02 移動
誤字脱字等修正。
出発前夜、リリーとミーティアが、彼女たち用に出来上がった服を見せにきた。
なお、リリーの服は町で調達しようと思って頼んでいなかったのだけれど、ついでだからと作ってくれたのだそうだ。
賢者様お手製の服とか、町で買えばいくらするのだろう。
さておき、そのリリーが着ているのは、腰の部分に大きな尻尾穴が開いていて、着用時にはその隙間を覆い隠すような大きなリボンが付いている、白を基調としたワンピースだ。
成長期であることを考慮して若干大きめに作っているというそれは、胸元や腋の辺りの隙間が少々気になるけれど、それ以上に、その言葉と矛盾する丈の短さがとても気になった。
この世界の女性は、太ももを出さなければいけない決まりでもあるのだろうか?
いや、アイリスさんだけは丈の長い袴を穿いていた。
しかし、騎士さんやミントさんも太ももを出していたし……?
視線誘導――いや、子供に視線を誘導しようなどと、どんな外道か。
とはいえ、仮にも賢者と呼ばれる人が作ったものだ。
そんなはずはないと思いたい。
もしかすると、布の量の問題で、ロングスカートのような物は身分の高い人にしか着られないのかもしれない。
ロリコン対策は必須だけれど、やんごとない身分と勘違いされて、誘拐や犯罪に巻き込まれるのもまずい。
そう考えると合理的なのか?
まあ、その辺りは俺が注意すればいいとして、感想を求めて息を呑んでいるリリーに「とても似合っているよ。うん、可愛い」と声をかけると、照れてクネクネと身悶えしていた。
可愛いなあ、もう!
次にミーティアの服だけれど、確かに以前のようにただの布ではなくなっていた。
しかし、誰がどう見てもビキニスタイルの水着にしか見えない。
さらに、パンツ部分は尻尾を出すことを考慮したのか、ローライズになっていた。
パレオのような腰布がなければ危ないところだったと言いたかったけれど、その腰布もシースルー素材だ。
そもそも、なぜ尻尾を出すことを考慮したのか。
尻尾が出ていなければお尻がほぼ丸出しになるのだけれど、恥ずかしくないのか――などと問い質すも、見たければ見ればよい――と、当然のように答えられた。
確かにプロポーションはとても良いと思う。
身長も俺より頭ひとつ分以上高く、堂々とした姿はモデルのようで、いやらしさは感じない。
また、パレオ同様の薄い布でできた羽衣のような物を羽織っていて、自前のネックレスやブレスレット、アンクレットなどで着飾る姿は、何となくどこかの民族衣装のような趣になっている。
なお、彼女が身に付けているアクセサリー類は、彼女を襲ってきた冒険者からの戦利品らしい。
好き好んで竜に挑むレベルの人たち――中でも名誉を求めて戦うような人は、かなり価値の高い装備品や所持品を所持しているらしい。
そして、竜は綺麗なものを集める習性がある。
つまり、竜の討伐とは、キャリーオーバーの発生している宝籤のようなものらしく、それが危険を承知で竜に挑む原因のひとつにもなっているそうだ。
そんなことはさておき、ミーティアにも感想を言っておくべきかと思う。
言わないと機嫌が悪くなるかもしれない。
俺は妹たちからそれを学んでいるのだ。
「露出が増えているのだけれど」
似合っているのは言うまでもない。
というか、堂々としていれば、大体のことは勢いで押し通せるのは経験則として知っている。
どんなに荒唐無稽なことでも、堂々としていさえすれば、相手の方が「あれ? 俺の方が間違っているの?」と不安になるものなのだ。
「ミーティア殿が、翼と尻尾の出せる服と言うのでこうなった。我ながら快作なのだよ」
「うむ。良い出来じゃ。この調子で精進するがよい」
クリスさんやミーティアが満足でも、俺にはとても気になることがある。
「捕まらない?」
いやらしさは感じなくても、お尻が出ている。
それに、胸の方も装飾は多いものの布地が少ない。
「あまり褒められたものではありませんが、冒険者の中にはもっと酷い装備の方もおられますので、捕まることまではないかと……」
俺の疑問に答えたのはアイリスさんだった。
教会では、現代の病院のように、怪我人や病人や死人を治す仕事もしているため、様々な人がやってくるそうだ。
その中で、いろいろとアレな人も見てきたらしい。
大変な職場だ。
そんな人たちと比較するのはどうかと思うけれど、今更作り直すことなどできないし、捕まらないという言葉を信じるしかない。
捕まったら見捨てて逃げる――いや、この場合、見捨てているのはミーティアなのか、逆ギレを食らうであろう人々か。
◇◇◇
移動開始日。
アルスの町までは、アイリスさんたちが乗ってきた馬や馬車を使う。
個人的には、ミーティアに適当なところまで運んでもらいたかったのだけれど、ミーティアが騎士さんたちを運ぶことを本気で嫌がったために、陸路で行くことになったのだ。
その時に騎士さんたちが、少しくらい食い下がれば結果は違っていたのかもしれないけれど、少し凄まれたくらいで竦んでしまうようでは望みはなかった。
下手にミーティアを刺激して、アイリスさんが巻き込まれることを恐れて安全策を採ったのかもしれないけれど、意気を見せることと敵対することは違うと思う。
クリスさんたちとアイリスさんはともかく、リリーにもできていることができないのは、俺から見ても情けなく見えてしまう。
もちろん、騎士さんたちを置いて、アイリスさんを連れて先にアルスへ向かう案もあったのだけれど、やたらと俺に反発する――むしろ、敵意を持っているとしか思えない騎士キースさんによって反対された。
なお、彼が反対した理由としては、
「アイリス様が早く戻ること自体には反対しない。だが、私たちも戻らないと、アイリス様がその責を負うことになる。その上、アイリス様がどのような証言をされようと、それを証明する者がいなければ信じてもらえない」
などといった、もっともらしいものだった。
それに、ミーティアが飛べばあっという間の距離でも、馬車では森の端からアルスまでは7日くらいかかる。
そこまでの差があると、アイリスさんの移動手段について詮索されかねないという理由もある。
まあ、どんな理由を並べられようと、俺には時間を無駄にしていられる余裕が無いので、のんびり馬車での旅など認めない。
なので、俺が馬車を牽くことにした。
アイリスさんの乗ってきた大型の馬車は、詰めれば全員が乗ることも可能な広さがある。
さらに、馬車には過去の勇者がもたらした知識によって、ゴムタイヤこそ履いていないものの、サスペンションやダンパー的なものが取り付けてあった。
もちろん、若くして召喚された日本人が、サスペンションなどの構造を詳しく知っているはずはなく、不明な原理は魔法で代用しているそうだけれど。
これらの高額な魔法道具を搭載している馬車は、かなりの地位とお金を持っている人しか乗れないものである。
現に、荷馬車の方にはそんな物は付いていなかった。
とはいえ、いくら工夫をしているところで、俺の本気の走り――それ以前に呪いにも耐えられるものではない。
結論。
俺が馬車を背負って走る。
空気抵抗は増えるけれど、多少なりとも良い錘になる。
できれば馬も担いで走りたいところだけれど、手は塞がっているし、キャリアもないので、朔の中に取り込んでいる。
生物を取り込むところを見られるとまずいのは理解しているけれど、しばらくは並走させていたし、取り込む時には、御者台に座って愉快そうにしているミーティア以外は振り落とされないよう必死になっていたので、気づかれることはなかっただろう。
もちろん、揺らしたのはわざとだ。
揺らさないように走ることもできるけれど、乗員の快適性より俺の事情を優先した。
勇者よ、サスペンションが駄目とはいわないけれど、どうせ付けるならシートベルトなどの安全装置が最優先だと思うよ。
◇◇◇
人目につかないように、街道を外れてかなり遠回りをしても、町とか村に近づくにつれて、行き来する人の数は増えてくる。
それらの人たちは、俺の目にもかなり遠目なので、まだ気づかれてはいないと思うけれど、土煙を上げて走っていては、気づかれるのも時間の問題だろう。
バレる前に少しずつペースを落としていって、それでも限界かと思われるところで馬を取り出して、馬車を下ろす。
停車したのは分かっていると思うのだけれど、馬車の中に動きがない。
もしかして、最後まで俺に牽かせるつもりなのだろうか?
そのまましばらく待っていると、馬車の扉が「ギィィィ」と軋みながらゆっくりと開いて、そこから真っ青な顔をした騎士さんたちが、のそのそと這い出してきた。
そして、地面に倒れ込むなり嘔吐した――いや、吐こうとして喘いでいる。
彼らから漂ってくる強烈な匂いから察するに、既に散々吐いた後で、胃液くらいしか出るものがないのだろう。
酔ったのだろうか?
それとも悪阻か。
確かに、最初の方で揺らしたのはわざとだ。
しかし、その後は人目につくかもしれない街道を避けて、不整地――というか、原野とか岩場を走ったけれど、揺れは馬車を壊さない程度に抑えている。
勘の良い人なら、「ユーリ君の走りも慣れてきたな」と思うのではないだろうか?
時折、獣型の魔物と遭遇したので撥ねに行ったり、巨大な虫と遭遇したので回避行動を取ったりもしたけれど、そこまで揺らしたつもりはない。
馬車が壊れていないのがその証明で――というか、《転移》の気持ち悪さより遥かにマシだと思う。
現に、アイリスさんは平気な顔をしているし、コレットやリリーも顔色は悪いけれど、彼らのように立てないほどではない。
恐らく、ふたりの被害は、馬車内の吐瀉物塗れの惨状によるものだろう(※アイリスは自身の回復魔法により耐えきり、コレットは何度か死にかけていたが、最終的にはレベルアップギフトで体力魔力が全快して立ち直った。リリーは忍耐のスキルで耐えきっている。また、朔は馬車内の様子を把握していたが、ユーリに伝える必要はないと放置していた)。
さて、どうしたものか。
分かっていることは、騎士さんたちが揃って行動不能なこと。
ついでに、馬車も清掃しないと使えそうにない。
そして、彼らは既に回復薬の過剰摂取状態――【魔力酔い】といわれる状態で、これは自然回復以外の回復手段がないらしい。
俺のご飯もこの状況では役に立たないか――本音をいうと、今の彼らとはかかわりたくないので、役に立たないことにしておこう。
医食同源という言葉もあるし、過剰摂取に拍車をかけるだけだろう。
というか、アイリスさんが彼らに回復魔法を使わないのが答えなのだろう。
アルスの町までの正規ルートは、この先にある小さな町を経由してから、【剣岳】と呼ばれる険しい山と、【絶望の谷】と呼ばれる深い谷を迂回するルートで四日くらい。
迂回せずに越えようとすると、大体死ぬ――というか、馬車では通れない。
しかし、越えることができれば、アルスまで目と鼻の先。
今日中にアルスに着くことも不可能ではない。
もちろん、騎士さんたちの回復を待っていてはとても無理だ。
というか、ここで日が暮れるのではないだろうか。
アイリスさんも困っている。
それを察して最後の意地を見せたか、カインさんが息も絶え絶えに、剣を杖代わりにして立ち上がった。
「我々の、ことは、いい――先に――――我々も、数日内に、戻る」
先に行け、ということだろうか?
「恐怖に屈しおったか」
「い、いや、ここまで、戻れば、充分、だ」
ミーティアの追及は否定するものの、彼らは俺ともミーティアとも目を合わせようとはしない。
リリーでも耐えたというのに、そんなに怖かったのか。
何にしても、彼らがそれでいいというなら、俺にとっても都合が良い。
というか、比較的平坦な道でこれでは、ここからの山越え谷越えは、彼らの生命にとっても山場になってしまう可能性がある。
もっとも、全てはアイリスさんの判断にかかっているのだけれど。
◇◇◇
騎士さんたちに見送られて、アイリスさんとリリーを抱えて竜型となったミーティアに乗り、空へと上がる。
物資はもちろん、馬車や馬もそのまま置いてきたので、多少なりとも体力が回復すれば、最寄りの町にでも向かうだろう。
山を飛び谷を越えれば、今度は広大な森林が広がっていて、その遙か先には巨大な湖が見えた。
アイリスさんに聞いたところ、その湖は直径にして約六十キロメートルほどもあるらしく、伝承では、大昔の勇者召喚で事故が起こった時にできたものだそうだ。
その湖の中央には、湖の面積の約二割を占める大きさの島がある。
この島は、五百年ほど前に突然姿を現したものだそうだ。
当時の文献を信じるなら、出現直後の状態で既に草木が生い茂っていたらしく、地殻変動の類ではないらしい。
恐らく、ファンタジー的な何かなのだろう。
ファンタジー、何でもありだな。
また、島には廃墟と化した市街地があって、事故以前に存在した町ではないかと推測されているものの、島には強大な魔物が多数生息していることもあって、危険度と見返りの都合から、調査はほとんど行われていない。
しかし、この島の中心部には世界最大級の地下迷宮があって、迷宮で獲得できる希少な物品の数々や、王国やギルドから最深部到達に莫大な懸賞金が懸けられていることもあって、島に挑めるレベルの冒険者たちには、そちらの攻略の方が人気らしい。
その迷宮攻略の最前線のひとつが、湖に隣接した大都市アルスである。
そこには一獲千金を夢見る人や、その恩恵にあずかろうとする人たちで賑わっているそうだ。
◇◇◇
町の近くでは、人目につかずにミーティアの降りられる場所が見つからなかったので、ひとまず人の姿の見えない湿地帯の端に着陸してもらう。
そこからは徒歩でアルスの町を目指すことになった。
そんなこんなで、アルスに入る人の列に並べたのは、空が茜色に染まり始めた頃だった。
アイリスさんは、ひと足先に、貴族用の入場口から町へ入っている。
もちろん、見捨てられたとかそういうことではなく、当面の間はアイリスさんとの関係や俺の活躍は伏せておくことになっているので、当然の行動である。
俺の自由を制限しないための配慮だそうだ。
情報を公開するのは、年明け――王都で開かれる、新年会の場を予定しているらしい。
二か月以上も先の話になってしまうけれど、根回しや工作などを考えればむしろ時間が足りないくらいらしく、俺ひとりが焦ったところでどうしようもない。
アルスの町も、俺が攻略した砦ほどではないけれど、高い壁に囲まれていて、堀や跳ね橋、防衛用の兵装が完備された城塞都市――というより、要塞都市だった。
島の魔物は湖に阻まれていて、湖にはそこまで危険度の高い魔物は存在しないため、決して人間の領域の最前線ではない。
しかし、その防衛線も絶対のものではなく、網の目を抜けてくることもあれば、突破されたり後退させられることもなくはないので、どの町にも備えは必要なのだとか。
そんな事情があるからか、列に並んでいる人たちは、少し離れた所で行われている戦闘にも興味が無いようで、誰も見向きもしない。
戦っているのが魔物ではなく、大きな猪のような獣だからかもしれないけれど、それを相手にしているのも、どうにも危なっかしい様子の少年少女たちだ。
「あれでも冒険者学校の生徒だ。手際は悪いが、まあ大丈夫だろうさ」
「万が一があっても、お嬢さん方は俺たちが守ってやるから心配すんなって!」
俺が彼らの戦闘風景をずっと眺めていたのを、不安を覚えていると勘違いさせたのか、後ろに並んでいた商人さんらしき人の護衛さんたちが話しかけてきた。
彼らが守らなければならないのはクライアントだと思うのだけれど、厚意を無下にして気分を害されたり、トラブルにもなっても困る。
どのみち彼らの出番はないだろうし、並んでいる間だけの関係だ――と、「お嬢さん」という誤解も解かずに「ありがとうございます」とにっこり微笑んで返しておいた。
「「「任せとけ!」」」
いい気になる商人さんと護衛の人。
いつの間にか、商人さんも交じっていた。
何にしても、平和的解決って素晴らしい。
社会経験が活きたな。
それだけのことだったはずなのに、なぜか俺も俺もと屈強そうな人たちが集まってきて、いつしか結構な人だかりができていた。
当然、すぐに衛兵さんがやってきて解散させられたけれど、なぜか俺まで怒られた上に詰所まで連行された。
解せぬ。
◇◇◇
門をくぐって、詰め所に案内されると、すぐに衛兵さんたちの様子が変わった。
実際のところは、俺たちがあのままあそこに残っていると問題が解決しそうにないからと、例外的に順番を繰り上げてくれたらしい。
「ありがとう、衛兵さん。お仕事頑張ってください」
割と本音でお礼をしたところ、今度は待機中や休憩中だった衛兵さんが集まってきて、入市手続きをしてくれることになった。
入市には身分証明の提示か、それがなければ《鑑定》なども交えた質疑応答と、入市税の支払いを済ませればオーケーだと聞いていた。
お金については、帝国の砦を潰した際に一切合切を奪ったので大金持ちだったのだけれど、その全てを亜人さんたちに補償として渡しているので、今は一銭も持っていない。
しかし、ミーティアが立て替えてくれるので問題無い。
もちろん、ヒモになるつもりはないし、リリーの教育にも悪いので、すぐに稼いで返すつもりだった。
しかし、なぜか入市税が免除された。
犯罪者対策などもあって、大都市の初回入市税は結構なお値段だと聞いていたのに。
身分証明が無い――失くしたとしても、登録地であれば少額の手数料で再発行できることに加えて、時間と費用をかければ、他の町に照会することもできる。
しかし、町の規模と比較して入市税が安価だと、リリーのように身分証明を持たない人を雇って、犯罪目的で潜り込ませる人もいるのだとか。
多くの人が暮らす町の安全を守ると考えれば当然のことで、重要なことなのだろう。
「心配するな。お嬢ちゃんの身元は俺が保証する」
「待て。それはお前より稼ぎの良い俺の役目だ。何なら、お連れの娘さんたちの分も保証するぜ」
「待つんだ。お嬢ちゃんが困っているだろう。ここはひとつ、皆で連帯してお嬢ちゃんたちの身元を保証するということでどうだ?」
なぜこんなことになっているのだろう?
この町、大丈夫だろうか?
しかし、それですぐに町に入ることができたのかというと、そうでもない。
町に来た理由を、「冒険者になるためです」と答えた途端に、「早まるな」「思い直せ」と、必死に引き止められてしまった。
リリーとミーティアも同じ理由を語って、そのまま町へ通されていたはずなのに、なぜ俺だけが止められたのか。
「いいか、自分を粗末にしちゃいかん。今がつらくても、地道にやった方が良い結果になることの方が多いのだぞ」
仰るとおりだと思います。
「お花屋さんとか、看護師さんにしときなさい。おじさんが毎日通ってあげるから」
お花屋さんはともかく、病院――この世界だと教会になるのか。信者なのか? ――いや、看護師さんに会いに来るのは信者ではなく患者のはずだ。
あれ?
患者はお医者さんに会いに来るはずなので――つまり、どういうこと?
「お嬢ちゃんが怪我でもしたら誰が責任を取るんだ!?」
俺じゃないの?
「お嬢ちゃん。冒険者ってやつの荒っぽさを分かっちゃいない。お嬢ちゃんみたいな可愛い子が、奴らの餌食になるかもしれないと思うと……!」
「あいつら、荒っぽいだけじゃない。臭いんだ。何日も風呂に入らなくても平気な奴らだからな」
確かに、冒険者は気配を消すために、周囲の匂いと同じ匂いを身体に染み込ませることもあるとは聞いたけれど、大半は魔法で匂いや汚れを落としているとも聞いた。
というか、衛兵さんたちも充分にむさ苦しいし、集団でそれぞれ思い思いに話すものだから口を挟むこともできない。
というかこれ、既に質疑応答じゃない。
『もう一度、仲間とよく話し合ってみます』
この窮地を救ってくれたのは、やはり朔だった。
「そうか、分かってくれたか!」
「困ったことがあったらおじさんを頼るといい。――何なら、おじさんとこの子になるか?」
『いえ、ご迷惑をお掛けするわけには。お気持ちだけ有り難くいただいておきますね』
「ええ子やあ!」
「遠慮せんでええんやで?」
「おじちゃんたちは、いつでもここで待ってるからな!」
涙ながらに俺に手を振る衛兵さんに見送られながら、リリーとミーティアの待っている市内へと足を踏み入れる。
衛兵さんたちのテンションがおかしかった。
人里は怖いところだ。
何にしても、朔の機転のおかげで、どうにかこの場を切り抜けることに成功した。
それでも、予定外で予想外の足止めを食らったせいで、市内に入れた頃には既に日が落ちてしまっていた。
何だか、どっと疲れてしまった。
気分だけの問題だけれど。
とにかく、しばらくこの門は使わないようにしよう。




