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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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07 彼女も大変なものを盗んでいきました

 ルイスたちがユノに心を奪われていた頃、魔王城の一角――ユノが発見したデーモンコアが保管されている部屋に、ひとりの侵入者の姿があった。


 侵入者の目的は、そこにあるデーモンコアの奪取である。




 デーモンコア発見の報は、既に多くの人の知るところである。


 しかし、その真偽を知る者は、闘大の関係者と体制派の重鎮など、一部に限られている。

 さらに、魔王城に運び込まれたデーモンコアがそこにあることを知っているのは、その中でも更にごく一部に限られている。



 デーモンコアが保管されていたのは、大魔王ルイスの寝室だった。


 本来であれば、宝物庫などで保管するべきなのだろうが、使い手のいない神器や、悲しみしか生まないドレスと違い、所持しているだけでも様々な恩恵があるそれは、誰が変な気を起こしてもおかしくない物である。


 当然、宝物庫の警備は厳重だが、出入りできる者は意外と多いし、幹部クラスになると強引に突破できなくもない。



 一方で、そこは事情は明かされずとも警備が厳重な所であり、出入りできる者も限られている。

 また、常時ではないが大魔王という最強の番人も存在していて、彼が不在であっても様々な防衛機構が働いている。

 本来であれば、侵入することさえ困難なはずだった。




 しかし、現実として、侵入者は見事に侵入を果たしていて、防衛機構も突破してデーモンコアを手中に収めていた。



「ターゲットを入手したわ。ベッドの下に鍵付きの箱――こんなので隠してるつもりなのかしら。本当に男の考えることって単純よね」


<そこが可愛いところでもあるんじゃない。それに、メイドとかも入ってくるんだから、堂々と目につくところに置いておくわけにもいかないじゃない。むしろ、そんな所に大事な物を隠すはずがないって思うんじゃないかしら>


 その侵入者が、手にしていた通信珠に向かって話しかけると、すぐに若い女性の声で返信があった。



「まあ、確かに。うーん、そう考えると、案外悪い隠し場所でもないのかな? 箱には本人以外には開けられない魔法が掛かってたし、掃除に来たメイドが見つけても、ご主人様の秘密の箱を開けようとは思わないだろうし」


<そうね。というか、貴女のユニークスキルって本当に高性能よね。姿や声だけじゃなくて、魔力のパターンまで本人そっくり――全く同じに化けられるとか>


「んー、スキルとか戦闘能力まではコピーできないから、戦闘じゃ役に立てないし、癖とかで見抜かれることもあるから微妙だと思うけど。それより、貴女の《予知》の方がすごいよ。いつものことながら、ここまで全て《予知》どおりだものね。私がいくら上手く化けても、魔王城の警備の隙を縫ってこんな所にまで侵入とか、どう考えても無理だもの」


 その侵入者の姿は、大魔王ルイス・バアルと寸分違わず、声や魔力の質も全く同じものだった。


 しかし、中の人が言うように、所作や口調まではどうにもならないため、よく知らない相手に化けても、それをよく知る人物には違和感しか与えない。

 特に、ルイスの姿で、若い女性のような口調や仕草をしている姿は、違和感どころの話ではない。

 誰かに見られれば、すぐに兵士や医者を呼ばれるレベルだった。



 当然、中の人も、人の目がある所では本人になりきる努力をしているし、そうでなくても破綻しないラインの見極めが正確で、そのレベルは非常に高い。


 防衛機構のひとつ、番犬ケルベロスのポチが、様子がおかしい主人に困惑しているだけなのがその証明である。




 しかし、それ以上にその欠点を補っているのが、通信珠の向こう側にいる女性の能力だった。


 侵入者は、彼女の能力のおかげで、致命的な状況に陥ることを回避し続けていたのだ。



 なお、それ以上に、ユノのせいで警備体制に乱れが生じていたことによる影響の方が大きいのだが、それは彼女たちのあずかり知らぬことである。




<私の《予知》だって万能じゃないよ。魔力の消費が大きすぎて常用はできないし、『夢』って形でしか発動しないから、見たいものが観れるとは限らないし。だから、今回みたいに都合よく条件が揃ってなかったら役に立たないことも多いのよね。それより、準備は済んでる? 120秒後に部屋を出て、2ブロック先の右側の部屋に入って兵士に化け直して。今回は予知で観れない部分が多いから――。多分、大魔王が絡んでくるせいだと思うんだけど、予知できてる部分だけでもそのとおりに動けば、充分成功するはず。でも、気を引き締めてね>


「了解。ターゲットは手に入れたし、ダミーも置いた。箱の魔力認証のパターンも変えたから、開けるのにかなり梃子摺ると思うよ――っていうか、ダミーって必要? これだってかなり上質な魔石だよ?」


<それは分からないけど、私の能力は全ての可能性を検証できるタイプじゃないから、予知から外れた行動をされると、どうなるかは分からないわよ>


「まあ、それでデーモンコアなんてアーティファクトが手に入るんだし、必要経費って割り切るしかないか。でも、こんな貴重な物を放置も同然の状態で――お偉いさん総出で、発見者の女の子に話聞いてるんだっけ? ひょっとして、現体制の人ってみんな莫迦なの?」


<それも重要なことだとは思うけどね、優先順位がおかしいのは同意。みんながみんな、彼みたいに大局観を持って動ける人ばかりじゃないのよ>


「あの人と比べちゃうのは可哀そうだけど――。でも、あの人も、もうちょっと女心を理解してくれると嬉しいんだけど……」


<理解はしてるけど、そういうのは目的を達成した後でって考えてるんじゃないかしら>


「そうなのかなあ? まあ、これを持って帰ればひとつ――ううん、大きく目標に近づくよね。――これ、本当にやばいよ。封印具越しなのに、とんでもない量の魔力が流れ込んできて頭がおかしくなりそう……! 私たちや体制派のボンクラどもには使いこなせないような大きな力だけど、あの人なら使いこなせるのよね?」


<当然じゃない。それより、そろそろ時間よ。ここから先は、しばらく通信もできなくなるから――大変だと思うけど、貴女なら大丈夫。最後までしっかりね>


 《予知》の効果がどれだけ規格外でも、実行するのが別人である以上、必要になるのは予知した状況を正確に伝えて、後は信じるだけである。

 そういう意味では、多少のアクシデントは自力で修正できる変化スキルを持った少女は、これ以上ないパートナーである。


「予知の女神様のご加護もあるから大丈夫! それじゃ、行くね。――また後で!」


 大魔王の姿をした侵入者が、《予知》能力を持った少女の言葉を信じて部屋から出ると、指示されたとおりに行動して、予知された状況を次々と実現させていく。



 侵入者は、その能力の特性上、こういった任務は初めてではない。



 侵入者は、《予知》能力を持った少女のことを全面的に信頼していた。


 それでも、魔王城という体制派の最重要拠点で、巡回しているはずの警備にも出遭うことなく、それ以前にほとんど他人と遭うことなく城内を闊歩(かっぽ)できていることには驚きを隠せない。



 しかし、それは彼女たちの練度やスキルが優秀だからというだけではない。


 魔王城も、普段であれば、選りすぐりの兵士が隙無く警備や巡回をしていて、維持管理や日常業務を行うメイドなども多く行き来している。

 当然、少しばかり興味を惹くものがあったとしても、職務を放棄してまで誘惑に負けるような者はいない。



 しかし、相手は大魔王ルイスをはじめ、彼らより高位の存在である神や悪魔すら(たぶら)かしてしまうような邪神である。

 そんな存在が、何の前触れも無くふらっと護送されてくるなど、想像できるようなことではない。



 そして、事情を知らなければ当然ではあるが、迂闊(うかつ)にも、彼らを護るための装具バケツを外してしまった。


 それが、能力や耐性などは高いものの、精神的な階梯が低い彼らのギャップに突き刺さって、通常の人間以上によく効いた。


 元より、何かにつけて狂乱する傾向がある悪魔族がこうなるのも無理もない話である。

 そうして、魔王城は機能不全に陥っていた。



 最早、彼らの頭の中はユノのことでいっぱいで、デーモンコアのことなど忘却の彼方にあった。


 そんなことより、「彼女の手料理を食べたい」とか、「彼女とお付き合い――できれば結婚したい」とか、「バブみを感じてオギャりたい」なとといった、欲望を満たすことの方が重要だった。


 そして、ユノに夢中になっていたルイスも、デーモンコアの盗難に気づくどころか、当然のようにその存在すらもすっかり忘れてしまっていた。



 彼らがその事実に気づくのは、取り返しがつかない状況になってからになる。


 しかし、それが多少早くなったところで、デーモンコアの有無では解決できない問題が発生していたのであれば、大勢に影響は無いともいえるかもしれない。

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