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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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06 彼女は大変なものを盗んでいきました

――第三者視点――

 ユノがその魂を見て感じたように、大魔王【ルイス・バアル】は転生者である。



 ルイスは、ユノとは違う異世界日本で生まれ、そして死んだ。

 本来なら根源へと還るその魂は、主神たちの作った人類救済装置に惹かれてこの世界にやってきて、元の自我を保ったまま新たな生を得た。




 転生とは、主神たちが設計した仕様のものではない。

 彼らの目的が、「生者の救済」だったのだから当然ではある。


 しかし、不幸な死を迎えてしまった者が、新たな人生でやり直すこともある種の救済だと考えた彼らは、この現象を認識した後も、「これはこれでありだな」と受け入れた。




 自然界では、肉体を失った魂が、死の瞬間の強い想いや外部からの干渉など、何らかの要因によって根源へ還れないことがまれにある。

 さらに、根源の――ひいては個の階梯を上げるというプロセスをも飛ばして、再び生を得るという現象もごくまれにある。



 そうして得た生は、前世の記憶や能力を引き継いでいることがあった。


 スタート時点でのそのアドバンテージはかなり大きなものだが、その大半は、新たな生を受けた際に改めて結ばれた根源との繋がりを通じて、時間と共に初期化されてしまう。

 そのため、物心がつく頃には影響が無くなっていることが多い。



 しかし、更にごくまれに、前世以前での記憶や能力を保持したまま成長し続ける、若しくは何らかの切っ掛けで覚醒するケースも存在する。


 これが世間一般でいう転生であり、人間などの高度に知性などが発達した種にのみ発生する現象である。



 そうした転生者は、前世の知識や能力に、今世での能力を上積みできるため、歴史に名を遺すような傑物になることも多い。



 ただし、彼らが前世以前の記憶や能力を保持し続けられているのは、根源からの干渉を拒否し続けているからともいえる。

 それは裏を返すと、技術革新やアップデートを拒んでいる、旧式のハードウェアやソフトウェアのようなものである。


 つまり、彼らには正常なプロセスを経ている者たちより成長限界が低くなるとか、思いもよらぬ脆弱性を抱えていることがあるといったデメリットも存在している。


 もっとも、一度の転生で、デメリットがメリットを上回ることはほとんどいないが。



 しかし、魔法による転生を繰り返しても、よほど人類全体の成長が滞りでもしない限り、個人の努力でそれを上回ることなどできるはずもなく、いずれは取り残されてしまう。


 過去には転生を繰り返した者もいたが、晩節を汚せど大成した者はいないという事実がそれを裏付けている。




 この自然現象と、主神たちの作った人類救済装置の合わせ技で起きるのが、異世界への転生である。


 原理は主神たちにも分かっていない。


 そもそも、観測して初めて存在が確定する世界の全てを認識するのは、彼らより遥かに高い階梯にあるユノでも難しい――本人曰く「面倒くさい」ことであり、狙って作れるような仕様ではない。



 人類救済装置は、種子の力を得ただけの、元は人間である主神たちが、彼らの世界の人類の絶滅を避けようと異世界を創り、そこへ生き残った人類の移住を計画したものだ。


 もっとも、通常の人間より遥かに高い処理能力を得た彼らでも、手動で個別に救済すべき人を選別・救出するのは不可能である。

 であれば、自動化しようと考えるのは、現代以降の人間なら当然だろう。



 しかし、「本来は万能の力であるはずが、想像力が及んでいない部分については適当なものになる」という種子の特性――種子なりの合理性で、出来上がったものは「何か思っていたのと違う」ことが多い。



 種子を利用しての世界の改竄や創造は、詳細に指定されていない部分については、「最も達成が容易な手段」か、「複雑な条件を満たせる柔軟さ」で解決する傾向にある。


 例えるなら、「人類が争わない世界」や「差別の無い世界」などと願うと、種子は「人類の根絶」を実行する可能性がある。

 また、ゴブリンなどの生物を創造した際に、「種としては最弱だが、繁殖力が強く、世界全域に出没する」といった矛盾を抱えた問題を、単為生殖や自然発生で解決したりもする。


 万事がそんな感じなので、深く考えずにやると、取り返しのつかない状況になることもある。

 ある意味、彼らにとっては「バグ」のようなものなのである。



 彼らにとっては「もしも」となる、異なる歴史を歩んだ地球の存在もそのひとつである。


 僅かなズレ程度では、世界の修復能力によってひとつに収束してしまうが、明確な差異が発生すると、新たな可能性世界として確立する。


 そして、種子はその可能性世界の人類も救済対象だと捉え、彼らの想定外の救済を開始した。


 当然、彼らの人間的な価値感では、「自分たちの世界の人類ではないから」と、救済対象から除外することもできない。


 そうして、救済対象が増えたことで、世界の整備や増産に追われて更なる種子の力を求め、種子の能力が向上するたびにその数を増やしていく可能性世界と救済対象に頭を悩ませることになる。



 そこにきての本物ユノの世界創造は、彼らにとっての救済となった。

 もっとも、無限にある問題に対して、無限のリソースで対応するような力技で、大筋の構造は変わっていないのだが、有限の彼らが対応するよりは遥かに効率的で、構造に関しても、彼らの意を汲んでくれたとも受け取れる。




 さて、この原理によって、基幹世界、若しくは可能性世界から異世界へと転生した者は、この世界の根源と、その魂が本来属していた根源との差異により上手くアップデートができない。

 その結果、通常の転生とは異なる処理が行われる。


 まず、同一根源における転生と違うのは、属する根源が違うために、能力の大半が継承されないことだ。

 つまり、肉体的には一般的な異世界人として生まれる。


 しかし、人類救済システムの仕様によって、そこに大きな力や特殊能力を付与される。

 結果的に、一般的な異世界人や通常の転生者とは一線を画す存在となる。




 前世では、正義のヒーローに憧れて警察官にまでなったルイスだが、いい歳をして理想と現実のギャップに苦悩し、挙句の果てに不幸な事故で若くして命を落とし、この世界へと転生した。


 しかも、何の因果か、そこは力こそ正義な魔界である。

 さらに、嫌がらせのように、その中でもトップエリートである、当代大魔王の嫡子(ちゃくし)として新たな生を受けていた。



 本来、大魔王の座は世襲制ではなく、実力で勝ち取るものである。

 過去に大魔王を輩出した血筋はいくつもあり、バルバトスやアスモデウスもそのひとつである。

 また、中央の影響力が弱い辺境では、勝手に名乗っている者も存在していたりもする。



 とはいえ、環境が成長に及ぼす影響は大きい。

 そして、ルイスのユニークスキル《正義執行》が、魔界において極めて強力なスキルであったため、ほぼエスカレーター式に、若くして大魔王の座に就いた。



 ルイスのユニークスキルの原形となっているのは、前世の彼が幼い頃に憧れた、悪の組織と戦う変身ヒーローの姿である。


 前世では、成長に伴い卒業したそれを、彼は異世界に転生して身につけていた。


 魔界ではメジャーな魔装スキルのユニークにも見えるために心の平穏を保てているが、幼い頃の彼は、このスキルに大いに苦悩、悶絶していた。



 さておき、《正義執行》には副次効果があり、正義を執行する対象のカルマ値に応じて、様々な追加効果が発生する。

 そのため、総じてカルマ値が高い傾向にある魔界では、彼の有利は不動のものであった。


 彼自身、意見の食い違う相手を、力でねじ伏せて従わせる能力の何が正義なのかと思うところはあったものの、意見を擦り合わせるにもまず力で勝たなければいけない魔界では、これに頼らざるを得なかった。



 なお、地力に勝るはずのルイスがアルフォンスに後れを取った、最大の原因は「油断」である。

 それがなければ、いくらアルフォンスが神剣を持っていたとしても、使わせる前に決着をつけることもできただろう。


 それでも、アルフォンスのカルマ値の低さからすると、《正義執行》は大して役に立たないため、思わぬ苦戦を強いられた可能性もあるが。



 自業自得な面もあるとはいえ、酷い目に遭わされたルイスではあるが、アルフォンスに対する悪感情は無い――といえば嘘になるが、それ以上に、和解してじっくりと話してみたいという想いが強かった。



 なぜなら、ルイスはかなり魔界の流儀に染まっていたとはいえ、根底には異世界日本人としての性質がしっかりと残っていたのだ。

 そして、魔界での最大の不満点である食生活について、広い知識を持っていそうなアルフォンスに救いの手を求めたかった。



 それは、異世界日本において、警察官――正義のヒーローになるための努力しかしてこなかった彼には知識も経験も無いことであり、力があるからといって解決できるものではなかった。


 組織作りという点についても同様だが、そちらは元が無秩序なこともあって、概念から教育する必要があった。

 また、手段や順序などが間違っていたとしても、それを指摘できる者もいないし、すぐに効果を実感できるようなものでもない。


 ゆえに、ルイスの主観に頼って試行錯誤するしかなかった。



 当然、ルイスは料理についても試行錯誤している。


 その結果、彼には料理に関するセンスが皆無だったことが判明しただけだった。

 しかも、それについては、魔界の一般常識でも指摘できるレベルのことだった。


 なお、その魔界での調理技法は、焼く、煮る、生食、吸い取るくらいしか普及していない。



 そもそも、どんなに高度な技術を用いても、素材が虫や山賊ではそれを活かすことはできない。

 それに、下拵えなどに時間をかけていては、他者に奪われる可能性もあるのだ。


 食事はサッと作ってサッと頂く。

 むしろ、生でも全然構わないのが魔界の流儀なのだ。



「酒をかけて燃やすなど正気ですか!?」


「出汁? コンブ? ニボシ? それらは一体――海にあるものですか? して、魔界のどこに海が? 血の海ならそこらにありますが?」


(いぶ)す? そのための木材はどこに? 木材は高級品ですが? 木材を育てる余裕があるなら、食材を育てるべきでしょう?」


 などと、うろ覚えの知識で料理人に指示を出してみても、正気を疑われて厨房から追い出されるのがいつものパターンであった。



 そもそも、他者の体液を食事とするような種族も多くいる魔界では、血抜きすら行われないことも珍しくない。


 そんな環境では、料理の発展を期待することはできなかった。




 そんなところに現れたのがユノである。


 アルフォンスとの邂逅(かいこう)以降、「アルフォンス(の知識)が欲しい」と、同性愛者かのように想い続けていた彼の許に舞い降りた天使である。



 アルフォンスの、「ゴブリンは野菜!」という説に衝撃を受け、ゴブリン食に対する罪悪感や忌避感が薄れた時以上の感動。

 確かに水と肥料を与えておけば勝手に成長、繁殖するゴブリンは、その色合いもあって野菜といえなくもない。


 ただし、味の方は、異世界日本での食事を知る彼には臭みとえぐみの塊である。

 血抜きをすれば若干マシになるのだが、前述のとおり、体液を食事とする種族も多い魔界では、それは上流階級のみに許された贅沢である。


 無論、大魔王であれば許されて当然のことではあるが、多少マシになるだけで、不味い物は不味いまま。

 手間がかかる分だけ、腹が立つレベルである。


 それ以上の改善をしようにも、ルイスにはそんな知識は無い。




 そこへ、夢にまで見たウシとブタの競演である。


 一応、魔界にもウシやブタは存在しているし、魔王城周辺でも多少養殖されているが、それはミノタウロスやオークといった魔物である。

 日本で食されているそれらに比べると、某カップ麺に入っている謎肉以下――比べるのも烏滸(おこ)がましい代物である。


 筋張っていて固い。

 臭みも強い。


 やはり血抜きをすれば若干マシになるかもしれないが、したとしても、日本でのウシやブタと比較できるかといえば否である。


 ルイスは、日本の農業・漁業・畜産業・流通業・飲食業関係者などなどに、今更ながらに敬意を抱いていた。



 それが、もう二度と口にすることなどないと思っていた物が、そこにあった。

 前世での記憶を思い出し、思わず涙が出そうになった。


 自制などできなかった。


 動揺を隠したつもりで、口ではいろいろと言っていたようだが、頭と心と体はそれに釘づけだった。


 欲望のままに口にした瞬間、味蕾を、脳を、魂を串刺しにする天上の味覚に、彼の脳裏には、忘れかけていた過去の記憶が走馬灯のように流れた。



 幸せだった前世の記憶――それは彼にとって、至福という名の毒であった。



 ヒーローになる。


 前世の彼は、それだけを目指していた。

 今思えば、ちょっと頭のおかしな子であった。



 そんな彼の身の回りのことを、文句も言わずに全て引き受けてくれていた母のこと――強くなって、守りたいと思っていたその人にずっと守られていたことに、今更ながらに気がついたのだ。


 いつでも、どこでも母の愛に包まれていたのだ。



 そんな母に、親孝行らしいことをひとつもできないままに死んでしまった前世の自分。

 そんなことに、今更ながらに気づく今の自分が情けなかった。



 そして、強く想った。

 この娘をお嫁さんにしたいと。


 しかし、ルイスは既に妻帯者であり、大きくなった息子もいた。

 善良すぎる日本人的気質もあって、側室を拒み続けていた彼の心は、良心や矜持(きょうじ)と愛と性欲の間で揺れ動く――こともなく、割とあっさりと欲望の方に振り切った。



 しかし、振られるようなことがあれば、間違いなく再起不能になる。

 力尽くで――というのもひとつの手だが、アルフォンスに対して「お前が欲しい」と迫った結果、神剣で斬られた上に逃げられたという前例もある。


 それに、根が善良な彼は、凌辱ものより純愛もの――特に甘々ラブラブなものが好みである。



 しかし、前世では立派なヒーローになるための、今世では立派な魔王になるための勉強や訓練しかしてこなかった彼には、女性を口説くテクニックなどなかった。


 そもそも、口が達者で、それだけで問題を解決できるような者は、彼の目指したヒーロー像ではないし、女性に(うつつ)を抜かすような者も違う。



 それでも、今回に限ってはそんなことは言っていられない。


 しかし、現在の王妃とも、魔王としての能力の高さとは裏腹に、一向に女っ気の出る様子がない息子を心配した彼の両親が、王妃に相応しい女性を選出、調教して、苦労に苦労を重ねてセッティングした上、上げ膳据え膳の見合いの末に結ばれたものである。


 彼にとって、自力で女性を口説き落とすことは、失敗しても誰も傷付かない料理や、政治に疎い彼以上に政治を知らない悪魔族の統治以上の難題だった。



 そして、彼にコミュニケーション能力が足りない――マイナス補正があることは、ステータスという形で彼自身も認識している。

 しかも、それは彼のユニークスキルである《正義執行》に付随したものであり、克服することは不可能なものだった。

 結局、彼にはヒーローのまね事しかできないのだ。




 そんな彼が採った手段は、やはり悪を倒すヒーローになることだった。


 彼女を監禁していたというルシオ・バルバトスを呼びつけ、これでもかと糾弾(きゅうだん)した。

 大義名分がなければ、権力や暴力を背景にしたハラスメントであるが、極めて有能で美しい女性を監禁し、あまつさえ現体制に対する叛意(はんい)を抱いていたおそれがあるとなると、大義名分としては充分である。



 しかし、そんなルシオを擁護する者がいるとは思ってもいなかった。

 それも、他ならぬユノ自身によってである。


 器量は最高、料理も最高、性格も最高。

 立場をわきまえてはいるようだが、物怖じもせず、頭の方も悪くはない。

 そして、所作のひとつひとつが恐ろしく洗練されている。



 ルイスは、そんな完璧な少女を監禁するなどして酷い目に遭わせたくせに擁護されているルシオに、激しい怒りと妬みを覚えた。


 それは、彼が既に大魔王でなければ魔王に堕ちていたかもしれないほど激しいものだった。

 もしも、ルシオがユノを手籠めにしていたなどという事実でも出てくるようであれば、間違いなく大魔王を超えた何かに堕ちていただろう。



 一方で、そんなルイスの激しい感情を治めたのもまたユノだった。


 彼女からの、全てを包み込み、全てを許すと言わんばかりの、少し困ったような――在りし日の母のような微笑みは、確かにルイスに向けられたもの。


 それに気づいた瞬間、許されるのはルシオだけではなく、ルイスもまた同様なのだと理解した。


 正義という大義名分を掲げて私怨を晴らすような卑怯者になってはいけないと婉曲(えんきょく)に伝えていて、ルイスがそれに気づいて修正できると信じて見守っている――それは確かに我が子に向ける母の愛だった。



(分かったよ、ママ!)


 前世での後悔や、魂の奥底にある何かを強く揺さぶられたルイスの正気度は、ついに彼自身も気づかないままマイナスに突入していた。


 本来なら自我を失って狂乱状態になってもおかしくないところだが、母の愛に包まれていると錯覚しているルイスは、煩悩塗れでありながらも解脱に近い状態にあった。


 そして、自我を残したまま、言葉では表現できない多幸感に包まれていた。



 この時のルイスの状態や言動は、彼を良く知る者たちからすれば、違和感を覚えるはずのものだった。


 しかし、それを認識できた者はいなかった。


 彼らもまた、程度や感情の差はあれ、ユノという認識しきれない存在に心を奪われていたのだ。


 その場にいた誰もがそんな些細なことを気に留める余裕など無く、叱責されているルシオですら、言葉を理解できる最低限の理性しか残していなかった。



 また、ユノの魅力に囚われない唯一の存在である彼女自身も、普段の彼らのことなど知らないため、違和感を抱きようがない。


 そもそも、人間が彼女の前で正気を失うのは、まだ彼女が人間に近かった頃からのことであるため、彼女は人間がそういうものだと認識している節がある。



 ただ、彼女の魅力に正気を削られても、本来の人間性を失わないことだけは救いである。


 欲望に忠実になったり、特殊な嗜好が開花したりもするが、彼女自身に手を出そうとしない限りは無害である。




「ママ――まあ、被害者本人がこう言ってるから、今回だけは大目に見るが、次はないぞ。ママ――ユノに感謝するんだな。それと、彼女は今後しばらく俺の預かりとする。異論は認めん」


 何かに覚醒したルイスは、一方的に沙汰を下した。


「陛下!? それは横暴では!」


「彼女を独占するおつもりですか!?」


「待てよ親父!? はっ――もしかして、俺のお嫁さんになるように説得してくれる――」

「それはない。お前には彼女は相応しくない」


「何でだよ!? 俺は家柄とか身分とか気にしないぞ!?」


「分不相応なのはお前の方な。俺の子ってことしかないお前が、マ――彼女と釣り合うと思ってんのか?」


「ひ、酷え! いくら親父でも、言っていいことと悪いことがあるんだぞ!」


「殿下、残念ですが陛下の仰るとおりです。殿下のような無知蒙昧無職童貞の貧弱コミュ障ボーイでは、彼女のようなレディの横に立つことはできません」


「精々が足蹴にされる情けないブタ――いや、それすらも分不相応でしょうな」


「お、お前ら……! 俺のことをそんなふうに思っていたのか!」



 ルイスがルシオに下した沙汰はさておき、一方的なユノの処遇を巡って、聴聞会は乱闘にまで発展した。


 しかし、ユノが怪我人に応急手当や介抱を始めたことで、状況はいかに上手く怪我をするかに移行して、収拾がつかないレベルで荒れた。



 なお、この乱闘の末、参加していた者たちの間には奇妙な連帯感が生まれていたが、それがユノを大層困惑させていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >この世界の根源と、その魂が本来属していた根源との差異により上手くアップデートができない。 >人類救済システムの仕様によって、そこに大きな力や特殊能力を付与される。 >結果的に、一般的な異世…
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