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35 ある日、穴の中、悪魔さんに出会った

 土竜たちから、コレットちゃんのことを聞き出すことを忘れていた。

 それを思い出したのは、全てが終わった後である。


 私は若年性の健忘症なのだろうか?

 いや、緊急事態だったし、後でしっかりと思い出したし、大丈夫だと思いたい。



 どうでもいいけれど、忘れたことを認識しているのが健忘症で、忘れたことも認識していないのが認知症らしい。


 とりあえず、メモでも取るようにした方がいいだろうか?

 まあ、メモを取ることを忘れるとか、メモを取ったことを忘れるのだけれど。




 さておき、済んでしまったことはどうしようもない。


 当初の予定どおりに、コレットちゃんの捜索と同時に、悪魔を捜すことにして探索を開始した。


 もちろん、虫とかに遭遇するわけにもいかないので、探知範囲は朔の限界である半径100メートルまでだ。

 それでも、範囲の狭さは数でカバーということで、分体をいっぱい出してはいるけれど。



 そうしてしばらく捜索してみたものの、残念ながら、コレットちゃんとその他は見つからなかった。


 捜索できていない部分は、虫が多くてどうにもならなかった部分だけなので、彼女の居所としてはそこか、既に魔物のお腹の中かのどちらかである。


 前者であってほしいと思って、遭遇した悪魔にその地点の探索をお願いしたり、我慢すれば私でも突破できそうな所は、先ほど土竜を焼いた黒っぽい炎――は危険なので、効果を限定してマイルドになった白っぽい炎で掌握範囲を広げていった。


 それでも、コレットちゃんは見つからなかった。



 一応、未探索地域の何箇所かに虫が異常に集まっている場所があって、そこに餌となる何かがある可能性がある。


 そこは私には手出しできない――火が付いた虫は、とんでもなく暴れるのだ。

 狭い所とか密集地でやると、うっかりが起きる可能性が出てくる。


 それが子供の安全より優先することかと責められても仕方がないことだけれど、コレットちゃんを巻き込んだりすると本末転倒だ。


 なので、そこに彼女がいないことを祈りながら、悪魔たちの調査と報告待ちとなる。




 そうして、私にできることは、悪魔たちを信じて待つことだけとなってしまった。


 悪魔という名称のせいでで誤解しそうになるけれど、存在自体は神や天使と大差ない。


 むしろ、接触した悪魔の多くは下っ端というか、派遣――若しくはアルバイトのようなものらしく、やりがいがどうとか、コストカットがどうとか、どうにも人間くさい。


 とにかく、少し前にヤマトで会ったセーレさんという大悪魔の話では、神族よりも契約には厳格だそうなので、任せておけばすぐに何らかの結果を持ち帰ってくれると思う。



 もちろん、ここの悪魔たちは、私が一方的に使役できる存在でも関係ではない。

 なので、交換条件というには大袈裟だけれど、対価が存在している。



 まずひとつは、神の欠片とやらの保全というか補完。


 彼らも欠片の状態には懸念を抱いていたようで、私の素性と合わせて、目的も周知されていた。

 そもそも、アナスタシアさんにも頼まれていたことだし、物を見てみないと分からないことではあるけれど、やれるだけはやってみよう。


 そのためには、彼らの統括役というか、ここの管理者に会う必要がある。

 しかし、その悪魔は、通常の手段では決して辿り着けない、深層にいるらしい。


 つまり、この二千年間の悪魔族による大空洞探索は、徒労だったということだ。

 いや、結果だけが全てではないし、ゴーレムに搭載している技術の発展にも寄与しているし、そこで積み重ねたものには意味がある。

 ほかの誰が何を言おうと、私はそれを褒めてあげたい。


 なお、もうひとつは握手とか写真撮影とかだった。

 無理難題でなくてよかったというべきか、都度都度時間がかかるのを嘆くべきか……。



 さておき、先に雑用を済ませてしまおうと、管理者の許へと向かうことにする。


 そのために、現場主任さんにも挨拶しておく。

 管理者の場所は彼に訊かないと分からないらしいから。


 これがお遣いクエストとかいうものだろうか。



 さて、その現場主任さんは、私の落とした大砲の爆発現場にいるそうなので、まずはそこへ。


 現場主任さんは、ひと目でそれと分かる白い悪魔だった。

 色違いでの水増しは駄目な風潮だといっていた妹も、白はニュータイプとか赤は3倍と、特定の色には肯定的だったのだけれど、その線引きはどこにあるのだろう?



 さておき、その主任さんには、私の自己紹介と、目的の証明のために、ちょっとしたデモンストレーションを見せたところまではよかった。


 その後の、いざ管理者の所へという段になって、分体を目にしたのが初めてなのか、その分体が神ルックに着替えたことでドン引きされたか、それとも素顔を出したことがまずかったのか、しばらく固まってしまったので困ってしまった。



 それでも、今は立ち直って、人間の姿に変身して私をエスコートしてくれている。

 いや、巨大な悪魔の姿が変身というか、戦闘形態?

 まあ、どうでもいいか。



 さて、天使と対をなすだけあって、彼の人型はかなかなかのイケメンで、レベルの高さゆえの補正を受けているからか、立ち居振る舞いも見事なものである。

 セーレさんも、喋らなければかなりのイケメンだった。

 残念イケメンというのだろうか。



 さておき、それからしばらくはエスコート役の彼と、代わり映えしない景色の中を会話しながら歩いた。


 恐らく、これには深い意味は無い。



 ディアナさんという女神の所に呼ばれた時に、彼女の領域に案内してくれたヨハンという末端の神族の供述によると、そこは(あるじ)たるディアナさんの許可がなければ絶対に侵入できない、彼女の領域である。


 なお、言葉の上では同じ「領域」だけれど、私の認識しているものとは別もので、しかし、完全に別ものでもなくてややこしい状況である。

 とはいえ、ほかに適切な名称も思いつかないし、誰に説明するわけでもないので、気にしないことにした。


 とにかく、外界との接点は、便宜上大まかな位置は決められているものの、明確に「ここ」という入り口は存在しないのだとか。



 つまり、ここの管理者の領域が、彼女のものと同様であるなら、今のこれは時間稼ぎ――例えるなら、急な来客に際して、部屋を片付けている時間を稼いでいるといったところだろう。


 もちろん、アポもなしに訪ねるのだから、これくらいは致し方ない。

 喧嘩をしに行くわけではないので、心証は大事にしなければならないのだ。


◇◇◇


――大空洞管理者視点――

 大空洞に侵入者があること自体は珍しいことじゃない。

 むしろ、侵入者がいない方が珍しい。


 まあ、その大半は中層にも辿り着けずに引き返すか、魔物の餌になるだけで、別段俺の仕事が増えたりしない。



 だけど、今回の挑戦者は、これまでの記録を更新しそうな勢いで攻略してる。

 つっても、センサーで計測された断片的な情報で判断しているだけだけで、実際にこの目で確認したわけじゃないけど。

 それに、どう頑張ってもここには来れないしな。



 そもそも、大空洞は、巨大すぎるわ複雑すぎるわで、その全てをひとりで管理するなんて絶対無理。

 それは俺が無能だからじゃなくて、貴族クラスでも無理だと思う。


 ひとりで迷宮の様子をチェックしながら、千人以上いるデーモンたちにリアルタイムでそれぞれ指示を出すなんて、どんなに思考加速させても無理。

 もちろん、仕事はそれだけじゃないわけで、全部をきっちりやろうと思ったら、3日で過労死する自信がある。



 それに、俺は管理者だけど責任者じゃない。

 いわゆる、中間管理職ってやつだ。


 最高責任者はヘラ様で、今は――っていうか、ずっと不在。

 現場で実際に迷宮の維持管理をしてるのは外注で、情報のやり取りはするけど、命令権みたいなのは特になくて、判断は個々でする。


 そもそも、必要に迫られたからって、ヘラ様配下の有志で活動し始めて、後から追認されたけど、ちゃんとした組織じゃないんだよな。


 命令系統とか組織形態とか滅茶苦茶のまま、いつか誰かが改善するだろうと二千年が経った。

 みんなそれぞれ思ってることはあるだろうが、とにかく、俺が最低限やらなきゃいけないのは倉庫番くらいのもんだ。



 まあ、そんな適当な感じだからこそ、親父や爺ちゃんやご先祖様たちで、二千年以上もやってこれた。

 何より、そこまで必死に管理しなくても、どうにかなってきたって事実に助けられてきたわけだ。



 ワームは強い魔物じゃないけど、迷宮の形をリアルタイムで変えてくれるし、大体は天然物だからコストもかからない。

 まあ、竜を追い詰めすぎないためにも適度に養殖はしなきゃだけど、養殖物でも、地の利も合わせれば悪魔族の足止めくらいにはなる。


 デーモンたちは大半はバイトだけど、うちと同様、ヘラ様に縁のあるところからしか採用してないから、忠誠心はそこそこあるし、能力も充分。

 任せとけば、大抵の問題は何とかしてくれる。


 問題は、ヘラ様の欠片を狙ってる竜どもだけど、大空洞に残ってるのはもう細かい欠片ばかりで、大半はここ――管理者の領域にあるから手出しはできない。

 つまり、家にもなかなか帰れないし、気軽に遊びに行ったりもできないけど、ここにいれば時間も空間も俺の好きに使えるわけだ。




 それでも、引き籠りみたいな生活は、どうしても時間を持て余す。



 まず、他人と接する機会がないことが結構きつい。


 独り言が増えるくらいはまだよかった。

 気づいたら数か月とか数年声を出してないとかあって、声の出し方を忘れてることもあるから困る。



 彼女も欲しいけど、出会いがない。


 早期リタイアした親父や爺ちゃんがお見合い相手を探してくれてるけど、それまでコミュニケーション能力や正気を保ってられるか不安だ。



 最近は、お見合いに向けてのリハビリもかねて、SNSとかいうのを始めてみた。


 まあ、インターネットなんて上流階級の遊びで、俺みたいな地位もなければ何の面白味もない奴のことなんか、誰も見てくれないんだけど。



 それでも、ネットショッピングというのは素晴らしいと思った。


 ここにいながら、何でも買えて、すぐに届く。


 ちょっとお高いものでも、こっそりヘラ様の欠片を使ってチャージすれば余裕で買える。


 使い込んでるんじゃないよ?

 前借りだよ?


 つーか、ヘラ様の欠片の魔力量からしたら誤差だよ、誤差。



 それに、そこまで高い物を買ったりしないし。

 精々、漫画とかラノベ、ゲームやフィギュアくらいのもの。


 おかげでこの空間が趣味で染まりきっちゃったけど、居心地はとても良くなった。



 それに、つまらない日記みたいなのではつかない反応も、趣味の話となると同好の士と盛り上がることもある。


 それは、人との繋がりに飢えていた俺には麻薬みたいなもので、ついつい使用額が増えていくのも仕方がないことだと思う。

 つーか、もうこれ必要経費だろ。


 配信とかもやってみたいところだけど、知り合いにバレたら背信もバレるからできないのがつらいところだ。



 嫁探しに奔走してくれてる親父や爺ちゃんには悪いけど、信じてお役目に送り出した息子は、今では立派なガチオタになってしまったよ。


 だけど、後悔はしてない。


 ガチオタになった今でも三次元の彼女は欲しいけど、もうここでのお見合いとか共同生活は無理かもしれない。

 そのときになったらこの生活を捨てる――ことももう考えられないし。




 まあ、先のことはそのときに考えればいいとして、今ネットで話題になってるのが「ユノ様」なる人物だ。


 その正体は、アイドルだとか、全てを喰らう邪神だとか、歌姫だとか、酒屋の娘だとか、新興女神だとか、いろんな噂が流れてて、何が本当なのか分からないミステリアスな存在だ。

 ただ、どの噂でも共通してるのは、とにかく美人だとか可愛いとか、それもこの世のものとは思えないほどのレベルらしい。


 直近でリアルで会った女の子が――お袋を除いて――お袋は女の子って歳じゃないけど、もう年数も分からないくらいに昔のことな俺には、どんなレベルか想像もつかない。



 だけど、そんなに可愛いなら、どこかに画像くらい上がってるだろうと思って、検索しても全然ヒットしない。


 ちなみに、大空洞では大規模な崩落が起きてたり、正体不明の現象が起きてたりするけど、それはデーモンたちに任せておけば大丈夫だ。

 俺にはユノ様のことを調べるという使命が存在するのだ。



 で、しばらく調べを進めてると、通販大手アクマゾンでユノ様グッズが引っかかった。


 でも、キャストオフ可能ユノ様フィギュア(想像)って何なん?

 どう見ても邪神像じゃねーか。


 高評価いっぱいついてるけど、これ絶対サクラ業者だろ。

 俺くらいのプロになると、こんなのには騙されないぜ。



 てか、最近のアクマゾンは業者に汚染されてて駄目すぎる。


 どうせやるなら、もっと巧妙にやってくれれば悪魔の血も騒ぐかもしらんけど、捻りも駆け引きもない雑なのは腹しか立たん。



 とまあ、結構情報を漁ってみたものの、目撃情報は出てくるのに、画像とかは一切出てこない。



 本当はユノ様なんてのは存在しなくて、信じた間抜けを玩具にする釣りなんじゃないかと思い始めたところだ。


 そう考えれば、その邪神像も最高に捻りが利いてるように思えてくる。


 ふっふっふっ、危うく騙されるところだったぜ。

 俺を騙すなんて百万年早ええけど、仕掛けた奴はなかなかやり手なことは認めなきゃならん。



 それなら、せっかくだし、俺も乗っかっとくか?

 つっても、今更ユノ様を見たとか、歌を聴いたとかって、みんなと同じようなこと呟いても埋没しちゃうしな……。

 何か面白いネタになりそうなことないかな……?




<アルゴス、お客さんだ>


 面白そうなネタを探してネットの大海を漂っていると、現場主任の【ラードン】から通信が入った。

 嫌味な奴であまり好きじゃないけど、仕事上の付き合いなんで、無視することもできない。


 つーか、地獄からの客なら分かるけど、大空洞経由での客って何だそりゃ?


 あー、でも、アルフォンスみたいに、再現不可能なレベルの偶然で迷い込んでくる奴もいるしな。


 てか、あいつは人間のくせに面白い奴だったな。

 というか、孤独で潰れそうになってた俺に、ネットを教えてくれたのもあいつだった。


 あれから何年経ったっけ――人間はすぐに死んじまうけど、元気してっかな?

 俺が貸してやった神器、いつか返しに来るのかな?



<おい、聞いてるのか?>


<ああ、今ちょっと忙しいから後でな>


 ちっ、昔を思い出して懐かしい気分に浸ってたのに、無粋な奴め。


<おいおい、断れると思ってるのか? わざわざ忙しい俺が、食っちゃ寝してるお前に連絡入れるって、それだけの理由があるって分かりそうなもんだけどな。莫迦にも分かりやすく言うとな、ヘラ様のご友人が、ヘラ様からの依頼で、欠片の状態について確認に来た。拒否権は存在しねえ。とばっちり食うのも嫌だから、しばらく時間は稼いでやる。上手く立ち回れよ。また後で連絡する>


 げえっ!

 マジか!?


 ってか、一方的に切りやがった!


 それより、使い込みバレてんのかよ!?

 しばらくってどれくらいだよ!? 


 うわー、ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……!

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