特定属性以外の攻撃はほとんど通らない。

 その上、万一デネブに捕まって捕食されてしまうと回復されてしまう。


 九頭竜がスケールダウンしたようなものだろうか。


 エカテリーナさんが、「相性が悪い」と言っていたのは、恐らくそういうところなのだろう。

 現状、そうやって三割ほどの魔力を削ることに成功していて、ようやく出口が見えてきたところだそうだ。



 なお、なぜこんな不思議な魔物を創ったのかと主神たちに訊いたみたところ、「ただのバグ」との返事を頂いた。


 何でもかんでもバグで済まされると思うなよ?




 さておき、そんなデネブも一応は生物である。


 生きたい、死にたくない、弱ったら回復しなければと思うのは本能だ。

 そのために必要な行動をするのも、達成が容易な方を選ぶことも当然のことである。



「なぜ……! これまでの苦労は一体……!?」


 ゲロの海改め血の海に立つ、十五メートルほどのサイズに膨れ上がったデネブを見て、リディアさんが絶望していた。

 ポーションで酔っていた彼らが、デネブのポーションになったというわけだ。

 皮肉だね。



「この辺りには接近禁止令が出ていたはず……! どこかの莫迦者の度胸試しか……。貴様らだけで死ぬのは勝手だが――いや、そんなことより、町からそう遠くない場所で、万全の状態のデネブとは……!」


 トライさんが覚悟を決めていた。



 再三繰り返すけれど、私のせいではない。

 彼らが死んだのは、彼らの自業自得である。


 彼らが欲望に呑まれていなければ、しっかりと情報収集していれば、強ければ避けられた結果である。



 しかし、ルナさんたちだけを連れて逃げればいいという状況ではなくなった。

 魔界村が全滅するのは困るので、もう高みの見物というわけにもいかない。

 まだ慌てる時間でもないけれど。



 そして、故郷を守るため、大切な人を守るため、お金や名声のため――理由は様々だけれど、デネブを斃すために集まっていた人たちにも、ついに後がなくなった。


 魔界村が壊滅してしまっては、生き残ったとしても報酬は得られず、それどころか、大事なものや帰る所も無くしているかもしれない。

 魔界村を捨てて逃げるにしても、デネブから逃げながら、補給も無しに近隣の町まで辿り着くには結構な奇跡が必要になる。



 理屈の上では、ルイスさんに救援を頼んでここで迎え撃つのが一番勝算が高い――というか、ほかに手段がないと判断したのだろう。


 リディアさんが、この中で最も足の速い人を伝令に出して、防御主体の陣形を作るように指示を出した。

 そして、残った人たちで絶望と向き合う。


◇◇◇


 デネブとの戦闘は、連携が重要だ――ということで、しばらくは見学しているように言われたので、私は後方で彼らの奮戦を見守ることになった。



 デネブは本能に従って、弱そうな人や弱っている人を優先的に狙おうとする。


 それを、タンククラスの人がスキルを使って強引に振り向かせ、ダメージ軽減スキルなどをいっぱい使ってデネブの攻撃を受け止める。



 デネブの攻撃は、主に手足を振り回すだけの原始的なもの。


 しかし、高濃度の魔力の塊であるデネブのそれは、上位竜の渾身の一撃にも匹敵する。

 いかにスキルや強化魔法の補助を受けていても簡単には受け止めきれないし、若干とはいえ精神や魂にもダメージを受ける。

 適度に回復や休息しないと、痩せ我慢もそう長くは続かない。


 そこで、限界を超える前にほかのタンクの人と交代して、ダメージやスキルのクールタイムを回復させるという、分かるような分からないようなことをしている。

 この間、仕事をしているのはタンクの人と支援、回復魔法を使える人たちだけで、攻撃は行われていない。


 その理由はすぐに分かるという。



 さて、デネブはただ莫迦みたいに攻撃を繰り返しているわけではなく、その裏でスキル発動のために魔力をチャージしているらしい。


 チャージって何?

 何にチャージしているの?


 などと訊ける雰囲気ではない。




 そうこうしていると、デネブの魔力がチャージされたのか、その三つの目からビームが放たれた。


 目に魔力が集まっていたとか、そんな予兆が無かったので、ちょっとびっくりした。

 本当に、何がどうチャージされていたのだろう?



 それでも、ビームは《完全防御》のスキルを使用しているタンクの人でも重傷を負うほど危険なものらしい。


 ただ、デネブは発射直後からしばらく大きな隙ができるために、タンクの人は即死していなければ回復や交代の、今まで見ていただけの人には攻撃のチャンスとなる。



 解説のトライさんは、それだけ言うと攻撃参加に走っていった。


 ふむ、「すぐ分かる」と言っておきながら、結局言うのか。

 というか、ツッコミどころが多すぎて、どこからツッコめばいいのか分からない。


 《完全防御》で大ダメージとか、反撃を受けることが確定している攻撃を出すとか、私の理解を超えすぎている。


 それに、なぜ目からビームを?

 しかも、避けたり受けたりしやすい感じの絶妙に遅いのを。


 しかし、私は空気の読める女。

 神妙に頷いた振りをしておいた。




「カオティックフレイム!」


 トライさんの出した黒い炎が、ビームを撃った姿勢のまま惚けているデネブに直撃した。


 彼の炎がなぜ黒いのか、黒いことに何の意味があるのかは分からない。

 黒い以外は普通の炎と大差ないように思う。

 もちろん、私の創る肉も焼けない出来損ないの炎とは別物だ。


 なお、技名とか魔法の名前を口に出して気分が乗ると威力が増すこともあるそうだけれど、デネブには大して効いている様子はない。



「さすがおっ師匠様! 《無詠唱》で暗黒の炎を召喚できるなんて!」


「デネブのHPゲージがミリ削れました! さすが、お師匠様です!」


 何だかお弟子さんに絶賛されていた。

 彼女たちは攻撃しないの?



「カオティックフレイム!」


 ルナさんがトライさんと同じ魔法を使った。

 トライさんの火力が強火だとすると、ルナさんの火力は種火程度のもの。


 それでも確かに魔法は発動できていた。



「この僅かな期間で極大魔法の発動に成功するとは! お嬢様、さすがです!」


 今度は、ジュディスさんがルナさんを絶賛していた。

 確かに、ルナさんの体質で高度な魔法を使うことは、それだけで称賛に値することだとは思う。


 しかし、ジュディスさんは何もしないの?

 デネブの攻撃でも防御できるように、デネブにも効く攻撃ができるように――はまだだけれど、そう鍛えてあげたはずなのに。



 そして、デネブには全くダメージは無いっぽい。

 いいのか、これで?



 何というか、私の想像していた戦闘風景とは違う。


 もちろん、トライさんやルナさんたち以外にも攻撃している人はたくさんいて、集中砲火な感じは出ている。


 ただし、「感じ」なだけで、あまり効いているようには見えない。


 例えるなら、映画の序盤で巨大怪獣に砲撃を加える軍隊のような、「これでは終わるはずがない」という、逆方向の安心感があるものだ。


 これは戦闘というより、むしろ、団体競技とかそういう類のものではないだろうか。

 みんな頑張っているのは事実なので、茶番とまではいわない。


 まあ、これがシステムの影響下で格上と安全に戦うためのセオリーなのかもしれないし、命が懸かっていることも事実なのだけれど。



 デネブの硬直が解けると、再びタンクの人たちがデネブに群がって、攻撃を分散して受ける。


 デネブがビームを撃ったら一斉攻撃。

 ただし、安全策を採って遠距離攻撃のみ。


 エカテリーナさんのような近接攻撃主体の人たちは、傷付いたタンクの人たちを回収したり、必要な人に替えの装備やポーションなどの消耗品を届けたりする役割だ。


 そして、デネブが硬直が解けると最初に戻る。



 このサイクルを何度も繰り返すことで、理論上はデネブを完封できるそうだ。


 もっとも、デネブも機械ではないので、体力が一定以下になると行動パターンが変わってランダム要素が増えるらしい。

 もう何が何だか分からないけれど、過去にデネブと交戦した際の戦術が口伝として残っていて、それを参考にしているのだとか。


 なお、この口伝の伝承者のひとりがトライさんで、彼自身も若い時に何度かデネブ攻略戦に参加していたらしい。


 彼はほかにも様々なことに精通しているようで、やはり長く生きているといろいろと知識や経験を得られるものなのだと感心する。

 活かせるかどうかは別として。




 さておき、交戦例は何度もあるものの、過去にデネブを討伐した例はないそうだ。


 というのも、デネブはある一定時期を過ぎると消滅してしまうらしい。


 それが討伐によるものではないことは、獲得経験値を見れば明らかで――私には理解し難いことなのだけれど、敵を斃せば経験値を獲得するのは当然のことらしく、デネブほどの強敵を斃したとなれば、莫大な経験値を得るはずなのだそうだ。



 ちなみに、九頭竜を斃した時に戦闘に参加していたミーティアたちはレベルアップしていたらしい。

 特に役に立っていた感じはしなかったのに、どういう判定がされているのだろう?

 システムはいまだに謎だらけだ。



 さておき、過去にも今回のように、町や人里に接近したケースも何度かあったらしい。

 ただし、そのいずれも撃退、若しくは住民を避難させて事なきを得ている。


 とはいえ、撃退はそれまでにある程度の弱体化に成功していることが前提で、避難も前もって準備をしていなければならない。

 デネブの足は遅いので、ただ逃げるだけならそう難しくはないけれど、逃げた先でも生活しなければならないことを考えると、持ち出せるものは持ち出した方がいいのは当然のこと。

 それに、中にはデネブよりも足が遅い人もいるだろうし。



 今回は、ある程度の弱体化には成功していて、後は魔王軍の協力を得て初の討伐を目指すところだった。

 もちろん、できるかどうかは別として、そういう気構えだったということだろう。


 そのために、合流しやすく、万一の場合でも撃退にも切り替えられる位置に誘導していた――それがたったひとつの不運で裏目に出たのだとか。


 私のせいではないとはいえ、さすがに少し心苦しい。




 十数回目のサイクルを終えたものの、デネブはいまだに衰えをみせていない。



 トライさんによると、HPを5%ほどは削ったらしく、これほど順調なのは初めてらしいのだけれど、私には全く分からないレベルのものである。


 それに対して、トライさんたち攻撃陣は、ポーションの過剰摂取による魔力酔いの兆候が出始めている。



 もちろん、タンクの人たちにも、回復魔法やポーションによる魔力酔いの症状が表れている。


 しかし、それ以上に、精神的なダメージが大きい。


 身体の傷は癒えても、精神までは回復しないのだ。

 何度も何度も瀕死の重傷を負って、そのたびに死の恐怖と苦痛を味わうのだから無理もないのだろう。


 そうして精神に深い傷を負った彼らの肉体は、彼らの意思とは無関係に委縮して、十全には動けなくなる。


 当然、被害は増加する。



 彼らを支えているのは、彼らが瓦解(がかい)すれば全滅待ったなしという現実だけ。

 それでも、万一彼らが死んでも、後衛が生き残っていれば蘇生の可能性もある。

 逆に、後衛が先に死んでしまうと、彼らの生命線も断たれてしまう。

 怖くても、痛くても、退くわけにはいかないのだ。


 不謹慎だけれど、ちょっと素敵な光景である。



 それでも、魔王軍が到着するまで、早くても一時間くらいか。

 どう考えてももたない。



 前線の崩壊は、気合と根性だけでは止められない。



 とにかく後衛を護るために、防御スキルが充分ではない人たちにも前線に出ろという指示がリディアさんから出た。



「ユノ殿。貴女の教えのおかげで、私はお嬢様の盾となることができました。――勝手なお願いですが、どうかお嬢様のことをよろしくお願いします」


 私の許にジュディスさんがやってきて、覚悟が決まったとても良い顔でそんなことを言う。



「師匠! 師匠とした修行は楽しかったっす! ご飯も美味しかったっす! 師匠に会えてよかったっす!」


 駄犬までそんなことを言う。


 さすがに罪悪感が酷くなってきた。



 できれば彼女たち自身の力で解決してほしかった。


 私が魔界に来た目的を考えると、あまり大きな力を使うわけにはいかない。

 しかし、ここで何もしなければ目的を果たすこともできなくなる。

 アイリスにも迷惑を掛けるし、コレットにも大見得を切った手前がある。


 だとすれば行動するしかない。



 ただし、あれを斃すのは簡単だけれど、その結果、目的を達成できなくなっても意味が無い。


 重要なのは、私が最も苦手とすることのひとつ。「匙加減」である。

 助けて、朔!

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