36 想定外
彼らが不毛なやり取りをしている間に、無情にも太陽が地平線の向こうへと消え、空が夜の帳に包まれた。
あれから特に何も起こらないままに日没を迎え、アザゼルは少々拍子抜けした様子で、エスリンは焦りが最高潮に達した様子でそれを見送った。
「時間だ」
アザゼルが、言わなくても分かることを口にした。
「くっ……!」
エスリンも、ここまでやれるだけのことはやってきたつもりだった。
だからといって、達成感など感じるはずもなく、自らの無力さを呪った。
それから間もなく、ローゼンベルグへ向けて、10機の対神兵器を搭載したロケットが射出された。
数にすると、たかが10機。
しかし、アザゼルの計算では、バッカスと黒竜を斃し、ローゼンベルグの市民を捕獲するだけなら充分すぎる数である。
ローゼンベルグの住人が、個別に、若しくは三々五々に行動していたりすれば、もっと大量に投入しなければならなかったが、この展開は、アザゼルの想定の中でも最良に近いものだった。
特に、必要以上に対神兵器を投入して、それを危険視した神の軍勢が対処に出てくるなど、魂の回収に支障が出るのは最悪のパターンだった。
現状でも、神の軍勢や九頭竜に対抗することができるだけの戦力はあるとはいえ、ここで補給を行えなければ、次の補給地までかなりの距離がある。
しかも、そこは人間領。
人間贔屓の神が傍観しているとは、さすがに考えられない。
眩い光を発しながら、長い尾を引いて夜空へと消えていったロケットが、ローゼンベルグに到着するのに要する時間は3分程度。
それぞれが様々な想いでその軌跡を眺め、そして肉眼では見えなくなると、意識は当然のようにローゼンベルグを映したモニターに集まる。
しかし、それを見た全員が、同じように息を呑んだ。
町が消えていた。
立派な城壁も、綺麗に整備された石畳も、城も民家も、人までも。
つい先ほどまで――ロケットが射出される直前に見た時には、ローゼンベルグの四方から撮影された映像がリアルタイムで映されていた。
そこには、いまだに対応が定まらずに困惑していた、あるいは黒竜の飛来に混乱した民衆が大勢いた。
それがほんの少し目を離した隙に、巨大なローゼンベルグの町が綺麗さっぱり消えて、更地になっていたのだ。
当然、アザゼルは観測機器の故障を疑ったが、信号を見る限りは全て正常である。
やはり、町と人が消えたとしかいいようがない。
正確には、その中央、エスリンの居城があった辺りに黒竜とバッカス、ほかにも人影が見えるものの、映像の精度の問題で、詳細は分からない。
(何がどうなっている!? ――観測器の故障――いや、全てが一斉に故障など確率的にあり得ない。やはり、状態も正常だ。最初からあの町が幻影だった――いや、勧告を行った時には確かに実在していた。そもそも、幻術では私の機械を誤魔化すことはできない。まさか、私に利用されるくらいならと、私に先んじて住民を皆殺しにしたのか!? 確かに、奴らの戦力でできる最善はそれかもしれないが――おのれ、神め! 何という非道を――いや、待て。なぜ町ごと消えている? あの消滅の光か――それでは黒らが生き残っているはずがない――が、精密照準ができるようになったのか? そうでなければ説明がつかないが、それならなぜ私を狙わなかった?)
完全に想定外の、それ以上に彼の知識では説明のつかない事態に、アザゼルの脳はかつてないほどに混乱し、同時にフル稼働していた。
(まさか――いや、こんな莫迦げたことは湯の川くらいしか考えられない。だが、これは一体どういうことだ――まさか、交渉が決裂したのか!? それとも、これが奴の考える救済!? 死をもって全ての苦しみから解放する――ないとは言い切れない。くっ――、だが、この状況からでは他に手がないのも――しかし――)
エスリンもまさかの光景に、そこにいたはずの住人たちがどうなったのかを想像して苦悩していた。
町全体を観測するための遠景の映像では詳細が分からないため、そこに残った存在に焦点を合わせるのは当然の流れだろう。
どうせ、ほかに見る物が無くなったのだ。
そんなことをすれば、さすがに気づかれてしまう可能性も高くなる。
魔力で干渉しない機械であっても、レベルの高い者や、勘の良い者は気づかれることがあるからだ。
それでも、アザゼルには情報が必要だった。
もしも、これが《極光》などによる防御不可の攻撃であれば、いかに彼の最高傑作である対神兵器であっても、10機では対処しきれない可能性が高い。
場合によっては、ここで「死を与える邪眼」の力を組み込んだ新型を投入することも考慮しなければならない。
こんなに早く切るつもりはなかった切り札だが、切るべきタイミングを逸すれば、切ることもできずに勝敗が決する可能性すらあるのだ。
拡大されて、モニターに映し出されたのは4人。
大魔王でありながら神格保持者でもあるバッカス、エスリンの副官グエンドリン、いつの間にか人型になっていた黒竜パイパー。
そして、バケツを被った堕天使的な何か。
アザゼルにとって、後者のバケツ堕天使を見落としていたのは失態だが、映像ならともかく、魔力探知では絶対に彼女を見つけられないため、ある種の初見殺しに引っ掛かったというほかない。
そして、それはこの後も大きく尾を引くことになる。
アザゼルの観察した範囲では、彼らからは、何らかの大規模な魔法を行使した魔力の痕跡は見当たらない。
そして、町の跡地の方からも、《極光》のような大破壊を証明する痕跡は見つからなかった。
この時点で、《極光》という可能性はほぼ消えた。
あれはその破壊力の高さゆえに、細かい制御の利くものではないし、乱発できるものでもない。
それができるなら、さきの大戦で、アザゼルたちはもっと早くに大敗していただろう。
当然、改良型の《極光》という可能性もある。
神族も、長い年月を無為に過ごしていたはずもないだろう。
しかし、それをこのタイミングで、こんな用途に披露する意味が分からない。
この不可解な現象の解明に頭を悩ませていたアザゼルは、ふと、不死(笑)の大魔王ヴィクターと、最近やり取りした内容を思い出していた。
ヴィクター曰く、彼は配下の魔王たちが反乱を起こさないよう、その家族や大事な存在を人質に取っていた。
それ自体は珍しいことではない。
それこそ、大魔王だけではなく中小規模の魔王でもやっていることもあるし、人間でも――名目や体裁を整えてはいるが、それに近い慣習が多く存在している。
問題は、その人質に見事に逃げられた、若しくは連れ去られたことである。
それも、一度や二度ではない。
《転移》妨害に魔法無効化、物理・人的警戒網の強化や、人質の逃走防止用呪具など、どんなに対策を講じても、それを嘲笑うかのように人質に逃げられた。
むしろ、「消えた」と表現した方が正確かもしれない。
アザゼルも、ヴィクターが自身の恥になるようなことを相談してきたことには驚いたが、プライドを捨てられるほどに危機感を覚えていることは理解できた。
現存する魔王の中では、論理的な思考で合理的な判断をするヴィクターだが、アザゼルから見れば学生レベルのもの。
ヴィクターにとっては認め難いことだが、一部の知識ではアザゼルが侮れないのは事実である。
というより、何が起きているのか――恐らく、湯の川の仕業であることは間違いないが、詳細が分からなさすぎて、意地を張っていられる状況になかった。
ヴィクターには理解の及ばないことであっても、アザゼルであれば、何かが分かるかもしれない。
そうして彼は、「自分はプライドよりも実利を優先できる男」だと自分を納得させて、アザゼルを頼った。
しかし、そんな話だけではアザゼルにもろくな答えを返せないし、場合によっては返すつもりもない。
それに、ヴィクターも自領でアザゼルに調査させることは、さすがに許容できない。
そして、アザゼルにもそんな時間の余裕は無い。
アザゼルが、ヴィクターから与えられた情報だけで判断するなら、最も可能性が高いのは、極めて練度の高い工作部隊と内通者の存在。
それぞれ距離の離れた、様々な対策がなされた場所の、多数の地点にいるターゲットを一斉に逃がす――となると、どう考えてもひとりでの犯行ではない。
そんな作戦を完璧にこなす部隊というのも現実味が薄いが、ひとりでなし遂げる存在がいる方が、遥かに現実的ではない。
もしもそんな存在がいるとすれば、人質を攫うのではなく、ヴィクターやレオナルドを暗殺する方がよほど手っ取り早いのだ。
ヴィクターも、それを危惧してアザゼルに相談を持ちかけたのだが――その疑問が、ここに来てひとつに繋がった。
(デュナミス――無機物だけではなく、生物をも呑み込む特性を持つもの。報告では、呑み込んだ無機物を吐き出したという事例が何件も上がっていた。生物での観測例は無かったが、出さないと決まっているわけではない。この特性を極めたものが創り出されていたとすれば――確かに、我々が九頭竜に敗れた後も、世界が存続している理由にも繋がるか。まさか、奴らの与太話かと思っていた神話は本当に――私たちより先にエネルゲイアに――)
アザゼルがひとつの結論に辿り着き、無駄に深読みし、猛烈に嫌な予感に襲われている頃、ロケットがローゼンベルグの上空を通過しながら、対神兵器が投下された。
アザゼルの想像のとおりであれば、この数の対神兵器では、エネルゲイアに至った相手を制圧するどころか、時間稼ぎにすらならない。
アザゼルのそんな分析を余所に、対神兵器は事前にプログラムされたとおりの行動を開始していた。
目的地にいる、任務遂行の障害になる存在を索敵して、味方機とそれを共有する。
そして、降下しながら、小型のレールガンやプラズマ砲で、脅威と判断された彼らへの攻撃を開始する。
砲撃の配分は、測定された魔力量を基に、バッカスに4機、パイパーに3機、残りに2機、予備に1機。
本来であれば、町の封鎖や住人の確保に動くはずだった機体も攻撃に回っているため、バッカスやパイパーには過剰戦力となる計算である。
実際には、バッカスはさほどダメージは受けていないようだが、防御姿勢のまま固められている。
バッカスの防御力が想定以上ではあったが、予備機を回せばいずれは押し切れる範囲。
むしろ、バケツ堕天使のことを考慮すると、現状で問題は無い。
パイパーはほぼ想定どおり。
順調にダメージが蓄積しており、このまま攻撃を続ければ、降下を完了してしばらくしたあたりで撃破できそうだった。
しかし、残り――対神兵器には戦力外と判断された、バケツを被った堕天使は想定外すぎた。
彼女がダメージを受けていないのは、信じたくはなかったが、アザゼルの想定どおりだった。
しかし、彼女が撃ち込まれた砲弾やプラズマ弾を掴んで投げ返すという暴挙に出ていたのは想定外だった。
アザゼルには、モニター越しとはいえ、自らの目で見ていることが信じられなかった。
彼の想像しているとおりの能力なら、超音速の砲弾だろうがプラズマ弾だろうが、呑み込まれて無力化されるだけだった。
それがよもや、素手で掴んで投げ返すなど、想像できるはずのないものだった。
しかも、それが魔法も届かない距離にいる対神兵器に、高確率でヒットする。
幸い、対神兵器に大きなダメージはないようだが、魔法使いどころかその辺りの主婦にも力負けしそうな、豊満だが貧弱な見た目に反したその膂力は――そもそも、プラズマ弾を鷲掴みにするところからしておかしかった。
そのあまりにも非論理的な光景に、彼の脳は理解を拒否していた。
エスリンも、自らの目で見ていることが信じられなかった。
禁忌の力を使わなければ対抗できなかった兵器が10機、絶望としかいいようのないものが、彼らの頭上から降りかかった。
どうにか切り抜けてほしいと願う反面、それが叶うことはないだろうと、せめて最後まで見届けるのが義務だと、覚悟していた。
しかし、彼女の目に飛び込んできたのは、彼女の予想どおりに劣勢に追い込まれたバッカスとパイパー。
そして、鯉や鳩に餌でもやるかのように、自然体のユノ――しかも、グエンドリンを庇いながらだった。
それがそんなに生易しい攻撃ではないことは、必死な形相のバッカスやパイパー、彼らの周囲の大地に残る被害を見れば一目瞭然。
禁呪の釣瓶打ちとでもいうような状況である
しかし、ユノの周辺だけは、まるでピクニックでもしているかのような、長閑な雰囲気――その落差が激しすぎて、脳が理解を拒否していた。
それは、湯の川を初めて訪れた時にも感じた、懐かしさを覚えるものだった。
やがて、対神兵器10機全てが大地に降り立った。
その間に評価が更新されたのか、3機がバッカスを、2機がパイパーを足止めし続け、残りは全てユノに向かっていた。
本来であれば、対神兵器の展開する神域は、効果範囲内にいる敵対者の能力を低下させて、スキルや魔法も制限する。
もっとも、神格を持っているバッカスには効果が弱く、竜であるパイパーには効果が無い。
それはアザゼルの予想どおり。
そして、相変わらず制圧射撃をキャッチボールか何かと勘違いしている感じのバケツ堕天使にも、神域が効果を発揮している様子はない。
したがって、彼女も神格かそれに類するものを持っているのは確実である。
さらに、彼女の庇護下にあるグエンドリンにも影響が見られないことから、アザゼルの想像が最悪に近いところで当たっていることを証明していた。
(まさか、奴らもエネルゲイアに至っていたとは……! だが、最近まで封印されていたということは、制御しきれていないということ。まだチャンスはある――いや、ここでその力を奪えれば、エンテレケイアに至ることも夢ではなくなる!)
アザゼルも、アルフォンスたちが考え、神々の承認を得て、聖樹教の巫女たちが流した神話を耳にしていた。
時期的に、状況的にも厳しかったはずなのだが、彼の弛まぬ情報収集活動の賜物である。
そして、そこに真実が含まれていると判断した。
真実ではなくても、最悪に備えていれば対処がしやすくなると。
嘘を嘘と見抜けないと、情報収集は難しい。
嘘よりも、真実の方が性質が悪いこともあるのだ。
アザゼルは、新型対神兵器をかの地に送り出す準備を始めた。
先に送り込んだ10機がどれほど時間を稼げるか、せめて5分もってくれれば――と考えながら。
バケツ堕天使に対峙した5機のうちの2機は、彼女の動きを制限するべく制圧射撃を続けていた。
といっても、単発高威力のレールガンやプラズマ砲ですらダメージを与えられないものに、ローゼンベルグの民衆制圧目的のミニガン程度では、威力不足でその用をなさない。
そもそも、バッカスやエスリンすら足止めでき、ダメージを与えられる前者が、全く役に立っていないことからして想定外である。
砲身が焼き付くことも覚悟で、あるものを片っ端から撃ち続けているが、雷撃すら目視で避ける彼女には、距離が近くなったから当たるというものではない。
むしろ、ダメージが嵩んでいるのは、反撃を受けている対神兵器の方であった。
大して――まるで足止めできていないどころか、味方機の弾で逆に弾幕を張られているような状況である。
それでも、残りの3機がバケツ堕天使に対して接近戦を仕掛けるべく、弾幕を迂回しながら距離を詰めていく。
砲撃が効かない彼女に近接攻撃が当たるとは考えにくいが、それでも、奇跡でも起きて当たればダメージを与えられるかもしれない――いや、高性能AIを駆使して当てるのだと、3機がユノの左右と後方に展開する。
そして、弾幕で釘付けにされているバケツ堕天使に、左右と後方に展開していた機体が同時に襲いかかった。
それに対して、彼女は素早く反転すると、彼女のすぐ後ろにいたグエンドリンをお姫様抱っこの形で抱え上げ、そのまま「高い高い」と上空へ放り投げた。
一拍遅れて、ドップラー効果のかかった悲鳴が遠ざかっていく。
当然、正面――今は彼女の後方からの制圧射撃は続いているので、大きな隙を晒しているかと思いきや、見事に翼と尻尾で弾いている。
当たればダメージを受けるからなのか、それとも遊んでいるだけなのかの判断すらできない。
そのままバケツ堕天使は、正面にいた、腕部に取り付けられた高周波ブレードで斬りかかってくる機体に向かって間合いを詰める。
それに対して、各対神兵器の高性能AIが、彼女の移動先や行動を予測して、最適な行動をしようとする。
AIの出した答えは、正面の機体がバケツ堕天使の行動範囲を制限して、残る2機で仕留めるというもの。
彼女のデータが不足しているため仕方がないとはいえ、AIの本領を発揮しているとはいい難い。
バケツ堕天使の正面の機体は、彼女との間合いの変化によって斬撃が当たらないと判定すると、前腕部の折り畳み機構が伸展して、斬撃の旋回軸を変えることで対応する。
同時に、さきの決定のとおりに彼女の逃げ道を塞ぐべく、バックパックに格納されていたサブアームを左右に大きく展開する。
ユノも、対神兵器の行動の意図するところは理解した。
ただ、なぜそんな判断になったかは理解できない。
正面の敵から背後を攻撃されるという、なかなか珍しい体験にも彼女は動じない。
手足は当然として、翼や尻尾も――全身が凶器である彼女にとって、翼でアームを斬り落とすなど造作もない。
しかし、彼女はあえてそうせず、身をかがめつつ前進速度を上げ、それに追従するように軌道を変えるブレードが彼女に届くより速く、対神兵器の股下をくぐりぬける。
その頃になると、味方機に対する誤爆を避けるために制圧射撃は止んでいたため、近接攻撃を仕掛けていた機体に流れ弾が当たることはなかった。
しかし、1機は背後を取られ、2機はその機体が邪魔になって攻撃を中断させられ、残る2機もここまでの無理がたたってオーバーヒート寸前。
高性能AIが天然に翻弄されていた。
ユノとしては、彼女の左右に展開していた機体が、背後を取られた機体ごと彼女を攻撃してくるかと期待していたが、両機はさらにユノの側面を取るために移動中であり、少しがっかりしていた。
ユノは素早く立ち上がると、更に旋回軸と回転軸を変えて背後の彼女を斬ろうとする機体に、背中を使って体当たりしつつ、花を摘むような気軽さでサブアームをもぎ取る。
そのまま、背後の機体を押しながら、もぎ取った腕を側面にきた2機に投げつけて、その体勢を崩す。
そして、まるでダンスでも踊るかのように、クルクルと回りながら、対神兵器の手を取り足を取り、花占いでもするかのようにもぎ取っていく。
さらに、残った胴体を、冷却モードに移行していた2機に投げつけて、永遠の冷却モードにしてしまう。
最後に、落下してきたグエンドリンを優しく受け止めて、地面に降ろして戦闘終了。
ここまでにかかった時間は10秒弱。
残ったのは、解体された兵器の残骸。
5分稼いでくれれば――というアザゼルの淡い期待は、見事に打ち砕かれた。
それ以上に、能力すら使わせることができず、お花畑で戯れている少女でも見させられていたような、戦いとは呼べない一方的な展開に、アザゼルとエスリンは衝撃を受けていた。
アザゼルの人生の集大成が、エスリンの一族が長い年月をかけて積み重ねてきた力でも届かなかったものが、この場の誰よりも華奢な少女に、可憐なムーブで解体されたのだ。
ただそれだけなら、性質の悪い悪夢だと思うことができたのかもしれなかったが、すぐ側で必死に抵抗しているバッカスとパイパーの存在に、これが現実なのだと突きつけられ、逃げることを許されない。
さらに、5機もの対神兵器をあっという間に片付けたバケツ堕天使が、今も奮戦しているバッカスと、どう見ても劣勢なパイパーに加勢しようとしない。
音声を拾える距離ではなので詳細は分からないが、恐らく応援しているだけなことにも衝撃を受けていた。
それ以前に、いつの間にか椅子とテーブルを取り出して、困惑するグエンドリンと共にティータイムに入っていた彼女には、緊張感の欠片もなかった。




