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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第二章 邪神さん、異世界で変身する
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04 ギルド

誤字脱字等修正。

 冒険者組合、通称【ギルド】。


 冒険者業以外にも、商工業や一次産業などの多くの組合が存在するのだけれど、この世界では一般的にギルドといえば、冒険者組合を指す。


 それくらい冒険者組合の知名度や需要は高く、町の内外問わず、様々なことにギルドに所属する冒険者がかかわっている。


 冒険者の業務内容は、護衛や討伐などの戦闘能力を必要とするものから、調査や探索などの専門知識を必要とするもの、更には一般人では少々難しいといった程度の仕事から、ただの雑用まで、ピンからキリまで様々である。


 そして、そんな様々な仕事に対応するため、様々な能力を持った人たちがギルドに登録されている。

 戦闘だけを生業とする戦士もいれば、戦闘は一切行わずに、研究結果を売って生計を立てる薬師もいる。

 冒険者という名称に勘違いしそうになるけれど、ギルドとは多種多様な人材を抱えた派遣会社、若しくは職業安定所だとか、依頼主との仲介を業務としているところらしい。


 個人的には――というより、リリーの将来を考えると、戦うことだけが全てではないというのが素晴らしい。



 そう期待に胸を膨らませて、冒険者組合の門をくぐった。


 何となく、お役所的なものを想像していたのだけれど、現実はゴロツキっぽい男女がたむろしていて、床には空の酒瓶や食べ物のカスが散乱している、場末の酒場とでもいった方がしっくりくる所だった。

 実際に何人かは朝っぱらからお酒を飲んでいるようで、建物内には微かにアルコール臭が漂っている。

 来るところを間違えただろうか。




 俺たちが足を踏み入れた途端、中にいた人たちの目が一斉にこちらを向いて、それまでの騒ぎが嘘のように静まり返った。


 彼らはつい先ほどまで飲んでいたお酒の存在も忘れてしまったのか、傾けたままのジョッキや酒瓶からは盛大にお酒が零れている。

 それどころか、息をすることも忘れている様子の人までいる。


 彼らの視線の先にあるのは間違いなく俺たちだと思うのだけれど、さすがにこんな反応をされる心当たりは無い。


 お世辞にも紳士淑女には見えない、武装した人たち――中には全身トゲだらけの鎧を着た眉無しモヒカン男や、ホッケーマスクのような物を被った猟奇的な雰囲気の人、俺たち以上に露出の高い公序良俗に反した男女に、場違いなレベルでメルヘンチックな服装の人もいる。


 こっちの方が驚きたいくらいだ。


 まさかとは思うけれど、ミーティアの気配や偽装が見抜かれたか?

 クリスさんも一般人にバレる心配はないけれど、Sランクの冒険者には見抜かれるおそれがあると言っていた。


 しかし、Sランクの冒険者とは冒険者の中でも選りすぐりの冒険者で、この中の全員がSランクなどということはあり得ない。多分。

 というか、SランクのSは、SAKEのことではないと思う。


 とにかく、仮にバレていたのだとしても、襲ってくる様子はない。

 こっそりやり過ごして、当初の目的を果たすために“受付”と書かれた窓口へ向かうことにする。


 こんな時は、とにかく堂々としていればいい。

 恥ずかしがったり不安そうにしたりするのは逆効果なのだ。



「お、おはようございます。ええと、こちらは、その、冒険者の登録、及びランクアップの申請の窓口になりますが――」


「おはようございます。登録で」


 銀行とか郵便局のようなカウンター越しに、受付嬢さんから声をかけてきた。

 なぜか言葉を詰まらせていたけれど、構うことなく用件を告げる。


「お、お嬢ちゃんたちが、ぼ、ぼう冒険者だって!? 笑わせちゃいけねえや」


 すると、なぜか後ろの方から声が上がった。

 噛み噛みな上に声も裏返っているし、笑わせているのはどっちなのだろう。


 しかし、最初に声を上げたモヒカンさんに勇気づけられたか、次々と控え目な声が上がる。


「そ、そうだぜ! 依頼がしたいなら隣の建物だ! 間違えちゃいけねえ!」


「英雄になれる奴なんざひと握り、それ以外は墓の下か、こうやって酒に溺れるしかねえんだ。冒険者なんてろくなもんじゃねえぞ?」


「そ、それとも、俺たちと遊びてえのか!? へへっ、それならじっくりと――――ダメだあっ! 俺にはこんなこと言えねえ! 俺に言えるのはただひとつ! 愛しています!」


 何だこれ?

 挑発にしては安っぽい――というか、莫迦っぽい。

 特に、最後のは何だろう?



 ギルドでは、新人に対して厳しい洗礼があるとクリスさんから聞いていたけれど、これがそうなのだろうか?

 事前にあれこれ聞いてはいたのだけれど、話を聞く限りではもっと直接的な洗礼だったので、完全に想定外である。


 もしや、彼らの時とは時代が変わったのか? 

 いや、これからが本番なのかもしれない。


 なお、俺が聞いた洗礼とは、単純な脅迫とか、場合によっては暴力に訴えることもあるというものだ。


 もっとも、それにも理由がある。

 というのも、物語にあるような英雄や勇者に憧れた若者が、冒険者学校に通うなどのステップを踏まずに冒険者になって、そのまま命を落とす件数の多さが社会問題化しているという事情が背景にあるそうだ。

 そこで、ここでは国家やギルドからの信頼の高い冒険者に、依頼という形で多少荒っぽい手段を用いてでも(ふるい)にかけてもらって、場合によっては教育を施して、死者を減らそうという試みなのだとか。

 稀に、本物の英雄や勇者の卵に返り討ちにされることもあるらしいけれど、それもまた優秀な人材発掘にも繋がる、立派な仕事なのだ。


 つまり、一見すると社会不適合者に見える彼らも、実はエリート冒険者で、誰よりも社会に貢献しているのだ。多分。


 そして、クリスさんの忠告は、俺たちではなく、彼らの身を心配してのものなのだ。



 しばらく様子を窺ってみたものの、彼らの方へ顔を向けた途端に口撃もピタリと止んで、それ以上の洗礼が始まる様子もない。


 何となく、彼らに対してペコリと会釈してみると、彼らも同様に頭を下げたので、もういいのだと判断して受付嬢さんに向き直る。



「あ――と、登録でしたらこちらに記入していただいて――」


 これまた正気を取り戻した受付嬢さんに促されるまま書類に目を通して、細かいところはよく理解できなかったけれどサインをする。

 文字については奪った知識で何となく理解できているので、読み書きは問題ない。

 ただし、常識的なものについては、俺が知識を奪った人はきっとあれな人なので、過信できない。


 なお、この書類を端的に表現すると、個人情報取扱いについての同意書のようなもので、冒険者とは全く関係の無いものだった。

 恐らく、これも勇者が取り入れたものなのだろう。


 しかし、《鑑定》などという反則スキルが(まか)り通っている世界で、罰則も無いような規定に何の意味があるのか?

 こんな面倒なものまでは取り入れなくてもいいと思うのだけれど。


 リリーは――というか、この世界の人にはほぼ標準装備である《翻訳》スキルのおかげで、文字を読めない人は少ない。


 とはいえ、さすがに読めることと意味を理解できることは別なので、絵画などからメッセージを読み取ることはできない。

 そんな感じなので、リリーも文字は読めるけれど内容や意図を理解することは難しいらしく、また、書くこともできない。


 ミーティアも面倒臭いと言って書こうとしなかったけれど、言葉のとおりなのか書けないのかはあえて訊かない。

 何にしても、俺が代書をしても文句も言われなかったし、問題は無かったのだろう。


 というか、同意書に自署しなくていいとか、受付嬢さんにも意味が分かっていないらしい。

 もしかすると、導入した勇者にも分かっていなかったのかもしれない。

 ザルすぎる。


 そもそも、すぐ後ろではならず者――いや、エリート冒険者さんたちが興味深そうに覗き込んでいて、「ユーリちゃんって名前らしいぞ」とか「字、綺麗!」「まつ毛もめっちゃ長え!」などと言っている辺り、個人情報どころかプライバシーの概念も怪しい。

 とはいえ、そんなことを指摘して面倒が増えるのは嫌なので、大人しく従っておくのだけれど。



 申込みが済むと、すぐに講習を受けるための別室に案内された。

 それほど広くはない講習室も、受けるのは俺たち3人だけなので充分な余裕がある。

 と思いきや、なぜか酒場にいたエリート冒険者さんたちも着席していて、席が足りずに立ち見の人までいる。


 とはいえ、それを咎める理由が無い。

 ただ、見た目アウトローな人たちが、照れてモジモジしている姿は犯罪的といっても過言ではない。

 これが洗礼か?



 講習の内容は、冒険者組合に属することで得られる権利と義務、制度の話だった。


 冒険者組合に所属した人には、冒険者組合所属証明書――通称【ギルドカード】が支給される。


 このカードは、発行時に本人の魔力と紐付けされて、本人以外には使用ができないよう細工がされる。

 そのため、身分証としても使用できるし、冒険者のランクによっては入市税の減額や免除、提携商店での割引きなど、様々な恩恵が受けられる。


 当然、偽造防止、なりすまし防止など、様々な効果を持つギルドカードは、非常に高価な魔法道具なので、駆け出しの冒険者にホイホイ支給できるものではないし、支払える金額でもない。


 そこで、お金のない駆け出し冒険者には、前述のふたつの効果のみのカードを貸与して、代金分は依頼の報酬額や、戦利品の買い取り額などから天引きされることになるので、ご理解くださいとのことだ。


 もちろん、購入できるだけの資金があるなら、正規のカードを購入した方がお得とのこと。


 まず、報酬や売上げの全額を受け取れるのはもちろんのこと、それだけの資金や実力があるという信用に繋がる。

 それに加えて、支部管内での魔物の討伐履歴の記録や、依頼達成時の自動報告機能とやらもついているので、労力や時間の節約になる。

 この機能がついていなければ、魔物の討伐認定には指定された討伐証明部位の持ち帰りや、依頼達成のたびにギルド窓口での報告が必須になるのだ。


 ちなみに、依頼達成の報酬などはカードに記録されて、各地にあるギルドの窓口や、提携商店にある魔法装置で現金の預入れ、引出し、上限はあるものの実績に応じて借り入れまでもできる。

 他にも、対応店舗では、デビットカードのような使い方も可能だ。


 さらに、ギルドとの相互通信機能や携帯音楽プレイヤーとしても利用できたり、録音機能を用いての、まさかのときの遺書を残すこともできる。


 更に更に、今なら何と、冒険者の必須道具――回復薬や野営道具、簡易テントや武器防具のメンテナンス用の砥石やオイルもついてくる。


 更にもうひとつ、キャンペーン期間中につき、食材のくっつかないフライパンと包丁もセットでお付けして、通常価格では金貨5枚のところを、何と何と――金貨3枚でご提供してくれるそうだ。


 通販番組か。


 でもまあ、買うのだけれど。

 ミーティアのお金で。

 数多の冒険者たちを殺して貯めたお金で。

 お金に罪は無いので、躊躇(ためら)う必要は無いけれど。



「お買い上げありがとうございま〜す」

 スキップしながら去っていく営業担当を見送って、講習の続きを受ける。



 ギルドカードに表示されるのは、氏名とクラス、そして冒険者ランクと所属の4つだけだ。

 本人のレベルやステータス等の情報も記録することもできるけれど、見られて不利になるような情報は表に出さないのが普通である。

 当然、一部の依頼を受ける際や、パーティーを組む際に開示を要求されることもあるらしいけれど、特別な事情もないのに自分を曝け出すのは莫迦のやることである。

 ミーティアは……人間とは価値観が違うので、ひと括りにするものではないのだろう。



 冒険者ランクは、下から順番にF〜Aの6段階と、特殊ランクのS。

 昇格するには、魔物退治や依頼達成などでギルドカードに加算されたポイントが、一定値まで貯まれば窓口で更新できる。

 ただし、C以上への昇格は、ギルドでの審査や試験が必要になる。

 また、Sに昇格するには、ギルド以外に国家やそれらが無視できない有力者の後見も必要になる。



 冒険者ランクは、各施設での割引率や、受けられる依頼の難易度に影響する。

 身分証目的の場合はランクアップは不要だけれど、一年以上何の活動も行っていない場合は更新料が必要になって、支払われない場合は失効する。


 冒険者は、原則どの町――どの国のギルドでも活動できるけれど、本拠地を移す場合は届出が必要になる。

 これを怠ると、魔物討伐の自動記録が働かない。


 なお、本拠地設定については、何かあったときの緊急連絡先のようなものらしい。

 他にも、冒険者に偽装した他国のスパイの牽制や炙り出しという意味もあるそうだけれど、ここではそこまで説明されない。



 冒険者の活動は、基本的に冒険者本人の意思や方針に委ねられる。

 ギルドが定めるノルマのようなものは存在しないし、やり方も人それぞれだ。

 ただ、依頼失敗にはペナルティが課されることもあるので、依頼を受ける際には自らの能力とよく相談して受けなければいけない。


 また、一般人より高い戦闘能力を持つ冒険者は、町中において犯罪となる行為をした場合は、一般人より重い罪に問われる。

 町の外での殺人や窃盗などについてもギルドカードに記録されるため、外出時には必ず携行しなければならないとか、他パーティーと遭遇したときにこれの提示ができなかった場合は、盗賊と判断されることもあるので注意しなければならない。


 なお、盗賊などの犯罪者は殺しても罪には問われない――どころか、場合によっては報奨金が出るけれど、明らかに誤認であった場合――盗賊だということにして商人を襲った場合などは、当然罪に問われる。



 この辺りから記憶が定かではない。

 集中力が切れた。

 むしろ、俺にしてはよく頑張った方だと思う。

 ギルドの構成員としての心構えだとか諸注意のようなことを言っていたような気がするけれど、何も覚えていない。

 それでも、朔が聞いているはずなので大丈夫だ。



 講習の最後に、傷病や死亡などの責任をギルドに問わない旨の書面にサインして、講習は終了となった。


◇◇◇


 講習後、希望があれば素質の調査ができると聞いたので、地下の訓練場に向かう。


 《鑑定》とは違って、適性――向き不向きだけの調査なので、俺たちの秘密がバレることはないらしい。


 ミーティアは自身の能力を把握しているそうなので必要は無いけれど、俺とリリーには良い道標になるかもしれない。


 また、冒険者ランクの昇格試験も受けられるそうだけれど、それはひとまず断った。

 なので、ランクはFからスタートになる。


 どこまで上げていいのかは、アイリスさんに相談した方がいいだろう。




 リリーの素質を調べてもらった結果、適性が高い順に火魔法、幻術、水魔法、風魔法。

 他にも敏捷性にも優れていて、毒に対する適性やら耐性も高いそうなので、戦闘では遊撃か、後方での火力や支援が向いているそうだ。


 しかし、毒に適性とはどういう意味だ?

 まさか、年頃になったら、お父さんに対して臭いとかキモいと言ったり、一緒にパンツを洗われるのを嫌がったりするのだろうか?

 今のところそんな経験はないけれど、想像しただけでも心が壊れそうなほどの大ダメージだ。


「すごいな、五十年――いや、百年にひとりの逸材ではないか?」


「アルス南支部から久し振りのSクラス冒険者が誕生するのかしら?」


「うわ、ようじょすごい」


 そんな俺の心配を余所に、リリーの多才さや素質の高さに、当然のようについてきたエリート冒険者さんたちの賞賛が集まっていた。


 もっとも、リリーが反応を気にしているのは俺だけのようで、手放しで褒めてあげると「えへへ」とはにかんだ。

 可愛いなあ、もう!


 俺も、自分の素質が気になったので試してみる。

 今は望み薄だけれど、システムにアクセスする方法が見つかれば、普通の魔法も使えるようになるかもしれないし、もしかすると、素質だけはすごいかもしれない。


 料理魔法。


 期待に反して、表示されたのはただひとつだけ。

 何度見返しても、増えも減りもしない。


 今更だけれど、焚きあがったご飯を出現させたり、お酒を出したり、そういうのを料理といっていいのだろうか?


 係の人も初めての体験のようで、装置の故障かと首を傾げている。


「料理魔法って何だ? 料理ってスキルだろ!? レアってか、バグじゃねーの?」


「家庭的なんだな。良いお嫁さんになるぜ」


「きっと、私を食べて、とかやるんだぜ? 破壊力たけーよな!」


 やらないよ?

 むしろ、邪神的には貴方たちの方が食べ物に見えているんだよ?

 というか、料理のできる男になりたいとは常々思っていたけれど、こういう意味ではないんだよ?



「あの、ユーリさんのご飯、美味しいですよ」


 リリーがフォローしてくれた。優しい子だ。

 しかし、今は逆効果だ。


 ミーティアは腹を抱えて笑っていた。

 そんなにおかしいか?


 少しイラっとくるものがあったけれど、多額のお金を借りている身なので、強くは出られない。


◇◇◇


 全ての課程が終了して、ギルドカードとセットのあれこれを受け取った頃には既に昼近かった。


 ギルドカードはクレジットカードくらいのサイズの、3ミリメートルくらいの厚みがある金属っぽい素材で、そこに説明どおりに名前とクラスなどが記されていた。


 ただ、なぜか俺のクラスが【美少女戦士】になっていた。


 先日調べた時は企業戦士だったはずだし、自己申告ということなら、少なくとも「少女」になるはずがないのだけれど――と、リリーとミーティアのカードを見ると、養幼女と養妖女だった。


 リリーは数日前の《鑑定》のとおり――ネーミングはどうかと思うけれど合っている。

 ミーティアは、まあ、偽装だろう。


 しかし、俺のは明らかに間違いで、できれば直してもらいたいところなのだけれど、原因が俺とシステムの関係にあるのだとすれば、藪蛇になりかねない。

 表示は自己申告を基にした自動更新らしいので、いつか正常に表示されるのを願うしかないのかもしれない。

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