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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第一章 邪神さん、異世界に立つ
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02 心は少年

誤字脱字等修正。

 妹たちは、ゲームやアニメ、それに可愛らしい挿絵のついた小説などが、少々――いや、少し度を超えて好きだった。

 いわゆるオタクという存在だと思うのだけれど、人付き合いは普通にできるし、勉強や家事もキッチリとこなしていたので、趣味のひとつだと割り切って口を出さないでいた。


 むしろ、俺の方が勉強や家事を疎かにしていたこともあって、「もう少し女の子らしく」などと言えたものではなかった――と、そんな事情もある。



 両親の失踪後、俺の時間のほとんどを妹たちのことに使ったことは事実だけれど、それを俺自身の出来の悪さの言い訳にするつもりはない。


 自分がそうしたい、そうすべきだと思ったからやっただけなのだ。

 飽くまで自分のためであって、見返りなどは期待していない。


 そもそも、頼まれてもいないのに誰かのためと言ってあれこれしても、された方が迷惑することもある。

 神の与える試練とやらが正にそれだろう。

 自分の無能さや不始末を、試練などという言葉で誤魔化さないでほしいものだね。


 結局、妹たちにはどう対応すればいいのか分からずに甘やかしすぎた気もするけれど、今までも、これからも、彼女たちが幸せなら苦労した甲斐もあるというものだ。



 それはさておき、この状況は、妹たちの方が詳しいのでは――もしかすると、彼女たちが仕掛けた悪戯かもしれないとも考えたけれど、それにしては手が込みすぎている。


 むしろ、こんな悪戯ができる方が問題かもしれない。


 俺ももっとゲームをしたり、そういった本を読んだりしていれば、こういった場合に何をすればいいのかの目安になっていたのかもしれない。


 とはいえ、知識があってもそれを活かせる能力がなければ意味が無い。

 そういう意味では、普通の人よりは戦える能力があるだけでもマシなのだろう。


 ちなみに、妹たちのやっていたゲームでは、さっきの怪物とは比べ物にならないサイズの怪獣も出てきた。


 そうなると、俺の技術は基本的に対人を想定したものでしかないので、どこかで物理的な限界が出てくると思われる。

 猪や熊のような獣や、大型トラックや戦車くらいなら対処が可能だけれど、体長がそれらを遥かに超えるような怪物が相手となると、それがよほどのでくの坊でもなければ、どう戦えばいいものか想像もできない。

 いや、それがもし昆虫的なものだとしたら――そんなものが出るとは考えたくない。


 油断は大敵だけれど、幽霊と同じで、自分の想像力に怯えても仕方がない。

 お願いだからそうであってほしい。


◇◇◇


 考えても答えが出ることはないので、モヤモヤしつつも川を目指す。


 今度は陸路で。


 真っ直ぐには進めなくなるけれど、確たる目的地があるわけでもないので、大体の方角が合っていればいずれは川に突き当たる。


 それに、地上でなら熊でも虎でも戦車でもどうにでもできる自信と、一部では実績もある。

 しかし、空を飛ばれては石を投げるくらいしかできない。


 先ほどのトカゲのような怪物に群れでこられると、やられはしないにしても面倒すぎる。

 それ以上の怪獣が出てきた場合でも、地に足がついていた方が対処しやすいだろう。




 俺が一般の人とは少し違うことは認識している。

 俺の身体能力はかなり高い――というか、妹たちには人間離れしている――人間じゃないとまで言われている。酷い。


 とはいえ、他人の目がない状況で能力を測る機会もなかったし、そもそも興味も無かったので、正確な数値は分からないけれど、そこらの車より速く走れるし、重機よりもパワーがあるのは経験上明らかである。


 というか、気合を入れて本気を出せば音より速く動けるし、電気とか燃料がなければ役立たずな重機と違って、元気があれば何でもできる――いつでも元気な俺の方が役に立つはずだ。



 しかし、どう足掻いても物理法則には勝てないところもある。


 脚力に対して体重が軽すぎるので、速く走るためには重機レベルの錘を抱えるか、羽でも付けてダウンフォースを稼がなければ、跳びたくないのに跳んでしまう。

 それならいっそと本気で跳んでも、音速を超えると空気抵抗だか音の壁だとかで服はボロボロになるし、発生する衝撃波で周辺被害もすごいことになる。

 それに、いくら俺の方が馬力があったとしても、重量差がありすぎると、普通に弾き飛ばされたり持ち上げられたりする。


 つまり、速く走ることやパンチ力などは、身体能力とは別のところで限界があるのだ。



 ただ、握力のような、体重とは関係無いところでならその限りではない。


 この細身の体のどこにそんな力があるのか分からないけれど、車やビルくらいなら素手でも簡単に解体できるし、銃で撃たれたり車に轢かれても、精々が少し痛い程度で済む。


 なぜ俺にこんな能力があるのかは分からないけれど、両親や妹たちも程度は違うものの基礎能力は高かったし、少し個性的なだけなのだと思うことにしていた。


 もちろん、この力のせいでいろいろと苦労もあったし、いろいろと秘密を抱えているので、人付き合いも上辺だけのものしかできなかったのだけれど、どんな理由にせよ、今役に立っているのだからそれでいいのだ。



 それとは別に、気合を入れれば、更に身体能力を強化できたりもする。


 それは、俺が幼い頃の個人的な事情から、少しでも男を磨こうと武術を習い始めたことに端を発する。

 そうして、長期にわたる(※個人的な感想です)研鑽の末に習得した気功的なものだ(※と思っている)。

 もちろん、修行をしたからといって、誰にでもできるものではないことは知っている。

 それでも、実際にできているのだから仕方がない。

 きっと俺に素質があったとか、そういう話になるのだろう。



 それが悪いことでないのは、それを見た両親が、驚きながらも褒めてくれたことで証明されている。

 つまり、両親もそれを使えたということで、俺はある種のサラブレッドのようなものだったのだ。


 両親からはそれを可能な限り他人の前では見せないように厳しく念を押されたけれど、それも両親の経験に基づく忠告だったのだろう。

 もちろん、俺も余計なトラブルを招かないためだということは、子供ながらに理解していた。


 既に何度もトラブルを起こしていたので当然――今思えばかなりヤバい事件もあったように思うけれど、よく問題にならなかったものだ。


 まあ、子供のやったことだし、大人同士で話をつけてくれていたのかもしれない。



 何にしても、両親から武術に加えて、()の正しい使い方と鍛錬法なども教えてもらって、以降はそれを日課としていた。


 両親からは、「15歳になったら次の段階に移ろう」と言われていたけれど、その両親は俺が15歳になった途端に失踪してしまったため、その約束は叶わなくなった。


 次の段階が何だったのかは分からないけれど、基本を押さえた上で、自分なりにいろいろと試行錯誤も繰り返した。

 モノになったものは少ないものの、おかげで多少の戦闘能力だけは身についたと思う。


 もっとも、残念ながら生活能力は皆無といっていいレベルなので、生存能力には結びつかないのだけれど、それも少々のことなら気合で何とかなると思っている。


◇◇◇


 川へ向かって歩きながら、先ほどから気になっていたことの確認作業に入る。


 前準備として、体内で気を循環させる。


 両親から習ったやり方で、ラジオ体操的な日課――準備運動というか、自身との対話のようなものである。

 なお、最終的には循環ではなく均一に漲らせるのだけれど、恐らくこれが両親の言っていた「次の段階」なのだと思っている。

 循環とは比較にならないくらいに能力が上がるしね。


 さておき、やはり感覚がおかしい。

 俺の身体が俺のものではないように――いや、俺が俺なのは確かなのだけれど、どこか騙されているというか、不思議な感じである。


 不調という感覚自体が初めてなので自信はないけれど、少なくとも正常な状態ではない。

 それでも、身体の調子は悪くないような気がする。

 自分でも意味が分からない。


 むしろ、ムラがあるものの力が有り余っている――というか、余りすぎて感覚が追いついていないというか、感覚と身体が乖離しているとでもいえばいいのだろうか。


 自分でも何を言っているのか分からないのだけれど、俺はこれまで大きな怪我はおろか、軽微な病気に罹ったこともなくて、好調なのか不調なのかも経験が無い。

 なので、これが好調か不調かも判断できないのだ。


 先ほどの怪物との戦闘で力加減を誤ったのも、もしかするとこれが原因なのかもしれない。


 怪物が想像以上に脆かったとも考えられるものの、こんな失敗をしでかしたのは、それこそ子供の時以来だ。



 要約すると、感覚は鈍いのに、いつもよりかなり出力が上がっている――これが絶好調?


 よく分からないけれど、好事魔多しともいうし――というか、こんなわけの分からない状況で好事もへったくれもない。

 とにかく、油断だけはしないように気を引き締めよう。


◇◇◇


 そうやって自身のチェックをしているうちに川原に到着した。


 川は思いのほか上流にあったのか、川原には大きな岩や石がごろごろしている――いや、中流以下なのに大きな石があるだけなのか?

 よく分からない。


 肝心の手掛かりは、人が踏み入れた形跡すら見当たらないため、目的のひとつは空振りに終わってしまった。



 もうひとつの目的である、飲み水と食料の確保。


 川魚の生食は危険だとどこかで聞いた記憶があるので、食料は別に確保するか、火を熾す必要があると思うのだけれど、とにかく水の確保が最優先だ。


 もっとも、喉の渇きも気合で何とかなるはずだし、何なら喉が渇いた記憶も無いのだけれど、普通は水を飲まないと死ぬらしい。

 逆説的に、普通の人でも水があれば数日間は生き延びられるということで、普通より体力がある俺なら、水だけでも数年くらいはいける気がする。


 なお、川幅は二十メートルほどで、水深は浅くて流れは速く、水の透明度は非常に高い。

 やはり上流なのかと思うものの、それにしては周辺一帯に勾配らしい勾配は見当たらなかった。

 違和感は残るものの、それは今気にするべきことではないので、あえて無視する。



 川を流れる水を手で掬って、匂いを嗅いでみる。


 特に問題があるようには感じない。


 そもそも、俺は匂いで毒性の有無を判断する術など持っていなかった。


 顔を洗い、口をすすいで――意を決して飲んでみた。


 普通に美味しかったです。


 まあ、俺は胃や腸も丈夫なので、寄生虫なんかに負けたりしないはず。

 ところで、寄生虫とは水の中にもいるのだろうか?


 よく分からないけれど済んだこと。

 後はお腹を壊さないことを祈るばかりだ。



 トラブルの連続で気が張り詰めていたのか、喉の渇きにも気がついていなかったらしい。

 いや、喉の渇きなんて経験したことはないのだけれど、ひと頻り飲んで落ち着きを取り戻したことを思うと、やはり乾いていたのかもしれない。


 さておき、そこでようやくあることに気がついた。

 チンピラから受けた銃撃程度で俺が怪我をするはずがないのは当然だけれど、服にその痕跡が残っていないのはさすがにおかしい。


 というか、昨日はライトグレーのスーツを着ていたはずなのに、今は黒のスーツに黒いネクタイを着けている。


 昨日はお通夜やお葬式の予定は無かったし、MIBのアルバイトなんかもしていない。

 当然、着替えた覚えもない。


 それはそれで問題なのだけれど、それ以上に気になることがあった。


 水面に微かに映った自分の影に違和感――というか、なぜか懐かしさを感じてしまった。


 恐る恐る携帯を取り出して、カメラモードにして自分に向ける。


 携帯は――携帯に限らず、機械の操作はとても苦手で、この携帯においては通話とカメラくらいしか使えない。

 メールは何度か妹たちに教えたもらったものの、受信したメールを読むことはできても送信はできない。

 また、メールを読んでいると、よく分からない請求がきたりしてとても焦る。

 メール、怖い。


 俺が使い方を間違えているのかもしれないけれど、少し間違っただけでお金を請求される機械とか、怖すぎて使う気が起きない。


 そんな感じなので、今流行りのスマートフォンだとかタブレットだとかは全く理解できないので、シニア向けのガラケーとかいう物を使っている。


 電話なんだから通話ができればいいじゃないか。

 おまけにカメラがついているだけで最高だよ。


 音楽? ゲーム? 地図?


 音楽は好きだけれど、状況を考えずに聴いていたら物音での異変に気がつかないかもしれないし、ゲームより現実の方が忙しい。地図なんて空か地面が見えていれば迷うことなんてない。


 使えないから言っているわけではなく、必要が無いだけ。


 ……まあ、妹たちがスマートフォンをスマートに使いこなしている姿に憧れがないわけではないけれど、タッチパネルとやらはなぜか俺には反応してくれないので、使いようがないのだ。



 さておき、カメラに写った俺の姿は、色素の薄い白い肌に紅い瞳。そして、父親譲りの銀の髪。

 男のくせに長髪――肩甲骨の下辺りまで伸ばしているのは俺の趣味ではなく、妹たちが「髪だけは綺麗なんだから、長髪の方が良い」と言って譲らないからだ。


 それでも、彼女たちの言い分を全て聞いていると腰の辺りまでの長髪になってしまうので、度重なる交渉の末にこの長さに落ち着いている。


 そこまではいい。

 見慣れた自分の姿だ。


 しかし、母親譲りの大きくクッキリとした目と、高さはそこそこあるものの小さめの鼻に、白い肌に良く映える薄いピンクの唇。


 全体的に幼さの残る中性的(※個人の感想です)な顔――やはり、おかしい。俺、今年で24歳だよ?

 今朝見た俺の顔と違うよ!?


 カメラに映っている俺の顔は、年の離れた妹たちと同年代といっても違和感が無い。

 カメラの故障かと思ってもう一度撮ってみたものの、結果は大して変わらない。


 どう見ても7、8年ほど前の自分の姿にしか見えなかった。

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