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幕間 竜たちの宴

――ミーティア視点――

 当初、ユノの相棒は儂だけじゃった。


 ユノは、システム的には邪神と判定されておるが、竜眼を持つ儂には、そのような安っぽいものではないことなど、ひと目で分かった。

 強さの方も、邪神――神などとは一線を画しておる。

 竜神までもが鎧袖一触(がいしゅういっしょく)とは思わなんだが、竜神すら欺く擬態を持っておるということ。

 儂らに理解できんのも、無理もないというものじゃ。



 そんな、この世で最も特別な存在を背に乗せて空を飛ぶのは、何ともいえない充足感があった。


 じゃったのに、アーサーが来て――あやつはイヌ扱いじゃからまだあれじゃが、シロやカンナの奴までもがここに来て、儂の立場が危うくなってきた。


 しかも、儂らが留守をしていた間に、パイパーの奴までもがここに住み着きおった!

 あまつさえ、ユノを背に乗せて飛んだなどと、莫迦なことを抜かす。


 貴様にはお似合いのハエがおったじゃろうが、この尻軽の節操なしめが!


 ユノもユノじゃ。

 儂というものがありながら――そもそも、黒光りしたカサカサ動くものなど、貴様の最も苦手なものではなかったのか!?

 竜の誇りを捨てた赤犬といい、色狂いの白豚といい、腹黒青狸といい、お主が乗るには相応しくないものばかりじゃぞ!?



 じゃが、そんな女々しい不満を口にすることなどできぬ。


 仮にも大魔王と呼ばれていた存在を、言葉のとおりに――しかも、どうせ大したことのない理由で消してしまうような奴に刃向かうなど、そこまでにはならんでも、酒の量が減らされそうなことなど怖くてできぬ。


 他者の記憶や特徴を喰って奪うくらいのことは知っておったが、世界から個の存在まで喰うとは、さすがの儂もドン引きじゃ。

 口惜しいが、ここは物分かりの良い良き友を演じておく必要がある。


 何だかんだといっても、ユノが一番信頼しておるのは儂じゃし、今はこの地位を不動のものにするのが先決じゃ。

 そして、いつかは世界を喰うあやつを儂が食うのじゃ。


◇◇◇


――アーサー視点――

 他人は俺のことを、「竜の誇りを捨てたイヌ」だという。


 もっとも、ユノ様から見れば、人も犬も竜も大差がない――その差が、対話の可否程度のものだということも分からぬ愚か者どもには、好きに言わせておけばいい。

 その程度のことで、ユノ様の重みや、尻の柔らかさや、尻尾でペシペシ叩かれる心地よさを感じられるのなら安いものだ。


 だが、本当に竜の誇りを失ったわけではない。

 単純にユノ様に踏まれる喜びが、ユノ様のイヌとしての誇りが、それを上回るだけだ。


 俺に言わせれば、つまらぬ誇りなどでその機会を逸している奴らの方が、よほど愚か者だ。

 ユノ様にとって、俺たちが古竜であることなど、ひとつの記号にすぎない。

 重要なのは種族ではなく、俺たち自身の個性だというのに。


 それは、アイリスやアルフォンスという人間の存在が、アンネリースという乳ばかりに栄養が行ったような直向き系ポンコツが証明している。


 当然、奴らを貶めているつもりはない。

 むしろ、ユノ様をやる気にさせるアイリスのペテンや、ユノ様の魅力を余すことなく引き出すアルフォンスのプロデュース力、かなり無茶な要求にもほぼ完璧に応えるアンネリースのパシリ力など、俺の目から見ても、奴らには強い長所がある。


 それらは竜であるだけでは――竜であるからこそ手に入らない個性で、俺たちが見習うべきものなのだ。



 それらを総合して考えると、竜なのにイヌというのは、悪くない個性ではないか?

 そのうち、ふざけてペロペロしても許されるかもしれん――いや、確実に許されるように、まずは忠犬としての地位を確立しなければなるまい。


◇◇◇


――シロ視点――

 竜に天敵が存在するなんて、思いもしなかったわ。


 もちろん、竜神すらも数の力に負けるのだし、「最強」などという言葉に大した意味が無いのは分かっていた。

 とはいえ、ある意味では不滅である古竜をも消滅させられるようなものは想定外だったわ。


 九頭竜にでも、かなり無茶だけれど対処法はあった。

 でも、あの娘への対抗手段は全く思いつかない。



 けれど、システムによって造られた災厄が、真の災厄に勝てないのも当然なこと。

 それに、戦う気も起きないくらいに差がある――差というのも烏滸(おこ)がましい相手で、幸運だったのかもしれないわ。



 プライドは置いておいて、いざ尻尾を振ってみると、これほど相性の良い娘もいない。

 可愛いし、触り心地は良いし、吸えば極上のお酒も出てくるし――本当にいろんな意味で食べちゃいたいくらい。


 もちろん、私の心はレオンのもの。

 けれど、魂はあの娘に囚われてしまったの。

 それは、きっとレオンも同じ――いつか三人で――その前にちょっと味見を――。

 おっと、涎が……。



 戦闘能力では全く敵わないけれど、あらゆる感覚が敏感というのは弱点にもなり得るのは、私も知っている。

 私とレオンが良い例ね。

 戦闘能力では私の方が彼より遥かに上だけれど、あっち方面ではレオンに負け続け。



 ヤマトで出会ったトシヤという男もそうだけれど、人間の性への飽くな探求心には本当に敵わないわね。


 まだまだレオンには及ばないけれど、私も古竜の中では歴戦の《性技》の使い手。

 あの娘はどんな顔をして、どんな声で鳴くのかしら――想像しただけで身体が火照ってくるわ。



 なのに、あの駄女神の暴走のせいでガードが厳しくなったじゃない!


 欲望駄々漏れなのが愛?

 そのサイズで豊穣?

 笑わせないでほしいわ。


 とにかく、あの目先の欲望で暴走するあの駄女神からどうにかしないと――その上で信頼を勝ち取れば、チャンスに繋がるはずよ!


◇◇◇


――カンナ視点――

 竜は群れを作らない。


 何事も卒なくこなし、脅威となる天敵もおらず――それ以前に、私たちのような存在を満たせるだけの、濃密な魔素に満ちた場所はどこにでもあるものではない。

 ゆえに、同族こそが、その場所を巡っての最大の敵となることも珍しくない。


 だが、あのシステム外の存在には、この世界の常識が通用しない。

 だというのに、あれはなぜかこの世界の――極めてローカルな常識にまで従おうとする。



 それが、元は人間だった名残――だなどと思っている者は、あれ以外におらん。


 確かに、その身体は人間のものだ。

 ただし、無駄なものが一切無く、それどころか必要なものもところどころ無く、それらの代わりが砂糖とスパイスと素敵な何かで構成されている。

 その「素敵な何か」とは一体何なのか、本人すら分かっておらん。


 そんな、物理的には動かせるはずのない身体を、気合で動かしている――それを人間といっていいのなら、人間なのだろう。



 万事がそんな感じで、奴なりに「人間に任せていたらできたもの」が湯の川という巨大都市だ。


「提供したのは魔素だけ」


 それができるのは貴様だけだ。

 頭がどうかしているとしか思えん。


「最初はもっと慎ましやかに生活するつもりだったのだけれど、アルが頑張りすぎちゃって――」


 他人のせいにするな。

 だが、これでも奴なりに加減はしているのだろう。

 あの九頭竜を、ネズミを甚振るネコのように弄ぶほどの力と比較すれば、大健闘といってもいいのかもしれない――いや、やはりあの世界樹はないわ。



「いや、私自身は魔素を外に出さないようにできるのだけれど、私が創った自動販売機が魔素を漏らしているから、それを隠そうかと思って。創っている現場さえ見られなければ、生えてきたって誤魔化せるかなーと」


 あの神々しい世界樹が、まさかこんな莫迦な理由で誕生していたなど、誰が想像できようか。


 力の大きさに比べて、頭の出来が随分とお粗末な――そこだけは本当に人間レベルの存在で、世界の脅威であることは間違いない。



 だが、そういう世界を救う役割は、未来ある若者たちに任せよう。

 老い先短い私は、あえて彼女に忠誠を捧げ、後進のためにも彼女を知ることに努めようと思う。


◇◇◇


――カムイ視点――

 ヤク〇トは美味しいから好き。


 ヤク〇トくれるユノは大好き。


 でもユノはケチ。


 カムイだってお酒が飲みたいのに、「お酒は大人になってからね」って、飲ませてくれない。

 カムイの方がユノより年上なのに……。


 でも、怒らせると怖いから、そんなことは言えない。


 訓練とかいって、かか様や銀や白や赤をまとめてボコボコにするユノは超かっこいいけど怖かった。



「カムイも大きくなったら、ボチボチとね」


 大人になったらカムイもボコボコにされるの!?


 大人になるって怖い……。

 お酒は飲みたいけど、ボコボコにされるのは嫌。

 カムイはどうしたら……?



「その前に学園行かなきゃね」


 そんな!?

 学園なんかに行ったら、カムイがユノといる時間がなくなる!


 カムイがユノと遊べるのは昼間だけ――夕方になるとあのキツネが学園から帰ってくる。


 あのキツネは、ちょっと強いからって、ユノのお膝を独り占めしようとする悪いキツネ。

 年長者としてガツンと言わなきゃいけない。

 そのうち。

 今はまだそのときじゃない。


 あのキツネはキツネなのに強くてズルいキツネだから準備が必要。


 でも大丈夫。

 グリフォンだって火を吐ける。

 カムイだって、ヤ〇ルト飲んでたら、ミルミル強くなるはず。

 いつかビフィズスキンとか吐けるようになる。

 そしたら、あのキツネを倒すんだ!


◇◇◇


――パイパー視点――

 当然のように湯の川に住み着いて、そこでの暮らしに慣れてきた頃、ユノと再会したあの日のことを唐突に思い出した。


 なぜ今まで忘れていたのか。


 あの日はダミアンに誘われて、流れ次第では暴れるつもりで湯の川にやってきたのだ。


 恐らく、ダミアンは負けたのだろう――というか、大魔王の存在を世界から消す力って何だ!?


 ついでに、禁忌に手を出したアザゼルを一蹴した彼女の姿も思い出した。

 設定とかじゃなくて、マジでヤバいやつ。


 え、俺、あんなのと戦うつもりだったのか!?


 想像しただけで震えが止まらなくなった。



「おい、貧乏揺すりを止めろ。酒が零れるじゃろうが」


「何だ、急性アルコール中毒か? ふん、力も酒も弱い軟弱者が」


「お酒が強すぎた? 大丈夫?」


「気にしなくていいのよ、ユノ。どうせお酒が入って、恥ずかしい過去を思い出したとか、そんなところでしょう」


「封印したい過去――いや、封印された力とやらが脳に回っているのだろう。そっとしておいてやるのが優しさだ」


 こいつら、人の気も知らないで好き勝手言いやがって……。

 というか、今更だけど、何で赤は尻に敷かれて得意満面なんだ!?

 何で俺がそんな奴に軟弱者とか言われなきゃならんのだ!?


 それに、何で白と青までここにいるんだよ。

 それに青の子供ってどういうことだよ?

 おい、ユノに甘えすぎだろ!?

 こっち見て嗤いやがった!?

 何なんだよ!?


 怒りのせいで震えは止まったが、喧嘩を売るにも、この中には俺より強い奴がゴロゴロいる。


 ここは、有名どころの女神とか神族とか悪魔までいるカオスな場所だ。

 俺が暴れたところで、数と質の暴力で一方的にやられるだろう。



「ヘタレが」


 このガキ!?


「うん、どうしたのカムイ?」


 くそっ、ユノを盾にしやがった!

 あのガキ、後で絶対シメて――

「パイパーって」


「んあっ!?」


「どうしたの、変な声出して? もう眠い?」


「い、いや、何でもない!」


 びっくりしたー!

 バレたのかと思ったぜ……。



「そう? パイパーって、瘴気の中でも平気なんだっけ?」


「ああ、瘴気の中でも正気を失わないってだけだぞ。多少は能力の低下も起こるし、定期的に魔素も摂取しないといけない――他の古竜と比べればかなり緩いがな」


「瘴気で正気……」


 何がツボに入ったのかは分からないが、ユノが珍しくクスクスと笑った。

 素材は非常に良いが、普段は無表情なことが多いだけに、時折見せる表情がグッとくる――アルフォンス・B・グレイが抜け目なく撮影している!?

 また新商品を作るつもりか!?

 ただでさえ、俺のような出遅れ組は貢献ポイントが足りないというのに!


 そもそも、俺以外の奴らは戦争に行って大儲けしたという――中でも、青は上手く立ち回って相当荒稼ぎしたらしい。

 羨ましい!

 運や間が悪かったといえばそれまでだが、その機会すら逸してしまったのは痛い。


 当然、ローゼンベルグまで乗せて行ったとか、アザゼル討伐に手を貸したとは間違っても口にできない。

 奴らにとって、ユノを背に乗せて飛ぶのはむしろご褒美で、それを恩に着せるような言い方をすれば、その機会は二度と訪れないのは明白だ。

 で、アザゼル討伐に至っては、まるで役に立っていないのだ。


 何より、ダミアンのことに話が移ると困ったことになる。

 このまま忘れた振りを続けなければ。


 すまんな、友よ。

 いつか、貢献ポイントが余ったら、墓前に酒でも供えるよ。


 その前に墓作らないとな。

 湯の川には作れないから、暗黒大陸にでも作るか。

 だが、今は貢献ポイントを稼がなくてはならん――すまんな、友よ。

 また今度な。

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