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33 マッチポンプ

――ユノ視点――

『リディアたちが動くみたい。どうやら、タイミングを合わせて突入してくるっぽい』


「どっちが勝ちそう?」


 ワームの破片や昆虫類は片付いたとのことなので、私も朔と同程度には――少し狭く領域を展開している。

 なので、状況は少し前よりは理解できるものの、やはりシステム依存の強さの差は見分けがつかない。


『さあ? でも、下位とか中位の悪魔ならアルフォンスでも斃せるみたいだし、リディアが勝つんじゃない? そもそも、ボクにも強さの差なんて分からないし、《鑑定》のスキルは再現が難しい――というか、このスキルは理屈に合わないところが多すぎる。それでなくても、ユノに合わせた基準を決められないから、どうしようもないよ』


 《鑑定》スキルの再現については何度も聞いた。

 あればきっと便利だろうし、できれば再現してほしかったのだけれど、《鑑定》スキルはなぜか使用者ごとに違いが出る。


 例えば、アルの《鑑定》だとスリーサイズが測れたり、詳しくは教えてもらえなかったけれど、アイリスの《鑑定》にも他の人のそれには無い項目があるなどだ。

 物の価値は、人によって違うということならお手上げだ。

 鑑定者の個性と被鑑定物との相性なんかもあるのかもしれない。



 それに、魔力の大きさや属性などで、およその能力値や適性を測るといわれても、属性はともかく、大きさはどんぐりの背比べにしか思えない。

 ミーティアとかアナスタシアさんくらいになると何とか、九頭竜くらいになって初めてハッキリ認識できるだけの差があることが分かる。

 それでも、私を基準にするとみんな誤差の範囲なのだ。

 この程度の判別能力では、数値化なんて夢のまた夢だろう。



 《鑑定》のことはさておき、悪魔たちには窮地を救ってもらった恩がある。

 お礼も言わないうちに死なれるのは寝覚めが悪い。


 それに、リディアさんたちにも――いや、リディアさんたちは死んでも特に困らないし、割とどうでもいいか?

 とはいえ、属性というか可能性的には期待できそうな人だし、一応は魔界のためにと頑張っている――少しズレているような気もするけれど、まだ若いし修正もできるだろう。


 それに、彼女が死ぬとコレットちゃんが悲しむだろうか?


 虎の威を借りて傲慢に振舞っていた彼女のこと、その虎がいなくなれば、孤立してしまうのは想像に難くない。

 だからといって、嫌っている私の言葉なんか届かないだろうし。


 もちろん、簡単に諦めるつもりはないけれど、時間をかけてでも――というのは、状況が許さない可能性もある。


 うーん……、よく分からないけれど、それほど邪魔な存在でもないし、コレットちゃんのために生きてもらおうかな。




 朔によるシステムの模倣によって、私もいくつか魔法擬きが使えるようになっている。


 それらは、私独自の料理魔法や、肉も焼けないくせに存在を焼く炎とか、ファイアボールという名の太陽創造とは違って、程々の効果に調整されていて、使い勝手が良いものもある。



 その中のひとつが、光魔法――ただ光るだけの魔法だ。


 普段はライブや写真撮影時などの照明として活躍しているのだけれど、不適切なものを隠したりもできるし、気合次第で光量が変わるので、目潰しにも使えたりもする。


 ただし、この魔法ではなぜか熱量が発生しないため、収束させてレーザーを放つようなことはできない。


 つまり、この世界は、意地でも私に肉を焼かせないということなのだろう。



 さておき、ほかにも水を出したり、風を起こしたり、闇を出したり、花を出したりなど、使える魔法はいろいろとある。

 今回は、リディアさんが投げ込んだ閃光手榴弾を利用させてもらうので、光魔法を使用する。




 閃光手榴弾が炸裂するタイミングに合わせて、超発光しながら外に出た。

 これが本当の発光の美少女である。

 お酒を創れるので、発酵の美少女でもある。



 冗談はさておき、同時に、強めに拍手して衝撃波を起こす――勢いが強すぎたのか、ちょっとした爆発になった。

 フラストレーションが溜まっていたせいかもしれない。


 自分でやっておいてあれだけれど、大きな音は苦手なので、分かっていてもびっくりした。

 少し耳が痛い。


 なお、この程度の衝撃波で悪魔がダメージを受けることはないと思ったのだけれど、揃って後ろ向きに転がっていた。

 私と同じように、ダメージは大したことはなくてもびっくりしたのか?


 まあ、このくらいなら誤差の範囲だ。



 それよりも、本当の仕事はここからである。

 悪魔たちにお礼を言う時間を稼ぐために、リディアさんたちを気絶させなければならない。


 なお、首の後ろを手刀などで打って気絶させるあれはフィクションらしく、実際にやると、気絶しないどころか死亡したり、後遺症が残るダメージを負うこともあるそうだ。


 そもそも、私の場合は、加減を間違えると、意識ではなく首そのものを落としてしまう。

 殺してもいい相手でなければ、そんな運が絡むようなことはできない。



 では、実際はどうするのかというと、一般的には――いや、人を襲うのは一般的ではないけれど、とにかく、絞め技などを使う。

 とはいえ、それも落とすまでに一瞬というには長い時間が必要になる。

 それに、そういった干渉があったと気づかれたくないので、今回は選択肢から外れる。


 というか、落とすことはできても蘇生法――活法を知らないので、下手をすると割烹になってしまうかもしれない。なんちゃって。



 もっとも、私くらいになると、そんな危険なことをしなくても、他に方法はいくらでもある。


 手っ取り早くて確実なのは、肉体と魂から精神を切り離してしまえばいいのだ。

 もちろん、完全に切り離すと廃人になってしまうので、加減を間違えないように注意が必要だし、失敗した場合は繋ぎ直すのを忘れてはいけない。


 なお、間違って肉体と魂の繋がりを切ってしまうと死んでしまう。

 しばらくの間は意識は残っているので、本人や周りの人も気づかないけれど、これも間違えないように注意が必要になる。



 当然、私はそんな初歩的なミスをするほど無能ではない。


 個性を決定する重要な部分を攻撃するようなまねは本意ではないけれど、トータルで見れば被害が少なく済むので、ノーカンということで。


 ちなみに、肉体と魂も丸ごと呑み込んでからやった方が確実なのだけれど、「ログ」とやらが見れる人や、勘の良い人には違和感を与えてしまうようなので、今回のケースでは使わない。


 私も、この世界のことが分かってきているのだよ。



『いいからさっさとやりなよ』


 あっ、はい。

 というか、朔がやってくれてもいいのだけれど?


『ユノにできるからボクにもできるって考えはどうかと思うよ? 能力的にはボクにできてユノにできないことはないはずだけど、実際にはできてないことも多いでしょ?』


 うーん、朔だって肉体・魂・精神を同時に呑み込めるのだし、私の精神世界とやらで活動している朔は精神体だと思うのだけれど?


『いいから、さっさとやる! できるはずだからやれって言うなら、今後はボクの助けは必要無いことになっちゃうよ?』


 ……ごめんなさい。


 思った以上に強い反論をされたけれど、私だって面倒だからとか、そういう理由で嫌がっていたわけではないことだけはいっておきたい。



 精神に繊細な干渉をするには、さすがに能力を抑えたままでは無理なので、ある程度気合を入れる必要があるのだけれど、そうすると隠している翼やら何やらが出てしまうのだ。


 視覚は潰しているので見られないとは思うけれど、気持ち的に少し躊躇(ためら)ってしまう。


 とはいえ、いつまでもウダウダとやっていても埒が明かない。

 面倒事はさっさと済ませてしまうに限る。


◇◇◇


「う……うぅ……。ここは……? ――っ! 悪魔は!?」


 リディアさんが意識を取り戻したのは、ほかの人たちが目覚めてから、かなり時間が経ってからだった。


 彼女の精神を引っこ抜く時に少々抵抗があったので、ほかの人より強めにやったせいか。

 中途半端な抵抗をした彼女と、微妙な加減が苦手な私のコラボで、少々ダメージが大きくなって、意識の回復に時間がかかったというところだろう。


 もちろん、原状回復はしっかりやったので、後遺症などはないはずだ。



「おお、リディアさんが目を覚ましたぞ」


「あの爆発の一番近くにいたみたいだしな。それだけダメージが大きかったんだろう」


「あの異常な爆発が何だったのかは分からんが――。とにかく、みんな無事で何よりだ」


 先に意識を戻していた傭兵団の人たちが、意識を戻したリディアさんの許へと駆け寄っていく。


 当然だけれど、彼らにも後遺症などは見られない。


 さすが、私。

 良い仕事をする。



「ええと、この状況は一体――? 悪魔はどうなりました?」


「あー、俺らも小一時間ほど意識を失ってたみたいで、何も分からんのですよ」


「気がついたら、ユノさんっていうんですか――あの人に看病されてまして。目を覚ましてから辺りを確認しましたけど、悪魔はどこにも見当たりませんでしたよ」


「ユノさんも悪魔は見てないってよ。ユノさんがここに来た時には、俺たちだけが気絶して寝転がってたって。よく分からない状況だけど、ユノさんが嘘吐く理由もないしな」


 ごめんなさい。

 嘘だらけです。




 リディアさんたちの意識というか精神をずらした後、何が起きたのか理解しきれていない悪魔たちを介抱しつつ、自己紹介とお礼を済ませた。

 ミッションコンプリートである。


 それと、彼ら自身が異形といえる容姿をしているからか、私のバケツにツッコまれることもなく、素直に対話に応じてくれたのはとても助かった。



 なお、彼らによると、大空洞内の見回りをしていた最中に、彼らの魂の奥深いところを揺さぶる気配を感じて、彼らの主の欠片が新たに見つかったのかと思って集まってきたらしい。

 朔の気配のことだと思うけれど、悪魔の誘因効果があるのだろうか。


 もっとも、気配を出したのは一瞬だけ。

 彼らは、消えてしまった気配を案じながら、ひとまず掃除をしていたそうだけれど、気がついたら祈りを捧げていたらしい。

 彼ら自身にも理由は分からないそうだ。



 さておき、彼らが「主の欠片」とよんでいる物が、アナスタシアさんの言っていた、自身の――神の欠片であることは間違いない。

 それは、魔界の各地に散らばっているそうで、一部は悪魔族に回収されたりもしているらしいのだけれど、大半は魔界の中心であるこの大空洞に存在していて、彼らはそれを探しだしては回収しているのだとか。



 そういえば、ワームパーティーとかショッキングな事件があったせいですっかり忘れていたけれど、それの確認をアナスタシアさんに頼まれていたのだった。


 とはいえ、必要な措置を取ってほしいといわれても困る。

 何だか既に壊れているみたいだし?

 それでも彼らにとっては大事な物らしいし?



 とはいえ、何もしないわけにもいかないので、駄目元で話だけでもしてみることに。

 もちろん、朔が。



 それで、話は聞いてもらえたというか、逆にすごく食いつかれたというか、質問攻めにされた。


 彼らの主の現況や、私との関係。

 そもそも、私が何なのか。

 神の欠片をどうするのか、どうにかできるのか。

 スリーサイズとか、恋人の有無とか、ほかにもいろいろ。



 彼らの主――確か、ヘラ……ホラ? とにかく、それは神格を分割する以前の、魔王に堕ちていないアナスタシアさんである。

 語れるようなものは何もないし、何なら、今のアナスタシアさんのことだって大して知らない。

 そもそも、彼ら自身も代替わりしているため、実際に主を見たことがある人がいない。

 それで何をどう確認するつもりなのか。

 だから、朔の気配を、ほかの何かと勘違いしたんじゃないの?


 というか、当時のアナスタシアさんは神だったはずなのに、その手下がなぜ悪魔なのかとか、アナスタシアさんから聞いた話も、どこまで信用していいのか分からなくなった。



 私が何なのか?

 システム的には邪神らしくて、湯の川ではアイドルで、それでも私は私としか答えようがない。


 なので、彼らが感じたままの評価でいいかなと、アナスタシアさんが私に依頼した理由――その一端を見せた。

 といっても、瘴気を浄化できることと、ついでに私の入っていた箱を、炎っぽい何かで浄化したくらいだけれど。

 翼が出たけれど、見られてはいけない人には見られていないのでセーフ。



 とにかく、それから彼らの態度が一変した。


 端的にいうと、何かを勘違いしていた頃より、扱いが格段に丁寧になった。



 どこからともなく豪華な椅子を取り出して私を座らせると、その前にお供え物が並べられた。

 もちろん、虫とか山賊ではなく、お酒や新鮮な果物と野菜、牛や豚などの一般的な家畜のお肉などである。


 そして、彼ら自身は地面の上で(ひざまず)く――湯の川では珍しくもない光景が広がっていた。



 とはいえ、素顔を見せたわけでもないのに、少しばかり大袈裟な反応である。


 程度の差はあるけれど、瘴気の浄化なんて、魔素を持つ人なら誰にでもできることである。

 効率的にはまだ微妙だけれど、アイリスにはできる。

 ルナさんにだって、同じようなことができるようになる可能性はある。



 とにかく、非常に協力的にはなってくれたので、いろいろとお願いをして、この場は撤収してもらった。

 それが、リディアさんたちが気を失っている間の経緯である。


 それから彼女たちが起きるのを待ち続け、先に起きた傭兵さんたちにあれこれと吹き込んでいた。


 お茶と簡単な食事を差し入れながら。

 第一印象は重要だしね。


 そのおかげか、上手く誘導できたと思う。




「貴女が……。 いえ、ありがとうございました」


 傭兵の人たちからあれこれと聞かされて、私の方を見たリディアさんは、気まずそうな顔をしながらも丁寧に頭を下げた。


 思うところはあっても、理性的、常識的に振舞えるところは、とても良いと思う。



「その、貴女がここに来た時の状況を教えてもらえないでしょうか? 悪魔はいませんでしたか?」


「はい。ここにいる皆さんが意識を失って倒れていただけでした」


 私は、彼女たちが倒れている所に偶然通りかかっただけで、何があったのかは分からない――という設定になっている。


 なお、私が悪魔を斃したという設定にすると、悪魔たちが喜んで生贄になりそうな予感がしたので、不採用になった。



「……私が意識を失う直前に、巨大な翼と桁外れの魔力を持つ何かが――その少し前にも、途轍もなく悍ましい気配が……! それと同一の存在かは分かりませんが、あれはきっと上位悪魔。――もしかすると、貴族級が出現していた? だとしたらなぜ――」


 え、見られていた?


 いや、魔力だと言っていたし、私は魔素は出しても魔力は出さない。

 きっと人違いだろう。



『そうなのですか? 私は全く気づかなかったのですけれど……。皆さんが揃って気絶したような異常事態ですし、ガスか何かで幻覚でも見られたのでは?』


「あれほどの衝撃を受けたものが錯覚だったなど、到底考えられません! 貴方たちも感じたでしょう!? 心臓を鷲掴みにされるような圧倒的な魔力を!」


「いや、俺はあの異常な爆発の直後に気を失ったみたいだから……。その前の気配はヤバかったけど、あれと遭遇してたんなら生きてるはずがないしな」


「俺もだ。というか、あの異常な爆発も、ガスか魔素溜まりなんかに引火したと考えれば辻褄も合うんじゃないか?」


「こんな時にコレットの嬢ちゃんがいれば、論理的な考察をしてくれたんだろうが……」


『そのあたりのことは私には分かりませんが、皆さんが揃って生きているのが事実で、これからどうするかが重要ではないでしょうか?』


 すごいな、朔は。

 よくそんなにすらすら喋れるものだ。



「そうね……。皆、それぞれの状態を確認した後、情報交換をしましょうか。……ユノさんもお付き合いしてもらえるかしら?」


『はい。少ないですが、医療品や食料などを提供できますので、必要があればお申しつけください』


 うん、後は任せていてもいいかな。

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