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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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11 再会と別れと

 何だか大事になってしまったけれど、どうにか外出許可は取りつけた。


 というか、外出許可程度で神がどうこうというのはやりすぎのような気がする。



 とはいえ、済んでしまったことを気にしても仕方がない。


 惜しまれながらも魔王城を後にして、ひとまずは市街を目指す。



 出発前には、私の護衛と称した決死隊が結成されようとしていたけれど、『私の側に大勢の人がいると、余計に神様が嫉妬するかもしれません。私なら大丈夫ですので』と朔が説得してくれたので、表向きにはひとりでの帰宅となる。


 もちろん、遠巻きに護衛――というか、監視が数人ついているけれど、これは仕方のないものと割り切るしかない。


 一応、『ほとぼりが冷めたら戻ってきます』とは言ったものの、そこまで信用はされていないのだろう。

 そんな事情もあって、自由とはいい難いけれど、無事に城外に出ることができた。




 とはいえ、特にやりたいことがあって城外に出たわけではない。


 アイリスの件はあるけれど、彼女の許にも分体がいるので、魔王城脱出とは分けて考えても問題無い。


 なので、予定など何も無いのだけれど――むしろ、やりたいことがあるなら分体でやればいいだけである。

 むしろ、その場合はアリバイ作りのために、ひとりは魔王城に残していた方がいい。



 ひとまず、適当な嘘を並べて引き返せなくなった感じでの外出なので、整合性を取るために、やはりアイリスとの合流を目指す。

 既にアイリスの側にもいるので、合流も何もないのだけれど、客観的に見てそうなるようにすることが重要なのである。




 魔王城と闘大は、距離的には十キロメートルほどしか離れていない。

 瞬間移動を使わなくても、走ればすぐの距離にある。



 往路は拘束されていたこともあって、馬車というかゴーレム車を使って一時間弱の行程だったけれど、自分の足で歩く復路はそれより少しかかるだろうか。


 ルイスさんたちはゴーレム車を出すと言ってくれたけれど、同行されても困る。

 常識や良識に疎い朔では、世間話のようなものの方がボロを出す可能性が高くて、密室では逃げることもできないのだ。


 それに、乗り物は私が使っても塵化しにくい道具のひとつだけれど、塵化しない物の条件のひとつが、「構造が複雑な物」であることを思うと、造りが粗くて単純な仕組みの魔界の物では少々気が抜けない。



 私が道具を扱うと、剣のように「振って斬る」ような物は、システムが「斬った」と判断して、耐久度というパラメータが減少した瞬間に塵化する。

 システムの管理下にある「剣」と、システムが把握不可能な「私」という存在が引き起こすエラーのせいなのだとか。

 これは、システムが半分くらい私の眷属化している今でも変わらない。


 むしろ、今ではシステムが、「私ごときがお母様を把握するなど恐れ多いです!」と、道具の耐久度を無限にしようとして違うエラーを出しているっぽい。


 なお、システムの台詞は朔による想像だ。



 しかし、銃のように「引金を引いたら、詳しい仕組みは分からないけれど弾が出る」ような複雑な物は塵化しない。

 つまり、ただスイッチを押すとか引鉄を引くだけのようなものなら、私にでも使える。


 そういう理屈なので、車とかも運転できなくはないのだけれど、つい力が入るとハンドルを圧し折ってしまったりするので向いてはいない。



 それでも、主神たちと会って、道具を扱うことについては改善の可能性も出てきている。

 現実的にはまだ何も改善されていないどころか目処も立っていないけれど、気分的には多少楽になった気がする。



 そんな気分的なところが影響しているのだろうか。


 湯の川の、機能性を追求した上で、自然と人工物が見事に調和している町並みとは対照的な、魔界村の雑然としたそれすらも輝いて見える。

 というか、炎が上がっている。

 火事だった。




 半ば野次馬気分で、火元に足を延ばす。



 そこは、魔界村に到着したその日に、アイリスと宿を探して彷徨っていた場所からそう遠くない、魔界村でも有数の商店街、その中でも最大規模の商会【ヘブン安堵会】だった。

 魔界でそのネーミングはどうかと思うけれど、「お客様の暮らしに寄り添い、社会と共に進化する」と謳って魔界全土に出店しているお店で、魔界村に来た直後にアイリスと入ったことがある。


 その時はお金に余裕が無くて何も買わなかったけれど、場合によっては今回のデートコースにするつもりだったのに、それが炎上している――いや、もう火は見えないのだけれど。



 私が到着した時には、出火からかなりの時間が経っていたのか、既に多くの野次馬さんでごった返していた。


 大勢の野次馬さんの間を、我ながら器用にすり抜けて最前線に着いた時には火はほぼ収まっていて、比較的大きな石造りの建物の隙間から、濛々(もうもう)と白煙が立ち昇っているだけだった。

 ついでに、あわよくば人ごみを利用して監視をまけないかとも期待したのだけれど、さすがにこの程度では見失ってはくれなかったようだ。



 さておき、道中で聞いた野次馬さんたちの会話を繋ぎ合わせると、大まかな事情を把握することができた。



 出火の原因は、燃えた商会に恨みのある男の人の放火だったようだ。


 その人は突然現れて、意味不明なことを喚きながら、火魔法だか爆発物を放ったらしいのだけれど、それが店内にあった可燃物や爆発物に引火して、一気に燃え上がった。

 犯人が悪いのは間違いないけれど、管理体制などにも問題があったのだろう。



 それでも、魔法のあるこの世界では、消防とか防災能力に関しては、現代地球を凌駕するところもある。

 その分、建築技術や防災に対する規格などは発達していないけれど。



 とにかく、魔石に頼らずとも、魔法で水を生成したり火を熾したりできる人は多くいる。

 冒険者のような、それで魔物を相手にするような人たちになると、放水砲やウォーターカッター、更には火炎放射器やミサイルに匹敵する魔法を行使できるし、それより遥かに大きな力を行使できる、勇者や魔王のような人もいる。


 同時に、それはそれらに対する防衛手段もあるということで、この世界の人たちは、少々の事故や天災では動じない。



 しかし、瘴気汚染が深刻な魔界では、少々事情が異なっていたようだ。


 人族より強大な魔力を持つ悪魔族であれば、この程度の規模の火災くらいは一般人でも消火できるはずだ。

 まあ、戦闘が得意ではないというコレットが基準の話で、本当かどうかは知らない。


 ただ、その強大な魔力ゆえに瘴気汚染という問題を抱えている彼らにとって、下手な魔法の乱用は、場合によっては災害で失われる人命や財産以上の損害となる。


 もちろん、救助活動などを全面的に禁止しているわけではないそうだけれど、同じ救助活動をするにしても、能力が高い人がやった方が瘴気汚染は少なく済む。

 そうした事情の中、災害などに対処するのは、その場にいる中で一定以上の能力を持っていて、かつ最も能力が高い人が行うという暗黙の了解ができている。


 そのせいか、今回の件のように突出して能力が高い人がいない場合は、残念ながら「お前がやれよ」「きっと誰かがするだろう」的な空気が形成されてしまうらしい。



 さすがにこういったケースは非常に稀なことらしいのだけれど、ハンター協会の方で非常事態が起きたそうで、かなりの数の「一定以上の能力を持っている人」が駆り出されているそうだ。


 ネームドモンスターの討伐失敗によって、更に最悪の魔物が出現したとかで。

 不幸は重なるものだね。




 さておき、様々な事情が重なって、救助活動などは一切行われていない。


 それでも、建物が石造りで、外部に可燃物が少なかったことと、保管されていた火薬などに引火したのか、爆発を起こした結果、その衝撃で空気の出入り口が塞がれたことで火が収まっている。

 なので、ほかの建物には延焼などはしていなくて、被害が最小限に止まっているという意味では、不幸中の幸いだろうか。



 それと、野次馬さんの話から推測するに、被害者は十数名。

 店内にいたお客さんと従業員さんたちだろう。

 当時そこにいたほとんどの人が、逃げたり防御する暇もなく焼き上がっているらしい。


 なお、朔に領域で確認してもらうと18名だった。

 きっちり焼き上がっているそうなので、性別や年齢は不明。



 さらに、放火犯本人も逃げ遅れて――というか、逃げる間もなく焼き上がっているっぽい。


 入り口付近にいるのがそうだろうか。

 僅かながらに瘴気も帯びているし、きっとそうだろう。



 復讐だとか殺人の是非を論じるつもりはないけれど、無関係の人を巻き込むのはあまり褒められたものではない。


 なので――いや、ちょっと待て私。

 つい最近、「もっとよく考えてから行動しよう」と決意したばかりだ。


 よし、よく考えよう。



 まず、犯人が生きているなら、その処遇は人の手に委ねるべきだ。

 私が当事者であるなら事情も変わってくるけれど、関係の無いところに手を出そうとは思わない。



 しかし、今回の犯人は死んでいる。

 つまり、人の管轄を離れたということで、根源の管轄ということになる。



 なお、天国や地獄とか、そういったものは生者の意識の中に存在するものであって、実在する世界ではない。

 もちろん、死者の生前の行いを裁くような者も存在しない。


 ただし、考え方は悪くない。



 悪いことをすれば、相応の報いを受けるという世界を構築したいなら、罰を受けてから死ぬべきだ。


 私としては、善悪にはさほど意味は無いと思っているけれど、自覚も覚悟も無くやっているのは好ましくない。


 また、現代日本では、被疑者死亡の場合は不起訴になると聞いた気がするけれど、ここは現代日本でもないし、そもそも、根源にとっては死は終わりではない。


 なので、覚悟はどうしようもないとしても、自覚はさせておくべきか。



 ということで、彼のすっかり炭化した身体に、魂と精神を強引に呼び戻して、それらを無理矢理繋ぎ止める。

 死にたくても死ねないけれど、死ぬほどの苦痛を味わえる環境の完成だ。


 ……これだと単なる拷問か?


 まあ、いいか。


 このまましばらくの間、自らの行為の意味を認識させてあげることにする。


 余所の根源に干渉するのはあまり褒められたことではないけれど、せめて彼の苦痛や後悔がきちんと根源に還元されて、こういう無駄が減ればいいな――という、余計なお世話である。



 人を殺すなとは言わない。

 ただし、それが競争の結果だとか、自らの信念に基づいた行動の結果であるならともかく、子供が捏ねる駄々のようなものでは、根源的に得るものがない。

 せめて、奪った可能性に匹敵する、別の可能性を示すくらいはしてほしいものだ。




 しかし、事はそれだけで収まらなかった。


「お母さんがまだ中に! 誰か、お母さん、助けて!」


 白煙を上げる館を指差して、必死で野次馬さんに訴えている子供の姿があった。

 というか、その子の姿に覚えがあった。



「あっ、お姉ちゃん! お母さんが! お母さんが!」


 見つかった。

 まあ、隠れてはいなかったので、いつかはそうなる。


 その子――ジョージくんは、私を見つけると一目散に駆け寄ってきて、(すが)りついてきた。



 ジョージくんの火傷は比較的軽度のものに見えるけれど、打撲や裂傷はかなり酷い。

 身体のあちこちから派手に血が流れている。


 恐らく、爆発時は商館の外にいたか何かで、火災には巻き込まれなかったものの、爆発時の衝撃で怪我をしたというところだろう。

 命には別条はなさそうとはいえ、一刻も早く怪我を治療した方がいい状態である。


 同時に、この件で母を喪ったらしい、彼の心のケアもしなければならない。



 とはいえ、人間的な視点では、死はいつかは必ず訪れるものである。

 そして、残された人はそれを受け止めて、自分なりに昇華させるしかない。


 しかし、私にはそれを上手く説明できる気がしない。

 というか、無理だ。



「貴方のお母さんの魂は根源に還ったの。天国? 死後の世界みたいなのは存在しないの。そういうのは、貴方たちが貴方たちである間でしか認識できないものだと思うよ。あるいは、貴方たちの想いが創るかもしれないけれど、そこにはお母さんの個別の魂なんて無いの。あるように見えても、きっと別物。それは、貴方にとって都合の良い、若しくは悪い、貴方が創ったお母さんのイメージだと思う。肉体を失った魂や精神が還るのは、混沌の海とでもいうようなところなの。混沌が何かって? 今はそういうのは気にしなくていいの。大人になったら分かるから。とにかく、それは原初であり終焉でもある、いずれはみんなが還るところなの。だから大丈夫」


 これが事実だけれど、それを突きつけても何も解決しない気がする。

 というか、傷心の子供を正論でぶん殴るとか、外道以外の何ものでもない。


 きっと、必要なのはメンタルケアだ。



「別れが悲しいことなのは分かるけれど、そこに還るということは、残された貴方や、新しく生まれてくる人たちが階梯を上げるためには必要なことで、いつか訪れる本当の終焉の先に、希望の種を残せるかという点でも大きな意味があるの。何を言っているのか分からない? 大丈夫。階梯が上がれば分かるようになるから。とにかく、今だけは、悲しいなら精一杯悲しめばいいの。それは、お母さんから貴方への最後の贈り物で、貴方のお母さんへの想いの大きさの証明でもあるのだから。でも、お母さんが生きた証を受け継ぐか無駄にするかは、これからの貴方の頑張り次第なの。だから、精一杯悲しんだ後は、精一杯生きなければ駄目なの。そして、貴方もお母さんのように、次代の人に想いを託して死ぬの」


 これも駄目だ!


 というか、メンタルとかケアって何?

 妹が言うには、私のメンタルはメタル製らしいので、慰め方とかよく分からない。

 どうすればいいの?

 とりあえず、抱きしめておく?



 いや、失敗できない状況で、できもしないことを無理してやろうとしても悲劇が生まれるだけだ。

 チャレンジ精神は大切だけれど、それはTPOをわきまえて発揮しなければならないのだ。



 正攻法でジョージくんの心のケアをするのは、私には難度が高すぎる。


 もちろん、目の前で悲しみで押し潰されそうになっている子供を見捨てるという選択肢も私には無い。

 しかし、私にだって不可能なことは数多く存在する。


 自身のことを全知だとか全能などと簡単に口にするような人は、無知であり無能であることの証明にほかならない。

 本当に全知であり全能であるなら、そんなアピールをする必要が無い。

 そもそも、そんなアピールが必要な状況になるはずがないのだ。


 とにかく、物事をなすのに必要なのは能力ではなく、まずはそれをなすという意志である。


 もちろん、その意志と能力を持ち合わせた人がいれば最高なのだけれど、世界がそう都合の良いものではない以上は、手元にあるもので勝負するしかない。


 つまり、それが邪道で、何の解決にもならないことだと分かっていても、私は私にできることをするだけだ。

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