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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十一章 邪神さん、魔界でも大躍進
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02 休暇中ですがお勤め中です

――ユノ視点――

 懲罰という名の別荘生活は、とても退屈で、とても面倒で、ただひとつのことを除いてとても平和だった。



 懲罰房は、三帖くらいの広さの窓もない石室で、石造りのベッドとトイレだけが備えつけてある。

 唯一の出入口となる、分厚い石造りの扉には、内部の様子を確認するための小窓と、食事を差し入れるためのスリットがついている。

 鍵は外側に(かんぬき)がかけられているだけの簡単な造りではあるものの、懲罰房内部は魔法などが使えない領域に設定されているため、脱走は不可能ということになっているらしい。

 私には全く関係無いけれど。



 そんな構造であるため、扉と小窓を閉めれば室内は真っ暗である。

 もっとも、これもバケツを被っていることが多い私には、さほどの意味は無い。


 むしろ、真っ暗な状況は、誰にも監視されていないということでもある。

 魔法無効化空間内なので、魔法による監視もできないのだ。


 なので、その面では楽だった。



 なお、トイレの下には、当然のようにゴブリンが飼育されていた。

 おかげで――というのも変な話だけれど、孤独感のようなものは覚えようがない。

 悪臭が酷かったけれど、呼吸を卒業しているおかげで、嗅覚情報を遮断しておけば問題無い。


 そこまでしなくても、私は排泄をする必要が無いので、トイレの蓋を閉めっ放しにしていれば、悪臭はもう少しマシだったかもしれない。

 しかし、食事と称して差し入れられる昆虫や何かの幼虫は、そこに投棄するしかなかった。


 そうすると、ゴブリンは大喜び。

 それが何度か続くと、ゴブリンが「もっともっと」と催促してくるようになった。


 ゴブリンを喜ばせるつもりはないけれど、だからといって、虫を放置するわけにもいかない。

 そして、ゴブリンが図に乗る。


 その悪循環。


 それだけが苦痛だった。




 そして、1日に1回、二時間くらいの事情聴取タイムがある。

 この時間だけは懲罰房から出て、尋問用の小部屋に移される。



 事情聴取といっても、いまだに名前も知らない四天王の殺害については、簡単に状況を訊かれただけで、特にお咎めはなし。


 遺族の人たちは不満らしいけれど、純粋な被害者といえるのは、やはり名前を知らない紅一点の人だけ。

 それも、リディアさんのコバンザメだった――実力不足の人が無理をした結果となると、強くは出られないようだ。


 そもそも、遺族が不満を言う窓口が学園になるため、「法の下の平等」などという概念の無い魔界では、上位者にはあまり強いことは言えないようだ。


 なので、それはさらっと流された。




 事情聴取の本題は、デーモンコアを手に入れた時の状況、セーレさんと遭遇した時の状況、私の素顔のことや料理魔法のことなど、どれも答えようのないものばかりだった。



 なお、デーモンコアは、大空洞最深部を歩いていたら落ちていたのを拾ったことにした。


 もちろん、「話が適当すぎる」と怒られた。


 しかし、「悪魔の警備主任さんに、管理人さんの所まで案内してもらって、そこでいかがわしいグッズと一緒にクローゼットに押し込まれていた物を、世界樹と引き換えに貰った」と、こんな話の方が信じられないだろう。



 セーレさんの件だってそうだ。


 コレットと別れた後、偶然出遭って、礼儀正しく接していたら意気投合したことにした。


 それを、「そんな莫迦な話があるか!」と言われても、彼が実は大手通販会社のお偉いさんで、私のグッズを取り扱うために向こうから接触してきたとか、そっちの方が何を言っているのか分からないだろう。

 これが、「事実は小説よりも奇なり」ということだろうか。



 素顔や料理の話はそれ以前のもので、顔は生まれついてのものだし、料理は愛情と答えるくらいしかできない。

 最早、会話が成立しないレベルである。


 いっそのこと、その目で見て舌で味わえばいいのだけれど、一夜にして狂信者と化した集団を見て恐怖を覚えている人たちには、なかなか覚悟が決まらないらしい。



 なお、親衛隊の人たちが狂信者に変わったのは、私のせいではない。


 私への懲罰を弾圧だと受け取った一部の人が、私を神格化してしまった。

 そして、その人たちが他の人たちを扇動したのだ。


 幸い、アイリスが上手く手綱を引いたおかげで暴徒化するようなことはなかったものの、学園側との確執が生まれてしまった。



 そんな感じで、いくら訊かれたところで彼らの納得する答えを返すことはできないため、誰も得をする人がいない不毛な時間を繰り返すはめになってしまった。




 それ以外のことについては極めて平穏だった。


 そもそも、私は何かの罪を犯したわけではない――いや、大空洞崩落の原因の一端は私にあるかもしれないけれど、少なくとも表沙汰にはならないものだ。


 そして、私にはデーモンコアの発見と回収という功績があるためか、懲罰房に入れられてはいるものの、暴力などは受けていない。


 好みの異性のタイプとか、スリーサイズを聞かれたりとか、セクハラは多少あったけれど。



 というか、懲罰房に入れられた理由も、「学園側との約束を破った」と身に覚えのないこと。


 私はともかく、朔にも覚えがないそうなので、恐らくは学園側の事情である。

 なので、あちらも無理を通したという負い目があるのだろう。


 それは、食事――魔界では高級品である昆虫や幼虫が山盛りで差し入れられることからも、複雑な事情が垣間見えるような気がする。

 私にとっては迷惑でしかないのだけれど。




 私以外のところでも、デーモンコアの発見によって、過激派の中でのルナさんの優先順位が下がったらしい。


 時折きていた嫌がらせもピタリと止んで、私とアイリス以外にも友人と呼べるような存在ができ始めていたりと、彼女たちを取り巻く環境は徐々に良くなっているように思う。


 もっとも、ルナさん自身はそういった環境に慣れていないのか、戸惑っているというか悩んでいるというか、尻込みしてしまっているようにも見える。

 もちろん、それとどう向き合うかはは本人次第なので、私が口や手を出すようなことではない。



 また、最近は知らないおじさんから魔法を使う訓練を受けているようで、アイリスの所やハンター協会に顔を出す機会も少なくなった。

 もちろん、それも彼女が決めることなので、私がとやかく言う必要も無い。



 というか、私ではシステム由来の魔法を教えることが不可能だったので、誰にでも習得できる体術を教えていただけのこと。


 一応、心・技・体をバランスよく鍛え上げて、最終的には魂・精神・肉体を合一することができれば魔素を使うとか、魔法の本質を理解できるかと思っていたところはあるけれど。


 もちろん、何の保証もないので、彼の訓練で魔法が使えるようになるのであれば、それはそれでいいと思う。


 少なくとも前者よりは難度は低いし、彼女の目的のためにはすぐにでも力が必要なのだし。



 ただ、残念なことに、外界へ出るための結界の綻びが、私の創った世界樹のせいでほぼ完全に塞がれてしまったため、世界を改竄する能力でもなければ出入りはできなくなっている。


 例外としては、アクマゾンのセーレさんとか、特殊な転移系能力を持っている人たちくらい。

 当該地域を管轄する調和を司る神々にも支障が出ているらしい。


 現在、この件については、関係各所の意見を聞きつつ主神たちと協議する予定である。



 辺境での活動は、膿を出しつつ種を絶やさない方向で――ということになりそうなので、保護している子供たちは、現地で生活できる基盤を確立させることを最優先に、無理そうなら湯の川にお持ち帰りしようかと思う。

 それに当たって必要なものなどは、最近湯の川に居着いた、選抜通過組の悪魔族の三人に訊けばいいだろう。




 アイリスについては平穏そのものだ。


 ルナさんたちとの訓練の時間もほぼなくなり、エカテリーナさんもひとりで野山を駆け回っている。

 そうすると、寮に帰るしかないのだけれど、そこには私が待っているので、ふたりきりでいる時間が伸びている。


 受講中が寂しいとか、狂信者たちのコントロールが面倒だとか、セクハラを受けるのが困ると不満を言いつつも、私に甘えたりセクハラしながらご機嫌な様子である。



 ただ、大空洞から帰ってからのアイリスには、ひとつの奇行が見られるようになった。



 アイリスは最近になって、アクマゾンでコードレスのマッサージ機を購入したようだ。

 確認したわけではないけれど、そこ以外で買えるような物でもないわけだし、まず間違いない。



 胸の大きい人は肩が凝りやすいと妹から聞いたことがあるので、アイリスがそれを買うことは不思議ではない。


 なお、どちらかといえば私の胸も大きい方だと思うのだけれど、私の胸や肩は重力ごときには負けないので、肩凝りの経験は無い。



 さておき、私よりもひと回り胸の大きいアイリスが肩凝りに悩まされていたとしても、別段おかしな話ではない。


 しかし、そのマッサージ機を使うならともかく、それに祈りを捧げているとか、素振りをしているとかは、私の理解の範疇(はんちゅう)を超えてくる。


 もしかすると、祈りが動力源になっている「聖なるマッサージ機」とか、いわく付きの物なのかもしれないけれど、それを手にしている時のアイリスの目が獲物を狙う獣のようになっているので、とても声をかけづらい。


 一体、彼女に何があったというのか……。




 エカテリーナさんも、私がいないからか、訓練にも部屋にも顔を出さなくなった。


 学園も夏季休暇に入っているし、本来であれば保護者代わりというか監督役であるはずの学長先生も、報告や後始末に忙しいのか、最早彼女を止める人は誰もいない状態である。


 そして、何が彼女を駆り立てているのか、連日野山を駆け回っている。


 何がしたいのか分からないけれど、他人様に迷惑を掛けていないことだけは評価しよう。

 というか、彼女に関してはそれだけで充分だ。




 心残りというか後悔というか、心に引っかかっているのが、コレットとの約束を果たせていないことだ。


 とはいえ、「魔界村に帰ったらご飯を食べにおいで」という約束だったはずで、それが「いつ」なのかまでは指定していないので、破ったわけではない。

 しかし、せっかく打ち解けてきた彼女にそんな屁理屈を言えば、また嫌われてしまうかもしれない。


 状況が状況だけに仕方がない面もあるし、頭の良いコレットには、そのあたりは充分に理解できていると思うけれど、それと感情はまた別なのだ。




 今更だけれど、今回は分体では解決できない問題も多いことを思い知らされた。


 重要なのは、そもそもこんな事態に陥らないように立ち回ること――そのための応用力を身につけることなのだろう。


 もちろん、それは一朝一夕で身につくものではない。



 しかし、肉体的にはともかく、精神的には24――今年の4月1日で25歳になるのだと、つい最近まで思っていたのだけれど、まさかの16年しか生きていないという事実が発覚してしまった。

 しかも、誕生日まで違っていたとか――まあ、それは今更どうしようもないといころもあるし、お姉ちゃんであるためにも、そのままにしておこうと思う。


 それよりも、義務教育すらも飛ばし飛ばしでしか受けていないとなると、これはもう大きすぎるハンデを負っているといっても過言ではない。


 さらに、「君がレベルアップや成長をしないのは、恐らく、君自身の存在が大きすぎるとか階梯が高すぎるから、魔物を斃したり、ちょっとした学習程度では、その本質を変えるに至らないのではないか」と主神に推測されている。


 それが事実だとすれば、私は物覚えが極端に悪いということになる――いや、きっとレベルアップ的な意味だろう。

 そうであってほしい。


 というか、義務教育すっ飛ばしに気づかない私は、うっかりとか物覚えが悪いとかいうレベルではないのかもしれない。



 もちろん、私だって体術を覚えたり、魔法を覚えたりと、成長はしているつもりだ。


「それは、ノクティスが君に施した封印のおかげ――君が不完全だったからではないかと思う。そのあたりが君の特異性に関係しているのではないかと思うんだけど、そもそも、なぜ種子が肉体と意志を持ったのかの時点から解明できていないので、証明のしようもないわけだ。その上、不完全な状態であるにもかかわらず、魂と精神と肉体の融合? 私たちには理解が及ばない境地に達して、封印が解けて元に戻った君は、世界を創れるような階梯になった。逆説的に、そんな存在に、今更レベルアップが必要なのか、学習する必要があるのか、ということなのかもしれない」


 などと、よく分からないことを言われてしまった。


 朔には、『ガン〇ムが空を飛ぶのは進歩とは言わない。最初からできるように設計されてることだから』とも。


 つまり、彼らの説では、私が魔法やスキルを覚えたりするのは、人間が手足を動かし方を覚えるようなことで、その程度のことをわざわざ「成長」とはいわないということらしい。


 そして、私が苦手としていることを克服するためには、人間と同じ感覚では考えてはいけないらしく、何千年か何万年か、気長に取り組まなくてはならないそうだ。


 それは飽きっぽい私にはかなり難しい。



 とはいえ、諦めてしまっては、そこで可能性はゼロになる。

 とりあえず、釈放された後は、もう少し慎重に立ち回るようにしよう。




 そうして、待ちに待った15日目の朝。

 これでこの穏やかな生活からも解放される。


 そう思っていた私に待っていたのは、釈放ではなく、魔王城への移送だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そう、KENZENなマッサージ機だから...やましくないから...
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