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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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16 ガールミーツミート

 次は狼狽えているコレットの対処だ。


「そ、そんな!? ユノさん、こんなお金――」


「落ち着いてください。このお金でコレットちゃんやご家族が救われるのなら、それは充分に有意義な使い方です」


 しかし、私が何かをするより早く、アイリスが行動を起こした。


 さっきは我慢できずに勝手に動いてしまったけれど、もしかして、アイリスの邪魔をしてしまったのだろうか?

 

 いや、そうだとしても、彼女のことだから、ずっと軌道修正の機会を窺っていたに違いない。

 さすがだね。


 一方で、コレットの困惑の度合いは深く、こんな理屈では納得していない様子だ。



「コレットちゃんは、ユノの能力のことを知っているんですよね?」


 アイリスの質問に、コレットは声を出さずに頷いて答える。


「でしたら、私とユノには、お金なんて大した意味がないことも分かりますよね? だから、最新型のゴーレムでもポンと買えてしまうくらいのお金は常にあるんです。そんなお金で、安全や平穏が買えるなら安いものなんですよ」


 なるほど。


 まあ、魔界村に来た当初はお金はなかったのだけれど、お金なんて山賊を山ほど狩ればすぐに貯まるものだし、あながち間違いではない。

 ただ、使えば減るのは当然で、最近は山賊やならず者も大人しくなってきたので、収入は激減している。


 ついでに、養っている子供たちは増える一方で、支出は右肩上がり。

 今すぐに破綻するほどではないけれど、あまり無駄遣いはできない。

 どうしよう?


 最悪は、料理魔法や湯の川の食べ物を持ち込めばその場しのぎにはなるとはいえ、それらは魔界の人たちにとって毒のようなものなので、本当に最後の手段だ。



「うう、確かに……。でも……」


 コレットも、私の戦闘能力と料理魔法のことでも考えているのだろう。


 武器防具どころか、食料すらも必要無い。

 つまり、お金などなくても生きていける。



「あ、そうだ。ユノ、せっかくですから、コレットちゃんに本物の乳酸菌というものを教えて差し上げては?」


 これは見事な話題の摩り替え。

 とはいえ、乳酸菌を誤解されたままというのもよくないので、良い機会ではある。



「えっ……!? いえ、遠慮しておきます!」


 ノータイムで強めに断られた。


 私の乳酸菌は、リリーとかカムイとか雪風にも大人気なのに。

 恐らく、コレットの脳裏には、神官さんたちが持ってきたあれがあるのだろう。



「そんなこと言わずに。はい、これが本物」


 そう言って、乳白色の液体で満たされた例の小瓶を、コレットの手に強引に握らせた。



「こっ、これは――! 見ただけでさっきのゴミとは比べ物にならないと分かる存在感! 中の乳白色の滑らかな液体は、匂いだけでも分かる甘さで、それでいて爽やかな酸味! これが噂に聞く初恋の味――」


 手に持たせただけなのに、また何か語り出した。

 というか、どこでそんな噂を聞いたの?



「あれが真のニュウサンキンなのか……?」


「思ったより小さいな。俺たちを騙してるんじゃねえのか?」


「だが、この妙に心を(くすぐ)られる感じは……」


 それはほかの人たちの目にも触れていて、あちこちで真偽を問う声が上がっていた。

 もちろん、無視する。



「せっかくなので、見るだけじゃなくて飲んでくださいね」


 リアクションの面白い子だけれど、こちらもいつまでも見ているわけにもいかない。


「え、でも、私だけ……。それに……」


 アイリスの声は、一種の錯乱状態にある人にもよく届くようで、テンションがおかしくなっていたコレットも一瞬で現実に戻ってきた。


「いいんですよ。この騒動も、(もと)を正せば、ユノの能力がどこからか漏れたことが原因でしょうし、そのお詫びだと思ってください」


 アイリスの言葉に、コレットは「どうしよう?」とでもいうように私の方に顔を向けてきたので、アイリスの言葉を肯定するように頷いておく。

 言葉に出さないのは、他の人の目もある手前、私が元凶ですとは言いづらいからだ。



「そういえば、ユノから料理をご馳走してもらうって約束もしていたんですよね? でしたら、せっかくですので、それも果たしてしまいましょう!」


 アイリスは、わざとらしく胸の前でひとつ手を打って、既に落ちかけていたコレットを、止めとばかりに容赦なく畳みかける。



「何か食べたい物はありますか?」


「あの、できればお肉が……」


 躊躇(ちゅうちょ)が無かった。

 既に落ちていたか。


 というか、元々食べたくないとか飲みたくないということではなく、それを上回る後ろめたさがあっただけなのだろう。

 頭が良いとか、気遣いができるところはコレットの長所なのだけれど、きっとその代償で、甘えるのが下手なのだ。

 なので、それを取り除いてやればこのとおりなのだろう。



 それはさておき、アイリスは私にこの場で料理魔法――というか、バケツで料理を創る例のパフォーマンスをやれということなのだろうか?

 勘違いだと困るので、念のためにアイリスの顔色を窺ってみる。



「中途半端にこういうことが広まった挙句に、後々どうなるのかを考えると、ここである程度のネタばらしはやむを得ないと思います」


 ということらしい。

 それが正解かどうかは分からないけれど、アイリスがそう決断したのであれば従おう。



「あ、素顔は出さないでくださいね」


 マジカル料理はよくて、無添加顔出しは駄目なのか……?

 何となく釈然としないけれど、まあいい。



 バケツを脱ぐと同時に、手際良く新たに取り出したバケツを被り直す。

 手際よくやったので、素顔はほとんど見えていないと思う。


 そもそも、新たに取り出したバケツで料理を出せばいいことではあったのだけれど、バケツを被っている理由を、「料理を作るための魔力を集めている」ことにしているので、整合性を持たせた形である。



 さておき、私がバケツを脱ぐと、コレットがよく洗って乾燥させた――干乾びる寸前の雑草を、おずおずと私に差し出してきた。


 いつ果たされるかも分からない約束に備えて、ずっと用意していたのだろうか。

 健気すぎて涙が出そう。

 出ないけれど。



 強く触れると崩れてしまいそうなそれを、有り難く受け取ると、おもむろにバケツに投入する。


 そして、魂が宿らない程度に心を込めて、リズミカルに振る。


 気分はさながらバーテンダー。

 ただし、振っているのはバケツで、内容物は枯草である。

 何が混ざるというのだろう?



 しばらくして出来上がったのは、鉄板の上でジュウジュウと音を立てて、お肉の焼ける匂いとソースの焦げる匂いが見事なハーモニーを奏でるテンダー(ヒレ肉)ステーキ。

 バーはどこに行ったとか、そういうことは考えなくていい。

 いないいないバーだ。


 そもそも、そんなことを気にする余裕のある人はほとんどいないのだ。



「「「!?」」」


 このパフォーマンスを初めて目にする野次馬さんも、二度目となるコレットも、アイリス以外はみんな目を丸くして驚いている。



「熱いから気をつけて」


 私の料理が冷めることはないけれど――だからこそ、火傷には気をつけなければならない。

 しかし、湯の川にはその火傷にすらも喜びを感じる人がそれなりにいたりもするので、万が一にもコレットがそうならないようにと、エプロンを着けてあげてからフォークとナイフを手渡した。



「召し上がれ」


「ちょ、ちょっと待て! そ、それを私にいただけないだろうか!? 金貨10枚――いや、100枚出す!」


「わ、俺にも頼む! 大盛りでだ!」


「ずるい! そんな大金私たちには――いえ、草が材料ならタダみたいなものじゃない! ねえ貴女、私の分も作りなさいよ!」


 むう。

 これからというところで邪魔が入った。


 というか、彼らは何を勘違いしているのだろうか?



「コレットは熱いのは苦手? ふーふーする?」


 野次馬さんたちの声は無視して、困惑しているコレットに応対することにした。


「はい、あ~ん」


 素直に口を大きく開けるコレットが可愛い。


「こら! 私を無視するな!」


「ぐっ、私を誰だと思ってるんだ! おい、貴様らも何とかせんか! 私が教会にいくら出資していると思っているのだ!」


「ちょっと! そんなガキより私の相手をしなさいよ! あんた、莫迦なんじゃないの!?」


 なぜ私が、見ず知らずの、しかも暴言を吐くような人に料理を振舞わなければならないのか。


 せっかくの餌付けの時間を邪魔しないでほしい。



「皆さん、何か勘違いされているようですが……」


 というか、怒気や敵意が私だけに向いているのならよかったのだけれど、コレットが対象となると黙っているわけにもいかないか。

 しかし、私が行動を起こすよりも早く、またもアイリスが先に動いた。


「先ほどのやり取りを見ていれば、私たちが権力やお金に屈しないことくらいは理解できるでしょう? そもそも、ここに来たのは、彼女の素晴らしい能力をまねて――というのも烏滸がましい、欲望塗れの醜い行為で穢し、あまつさえ、それを奇跡などと称して、汚いお金稼ぎの手段にしていることへの抗議のためです。貴方方の信仰心が本物でも、神様が許しているとしても、譲るつもりはありません。

とはいえ、後者の方の心配はないようですが」


 やはりアイリスの言葉は人々の心に強く響くようで、頭に血が上っていた人たちも、途中で口を挟むようなことはできないようだ。


 さて、アイリスは彼らが私のまねをしているのが気に食わなかったということなのだろうか。

 いや、どちらかというと詐欺の方か?


 どちらにしても、放置しておくと面倒になりそうな予感しかないし、私も早めに釘を刺しておくのは賛成だ。



 それはさておき、お肉を口にするたびに目を輝かせて食レポ的な感想を言おうとするコレットだけれど、言葉を紡ぐ前に新たなお肉を口に運ぶので、口をパクパクさせるだけで実際に声に出すことはない。


 息を吐くことすらもったいないとでも思っているのか、過呼吸にはならないように注意してほしい。

 というか、餌を強請(ねだ)る雛鳥みたいでとても可愛い。



「なっ……、何と罰当たりな……」


 さて、神官さんたちの中には抵抗力の高い人もいるようで、アイリスの言葉か途切れたところに、負け惜しみを挟むくらいのことはできるようだ。



「し、司祭様! たった今神託がありまして――」


 もちろん、アイリスの言葉も、その場にいなかった人には効果は及ばない。


 手足が縺れるくらいに慌てて駆け寄ってきた新たな神官さんが、私たちに敵意を剥き出しにしていた神官さんたちの中に飛び込んで、息も絶え絶えに報告を始めた。


「その、『偽りの信仰を捨て懺悔せよ。さもなくば、魔界にかつてない危機が訪れるであろう』と……!」


 それは至近距離にいた関係者にしか聞こえないような小声ではあったけれど、その衝撃は大きかったようで、彼らの口を塞ぐには充分なものだった。



「どこでどんな噂を聞いたのかは知りませんが、このような属人的なスキルを奇跡と結びつけて利用されるのは、無関係な私たちにとっては非常に迷惑です」


「ぐぅ……。だが、このような奇跡系スキルは天からの賜りもので、人の役に立ててこそ――それこそ、全ての人の救済を是とする我が教団に属するべき――」


 おお、司祭のお爺さんが復活して反論を始めた。

 反論というか、言いがかりだけれど。

 後、お口が臭い。



「黙りなさい! 彼女のスキルは自らの努力で獲得したもので、誰かに与えられたものではありません! むしろ、彼女はシステムの恩恵すら受けていません! 何が天からの贈り物ですか。事情を知りもしないのに、ふざけたことを言わないでください!」


 アイリスの剣幕に、お爺さんたちも怯む。

 いつにも増してすごい迫力――というか、もしかして割と本気で怒っているのかな?



 確かに彼らのやり口は阿漕(あこぎ)だけれど、方向性がアレなだけで、それもひとつの努力の形といえなくもない。

 褒めてはいないけれど。

 どのみち、彼らの努力の結果は彼ら自身にも返ってくるはずなので、それがどんなものであれ、大きな流れの中のひとつでしかない。


 特に、この世界はシステムの影響か、因果が巡ってきやすくなっているようで、やり逃げできる人もいなくはないけれど、必要以上の代価を請求されることもままあるっぽい。

 親しい人が直接被害を被るのでなければ、ある程度は放置でいいと思うのだけれど。



「システムの恩恵を充分に受けているというアドバンテージを持った貴方たちに、誰かひとりでも彼女のような奇跡を手にした人がいますか!? 奇跡には届かなかったとしても、それだけの努力をしたと胸を張って言えますか!? 貴方たちのくだらない悪意で、彼女を穢さないでください!」


 あれ?

 ちょっと批判がズレているような?


 それに、何だか私にも刺さるような?


 いや、もちろん私も努力しているけれど、能力の大半は朔の協力があってのもので、ものによっては朔に丸投げしていたりするのだけれど……。



「あ、あの、私ひとり食べてていいのかな?」


 というか、アイリスの言葉は全ての人に刺さるものだったのか、素敵なお肉に夢見心地になっていたコレットも現実に引き戻されていて、ばつが悪そうにしていた。



「大丈夫。私はコレットが頑張っていることを知っているよ」


 せっかくの料理も、こんな状況下では心の底から楽しめない。

 コレットのように、根が真面目で素直な子であればなおさらだろう。


 とはいえ、いくら素直だといっても、こんな気休め程度の言葉で納得するとは思えないので、もう少し脳をフル回転させて言葉を重ねることにする。



「コレットがこのまま努力を続けていれば、そう遠くない将来、多くの人が貴女の足跡を追うようになると思う。それは、誰の参考にもならない私の能力より、多くの人の役に立つすごいことだよ。私の料理は、コレットや頑張っている人たちを応援するためのものなのだから、遠慮せずに食べて」


「……うん。食べて、頑張る!」


 うん。やはり子供はいいなあ。


「あ、でも、お母さんや弟にも持って帰ってあげたい……」


「コレットは優しいね。でも、これは貴女だけで食べて」


 コレットの好きにすればいいと言いたいところだけれど、何だか良くないことが起こりそうな気がするので止めておく。

 俗にいう「フラグ」とかいうものだ。



「お母さんとか弟くんは、また機会があれば――コレットが頑張っていれば、きっといつかは」


 とは言ったものの、言い終わった頃には既にお肉の姿は無かった。

 家族を想う心とは裏腹に、手と口が止まらなかったのだろう。



「あ……」


 それに気づいたコレットは、何ともいえない微妙な表情を私に向け、神官さんや野次馬さんたちにも絶望が広がっていた。

 というか、中には滂沱(ぼうだ)の涙を流している人もいた。

 大袈裟すぎる。



「さて――」


 アイリスも言いたいことは言ったようだし、コレットの問題も解決できたし、もうここには用は無い。


 それに、言葉が通じる時間ももう終わりだろう。



「帰りましょうか」


 想像以上に野次馬さんが集まってきたこともあって、下手をすると退路を断たれてしまいそうだし、それ以外にないだろう。

 というか、これ以上何かをするにしても、少しほとぼりを冷ましてからでなければ大事になりすぎる気がする。

 いや、既に充分大事な気もするけれど、だからといってこれ以上大きくする必要も無い。


 ということで、アイリスの手を引いて、コレットを抱えて大聖堂から脱出した。

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