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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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17 予期せぬ惨劇

 大聖堂から脱出して数十秒。


 大聖堂では、でたらめな奇跡を吹聴(ふいちょう)していた教会関係者や、便乗した商人さんに詰め寄る信徒――というか、ほぼほぼ暴徒と、この期に及んでまだ自分たちの正当性を訴える彼らが衝突して大混乱である。

 一方で、降って湧いた大儲けのチャンスを諦めきれずに悪巧みしている人や、もっと直接的に追手を差し向けようとする人もいて、収拾がつかなさそうな感じ。


 もしかすると、あれが脱出するギリギリのタイミングだったのかもしれない。



 さておき、今考えるべきは、追手の対処になるだろうか。


 よくよく考えれば、詐欺紛いの商売には釘を刺したけれど、私が金の生る木である事実は変わらない。

 であれば、確保してしまえばと思う人が出ても不思議ではない。



 逃げるのは簡単だけれど、追手を差し向けられるのが今回限りでなければあまり意味が無い。


 とはいえ、「コレットに被害が出ないように」という条件を満たす必要があるだけで、私とアイリスだけならどうとでもなる。


 最悪は、魔界から撤退してしまえば追いかけられないのだから。

 それは迎撃にしても同じことで、結局のところ、コレットに被害が出なければ何でもいい。




「追手が出たみたい」


 ひとまず、一緒にいるふたりに状況を端的に説明した。


「え!?」


「想定の範囲内ですけど、思ったより早かったですね。まあ、お肉美味しそうでしたしね」


 コレットは素直に驚いていたけれど、アイリスは落ち着いて事実を受け止めていた。


 コレットの知識には、人の愚かさ加減を示すようなものはないのか? 

 いや、知識としては知っていても、実際に体験しないと信じられないようなこともあるし、活かせるような状態ではなかったのか。

 それか、教会が善性のものという思い込みがあったのかもしれない。

 神って大体がろくでもないものだから、その教えを正しく理解している人もそうなるのは当然のことなのにね(※偏見)。



「また今度創るよ。それより、どこまでが作戦?」


「展開は予想できましたけど、作戦というほどのものはありませんね。とりあえず、無関係の人に被害が出ない所まで誘導して、そこで迎撃しましょうか?」


 アイリスにしては意外――というほどでもないか。

 全てが突発的なものだし、むしろ、限られた情報と手札でよくやっている方なのだろう。



「ノープランなら私に任せてもらってもいい?」


「どうするつもりですか?」


「私が囮になるから、アイリスとコレットはこのまま闘大まで逃げて」


 彼らの目的は間違いなく私で、二手に分かれれば、間違いなく私を狙う。


 追手の勢力がひとつだけなら、策のひとつとしてアイリスやコレットを狙うことも考えられるけれど、複数の勢力が競争状態で、私を確保できれば勝負がつく状況で戦力を分散させることは考えにくい。


 大穴狙いで最初からアイリスとコレットを狙う勢力もあるかもしれないけれど、他勢力と正攻法では対抗できない程度の集団なら、アイリスでも問題なく対処できるだろう。


 そして、闘大まで逃げ切れば、エカテリーナさんやリディアさんもいるかもしれない。


 それに、あまり頼りたくはないけれど狂信者もいる。

 アイリスの話術なら、彼らを扇動するくらいは簡単だろう。


 他にも、講師陣も実力者揃いだそうだし、悪徳商人の私兵という名の烏合の衆程度では闘大の攻略は不可能だと思う。



「……囮も何も、ユノさんが本命ですよね?」


 良いツッコミだ、コレット。


「小耳に挟んだのだけれど、今、ハンター協会が総出で対処しなきゃいけないような魔物が出ているそうなの」


「なるほど。それに追手をぶつけようということですね? そんなに上手く行きますか?」


「駄目なら自分で片付けるよ」


「そ、それってもしかして、【デネブ】のことですか!? 特定の条件を満たせば出現するすごく危険な魔物って噂ですけど、ユノさんが危険じゃ……!?」


「私は大丈夫。コレットも知っているでしょう? 私は大空洞の最下層でもひとりで歩けるから。デネブだかケバブだか知らないけれど、会ったらちょいと捻ってくるよ」


 こんな時に不謹慎かもしれないけれど、あのコレットが私のことを心配してくれるというだけで少し嬉しい。

 そのせいか、柄にもなく少し大口を叩いてしまった。



 とにかく、そのデネブとやらがどう危険なのかは分からないけれど、危険度が高ければ高いほど、効率的に追手の戦力を削ることができる。


 人も資金も有限である以上、ある程度の損害を与えてやれば、退くしかなくなるのだ。


 しかも、私が直接手を下したのではないとなると、怨恨(えんこん)の対象になることもない――八つ当たりくらいはあるかもしれないけれど、直接の怨恨の対象になるよりはマシだろう。



「分かりました。ユノなら大丈夫だと信じてますけど、それでも気をつけてくださいね」


「あの、私、ユノさんとお話ししたくて――その、だからちゃんと帰ってきてください!」


 アイリスとコレットの心配しているポイントが違う気がする。


 とにかく、アイリスの同意を得たところで、まだ不安や不満の色が濃いコレットを彼女に預け、「またね」といつもと変わらない挨拶をして、帰途に就く彼女たちを見送った。




 それから十秒ほどして、彼女たちが雑踏の中に紛れた頃、追手の先頭集団が私を視認できるところまで到達した。

 無駄がなくて非常によろしい。


 それからほんの少しだけ待って、彼らに追いつかれる少し前にようやく気づいた振りをして、郊外の方へと逃げ出した。


 もちろん、演技である。



 朔がこの作戦を思いついたと同時に、ハンター協会へ不可視の分体を出して情報収集を行っていたので、大まかな作戦区域は把握できている。

 実際には、ある程度接近してから領域で探るしかないとして、後はそこへ上手く誘導するだけだ。



 追手の人の足の速さは人それぞれ。

 当然、何も考えずに逃げていては取りこぼしが多くなってしまう。


 なので、大きく蛇行してみたり、建物に入ったり登ったり、狭い所に入ってみたりなど、手を変え品を変えてペースを調整する。

 普通に走る分には足の速い人も、パルクールはそうでもないとか、垂直の壁や水面は走れないとか、それぞれ苦手なことがあるようなので、それを利用する感じだ。



 そうやって三十分ほど走ると町を抜けて、障害物や建築物など無い見晴らしのいい荒れ地に出た。


 ここからは蛇行程度ではペースの調整も上手くいかなくなったので、仕方がないので、追いついてきそうな人を銃撃で牽制しながら逃げ続ける。



「な、何なんだあの女は……! どんな体力してやがる!? 一体どこまで逃げるつもりなんだ!?」


「くそっ! 銃撃がうざい! 回避行動を取らされるせいでペースを上げられねえ! というか、後ろ向きで走って何であのペースで走れる!? 後ろに目でもついてんのか!?」


「いや、バケツ被ってんだから前すら見えてねえはずだろ。やっぱ、あの娘は本気で神の御使いなんじゃねえのか? 何か嫌な予感がするんだが……」


「ならさっさと脱落しろよ。あの女は俺たちがいただく! ボーナスがっぽり、もしかしたらお零れも……! あいだっ!?」


「ふはは! 莫迦が! お前がそのまま脱落してろ!」



 先頭集団は追跡ペースが遅くなったことで話す余裕が出たらしく、回避行動の合間に会話をする程度の余裕はあるようだ。


 もっとも、回避行動といっても、私のように目視で銃弾を避けられるわけでも――目視はできても避けられない程度。


 キリクさんのような曲芸じみたこともできずに、とにかく左右に不規則に動いて照準を合わされないようにしているだけなので、中てようと思えば割と簡単に中てられる。


 ただ、目的地まであと一時間ほど走る予定なので、調子に乗って中てすぎたりして、彼らの体力を削りすぎるわけにもいかない。




 ところで、システムの産物の中でも、「ポーション」は実によくその性質を表していると思う。


 基本となる傷薬タイプの物は、グレードが上がると部位欠損までも治すことができて、条件次第では死者の蘇生すらも可能とする。


 派生も多く、魔力やスタミナを回復させる物や、解毒剤から万能薬まで、現代のお医者さんや学者さんが聞けばどう思うか――そんな理不尽な物がポーションである。



 ちなみに、ポーションとは効果の種類を問わず、例外なく魔力を含んだ水である。

 もう少し正確にいえば、水すら必要無い。


 ただ、魔力を魔力のまま持ち運べないので水に含ませているだけで、ただの水に高濃度の魔力を固定できるなら、その他の素材も必要無い。


 湯の川で生産されているエリクサーRがそれに該当して、あれは液体に見えるけれど液体ではない、水素も酸素も含まれていない魔力の塊なのだ。


 なお、その素材は世界樹から採れる雫のみを使用しているので、魔素ではなくなっている時点で劣化しているともいえるけれど、人間にとっては充分に万能薬である。



 対して、世間一般に出回っている物は、ただの魔力水では効果が弱すぎるのと消費期限が短くなるために、特定の素材と合わせることで、特定の効果にのみ特化して、劣化速度を遅らせている。


 当然、味覚などには一切配慮されていない。


 召喚勇者や転生者などが作る物には、甘味や果汁などを加えて飲みやすくされているものもあるけれど、味が違うだけで効能は大差ない。


 そもそも、重要なのは魔力の摂取であって、それは胃や腸で吸収するものではないので、飲んでも塗布でも効果に大差はないのだけれど。

 であるのに、一般的には飲む方が好まれている。


 まあ、概念的というか思い込みみたいなものでも、体内の方が効くとでも思っているのかもしれない。

 実際、そういうのは案外莫迦にできない。



 しかし、賢者クリス曰く、「危篤状態に陥ったヒロインを救うのに、ヒーローが秘薬を口移しで飲ませるのは物語の鉄板なのだよ。それに想像してみたまえ。ヒーローが意識不明のヒロインの身体に秘薬を塗りたくっている様を。それは最早ポルノなのだよ」とのこと。


 なるほど、一理ある。

 そんな緊急事態なら、それこそぶっかけた方が手っ取り早いし、肺に入って(むせ)たり溺れたりもない分良いような気がするけれど、見た目的には完全にアウトであることは否定できない。



 さておき、ポーションは、飲んだり塗ったりするだけで傷が治ったり、体力や魔力が回復したりする便利な道具ではあるのだけれど、副作用が無いわけではない。


 ひとつは前述したとおり、魔力以外のものは基本的に不純物である。


 飲まなければ問題無い――とならないのは、魔力自体も個々人によって差があるために、摂取した魔力が上手く体力や魔力として還元できるかには差が出てしまう。

 つまり、自身が作ったポーションでもなければ、全てを還元することはできないのだ。


 そして、摂取したものの上手く還元できなかった魔力は、徐々に使用者を汚染していく。

 それが一定以上蓄積すると、魔法やスキルの発動に支障が出てきたり、普段魔力によって底上げされている身体能力や感覚などにも影響が表れる。

 俗にいう「魔力酔い」という症状だ。


 とはいえ、一般的なポーションはヤク〇トと同じくらいの容量しかなく、魔力の摂取効率も個人差はあるものの「良い」とはいえないため、よほど短時間に集中して使用しなければそうなることはない。




「「「お゛う゛ぇ゛え゛え゛!」」」


 目的地を目前にして、追手の人たちの足が完全に止まった。


 原因は、ポーションの過剰摂取による魔力酔いということになるのだろうか。


 製造業の地位が低く、職人が育ちにくい環境の魔界では、ポーションの品質も悪い。

 当然、その分を量でカバーしなくてはならないのだけれど、肝心の魔力以外にも水や薬草などの品質もことごとく悪いため、とにかくまずいことで有名だそうだ。


 そんな物を飲み続けながら、瘴気の漂う荒野を一時間ほど走り続けた。


 その結果、魔力酔いと瘴気障害を併発して、何というか悪酔いしてしまったようだ。



 最初のひとりが限界を超えてしまい、我慢できずに嘔吐したのを切っ掛けに、それが瞬く間に全体に伝播して出来上がった吐瀉(としゃ)物の海。

 飲んだ物を全て出して、それでもなお毒を吐き出そうと胃液を吐き続け、更には大なり小なり粗相をしてしまう人もいて、地獄絵図に更なる彩を加えている。

 本日2度目となる同時多発ゲロだ。



 なお、魔力酔いと瘴気障害には、これといった特効薬は存在しない。

 時間をかけて魔力を自然回復させて、自身に合わない魔力を排出する以外に改善手段は無い。


 つまり、彼らはもう行動不能である。




 更に不幸なことに、彼らが足を止めてしまったせいで、本来なら接触する予定ではなかったデネブ討伐隊の斥候に見つかってしまった。


「師匠!」


 というか、エカテリーナさんだった。



「お久しぶりっす! こんなところで何をやってるんっすか? あ、もしかして救援連れてきてくれたっす?」


 何をやっているのかは私が問いたい。

 エカテリーナさんにも、私自身にも。


 それと、エカテリーナさんの目には、半ばゾンビと化したあれが救援に見えるのか?



「あれはお散歩中の私を狙っていた、人(さら)いの集団」


「うーん、よく分からないっすけど、師匠は手伝ってくれるっすよね?」


 この駄犬、人の話を聞いていないな?


「そこのゲロの海の人、この辺もうすぐ戦場になるっす。危険なんですぐに立ち去るっす。私はすぐに報告に戻らなきゃいけないんで、ポーション置いていくっす」


「お゛う゛ぇ゛え゛え゛!」


「い、嫌じゃ! もう飲みとうない!」


「もう殺してくれ……」


 ゲロの海の人って何だ。

 四股名か?


 というか、ナチュラルに追い打ちをかけている。



「それじゃ、師匠はついてきてくださいっす!」


 そして、やはり人の話を聞いていない。


 彼らをきっちり始末しておきたかったところなのだけれど、エカテリーナさんに見つかってしまったことで、方針転換せざるを得なくなってしまったらしい。

 まあ、ここに長居もしたくないので、ついていくしかないか。

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