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46 世界創造

 やる気になった私に、彼らが最初に依頼してきたのは、世界の創造だった。


 いきなりスケールの大きいところを持ってきたな。



 とはいえ、彼らのいた元の世界は、人口が十数年ほどの間に十分の一以下にまで減少していて、大掛かりな戦争をする体力どころか、文明の維持や文化の継承すら困難な状況らしい。

 そして、先人の遺産を食い潰した後は滅びるだけ――というような末期状態らしい。

 なので、そういった人たちの受け皿が一刻も早く必要なのだとか。


 しかし、狭い範囲に一定以上の人を転移させて集めてしまうと、結託されて、失われた技術を魔法で代用されて、アザゼルさんのようなイレギュラーが生まれる可能性もある。


 そこで、物理的に接触が不可能な世界がいくつか欲しいのだそうだ。


 なお、現在ある世界は三つ。

 日本人のような、神がいっぱいいても受け入れられる世界と、一神教の人たちを受け入れる世界と、予備及び実験場となる世界。

 ただし、実験場については手が足りなくて機能していないそうだ。



「人類の救済に当たって、神は7日で世界を創ったというあれに私も倣ったわけなんだけど、世界を創る際に、いくつか問題というか制限があってね」


 そこで始まったのは、世界創造についての注意事項説明――と、注文だろうか。

 大盛りとか、ツユだくマシマシ的な。



「まず、世界五分前仮説というものを知っているかな?」


「何それ?」


 五分前の世界?

 何のことだろうか?


 特に罪に問われるようなことはしていないと思うのだけれど。



「簡単に言うと、『実は世界は五分前に始まったのかもしれない』ことを証明不可能だという仮説なんだけど――。世界の歴史や人の記憶も含めて、それまでの全ての事柄を、全ての人が覚えていた世界が丸ごと五分前に出現していたとして、それが五分前にできた世界ではないと、誰にも証明できない――という話があるんだけど」


 説明なのにややこしい……。

 要は、五分前以前の世界が実在したものなのか、記憶の中だけの存在なのかという話だろうか。



「そんなの、根源とやらを見れば分かるでしょうに」


 創られたものと、積み重ねたものくらいは分かるよ?

 いや、ひとりひとり、ひとつひとつ丁寧に創りあげれば判別は難しくなるけれど、そもそも、世界を創る手段としておかしいし。


「えっ?」


「えっ?」


 何その反応?



「分かるのかい? というか、根源って何だい?」


「分からないの? 分からないのに世界を創ったの?」


『ええと、ボクにもよく理解できていないんだけど、基本的に、根源とか種子ってどこにでもあるもので、人間や動物なんかの存在は、その末端みたいなものなんだ。それで、生物は、肉体って器がなくなると、精神や魂はその世界にある根源に還る――根源の階梯を上げるために還元されるというべきなのかな。だから、世界を創っただけでは根源の差で見分けがつく。根源も同じように創ったとしても、それを認識できる存在からすれば、判別がつくんだと思う』


「創ったものと積み重ねたものの違いは見れば分かるけれど、分かったからといって何も変わらないと思う。そもそも、そこに生きている人たちに、世界がいつ始まったかなんて大して意味が無いし。精一杯生きて、死んで、そうやって根源に積み重ねていくの」


 難しい話は止めよう?

 せっかくのやる気が殺がれる。



「そ、そうだ。確かにそのとおり――で、世界を創るのは問題無いんだよね?」


「大丈夫」


「で、では話を続けよう。――さっきも話したように、創造系の能力は、想像力の及んでいないところの完成度がかなり雑になる。それでも、転生やら転移してきた人に、複製世界だってバレるのは問題だろう? だから、明らかに異世界だと認識してもらうためにファンタジー設定にしてるんだ。簡単なところでは、一年の周期を変えたりとかね。そもそも、私たちは専門家ではないから、高度な科学文明の発達した世界なんて創っても管理できないしね。私はただのエンジニアだったし、他のみんなも人格優先で、能力は一線級の人には及ばない。生き残ってる人の中には、私たち以上の頭脳を持った人が残っててもおかしくないから、矛盾があっても『ファンタジーだから』で流せるってのは大きいんだよ」


 なるほど、確かにそうかも。

 というか、私には高度な科学文明どころか、ちょっとした機械すらも創れないと思うけれど。


 まあ、システム絡みでなければ朔が創れるか。


 なお、システムの仕様で判明している部分については、分厚い冊子にまとめられたものを朔が受け取っている。

 これを参考に創れということだろう。


 それとは別に、この資料があれば、いずれはシステム絡みのものも再現できるようになるかもしれない。

 朔の働きに期待だ。



 さておき、言われてみれば、ファンタジー設定は便利かもしれない。


 私自身、何度も理不尽に感じたけれど、ファンタジー世界なら仕方がないのかと流していたことは多い。

 それに、バケツがファッションとして受け入れられているのも、ファンタジー世界だからなのかもしれない。



「後はゲームを作るような感覚でね、世界を創って、舞台を整えて、人や魔物なんかを配置する――生命を創るのにも、深く考えないでも済むっていうのは本当にすごいね。まあ、後でしっかり調整しなかったことを後悔することになったけどね」


 ゲームを作る感覚が分からないのでコメントのしようがない。

 だからといって説明を受けても分からないと思うので、そういったものは全てスルーしよう。



「とにかく、そうやって連綿と続いてきた設定の世界を創って、そこに私たちの世界で死を待つばかりの人たちを転移させたんだよ。結果は、まあ、大半はすぐに死んでしまったんだけど――。よく考えれば、何の訓練も受けていない現代人が、突然剣と魔法の世界に放り出されても困るわけで。強めのユニークスキルを持たせることで解決を図ったんだけど、そのあたりの調整が難しくてね。能力が弱すぎるとすぐに死ぬし、強くても調子に乗ってすぐに死ぬ。結局、私たちは、神様のように7日目どころかずっと休むこともできなくて、今でもデバッグに追われているような有様なんだ」


「うーん、ユニークスキル云々は、その人の属する根源とは違う根源――システムからの力を与えられているだけで、その人の魂というか存在と馴染んでいないのが原因だと思う」


 笑うところなのか迷ったけれど、個人的には笑えないので、所感を述べてみた。



 上手く説明できた気がしないけれど、これはソウマくんや帝国の勇者さんを見て感じていたことだ。


 ソウマくんの方は、サイラスさんたちがついていて、しっかり教育していたように見えた。


 それぞれの世界が属する根源が違うといっても、やはり深いところで繋がってはいる。

 なので、「互換性」という表現が適切なのかは分からないけれど、きちんと慣らせば適応はするのだと思う。

 ということで、彼に関しては、それほど問題視する必要は無さそうだった。


 一方で、帝国の勇者さんの方は、突然降って湧いた力に精神や魂がバランスを崩して、ちぐはぐになっていたように見えた。

 要するに、自らの意志で使うべき力に振り回されていたのだ。

 じっくり時間をかければ矯正もできたかもしれないけれど、そういう関係でもなかったし。



『力を与えるのは構わないけど、段階的に開放できるようにするべきかな』


「なるほど……。いや、よく分からないが、君がそういうのならそうなのだろう。私たちのような紛い物とは違う――本物のアドバイスを貰えるだけで心強い」


「さっきから言っている、『本物』とか『紛い物』って何のこと?」


『神とかそういうつもりなんじゃない?』


「まあ、それに近い存在かな。私たちの考えている神様がいないことは、私たちの世界の現状が証明しているしね。だが、君たちが、私たちの遥か上の階梯にいる存在だということは疑う余地がない」


「うーん、必要以上に特別視されても困るのだけれど……」


 私は神扱いされるのが一番苦手だ。

 理由を説明するのは難しいけれど。


「いいじゃないか。今この世界に、君が神であると主張しても異を唱える者はいないと思うが」


『ボクもそう思う。いいじゃん、女神様』


「えー……。自分のことを『神』なんて言うのは恥ずかしくない? 普通に考えれば詐欺師の手口だよ? というか、神なら全て自分の中で完結しているべきだと思わない? 私なんかが神だなんて名乗っても、生暖かい目で見られるだけでしょう? そういう勘違いは恥ずかしいから駄目」


 今、湯の川やその周辺では、世界樹の女神とやらが話題になってしまっている。

 頑張ってそういうイメージを払拭しようと活動していたのに、無責任なひと言で台無しにされる。


 というか、そんな莫迦な神がどこにいる?

 湯の川では、私がそういう役回りを演じていることで上手くいっている面もあるそうなので、私情だけで拒否もしにくいのだけれど、それは彼らの神の概念を変えることで対応しようと思っている。



「神様だからといって、完璧である必要は無いだろう? 古代の神話に出てくる神様なんて、人間より人間くさかったり破天荒だったり、神様らしくないのもいっぱいいるじゃないか。それに、君の考えているような神様は、私たちのような弱い人間が、自分の行いに正当性――許しとか後押しが欲しくて創り出した幻想みたいなものじゃないかと思うけどね」


「それはそうかもしれないけれど、幻想だって決めつけるのは早いかも。そういう想いとか祈りとかは、根源に蓄積していくものだから。根源もそう単純なものでもないと思うけれど、そういった神が生まれているかもしれない。それで、想像力――というか、指定していないところなんかは滅茶苦茶になるわけだけれど」


『そういうことは口に出さない方がいいかも』


「フラグだね」


 自分でも失言だったと思う。


 言葉にしてしまったことで現実味が増した。

 これが切っ掛けで生まれてくるのは、きっととても面倒臭い神になる――そして、出遭ったら間違いなく喧嘩になる。


 発言のなかった世界に改竄することもできるけれど、相手も道理とか理屈の通じない相手であるなら効果は薄い。


 まあ、済んでしまったことは仕方がない。


 いけ好かない神をぶん殴る機会ができると思えば悪くはない――いや、やっぱり面倒くさい。



「できたよ」


 さておき、世界の創造の方は完了した。


 ご注文はファンタジー世界。

 一丁上がりというか、一兆くらい上がり。


 といっても、まだ可能性の状態だけれど。

 それでも、いつでも実現できるし、この状態の方が管理とかの手間が無くていいと思う。


 何にしても、これだけ創れば追加注文は無いだろう。



「早いな!? というか、これは――世界樹? 私たちが欲しかったのは、世界――人々を受け入れる器なんだが……」


 彼の言ったように、私が創ったのは世界樹である。

 もちろん、彼らの要望はしっかりと満たしている――というか、もっときちんとした世界を創ったつもりである。



「だから、これが世界」


『ええと、これは、この世界の根源をベースにして、いろいろな可能性が加味されて分岐、発展した世界を創る木なんだよ。枝葉のひとつひとつがこの世界と同等の可能性をいくつも秘めていて、花を咲かせて実を付けたりすれば、新たな世界樹の種子となる――恐らく、本来の世界の在り方に近いものじゃないかと思う。ユノの力を使って創ってるけど、君たちの種子を介してるから、システムでの制御はできるはずだし、システム自体も補強できてると思う』


 ゼロの状態から、ひとつひとつ世界を創っていくなんて非合理的だ。

 というか、勘違いしすぎだ。


 可能性に実体を与えてあげればそれでいいのに、なぜそんなわけの分からない手間を掛けるのか。


 そして、世界は独立しながらも繋がっている感じの造りにしておけば、互いに足りないところや不具合を補完し合うこともできる。

 もちろん、腐ったり病んだりしている世界が悪影響を及ぼすこともあるかもしれないけれど、それは管理者たる彼らが管理すればいいだけの話である。



「なるほど、私には理解できないが、世界はこうやって創るものなのか……? だが、それほどのものを創って、君は大丈夫なのか?」


 はて、「大丈夫」とは何のことだろう?


 もしかして、頭のことか?

 失礼な。

 いつもどおりだよ。


『多分、体力とか魔素の消耗のことだと思うよ』


 それこそ意味が分からないのだけれど?


『あー、ユノも含めて、現界した種子は有限の存在だけど、世界に遍在している種子はほぼ無限――世界がある限り存在するものなんだ。といっても、その状態での種子って休眠状態みたいなもので、活性化させて初めて種子になるというのか――まあ、ユノにはそれができるということで、その世界樹も君たちの半休眠状態の種子を少し活性化させて創っただけだから、特に消耗とかはないよ』


「大体そんな感じ」


 よく分からないけれど。


「ははは、うちの娘は優秀だな!」


 何だか分からないけれど父さんに褒められた。

 理由は分からなくても、褒められるのは嬉しいものだ。

 えへへ。



『ついでに、君たちがこれを管理しやすいように、君たちの魂・精神・肉体の補完と、異世界での活動用の義体も調整してるから』


 後者については朔の仕事である。

 多少、意匠というか衣装があれだけれど、苦情は受けつけない。


「何――あ、マジか。身体がはっきりくっきりしてきた……」


「しかも、この身体若いぞ!? こんなことまでできるのか!?」


「いや、君、もう神様でいいんじゃね?」


 やはり神扱いは御免被るけれど、自分たちが動けないからと、私や父さんたちを都合の良い人夫扱いされても困る。


 ここにいるだけでも十人以上はいるのだから、是非私たちの手を借りずに運営してほしい。

 お読みいただきありがとうございます。


 まだ魔界編は続きますが、長くなりますのでここでひと区切りとして、どこに差し込むか迷った話を幕間として2話挟んで、次章に突入します。


 以降もお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

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