幕間 頑張れ、アルフォンス・B・グレイ
――アルフォンス視点――
皆さんこんにちは、アルフォンス・B・グレイです。
皆さんには、「知らないうちに大魔王を斃していた」――そんな経験はありますでしょうか?
もちろん、私にはありません。
まだボケる年齢ではないです。
◇◇◇
神器どころか神まで出てくる、想像以上にヤバい状態だったヤマトの騒動を解決して、意気揚々と凱旋してみれば、なぜか王国が宣戦布告されていた。
しかも、気前よく、西方諸国連合とキュラス神聖国の二正面だ。
西方諸国連合は懲りないなあ。
キュラス神聖国も、どうやって砂漠越えするのかと思えば、飛行船だって。
ファンタジーの定番じゃん。
いいなあ。
でも、竜の怒りを買うんじゃないの?
オルデア並み――ってほどじゃないけど、大艦隊?
え、ヤバくね?
だけど、奴らは触れてはいけないものに触れてしまった。
湯の川が動くとなれば、俺がどうこうするまでもなく、勝ちは確定。
禁忌絡みの大魔王にはユノが直接対応するらしいし、油断するわけじゃないけど、ヤマトの件の後だとボーナスステージにしか思えない。
それでも自国でのこと。
勝った後にどうするのかが一番の問題で、湯の川が絡んでいる分気を遣う。
とはいえ、彼らは基本的に「ユノかわ」「さすユノ」させておけば問題無い。
問題は、ユノのことを知らない奴らが、彼らを見たときに感じる狂気。
これをどう取り繕うかだ。
そいつらの前でユノに歌わせれば一発だと思うけど、そういう目的で「歌ってくれ」とは言いにくい。
勝手な言い分だけど、ユノには明るく楽しい場で歌ってほしい。
特に、ヤマトでは、神の真似事までさせちゃったし、こっちで対処できることはこっちで、俺個人でもできることがあれば、何かの形で返していきたい。
それは追々考えるとして、喫緊の問題は、時間が足りないことだ。
間に合わなかったよりは遥かにマシだけど。
とりあえず、湯の川の人たちには、これがユノの敵を斃す戦いじゃなくて、ユノの素晴らしさを広めるための戦いなのだと吹き込むことで、ある程度のコントロールは可能になった――はずだけど、細部を詰める時間が足りない。
でも、そこまでが限界。
世界各地にユノの噂を流さなきゃならなかったこともあって、彼らの指導は巫女さんたちに任せるほかなかった。
うちの領地の方は、古竜4頭と大魔王に魔王の混成軍で、負けることはないとして、やりすぎないかが心配だった。
だから、王都で報告やら仕込みをして、一度様子を見に戻ってきたら、戦争が終わってた。
結果は、乾いた笑いしか出ないようなドン勝ちだったそうだ。
笑って済ませる程度でよかった。
西方諸国連合の兵士たちは、悪夢と奇跡を立て続けに見させられたことで、ゴリゴリにSAN値を削られたっぽい。
オルデアの兵士たちと同じ――いや、ちょっと顔色が悪かったけど、まあ、許容範囲だろ。
そこに巫女さんたちが刷り込みを行った。
思いのほかいい感じに仕上がった。
少なくとも、ユノの歌よりはいい塩梅だと思う。
とにかく、これで、彼らはそれぞれの国へ戻って、内部をかき回す駒となってくれることだろう。
きっと、彼らの国からは抗議が来るだろう。
だけど、それを封じるために、あちこちでユノの噂を流したんだし、敗戦国の彼らが何を言おうと、負け犬の遠吠えにすらならないように手を打ってたんだ。
むしろ、みっともなく吠えてくれた方が、国内外での求心力を失うことになっていいと思う。
クーデターが起きない程度に混乱してくれると嬉しいね。
何にせよ、これで西方諸国連合が敵対してくることは、しばらく――俺が生きている間くらいはないだろう。
ちなみに、この戦いで最も優れた働きをしたのは、ユノからの差し入れを持ってきた俺らしい。
湯の川らしい評価基準だ。
次点で、飛行戦艦を鹵獲したカンナさんだ。
何とも理不尽だ。
彼女はMVPに選ばれなかったことをとても悔しがってたけど、MVPの賞品としてユノの焼酎を渡したら、途端に上機嫌になった。
竜って想像以上にチョロい生物だった。
ってか、他の古竜たちが物欲しそうな目で俺を見詰めていた。
みんな人型になっているとはいえ、ついさっきまで人間の心の支え――科学と物量、言葉どおり、人間の最後の砦を嘲笑うかのように翻弄した存在がだ。
まあ、いいんだけど。
そんな彼らが束になっても敵わなかった竜神とかいうヤバい存在とか、それを誰にも理解できない方法であっさりと斃すユノとか、既に人間が対処できるレベルじゃなくなってる。
そっち方面で張り合うのは、命がいくつあっても足りない。
息子たちの教育方針も、文の比重を上げた文武両道に変更した方がいい。
そういう意味では、湯の川に連れてきてよかった。
本物の神様がいる中で「神童」なんて、口にするのも憚られる。
というか、レオンも早々にリリーちゃんに凹まされて世界の広さを知った。
魔王や竜のワゴンセール状態の湯の川で慢心するほど、ほかの子たちも莫迦ではないはずだ。
でも、レオンの将来の夢は「ユノの騎士」らしい。
残念だけど、それは人間には務まらない。
大人になれば分かる。
俺の跡を継いで、王国の一貴族、湯の川との最寄りの窓口として、立場を確立させるのが現実的だと。
湯の川がもう少し――少しどころじゃなく一般的な町なら、軍師ポジを狙ってもよかったのかもしれない。
でも、レベル差に任せて、物理で殴れば事足りる人ばかりのところだよ。
軍師の仕事なんてないだろ。
そもそも、彼らがユノ以外の指示を聞くとは思えないしな。
いや、どうでもいい時は従ってくれるかもしれない。
だけど、熱くなったらきっと忘れられる。
例外としては、巫女さんたちだろうか。
彼女たちはユノの代弁者だからな。
彼女たち自身が時々暴走するっぽいけど。
その巫女さんたちが挙って向かったアズマ公爵領の方も、さっき連絡してみたら、無事に片付いたとのこと。
何かバタバタしてたみたいだけど。
それで、予定より少し遅れそうだけど、すぐに戻る――と、特に応援の必要は無さそうな感じ。
むしろ、来られると困る感じに聞こえた。
ちょっと心配だけど、十六夜もいるし、そんな酷いことにはなってないだろう。
それに、俺はアズマ公爵家の人には嫌われてるしな。
で、あっちでも出たとこ勝負で片付いたってことは、やっぱり軍師の需要がないことを証明してるわけだ。
悪いことはいわん。
ひとりの人間として友人になれるように、無理に背伸びせずに、自分でできる範囲で頑張ればいいんだよ。
◇◇◇
戦争は、短時間で一方的に終わった。
被害はそんなに出てない。
というか、小競り合いでも、普通はもっと被害が出る。
で、勝者の権利として、兵器の大半は没収させてもらった――いや、聖樹教に喜捨されたといったほうがいいかも。
うちの取り分は無いしな。
久々の大赤字だ。
でも、儲けてばかりだと反感も買うし、これくらいなら許容範囲。
貴重な人材が消費されたり、流出しなくてよかった。
翌日、西方諸国連合軍は、最低限の――本当に最低限の車両と物資だけを持って、名残惜しそうに帰途に就いた。
帰ってからまた飲むぞと、意気揚々と引き揚げた湯の川の人たちとは対照的だ。
まあ、西方諸国連合軍の方は、帰途も危険でいっぱいだからな。
下っ端の兵士には多少同情するけど、まあ、頑張れとしかいえん。
湯の川の方は、クリス特製の転移装置で、あっという間に湯の川の町外れに到着できる。
帰ったらすぐに祝勝会だろうな。
普段なら「転移など邪道だー」って口を揃えて言う古竜たちも、宴会の魅力には勝てずに、黙って転移装置を利用していた。
最後にその転移装置を回収して、自力で戻らなきゃいけない――じゃんけんで負けたアーサーさんは、世界の全てを呪っていたけど。
竜眼で未来見えるんじゃなかったのか?
何やってんだあの人?
◇◇◇
湯の川の町を東西に走り、神殿に至るメインストリート。
その名を「けもの道」。
ちなみに、神殿から城へと続く橋は、「キャットウォーク」という。
この町の人のネーミングセンスは、なかなかユニークだ。
町外れのポータルから、けもの道を通って神殿前の広場へと向かう途中、前の戦争では、勝利の後に、領地や王都で凱旋パレードをしたことを思い出した。
もちろん、イキってたとか、そいういうんじゃなくて、政治の一環として。
戦後復興に、お金も物資も労働力も必要で、しばらくは多少なりとも生活レベルは落ちる。
仕事は増えるけど、賃金は大して上がらん。
将来的には元の水準に戻るはずだけど、「だから、みんなそれまで我慢しましょう」って言っても、「分かりました!」とはなかなかならん。
で、分かりやすい英雄作り上げて不満の矛先逸らしというか、話題のすり替えというか。
英雄誕生の裏側は、権謀術数とかでドロドロだったんだよな。
そんな裏の無い湯の川では、出迎えてくれる人はごく少数だった。
というか、俺たちが帰るのは事前に報告しているので、みんな宴会の準備をしているらしい。
完全に日常だった。
まあ、出発してから三日しか経っていないし、その大半は準備だったり待機だったり、大半は食っちゃ寝していただけのほぼピクニックだったらしいし。
そんな盛大な凱旋パレードをされても、恥ずかしいだけだろう。
そんな中で、俺をわざわざ出迎えに来てくれたのは、息子のレオンだ。
息子には、元人間の魔王と同じ名前で苦労を掛けてしまって、申し訳なく思ってる。
だけど、こんな泡沫魔王の名前なんて知らなかったんだ。
知ってたら回避してたよ。
いや、レオンもいい奴なんだけど。
そんな逆境にも負けず、湯の川に来てからの息子は、それ以前の俺や家族以外に対する高慢さも消えて、素直で向上心に満ち溢れた良い子になった。
今後もその調子で努力して、名前の持つイメージを覆してほしい。
ちなみに、嫁たちが出迎えに来ていないのは、宴会の準備をしているか、ユノとお茶でもしてるんだろう。
お風呂かもしれない。
最近の彼女たちは、俺よりユノと仲良くしたいようで……。
どうにもNTR感が半端ないけど、別枠とか言い出したのは俺だし、俺も狙ってるから文句は言えない。
むしろ、みんな一緒にとか、間接でもいいかもしれないとか思う。
末期かもしれない。
そんなことよりもだ。
息子の――レオンのレベルがめっちゃ上がってる。
男子三日会わざれば刮目して見よとか、そういうレベルの話じゃない。
レベルだけじゃなくて、「大魔王殺し」の称号が増えてたり、神槍――ヤマトの勇者が持ってた槍を持ってるとか、俺がいない間に何があったの?
しかも、本人には大魔王殺しに心当たりがないらしい。
本当に何があったのかすぎる。
大魔王――この町にいるのは、ソフィアさんとレオナルドさんだけど、レオナルドさんはこっちで大暴れしていたし、ソフィアさんを殺すと、さすがにユノが黙っていないのではないだろうか?
それ以外の大魔王――邪眼の大魔王はゴブリンの大魔王に囚われてた?
そのゴブリンはユノがやることになってたし――もう終わった?
邪眼の大魔王も湯の川に越してきた?
またかよ。
ってことで、その両者は除外。
アナスタシアさんたちは――ないな。
となると、可能性的には不浄か不死か。
我が子のことでなけりゃ、「湯の川だしそういうこともあるかな」って流したかもしれない。
だけど、我が子のことだとそうはいかない。
何が起こったのかは正確に把握しておくべきだと思って、宴会の最中にいろんな人の話を聞いて回った。
だけど、ほとんどの人が何が起こったのかを知らない。
それどころ、ほとんどの人がその有名な大魔王のことを知らない。
これはさすがに異常すぎる。
大魔王だぞ?
恐怖の象徴として、そこらの子供でも知ってる――はずなのに、俺の方が異世界にでも来たのかと思うくらいに話が噛み合わない。
それでも、意外なところで、不浄の大魔王のことを覚えてる人を見つけることができた。
いや、意外といえば失礼になるか?
元ヤマトの勇者トシヤのことだ。
やっぱり、正直にいって意外だ。
彼は、飽くなき探求者だとか挑戦者で、恐らく、エリクサーR――ポーション全般を直腸摂取すると効果が倍増するスキルを発現させた、世界で初めての人物だ。
というか、貴重な神薬をケツに挿すとか、常人の思考回路ではあり得ない。
挑戦者っていうか、変質者だ。
とにかく、彼は事の次第を記憶していて、その彼の話を聞くことで、おおよその事情を知ることができたけど――。
彼の話では、大魔王ダミアンが、単身で湯の川に攻めてきたそうだ。
正確には、黒竜も一緒に来たらしいけど、町中で暴れたのはダミアンだけだったらしい。
にわかには信じがたい話だけど、彼の話に登場するダミアンは、大魔王として相応しい、測り知れない力を持っていることは充分に伝わってきた。
それに、トシヤもレベルの大幅な上昇と、「大魔王殺し」の称号が増えていたし。
それと、「門の勇者」とかも。
それは一体どこうの門なんですかねえ!?
……それはおいといて、そんなダミアンが、湯の川の特異性に翻弄されて、困惑している姿は容易に想像できた。
湯の川を戦場にするという判断がまず間違い。
それに、子供たちに手を出したら、間違いなくユノの逆鱗に触れる。
ダミアンが誰にも覚えられていないのは、それが原因じゃないかな。
でも、ジョセフィーヌって誰?
とにかく、ちょくちょくユノが口にしていた「存在の侵食」――それをやるとこうなるのか?
世界から、その存在が抹消される感じになるってこと?
何それめっちゃ怖いんですけど。
さらに、駄目元でもう少し確認してみたところ、ダミアンのことを覚えてたのは、ユノに近しい人たちばかりだった。
付き合いが同じくらいのトシヤは覚えていて、魔王のレオンが覚えていなかったあたり、エリクサーRの直腸摂取が関係しているのか?
もちろん、ユノ本人にも訊いた。
分かったような、分からないような……。
言葉の上では理解できても、本質的なところはさっぱり分からん。
これも、ユノが言う「存在の階梯」が、俺たちの場合はそこに至っていないからで、「じゃあ、まずは肉体と魂と精神を合一させて――何でできないの?」と首を傾げられても、こっちが困る。
まあ、そんなユノが見守っている中で、子供たちに事故があるとは考えにくいけど、人間には人間なりの悩みとか縛りがあるのだ。
例えば、「大魔王殺し」の称号。
ユノの目線では分からんかもしれないけど、「フラグ」って本当にあるんだ。
人間は誰しも、自分という物語の主人公なんだ。
大魔王を斃したという結果は、この先同等以上の原因となって、レオンに降りかかる可能性がある。
もちろん、子供のうちは大人が庇護してあげないと――っていうのはユノと同じ想いだけど、大魔王クラスになると、もう俺の手には負えないんだよ?
ああ、魔王の方のレオンやトシヤは、もう分別ある大人だし、自力でどうにかしてほしい。
とにかく、ユノは視点が違いすぎて、俺たちの力の差とかが全く分かってない。
いや、分かってても、視点が違うから、問題も違って見えてるのかも?
どっちにしても、ユノから見たら問題未満でも、俺たちにとっては越えられない壁なんだよ!
そのあたり、ちょっとガツンと言っておかなくてはならん。
ついでに、ちょっとセクハラしとくか――と、多少酔っ払っていたところに、大魔王アナスタシアさんから連絡が入った。
<近く湯の川に行くから、それまでユノちゃん大人しくさせておいて>
言いたいことは分かるけど、無茶振りすぎる。
っていうか、何で俺に言うの?
アナスタシアさんの名前を出したらユノに警戒されてしまって、セクハラできなかったよ。
◇◇◇
それから数日後。
「――ということだから、ユノちゃんにはお姉さんたちに、できれば『何をするつもりなのか』、最悪でも『何をしてきたのか』の報告をしてほしいの。何をするつもりなのかを教えてもらえれば、お姉さんたちで対処できることならそうしてもいいし、何をしてきたのかが分かれば、被害を最小に抑えられるようにするわ」
連日の宴会が終わったところで、アナスタシアさんやフレイヤ様という錚々たる神格保持者たちが、ユノに申入れを行っていた。
その中に何で俺がいるのか――むしろ、中心に据えられてるような気がするのが謎なんだけど、想いはみんな同じである。
「別にあんたの行動を縛ろうとか、そういうことじゃないの。ただ、そうしてくれるとお互いにいいんじゃないかってこと」
『監視に限界を感じたってところかな? まあ、ユノは自由に分体出せるし、突発的な言動はボクにも制御不能だからねえ』
「あのね、ユノちゃんと朔ちゃんからの魔界の状況報告は、とっても助かってるのよ? でも、原因がユノちゃんになかったとしても、ダミアンの件とか、ディアナの件とか、教えてくれてたら私たちの方でも何かできたかもしれないの」
「ディアナがあたしのところ――前の拠点だけど、保護してくれって押しかけてきたのよ。何かもう、見てるのも気の毒なくらいやつれてて、あんまり好きな子じゃなかったけど、さすがに追い返すとかできなかったわ。で、何を訊いても答えない――っていうか、心が壊れちゃってるみたいだし、仮にも神がどう追い込まれればあんなになるの?」
「呼ばれたから行っただけ、だったと思う。それで――何をしたのかな……?」
『どっちも突発的なことだったからね。君たちに連絡できるような状況じゃなかったけど、言いたいことは分かるよ』
朔の言い分はよく分かる。
問題がいつ来るか分れば誰も苦労しない。
でも、神様廃人にしといて本気で覚えてないとか、さすがに引く。
『それで、ディアナには確か、秩序が大事なら、ボクたちに手を出すなって釘を刺しただけだよ』
釘って何?
物理?
魂に直接撃ち込んだの?
「対処としては間違ってない気もするけど……。ユノちゃんにとっては軽く言っただけのつもりでも、相手からしてみたら死ぬより怖いことかもしれないの。何でもユノちゃん基準で考えちゃ駄目。私たちは脆弱なのよ?」
大魔王が脆弱とか言っちゃってるよ。
「ディアナのこともそうだけど、あんた、ダミアンに何したの? 浄化の炎みたいに見えたけど、人の記憶からも消えるって、何をどうしたらそうなるの?」
「存在が崩壊しただけ」
「それは『だけ』って言っていいものなのか?」
ヤベ、思わずツッコんじゃった。
「これは肉も焼けない出来損ないの炎で、個くらいしか崩壊させられないから大丈夫。それに、あれは制御無しでやったやつだから、ちゃんと制御していれば、根源や他人の記憶にまでは干渉しないようにできるはず」
ユノが、唐突に、火の魔力や熱を全く感じさせない、白っぽい炎を出現させた。
何か現実味が乏しくて、見てると不安になる――多分、SAN値が削られてる。
危険性は何となく理解できるけど、どれだけヤバいものなのか想像もつかない。
でも、肉と何の関係が?
それに、大丈夫なようには全く聞こえない。
「こっちはヤバいからまだ調整中――っていっても、こっちも肉は焼けないのだけれど」
こっちは何も言っていないのに、そう言って新たに出現させたのは、黒っぽい――ユノの髪や翼と似た色をした炎だ。
SAN値減少ペースが加速している気がする。
ってか、その謎の肉への拘りは何だ!?
「えーっと、さっきのでも充分ヤバいと思うんだけど、それはどうヤバいの?」
「さっきのは害虫駆除用。こっちのは普通の攻撃用。といっても、侵食の強度というか深度が違うだけだけれど。というか、この能力って何の役に立つのかな? 侵食だけなら領域で充分だし」
「「「……」」」
何を言っているのかは不明だけど、害虫駆除で大魔王が死ぬ――消える? のに、何を攻撃するつもりなのか。
とにかく、ヤバさの次元が違うことは分かった。
頭の方も。
それでも、魔法っぽい形になってるだけ、ユノっぽくに言うなら、「効果が限定されてる」だけまだマシなんだろうか。
「それで、ユノには面倒かもしれないけど、いろいろと報告してもらうことで、俺たちやアナスタシアさんの視点で、問題がないか検証しようとか対処しようってことだと思うんだけど」
気を取り直して、本題へと話を戻す。
何で俺が――とは思うけど、ここにはそんなプレッシャーがあるから仕方がない。
それでも、ディアナっていう女神がどうとかは俺には関係無い。
かかわりたくない。
そもそも、アナスタシアさんたちだって、俺の視点での問題なんて気にしてない。
俺は、ユノの心証を考えた上で、ダシに使われてるだけだ。
アイリス様がここにいたら、アイリス様にも打診があっただろう。
「で、俺たちに何か報告しとくことない?」
「……………………あはっ」
何その不自然な間と作り笑い。尻尾はだらんと下がって忙しなく左右に揺れてるし、「疚しいことがあります」って白状してるも同然だ。
振っといて何だけど、聞きたくないよ?
アナスタシアさんやフレイヤ様も同じ気持ちのようで、何となく顔を見合わせてしまう。
「で、何やったんだ? もし困ってるなら、みんなで解決策を考えればいいし、とりあえず言ってみ?」
大魔王様と女神様に、「お前が訊くんだよ」と言われている気がしたので、渋々切り出してみたものの、嫌な予感が止まらない。
「大したことではないと思うのだけれど」
嘘を吐くな。
もしそうなら、今話しているのは朔のはずだ。
恐らく、朔ですら整理しきれない事態――面白がっている可能性もあるけど、それなら笑い話になるだけだから、まだいい。
「主神に会ってきた」
「「「………………」」」
こいつ、とんでもない爆弾投げ込みやがった!




