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15 救急救命死

――ユノ視点――

 マッハ1が、特定条件下での音速であることくらいは理解している。

 この単位が人名に由来するとか、どうでもいいことも知っている。


 私が何も考えずに攻撃したり移動したりすると、音の壁を破って衝撃波が発生することがあるので、およそどれくらいの速度なのかは充分に――体感ではあるけれど、理解している。


 何しろ、下手に衝撃波を発生させてしまうと、周囲に無駄な被害を出してしまうだけではなく、私自身や対象も衝撃波の影響を受けてしまって、有効な位置関係、距離、角度を保てずに効果は激減するのだ。


 なので、私の行動の多くは、音速を超えないことが基本になっている。



 もちろん、人間相手であれば、それでも充分である。

 しかし、この世界では、システム補正のおかげか、この程度の速度の攻撃では躱されたり受けられたりすることもある。


 そこで活きてくるのが、遅くても――分かっていても回避できない攻撃技術である。

 認識しづらい身体の動かし方とか、先の先まで読んで回避不能にまで追い込むとか。



 と、前置きはさておき、マッハ1とは、ギリギリ衝撃波が発生するくらいの速度ということなのだろう。


 そこまではいい。


 いつもより、少し速くしてやればいいだけなのだから。


 しかし、マッハ5とは、単純にそれの5倍なのだろうか?

 マグニチュードだと、ふたつ違えばおよそ一千倍だと聞いたこともある。

 一体何を信じればいいのか。



『感覚を――直感を信じるんだ!』


 なるほど。

 大は小を兼ねるというし、足りなかった場合はチャンスを逃すことになる。


 よし!

 朔の言葉に後押しされて、気合を入れて、勢いよく足を踏み下ろした。



 そんなあやふやな精神論ではなく、正解を聞いておけばよかったと気づいたのは、後になってのことだ。




 足下で音の壁が弾け――というか、大爆発が起きた。


 身体がグングンと――むしろ、衝撃波を発生させながらギュンギュンと上昇する。


 ヤバい、やりすぎた。

 5倍が正解だったみたい。


 どうしよう?


 というか、能力無しではどうすることもできずに、五十メートル近い高さの天井に衝突してしまったけれど、受け身を取ったので、それは問題無い。



 問題は、衝撃波で後押し――いや、爆風で吹き飛ばす形になって、ルナさんたちに逃げられてしまった。

 むしろ、今になって思うと、ミーティアの鼻っ面を抉った時より大きな爆発だったし、生きていてくれてホッとした。



 さておき、ここには彼女たち以外にも人はいたわけで。


 もちろん、大半は彼女たちより遠間にいたので、壁際まで吹き飛ばされてぐったりしているだけだけれど――もしかして、これが意識不明の重体?

 いや、ひとりのたうち回っている人がいるし、ちょっと打ち所が悪かっただけだろう。



 それより、最も近くにいた副学長先生が、目・鼻・口・耳から血を流してぐったりしている。


 どう見ても生命の危機。

 走馬燈のクライマックスである。


 どうしよう?



 逃げようかとも思ったけれど、そうすると余計に状況が悪くなるのはよくあること。


 今すぐ彼女たちを追いかけても、同じことの繰り返しになる可能性もある――というか、「同じことを繰り返して違う結果を求めるのは狂気だ」と言った偉い人がいるとかいないとか。


 確かにそのとおりだと思うので、そちらは少し時間を置いて様子を窺うことにする。


 というか、訓練場内はどう見ても爆弾テロでも起こった後のような惨状で、ここで逃げれば間違いなく犯人扱いされてしまう。

 いや、犯人なのだけれど。


 ひとまず、救助活動でもしながら、他の何かに罪を擦りつける方向で進めよう。




 まずは副学長先生の状態のチェックだ。


 《鑑定》なんかのスキルが使えれば手っ取り早いのだろうけれど、あいにく、私にはシステム準拠の能力は使えない。


 私の認識による診断だと、見た感じはほとんど死んでいるけれど、魂がギリギリ残っているので、無事といっても過言ではない。


 ただし、放置していると確実に死ぬ。

 もちろん、人はいつか死ぬものだし、ある意味では正常な状態ではあるけれど、今死なれると都合が悪い。


 治すのは簡単だけれど、衆人環視の中なので――大半がぐったりしているとはいえ、いつ目覚めるかは分からないので、能力とかエリクサーRとかも使わないほうがいいだろう。


 そうなると、うろ覚えの救急救命に頼るしかない(※現実の救急蘇生法とは異なりますので、絶対にまねをしないでください)。




 まずは反応の有無の確認だったか?


「大丈夫ですか?」


 問いかけた後で、どう見ても大丈夫には見えない――問いかけが適切ではないことに気がついた。


 それに、意識があるかないかの確認だったと思うので、問いかけの内容は、強く意識に訴えるものの方がいい気がする。


 では、どう問いかけるのが適切なのか?


 本来なら名前を呼ぶのだと思うけれど、私は副学長先生の名前を知らない。


 ほかに定番っぽいのは「痛かったら右手を上げてください」か。

 大穴で、「唐揚げにレモンはかけますか?」だろうか。 

 反応を見るという意味では後者か。


 この手の話題には過剰に反応する人が多く、場合によっては争いにまで発展するそうだ。


 なお、私は「かける派」だ。


 理由は単純。

 唐揚げは美味しい。

 レモンも美味しい。

 美味しいものと美味しいものをかけ合わせれば、更に美味しくなるのは自明の理。

 Q.E.D.

 何の略かは知らない。



『ユノ、脱線してる。呼びかけは何でもいいと思うよ』


 おっと、そうだった。


「貴方は神を信じますか?」


「こぽっ……」


 吐血した。

 これが彼の精一杯のメッセージ――反応があったとみていいのだろうか?




 よく分からないので、次に進もう。

 呼吸の確認だったかな?


 うん、どう見ても血しか吐いていない。

 いや、血なのか?

 青いのだけれど――魔界の貴族は物理的にブルーブラッドとかそういうこと?


 悪魔族なら、皮膚呼吸とか(えら)呼吸できる可能性もあるけれど、顔色が蒼い。

 というか、元から青かったような気がする。

 血も青いし。


 とにかく、これは「無い」とみるべきか?


 私のように、呼吸を卒業している可能性もあるけれど――今は人生から卒業しそうなので急ごう。




 マニュアルどおり、胸骨圧迫――強く! 速く! 絶え間なく!

 アスファルトを締め固めるタンピングランマーをイメージして、副学長先生の胸部を高速で強打する。

 人間ならとっくにミンチになっているけれど、耐久力の高い悪魔族ならこれくらいは必要だろう。


 その反動で、副学長先生の身体が陸に打ち上げられた魚のように激しく跳ねて、胸骨は砕けて、身体中のあちこちから血が噴き出した。


 やりすぎたらしい。

 いや、血行が良くなったと捉えよう。



「衛生兵! メディーーーック!」


 どこかから悲鳴が上がった。

 これはまず――いや、心臓マッサージはこれで充分だろう。




 当初よりさらにぐったりした副学長先生に必要なのは、恐らくAED(※自動体外式除細動器)だろう。


 しかし、この世界にそんな便利な道具はないし、あっても使い方を覚えていないし、それに代わる魔法もない。

 電撃の魔法でも使えれば、応用でどうにかなるのかもしれないけれど、私にできる電気なんて電気あんまくらいのものである。


 もちろん、この状況では――というか、どんな状況でも実行できることではない。


 考えてもみてほしい。

 瀕死のおじさんが電気あんまをされている現場を目撃した人がどう思うか。


 今後、彼には露出、被虐趣味の変態というレッテルがついて回るのは間違いない。


 もちろん、私にも相応の悪評がつくだろうし、アイリスにも怒られる。




 どうすればいいのか分からないので、とりあえず脈でも測ろう。

 順番がおかしい気がするけれど、「巧遅は拙速に如かず」ともいう。

 行動最速理論とかいうのもあるらしいし。


 とにかく、かなり弱々しいけれどある。


 速度は3、4秒に1回ペースで――かなり遅いような気がするのだけれど、これは悪魔族だと正常な範囲のだろうか?

 というか、正常な脈拍ってどれくらいなの?


 なお、私の場合は、心臓の鼓動による身体のブレを無くすために心臓を止めている。

 呼吸を卒業しているのだから当然だろう。

 当然、脈もない。


 そもそも、私の身体は酸素の代わりに気合――魔素で満たされているので、循環とは比べ物にならないレベルで元気である。

 人間、やればできるものなのだ――といっても、驚いたりすると動き出してしまうので、まだまだ精進が足りていない。

 むしろ、全身凶器の私としては、どれだけペースを上げられるかにも挑戦するべきか?


 しかし、それは今することではなく、副学長先生で試していいことでもない。




 うーん、後は人工呼吸くらい?


 しかし、意識が回復してきている人もいる中で、人工呼吸――人命救助のためとはいえ、バケツを脱ぐことはできない。


 昔の偉い人が、「人命は地球よりも重い」と言ったと聞いたことがある。


 もちろん、比喩的な意味であって、実際に比べる対象ではないことは分かっている。

 本気だとしたら、本当に天秤にかける事態になったときにどうするつもりなのか。

 命が助かっても、地球が無い――どこかの星のテラフォーミングが完了すれば選択肢に入るのか?

 しかし、それはそれでどういう状況なのか。

 宇宙人でも攻めてきて、地球から追い出されるのか?



 さておき、どちらにしても、地球くらいなら複製できる私の都合と、親しくもないおじさんひとりの命なら、私の都合の方が重いはずである。

 というか、頑張ればおじさんだって複製できるし。


 そもそも、生死に対する認識が違うっぽいので、議論は成り立たないと思う。



 とはいえ、それは見捨てることと同義ではない。


 要は、呼吸をさせれば――肺に空気を入れればいいんだよね?



 ところで、マグロのような回遊魚は、泳ぎ続けていないと窒息して死んでしまうという話を聞いたことがある。

 詳しくは覚えていないのだけれど、ラムジュート換水法がどうとかで。


 つまり、副学長先生の口を開けて走り回れば、呼吸と同じ効果になるのではないだろうか?


 問題は、副学長先生の体力がもつかどうか。

 一か八かの賭けになる。



 副学長先生の身体を少し持ち上げてみると、力なく垂れ下がった頭――その口と鼻から、壊れた蛇口のように、溜まっていた血がダバダバとこぼれた。


 内臓の損傷も激しいようだ。


 副学長先生も魔王級だと聞いていたけれど、骨も脆いし耐久力も回復力もないわで、湯の川の泡沫魔王たちと同じくらい貧弱なのかもしれない。


 もちろん、副学長先生には身体能力以外のところに長所があるのかもしれないけれど、特に興味が無いので治療の続きを行う。



 とりあえず、先に気管とかに詰まっている血を抜かないと駄目だよね――ということで、副学長先生の足首を掴んで逆さ吊りにする。

 そして、血が抜けきるのを待つ。



『どう見ても血抜き作業』


 私も同じことを思ったけれど、そういうことは口に出してはいけない。

 これは飽くまで治療である――という雰囲気作りが重要なのだ。




 いろいろと考えごとをしていたからか、朔が教えてくれなかったからか、自然体で敵意などが見えなかったからか――その人の接近に気がつかなかった。


 不覚としかいいようがない。


「副学長に何か恨みでもあるっすか?」


「ふぁっ!?」


 突然背後から声をかけられたため、びっくりして変な声が出た。

 心に疚しいことがあったからかもしれない。


 足下ではゴツンという鈍い音がして、副学長先生が地面に横たわっていた。

 首が変な方向に曲がっている。

 ヤバい。



 目撃者は消さなければ――と思ったとほぼ同時に、朔が副学長先生を呑み込んでから、エリクサーRを投与してくれた。

 取り込んだのは刹那にも満たない時間だったためか、それに気づかれた様子はない。


 あれ?

 最初からそうすればよかったのでは?


 しかし、副学長先生の穴という穴から、それこそ毛穴からでも漏れる七色の光。

 投与直後よりはマシなものの、残滓でも結構目を惹く。

 慌てて手で払ってみたところ、光も弾けたような気がしたものの、副学長先生の粘液の方が強敵で、私にはもうどうしようもない。



「うおっ、眩しいっす!?」


 一方では、私が弾いた光がその人の目に刺さったようで、目が眩んでしまったらしい。


 今のうちに始末するべきかどうか――と、迷っている間に回復されてしまったけれど。



「な、何だったんすか今のは……?」


「こんにちは」


 仕方がないので、とりあえず挨拶しておく。


「こ、こんにちは? で、さっきのは一体何なんすか?」


 挨拶を返されたのはこの学園で初めてかもしれない。


『我が家に先祖代々より伝わる、秘伝の治療法です』


 どんな治療法だ。

 さすがにそれは無理があるのではないだろうか。


「ご先祖、すごいっすね」


 信じた。

 マジか。


「くっ、ここは……? 一体何があったのだ……?」


 そして完全復活した副学長先生が目を覚ました。

 どう説明しよう?


◇◇◇


「なるほど。突然大爆発が起こって、ユノ君は持ち前の魔法無効化能力で無事だったが、近くにいた私たちは重傷を負ってしまった。それを君の家に伝わる門外不出の秘術で治療してくれた、と。なるほど――礼を言わねばならんようだ。ありがとう。このとおり感謝するよ」


 こっちも信じた。


 え、マジで?

 打ち所でも悪かったのだろうか?


 まあ、いいか。


 副学長先生は、とても真面目だけれど紅潮した顔で、私の手を両手で包むように握って、何度も感謝の言葉を述べていた。

 そこには、私を疑っているような雰囲気は感じられない。


 それとは関係無いけれど、副学長先生の手汗が酷くて少し気持ち悪い。

 さらに、若干前屈みになっているのは、命の危機を感じた後遺症なのか、エリクサーRが効きすぎたのか。



「爆発か――。グレモリー君と君たちの関係を知らない者が、グレモリー君を守るためにやったと考えるのが妥当か。だとすれば、犯人はすぐ近くにいた誰かということになる。若しくは追い詰められたと勘違いしたグレモリー君の力が暴発したか――。どちらにしても、調査が必要だな」


 しかし、いい感じに私が犯人ではないことになっている。

 そのまま誤解していてほしい。


『暴発とは?』


「ふむ、君は聞かされていないのか? グレモリー君が魔法を上手く使えないというのは、有名な話だと思うのだが?」


『それは伺っています』


 そんなことより、本当に手を放してもらえないだろうか?

 ヌルヌルが止まらなくて超気持ち悪い!

 しかも、生臭いし!

 何なのこの人!?



「正確には、グレモリー君は全く魔法が使えないというわけではなく、効果が安定しない――暴発することも多いのだ。レベルの割には多すぎる魔力量が原因だと考えられているが、詳しいことはまだ分かっていない。というより、彼女には謎が多い。魔力量は充分で、魔力操作スキルも高い。シミュレーションでの成績はトップクラスなのに、実際には上手く魔法を扱えない。だが、暴走時に発生するエネルギーは、使用魔法や消費魔力からは想像もできないほど大きなものになる。そのような様々な要素が、彼女がグレモリーの中でも特別だと思われている理由なのだよ。私としては、彼女を保護する意味でも、彼女の秘密を解き明かしたいと思っているのだが、御覧のとおり私は口下手でね。研究者の性か回りくどくなったり、不適切な言葉を使ったりしているようで、上手く伝えられないのだ。そういえば、君たちにも不快な思いをさせたらしいが、そんなつもりではなかった――と、信じてもらえないかもしれないが謝罪する。すまなかった。とにかく、彼女の外界進出だが、彼女の秘密が明らかになってからの方が、安全かつ公正に挑めると思うのだ。よければ君たちの方からも上手く伝えてもらえないだろうか? 良い返事を期待しているよ――と、そろそろ辛抱堪らんので、今日のところはこれで失礼させてもらうよ。それと、今日の事故か事件かは、私の方で預かろう。悪いようにはしないから安心したまえ」


 (ぬめ)る先生は、ものすごい早口で一気に捲し立てたかと思うと、前屈みのまま早足に立ち去っていった。

 喋る姿とか、歩く姿までキモいとか、なかなか筋金入りである。


 なお、握られっぱなしだった手がヌトヌトして気持ち悪かったので、話の内容はほとんど頭に入らなかった。


 というか、私のスベスベの肌に残留するとか、なかなかヤバいヌメヌメだ。

 次からはあまり近づかないようにしよう。




「いやあ、何だったのか分からなかったっすけど、気持ち悪かったっすね、副学長。まあ、あの人、大体いつも気持ち悪いんすけどね。あ、私、【エカテリーナ・アスモデウス】っていいます。長いんでカーチャって呼んでください。よろしくっす」


「ユノと申します。よろしくお願いいたします」


 何だか分からないことだらけだけれど、先ほどの少女に自己紹介されたので、私も自己紹介を返した。


 きちんと挨拶ができるのはいいことだ。


 ところで、このエカテリーナと名乗った少女は、白髪赤目有角有翼と、どこかで見たような顔なのだけれど、どこで会ったのかは思い出せない。


(今朝会ったリディアに似てるんじゃない?)


 なるほど。

 角と翼はリディアさんより控えめだけれど、言われてみればそうかもしれない。



「ユノさんっていうんですか。強そうな名前っすね!」


「ありがとうございます?」


 そんな褒められ方をされたのは初めてだけれど、両親が私のために考えてくれた名前を褒められるのは悪い気はしない。

 第二案だけれど。



「さっきの見てましたよ。すごいっすね!」


「!?」


 見られていた――って、一体何を?

 やはり、口封じが必要なのか?


「あのジュディスって人、入学早々序列16位の人に勝った結構な実力があるんですよ。それをああも子供扱いとか、痺れたっす!」


「恐れ入ります」


 そっちか。

 とはいえ、それなりに分からないようにやったつもりなので、それが見えていただけでも大したものだと思うのだけれど。


「ということで、この序列7位のエカテリーナ・アスモデウスともお手合わせお願いしたいっす!」


 ええー……、今日は何だかもう面倒臭い。



『申し訳ありませんが、今日はあのような事件があった後で、多少疲れていますので。それに、貴女との交戦の許可はいただいておりませんので、ご希望には応えられません』


 こういうときには朔とバケツは便利だ。

 口を動かさなくても声が出る。


 とはいえ、これで納得してくれるかどうかは別なのだけれど。



「残念すけど、仕方ないっすね。でも、日を改めて、許可を貰ったらお手合わせしてもらえるっすか?」


 あっさり引いた。

 魔界にもこんな人がいるんだ――というか、人懐っこい犬でも相手にしている感じ。



「お手」


『こっちのお手合わせでよければ、いつでも応じられるんですけどね(何やってんの!? 莫迦なの!?)』


 思わず、実家の近所にいたわんこにするように手を差し出してしまい、朔に怒られた。


 あのわんこは、私の数少ない癒しのひとつだった。

 駄犬というのがピッタリな莫迦な子だったけれど、可愛かったなあ。



「せっかくなので――って、うわあ、ヌトヌトっす……」


 しかし、私の莫迦な行動にも、彼女は律義に応えた。

 この子も駄犬かもしれない。

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