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41 スーパーロボット大戦

――ユノ視点――

 視線を受け止めるには、繊細さが足りなかった。

 しかし、既にこれ以上ないくらいに繊細に身体を動かしている。

 これ以上は、“せんさい”ではなく“まんさい”になる――お手上げなら万歳だけれど、あまり面白くないな。

 とにかく、これ以上は、繊細さとは別の何かでカバーするしかなかった。



 そこで思いついたのが、「柔軟さ」だ。


 そして、柔軟さといえば、胸――おっぱいだ。


 意味が少し違うかもしれないけれど、「できそう」と思ったことは大体できるものなのだ。

 女性といえば包容力。

 その象徴といえば、おっぱい――人によって意見は様々だと思うけれど、ここではそういう一般的な認識ではなく、私がそう思っていることが重要なのだ。



 とにかく、極上の柔らかさに加えて、ほどよい弾力も兼ね備えた、自慢の胸なら――できた! できたよ!

 女体の神秘の勝利である。


 むしろ、勢いを殺しすぎて足元に落ちた気がしたので、とりあえず蹴ってみた。


『キーパーはロボ崎君だから取れなーい』


 朔が何を言っているのか理解できないけれど、どうやら蹴り返した視線がロボットに当たったらしく、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。

 ふとした思いつきだったけれど、上手くいったらしい。

 さすがは私の自慢の我儘(わがまま)ボディだ。



 しかし、ここまで見事に勢いを殺してしまうと、カウンターとしてはあまりスマートではない。


 だったら――と、バレーボールのレシーブの要領で、視線と胸の間に腕を挟んで、胸をショックアブソーバー的な感じで使う!


 よし!

 ちょっと上がった気がする!

 よし! よし! よし!

 どんどん受けていくよ――あれ?


 何だか、視線が胸元に集中――吸い込まれている気が――両腕で寄せて強調している感じになっているからか? 

 顔や胸やお尻やふとももに視線誘導効果があるのは知っていたけれど、ロボットにも効くのか?

 しかし、明らかに視線は胸元に集中しているし――というか、結局胸の谷間で受けているし、この前に出した腕はどうすればいい?

 とりあえず、最後までバレーボールっぽく誤魔化すか?




『気が済んだ? ギガユノ起動完了したよ。そろそろ真面目にやろうか』


 うん、止めてくれてありがとう。


 ひとりでバレーとかボレーも莫迦みたいだったし、いい加減飽きてきたところだ――と構えを解くと、アザゼルさんが声にならない慟哭を上げていた。

 彼も谷間を見ていたのか?


 いや、まさかね。

 いろいろと限界が近いのだろう。

 さっさと終わらせてあげよう。



『はい、コントローラー。さらっとスルーしようとしたみたいだけど、そうはさせないよ』


「あはは、ちょっと忘れていただけだよ」


 忘れたままでいさていてほしかった。


 改めて見上げると、魚介類オンザ私〜両腕をドリルを変えて〜。

 ドリルじゃなくて、エアー何とかだったか。

 エアーというか、すごい勢いで水が出ているけれど。



 そして、待機モードとやらに入ったからか、相変わらず殴られながらも、<カモン! カモン!>と、にこやかに指示を催促しているそれは、紛うことなき変態だ。

 というか、私の顔でそんなことをするの止めてほしい。


 とにかく、一刻も早く終わらせなければ、私の評価が地の底に落ちる――けれど、これだけは言っておきたい。


「私の顔でそういうことをされるのは遺憾です」


 そう、イカだけに!

 本当はタコだけれど。


 ああっ!? ギガユノ――というか、下半分の触手が、アザゼルさんのロボットに絡みつき始めた!?

 変態さが違う方向にシフトして大変だ!

 タコ的には、イカと混同されるのは不服だったのか!?



『音声入力って言ったじゃないか。不用意な発言は慎んでもらわないと』


「えっ、巻きつけなんて言っていないよ!?」


 ああっ、巻きつきが激しくなった!

 締め上げられたアザゼルさんのロボットから、ミシミシと不穏な音がしている。


『今言った。「なんとかじゃない」って指示は誤解の素だから気をつけて』


「分かった。ちょっと待って、ストップ、ステイ!」


 待てって言っているのに、止まらない。

 それどころか、アザゼルロボがどんどんあられもない姿にされていく!?


「言うこと聞かないよ!?」


『殴られすぎて壊れたのかな? 装甲はともかく、中身は精密機械だからね。とにかく、これ以上壊れる前に終わらせちゃおう!』


 もう、どこからツッコめばいいのか……。

 いや、既にバッカスさんたちが冷ややかな目でこちらを見ている気がするし、これ以上変なことになる前に終わらせるべきか。


『やる気になったようで何より。それじゃボクの指示どおりにボタンを押して――上、上、下、下、左、右、左、右、レバー一回転、インド人を右に』


「え? えっ? えっ!? レバー? インド人!? 肝臓? インド人どこ!?」


『よし、成功だ。イージーモードに変更したから、コマンド選択方式でいけるよ!』


 ええ……。インド人どうなったの?


 いやいや、気にしてはいけない。


 朔の言うとおり、コントローラーの上部に、四つの選択肢が、宙に浮かぶような感じで表示されていた。

 何だか分からないけれど、ハイテクっぽい。


 “たたかう”

 “ぼうぎょ”

 “どうぐ”

 “にげる”


 しかし、何だこれ?

 平仮名ばかりで内容はハイテクっぽくない。


「たたかう、ぼうぎょ、どう――」


<イタカッタラミギテヲアゲテクダサイ>


 選択肢を確認していると、また勝手に動き始めた。


 ギガユノの右腕のドリ――エアー何とかが、アザゼルロボの脳天に突き刺さって、チュイーンという甲高い音を発していた。

 なるほど、あの水は冷却水だったのか。


 いや、そんな分析をしている場合ではない。


 痛かったら右手を上げろといっても、アザゼルロボは触手で縛り上げられている。

 まるで、俎上之鯉(そじょうのこい)というか、分娩台(ぶんべんだい)の上の妊婦さんみたいな感じ。


 身動きは全く取れなさそうなので、右手を上げることは不可能では……?

 その姿は、最早拷問風景にしか見えない。

 というか、ロボットにも痛覚ってあるのだろうか?


『ああ、音声認識も生きてるから発言には気をつけて』


「ええっ!? そ――」


 そういうことは先に言ってよ!

 というか、何に反応したのか分からないのだけれど、左手のドリ――エアー何とかが、ロボットの下顎部――口内? に該当する部分を蹂躙(じゅうりん)し始めた。


 行ったことがないから分からないのだけれど、歯医者ってこんなにバイオレンスな場所なの?


『歯医者って、泣き叫ぶ子供を押さえつけて、無理矢理口の中に手を突っ込むらしいし、大体こんな感じじゃないかな』


 本当に?

 怖いね、歯医者(※偏見です)。


 私の歯は、虫歯菌になんか負けない――というか、いまだに全てが乳歯のままなくらい丈夫なのだけれど、湯の川のみんなには歯磨きを徹底させよう。

 虫歯は回復魔法じゃ治らないらしいしね。



 そんなことを考えていた間に、アザゼルロボの顔の下半分が削り取られていた。

 歯が無ければ虫歯にならない理論――人間がいなければ戦争は起きない理論だと考えれば、私と同類だ。

 ヤバいね、歯医者!



 いやいや、今はそれより、これ以上の凶行を止めなければならない。


 そう考えてコントローラーを握り直すと、再び四つの選択肢が現れた。


 “たたかう→”

 “ぼうぎょ”

 “どうぐ”

 “にげる”


 前回と同じか。


 しかし、前回とは状況が違う。

 これ以上攻撃するなど、鬼畜すぎるので論外。

 それに、ここまでやっておいて逃げるのも外道すぎる。


 そうすると、防御か道具しかないのだけれど、朔が何かを企んでいるような気もするし――よくよく考えれば、平仮名で表示されていることが気になる。

 “防御”か“道具”だと思っていたけれど――すぐには思いつかないものの、同音異義語ということもあるのではないか?



 ――――っ!


 よく見ると、“たたかう”の横に矢印があることに気がついた。


 他にも選択肢があると、そういうことか!

 危ないところだった。


 残念だったね、朔!



 “たたかう”に矢印を合わせて、方向ボタンの右を押してみる。


 “リミットブレイク”

 “リミットブレイク”

 “リミットブレイク”

 “リミットブレイク”


 うん?

 選択肢が変化したのだけれど、よく確認する前にギガユノが両手のドリエア――もうドリルでいいや、でアザゼルロボを滅多打ちし始めた。

 とてもいい表情で。


 待って、まだ何も選んでいないよ!?

 選択の余地が無いように見えても、選ばないって選択をしていたんだよ!?


 とにかく止めなければ――と、何でもいいから適当にボタンを押しまくった。



『さすがユノ。隠しコマンドに気がつくなんてね』


 残り時間 10 秒


 “神の怒り”

 “神の威光”

 “神の審判”

 “神の言葉”


 また選択肢出た!

 ヤバそうなのばかり!

 漢字になったけれど、感じは悪い。


 これ、後で怒られない?

 というか、時間制限つき!



 怒りって、既にぶちキレていませんか?

 威光って、きっと極光とか出すつもりだよね?

 審判? ギガユノの方がアウトだよ!

 しかし、言葉なら――いや、言葉だって時には凶器になる。

 むしろ、癒えない傷を与えることだってある――しかし、即死よりはマシ? 死んだ方がマシ?


 もう何でもいいから終わらせて! ――と、神の言葉を選択した。



<シネエ!>


 随分ダイレクトなお言葉で、ある意味では安心した。


 そのお言葉のとおり、極光――随分と不完全なものだけれど、それを吐いたことも、大して効いていないことも合わせて、まあいい。

 しかし、下半身がタコのヤバいやつが、巨大ロボットを触手でがんじがらめにして、頭部を鈍器で滅多打ちにしながらそのボディに何かを吐きかける――どんなプレイ!?


 幸か不幸か、これまで私が喰ってきた人間の知識の中には、特殊な嗜好についての知識もあるのだけれど、さすがにこんな高度なプレイは知らない。

 トシヤなら分かるだろうか?


「回収! 回収です!」


 さすがにこれはいろいろな意味で酷すぎるので、不本意ながらも領域を展開して、月に捨ててきた。

 いや、ポイ捨てはよくないので、後で回収するつもりだけれど。

 魔力が尽きるまで、目の届かない場所で存分にやってもらえばいい。

 それなら礼儀だか流儀に反するということもないだろうし。


『まあ、仕方ないか。さすがにボクもあれは予測できなかったし』


 予測してやらせていたなら怖いよ。




 とにかく、だ。


「これで貴方を護るものはなくなった。最後まで付き合ってあげるから、死ぬ気で想いを吐き出して」


 玩具で遊ぶ時間はもう終わり。

 アザゼルさんの様子がかなりおかしいけれど――正気を失っているというか、アンデッドとしては正しい姿というか、それでも中途半端に残った理性が今の状態を否定しているのか。


 何でもいいから、これを解放してあげれば私の仕事は終わりだ。


 どんなに正気を失っていても、本能的なところは変わらない。


 アンデッドなら、魔素を出せば根源と勘違いして寄ってくるはずだ。

 しかし、瘴気は出しているけれどアンデッドではない――ほぼほぼアンデッドだけれど、一応は生きている彼は、魔素を与えては単なる延命になってしまう。

 なので、違う手段で誘き寄せなければならない。



 ならば、色香はどうだ――と、少し前屈みになって胸を寄せてみた。

 即ガン見された。

 邪眼より刺さっている気がする。


 私の胸の視線誘導効果が高すぎるのか、ゴブリン的な本能なのか、男はみんなゴブリンなのかは分からないけれど、アザゼルさんは私の胸を目がけて真っ直ぐに、猛然と走り寄ってきた。



 後は、これを発散させてしまえば――あれ? 何だかいかがわしく聞こえる?


 スポーツで健全に発散とか、そういう意味だよ?

 いや、いかがわしいことで発散しても成仏? 昇天? しそうだけれど、さすがにそこまでサービスするつもりはない。


 何より、これは主神に向けてのメッセージだ。



 見ているよね?

 魂を――根源とやらや、種子を扱うなら、これくらいは認識していないと、いつか世界の歪みに呑み込まれるよ?


 もっとも、それもひとつの結末でしかない――いつかは来る終わりを避けることはできないけれど、仮にも神を名乗るなら、もう少し上手くやってほしい。


 私としては、どんな結末になっても構わないとはいえ、ハッピーエンドになるならそれに越したことはないのだ。


 気は進まないけれど、彼らが何を考えて、何を目的にしているのか確認した方がいいのかもしれない。

 アザゼルさんのロボットに負けそうになることもそうだし、九頭竜もそうだし、神に天使に悪魔に、どうにも歪なところが多すぎる。

 というか、神や悪魔というには俗っぽい。

 私がそれらに偏見を持っているだけかもしれないけれど。


 できれば、干渉したくはないのだけれど……。

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