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35 ご利用は計画的に

――第三者視点――

 オルデア共和国辺境の秘密施設では、アルフォンスとトシヤが劣勢に立たされていた。


 ふたりは、タクミによって次々と召喚される歩兵や戦車、そして、ヤマト進駐軍からの進言クレームで購入候補に入ったヘリコプターからの攻撃によって、防戦一方だった。



 ひとつふたつでは大した脅威ではない、若しくは役に立たない銃器でも、充分な数が揃えば英雄すらも圧倒する。


 高レベルの勇者や英雄であっても、銃撃を受ければ「痛い」だけでは済まない。


 それが、訓練された部隊から攻撃を受けている状況では、簡単には反撃させてもらえず、障壁の維持だけでもかなりの体力や魔力を消耗させられる。

 その上、常に位置取りに気を配らなければ、すぐに囲まれて十字砲火を浴びたり、フラググレネードなどの爆発物が飛んでくる。


 ここに魔法無効化が加わっていれば、既に決着がついていた可能性が高い。

 魔法無効化空間に誘き寄せて、大量の現代兵器で封殺するのが勇者殺しのセオリーなのだ。


 しかし、この閉鎖空間においては、タクミが流れ弾や爆発の余波で死んでいた可能性もゼロではないため、安全策を採っているのも決して間違いではない。


 また、最も厄介なヘリコプターは工廠の外を飛んでいて、壁や天井が目隠しや盾となっているのも、アルフォンスたちにとっては救いだった。

 さらに、ヘリコプターや戦車は、有利な状況で施設に被害を出すことを嫌っているのか、強引な攻撃はしてこない。



 しかし、そんな状況がいつまで続くかは分からない。

 そして、見通しをよくするために工廠内の障害物が取り除かれたり、外壁が崩されたりもしていて、状況は徐々に悪化している。


 ヘリコプターや戦車には注意を払わなければならないが、そちらに集中しすぎると、回り込んできた歩兵に攻撃される。

 それだけならまだしも、銃撃やグレネードだけだと油断していると、歩兵もマジカルレーザー誘導兵器や、蛮族バンザイ突撃による一撃必殺を狙ってきたりするので気が抜けない。



 さすがのアルフォンスでも、レーザー誘導などで高威力兵器の標的にされると、必死に逃げるしかない。

 そうでなくても、相手の手数の多さから、攻撃にまで回せるような余力はない。


 そして、頼みの綱の《転移》は、タクミが護っている装置によって妨害されている。

 アルフォンスの能力なら、強引に《転移》できなくもないが、事故を起こす確率は非常に高い。

 最後の手段のひとつではあるが、簡単に切れる札ではないし、トシヤを見捨てていくわけにもいかない。


 《飛行》魔法で空を飛んで逃げるにしても、相手の攻撃が止まらない状況下での《飛行》の発動は、自殺行為でしかない。


 現に、トシヤが《飛行》を発動した直後に、歩兵と建物越しのヘリコプターの集中砲火を浴びて、一瞬で肉の塊になった。


 アルフォンスは――タクミや傭兵たちも、その状態からでも再生するトシヤに戦慄を覚えたが、だからといって戦況が覆ることはない。



 アルフォンスたちにとって保険のはずだったユノも、突然出現した神によって(さら)われている。


 彼らは、この状況を自力で切り抜けなければならなかった。




 アルフォンスたちは、後先考えない魔力の酷使と、ユノから貰っていたエリクサーRのおかげで何とか対抗できていたが、そのエリクサーRのストックには限りがある。

 いずれ、タクミの持つ宝珠の性能と、際限なく増え続ける敵兵と兵器に押し潰されるのは目に見えていた。



(どうにかして《転移》を妨害してる装置を破壊できれば――って、それは向こうも当然それは考えてるだろうし、対策もしてるだろうしなあ。闇雲に攻めても逆効果。上手くトシヤさんと連携できればいいんだけど、相談する余裕なんてないし……)


 アルフォンスは、防戦一方のジリ貧な状況でも希望を捨てず、考え続けていた。

 しかし、考えれば考えるほど、どうしようもない現実があるだけだ。


(一か八かになるけど、仕込んでみるか? 先にトシヤさんが気づけば勝ち、オルデアの勇者なら負け――レオンも連れてくればよかったかな。こういう時に《万死一生》があれば役に立つんだろうなあ……。まあ、どのみちジリ貧だし、最も攻撃が薄いのはそこだし、やるしかないんだけど)


 このままでは先がないと判断したアルフォンスは、大きな賭けに出ることにした。

 自棄になってのことではなく、それが生き残る可能性が最も高い手段だと信じて。



 トシヤは回復に関する能力こそ異常なものの、攻撃に関することは並の勇者に、物理攻撃では一般的な冒険者にも劣る。


 何より、実戦経験に乏しかったし、センスも無かった。


 当然、彼もこの世界に召喚されてから十年もの間、獣や魔物を相手に戦闘は行ってきた。

 しかし、乏しい火力を補うために、異能ともよべるほどの回復能力の上に立った戦術に頼りきりで、駆け引きなどは全く成長していない。


 それゆえに、見え透いた誘導にも引っ掛かり、焦って判断を誤ったりなど、初歩的なミスを犯す。


(ヤバいよヤバいよ、マジでヤバいよ! 銃弾も一発や二発――もうちょっとだけなら我慢できるけど、雨みたいに撃ち込まれたらどうにもならないって! 爆弾とかもっとどうにもならない! 魔力が残ってる間は脳や心臓が壊されても再生するっぽいけど……、このままじゃ、ユノさんに貰ったドリンクも切れちゃう……。あ、ヤベ、おしっこしたくなってきた。飲みすぎたかな――あ、そういえば、薬とかアルコールって、直腸から摂取すれば吸収率が高いんだったっけ)


 物陰に逃げ込んで、一時の平穏を手に入れていたトシヤは、そんなことを考えながら、手の中にあるエリクサーRの小瓶を見詰めていた。


 小瓶は、飲み口こそ細くなっているものの、彼の握っている胴体部分は、そういった目的に使うには結構な太さがある。

 これまで様々なことに挑戦してきた彼にとっても、それは新たな挑戦だった(※絶対に真似しないでください)。


◇◇◇


――ユノ視点――

 オルデアに戻った私の目に飛び込んできたのは、またしても素っ裸で空を飛ぶトシヤさんだった。

 彼はいちいち裸にならないといられないのか?


 しかも、お尻にエリクサーRの瓶を挿入していて、またしても放尿しながらである。



 彼はそのまま超高速でヘリコプターに突撃して、なぜか大爆発を起こした。

 これには私も我が目を――というか、正気を疑った。



 オルデアの壮年勇者さんと兵隊さんたちも、私と同様に度肝を抜かれたのだろう。


 ほんの僅かな時間だけれど、攻撃の手が緩んだ。


 その隙を突いて、アルがオルデアの壮年勇者さんに突撃を仕掛ける――と見せかけて、彼の背後にあった何かの機械を破壊した。

 それから、僅かな時間集中砲火を浴びながらもどうにか凌いで、トシヤさんの残骸と一緒に《転移》してしまった。

 といっても、転移先はここからそう遠くない空の上だけれど、オルデアの勇者さんたちの索敵範囲外ではあるようだ。


 ということは、アルが無理して壊したあれは、魔法を妨害していた機械だったのかな。

 そうでなければ、最初から逃げていただろうし。


 オルデアの勇者さんが護っていたみたいだけれど、トシヤの爆発で気が逸れたか――まあ、世の中、想像もしない理不尽が起きることもあるし、不運だと割切るしかない。




 最初に来た時とは打って変わって、廃墟同然の建物。

 歩兵に戦車にヘリコプターにと、数的にも質的にも不利な中、逃げ果せたというのは勝利にも等しい気がする。


 せっかく戻ってきたのに気づかれなかったのは少し寂しいものの、最後にちょっとだけだったけれど、彼らの頑張っているところを間近で見られたのはよかった。

 ……トシヤさんの特攻もそれにひと役買ったのかもしれないけれど、さすがにあれは褒める気になれない。

 というか、褒めてはいけないものだと思う。

 子供に見せられないのはさすがにね。


 それでもまあ、そんなものを見せられると、ひとり(へそ)を曲げているのも莫迦らしくなる。




「仕留めきれなかったか……。いや、さすがに大国の英雄といわれるだけあると褒めるべきか。だが、どちらにせよ、時間稼ぎはできた。後は奴らが――女神様が九頭竜を従えることができれば、俺たちの勝ちだ」


 明後日の方に向かって呟く、オルデアの名前も知らない壮年勇者さん。

 独り言を聞かれると恥ずかしいことくらいは誰もが知っているはずなのに、なぜ人は間違いを繰り返すのか……。


 兵隊さんの何割かは私に気づいているので、誰か教えてあげてもいいのではないかと思うのだけれど。

 さっきの語りも、誰かに話しかけている感じではなかったし、もしかすると、彼には人望がないのかもしれない。



「九頭竜なら死にましたよ」


「んな!?」


 彼の境遇がどうであれ、気づくまで待っていても、お互い気まずいだけだと判断したので、こちらから声をかけた。


 独り言を他人に聞かれて気まずかったのか、それとも単純に驚いただけなのか、いい歳した勇者さんが、大袈裟な態度で振り返った。

 ああ、でも、大勢いる兵隊さんに気づいていないこともないだろうし、後者なのだろう。



「莫迦な!? そんな、まさか――早すぎたのか!?」


「私が殺しました」


「嘘だ! 貴様ごときに九頭竜が殺せるはずが――いや、俺を動揺させようとしているのだな!? その手には乗らん!」


 貴様ごときが――って、バケツを被っていて不審なのは分かるけれど、貴方が私や九頭竜の何を知っているというのか。



「まあ、信じてもらう必要も無いけれど」


 やるべきことだけやって私もさっさと帰ろうと、彼の持っている神の秘石――の出来損ない? に領域を伸ばす。


「「「うわああああぁぁ!?」」」


 迫ってくる私の可視化された領域を見て、勇者さんが悲鳴を上げて尻もちをついた。


 兵隊さんたちも必死に発砲するものの、当然、そんなものでは私の領域は止められはしない。

 ヘリコプターや戦車からも、ミサイルやら砲弾やらが撃ち出されているけれど、星も壊せないようなものでは――そういえば、九頭竜は銀河を壊せるとか言っていたけれど、太陽程度で燃えたことを思えばブラフだったのだろうか。

 それとも、そういう魔法でもあるのかな?

 まあ、済んだことだし何でもいいか。



 とにかく、日光どころか太陽浴でも平気な私なら、この程度の攻撃は、領域を展開しなくても充分に対処できそう。

 もちろん、今回はわざわざ相手のレベルに合わせてあげるつもりもないのだけれど。


 そういうのは魔界だけでお腹いっぱいだ。



 さておき、勇者さんの持つ神の秘石(仮)は、ほんの少し侵食しただけなのに、パキンとプラスチックの板が割れたような乾いた音を立てて、亀裂が入った。

 どうやら、ここまで粗悪品だと、世界樹として発芽させることすらできないらしい。


「何だとっ!? まさか、貴様の狙いはこの宝珠か! ――これは俺の物だ! 貴様らにくれてやるわけにはいかん!」


「いや、別に欲しいわけではないのだけれど……。紛い物でも貴方たちの手には余るらしいから、壊させてもらおうかと」


 しまった。

 わざわざ会話に付き合ってしまった。


「させん! 絶対にさせんぞ!」


 はいそうですか、なんて言うはずがないのだから――いや、やはり対話は大事?

 うーん、今回は銃声や爆撃音がうるさいから、次から頑張ろう。



 ただ壊すだけではなくて、さきのように世界樹に変えるとか、有効な利用法がないかと探ってみたものの、秘石擬きの亀裂はどんどん大きくなっていって、それと共に魔力が抜けていく。


 九頭竜に偉そうに言ってしまった手前、少しくらいは頑張ってみようと思ったけれど、現実はそうそう上手くはいかないようだ。



「くっ、もうやるしかないのか……!」


 勇者さんも、何かに葛藤しているようだ。

 彼も、アルたちのように輝きを見せてくれるのかと思うと、立場的にはよくないけれど、少しばかり期待してしまう。

 もちろん、輝きとは薄くなっている頭頂部的な意味ではなくて。



「――ええい、未来の俺に期待する! 必殺! 《リボ払い》!」


 勇者さんが、秘石擬きを頭上に掲げて禁断の言葉を唱えた。

 その直後、戦車とかヘリコプターとか飛行機とか兵隊さんが、今以上にわらわらと召喚された。

 私を相手に数を増やしても、あまり意味が無いのだけれど……。


 というか、「リボ払い」と聞こえた気がしたのだけれど、それは足払い的な技の名前なのか、リボルビング払いなのか、それとも名が体を表していない何かなのか。


 とにかく、何が起きるのかを注意深く見守ろう――としたのも束の間のこと。


 勇者さんの持つ秘石擬きが、再び乾いた音を立てて、今度は真っ二つに割れたかと思うと、彼の手からこぼれて地面に落ちて砕けた。



「うわあああ!? ヤバい、ヤバいよこれ!」


 勇者さんは、地面に落ちた秘石擬きの欠片を拾い集めて、どうにかくっつけようとするけれど、当然元には戻らない。


 そして、どうにもならないことを悟ると、恨みがましい目を私に向けてきた。


 (ひび)を入れたのは私だけれど、止めを刺したのは私じゃないよ?




 そして、勇者さんが、突然小さな呻き声を上げて倒れた。


 ええと、私は何もしていないのだけれど?



 そして、彼が倒れたと同時に、いっぱいいた兵隊さんたちが慌てていた。


「撃ち方止め! くそっ、支払いが止まっただと!?」


「事前通告もなしに契約解除だと!? ――いや、踏み倒すつもりか! 最悪じゃねえか!」


「こうなっては仕方がない。全員撤収だ! この莫迦には後でしっかり違約金を支払ってもらうしかないな」


「嬢ちゃん、すまねえな。俺たちゃ帰るから、ここで仕舞いだ」


 兵隊さんは、勇者さんに悪態をつきながら、どこかに消えていった。



 残されたのは、私と、意識を失っている勇者さんと、兵器の山。


 その兵器にも、いつの間にか“差押え”と書かれた紙が貼りつけてあった。




「くっ、まずいことになった……。ヒロユキを呼び戻し、あいつの宝珠を――うっ!?」


 しばらくして、意識の戻った勇者さんが何事かを呟きかけて、再び昏倒した。


 何これ?


 このまま放置して帰ってもいいのかな?


 いっそ、殺してあげた方がいいのだろうか?


◇◇◇


 私がどうしていいのか分からずに悩んでいる中、意識を戻しては昏倒する――を延々と繰り返す勇者さんの許に、彼は現れた。


「はぁ、困ったことをしてくれたものデース。こんなカス相手に、この債権額……。融資の審査基準がおかしいデース」


 高級そうなスーツを見事に着こなして、意識のない勇者さんを足蹴にしながら愚痴をこぼす、語尾の怪しいその男の人は、まるで悪魔のようだった。

 というか、角と翼と尻尾がある――尻尾は関係無いけれど、魔界で教えてもらった上級悪魔族の特徴にピッタリだ。



「こんなカスの魂を回収した程度では、損害額に釣り合わないのデース。近年稀に見る――創業以来の大失態デース」


「兄貴、とりあえず差押えできた物の回収を要請しておいたッス。不足分は――こいつの親兄弟、友人からでも取り立てるッス?」


 ひとり増えた。


 こっちは、柄と色彩のどぎついアロハシャツを着た、ひと昔前のチンピラ風。


 角はないものの、小さな翼と尻尾があるので、彼も悪魔族だろうか。

 上級だとは思いたくない。



 なお、この手の輩は、他人の視線に敏感であることが多い。


「おう、テメェ、何見てんだゴルァ! 見せもんじゃねぇぞルァ!?」


 彼もその例外ではなかったようだ。


 というか、見ていたのは事実だけれど、バケツを被っているので、視線など分からないはずなのに……。

 いや、彼には視線を感じる特殊能力か何かがあるのかもしれない。



 さておき、何だか分からないけれど、とりあえずやるか?

 悪魔族の流儀では、舐められたらお仕舞いだし。


 いや、ここは人間界。

 そして、一寸の虫にも五分の魂。

 悪魔にだって魂はあるし、まずは対話を――あれ? 彼とは話が通じそうな気がしない……。



「兄貴、こいつヤっちゃっていいッスカ? あ、兄貴が先にヤるッスか?」


 向こうもやる気満々だし、やはりやるか?


「莫迦なことを言うなデース。私たちはビジネスマンなのデース。信用こそが――むむむ、貴女、もしや、ユノ様デース?」


 む?

 なぜこの人は私のこと知っているの?

 というか、バケツ被ってても分かるものなの?


 少なくとも、私は彼らと会ったことはないと思う。

 名前を覚えるのは苦手だけれど、顔を覚えるのには自信があるし(※個人的な感想です)。


「ユノ様って誰っスか? セクシー女優か声優っスか?」


「お前は少し黙っているデース!」


「ぐふっ……ッス!」


 展開についていけない私の前で、ビジネスマンさんが、チンピラさんに強烈なボディブローを叩き込んだ。

 すぐに暴力を振るうのはどうかと思うけれど、ビジネスマンにしておくには惜しい、腰の入った良いパンチだった。


 それと、どうでもいいのだけれど、語尾が変なのは――語尾以外にも分からないところがあるのは、私の言語知識が不足しているからだろうか。

 私がいる魔界では特に困ったことはなかったのだけれど、もしかすると、魔族の言葉にも方言のようなものがあるのかもしれない。

 とりあえず、少し喰うか?



「おおっと、お待ちくだサイ! とても不吉な気配を感じたデース。私たちは貴女の敵ではありませんネー。おっと、挨拶が遅れまシタ。私はこういう者デース」


 妙に勘の良いセールスマンさんが差し出してきたのは、どう見ても名刺だった。


 この世界にも、名刺交換の文化があったのか。

 私も日本にいた頃の名刺をまだ持っているものの、そこに書いてある肩書は、今の私には何の関連も無いので、交換できるようなものではない。


 だったら、こっち用のを作っておこうかな。

 いや、でも、所属や役職はどうしようか……。

 それも含めて、そのうち考えよう。



 なお、彼から貰った名刺には、“【アクマゾン・ドットコム】、販売部門統括【セーレ】”とあった。

 統括とかついているし、どうやら、彼は結構なお偉いさんらしい。


「貴女様はユノ様で間違いございませんカ? よろしければ、お顔を拝見できませんでしょうカ」


「……はぁ」


 初対面の人に顔を見せてはいけないと言われているのだけれど、相手は私のことを知っているようだし、この場合はいいのか?

 彼らの言う「ユノ様」と私が別人である可能性もあるのだし。後で人違いだったと文句を言われたくもないし。


 まあ、何かあっても彼らが言い出したこと。

 つまり自己責任である。



「オゥ! これは映像以上の美しさデース! こんなにドキドキしたのは何百年か振りデース! どうやら挽回のチャンスが巡ってきたようデスネー!」


「うおっ!? マジかよ! やりましたッスね、兄貴!」


「はぁ、どうも……」


 悪魔ぞ――アクマゾンの人は、私の素顔を確認すると、今にも踊り出しそうなくらいにテンションを上げていた。

 というか、チンピラさんの方は実際に踊っている。

 陽気な妖鬼だな。


 冗談はさておき、展開についていけないのだけれど……。


◇◇◇


「実は私、ネットショッピング系スキルで世界一のシェアを誇るアクマゾン・ドットコムに勤めておりまして――」


 喜びの舞を一頻(ひとしき)り踊った彼らは、ようやく私に声をかけた用件に移ってくれた。

 順序的におかしい気もするのだけれど、これが彼らにとっての常識なのかもしれないので、ひとまずスルーしておく。



 なお、自分をエリートビジネスマンというだけのこともあってか、彼の話はとても分かりやすかった。



 彼の所属するアクマゾンとやらは、オルデアの勇者さんが所持していたユニークスキル、《異世界ネットショッピング》などのスキルで購入できる商品の販売元だった。


 それだけだと何を言っているのか分からなかったかもしれないけれど、その経緯も教えてくれた。



「太古の昔、我々悪魔は、人間などとの個人間の契約デ、魂を対価に望みを叶えるのが主流だったのですガ、『願い事を百個にしろ』とカ、最後の願い事をせずに逃げ果せようというカスが多ク、交渉が面倒だったリ、契約違反や債務不履行などの問題が多発しましテ、効率的ではありませんでシタ」


 昔話などでよく聞く、「魂と引き換えに願いを叶える」的なことを、実際にやっていたらしい。


「というカ、契約に縛られる悪魔ガ、そんな穴だらけの契約を持ちかけると本気で思っているのでしょうカ? そんな莫迦の魂は要らないのデース! 大体は時間の無駄なので殺すのデース。約款を熟読しないのが悪いのデース」


 ただ、昔話とは違って、悪魔が泣き寝入りするケースはごく稀だったのだろう。

 そういった、「莫迦が考えそうなこと」は、約款でほぼ潰されているのだ。

 確かに、契約のプロを相手に、小賢しいだけの素人が上手くやるのは難しい。

 日本でだって、対等な契約が難しいから、消費者契約法とかがあるのだし。


「とはいエ、それでは商売を続けていけませんのデ、魂ではなく魔力を対価ニ、豊富な品揃えでお求めやすい価格! ひとつひとつの取引は魂ほどのリターンはありませんガ、利用しやすさト、間口を広げることデ、売り上げは右肩上がりになっているのデース」


 ということらしく、現在は、彼らがどこからか仕入れてきた物や、それに手を加えた物などを、魔力を対価に販売しているらしい。



 ちなみに、彼らは悪魔族ではなく本物の悪魔で、神とは違う形で世界を守っているのだとか。

 神と悪魔は表裏一体。

 主神の目であり手足であるとかなんとか。



 だったらなぜ、飛行機なんかを大量に売ったのか――とも思ったけれど、さすがにそれは利用者側の問題だったのだろう。

 セーレさんが言うには、オルデアの勇者さんも、スキルの初回使用時の審査では問題無しと判断されたそうで、神の秘石を手に入れたところから歯車が狂っていったそうだ。


 それにしても――と思わなくもないけれど、一番の問題は、バッカスさんの言ったように、自らの器に余る大きな力を持ってしまったことなのだろう。


 その証明が、彼の今の状況だ。

 多額の負債を抱えて、定期的に指定量の魔力を徴収されて――秘石ありきの支払い予定だったので、そのたびに魔力枯渇による昏倒を起こしている。

 セーレさんが言うには、「完済するまでこのままなのですガ、負債額が大きすぎるのデ、そのうち死ぬと思いマース」とのこと。

 これが自分を見失ってしまうほどの力に溺れた代償なのだろう。




「ここからが本題なのですガ――」


 悪魔のエリートビジネスマンが、改まって私に向き直った。


 何だろう?

 もしかして、私に弁償しろとでも言うつもりか? 


 秘石が壊れたのは私のせいではないのだけれど、目の前の人はエリートビジネスマンで、しかも悪魔だ。

 つまり、言いがかりもプロ級かもしれない(※偏見)。


 口で勝てる気は全くしないので、朔でも勝てないようなら、闇に葬るしかない。

 問題は、問題自体を解決しなくても、問題を認識している人がいなくなっても解決なのだ。



「ユノ様のグッズを弊社で扱わせていただけないでしょうカ? できれば専売でお願いしたいのですガ――」


「は?」


『詳しく話を聞こうか』


「は?」


「はイ! えー、こほン。実は現在、神族や悪魔の間では、ユノ様に関する話題で持ち切りなのデース。あっと、言い忘れていましたガ、ネットショッピングのスキルは人間にとってはレア――ユニークに分類されていますガ、神や悪魔の間ではそれほど特別なものではないのデース。それはさておキ、先ほど申上げましたようニ、ユノ様の話題は、彼らの最大の関心事デース。弊社にモ、ユノ様の情報やグッズの取り扱いに関する問い合わせが多数寄せられておりますシ、莫迦な下級悪魔が偽のグッズを作って売ろうとしたリ、いろいろと問題も起き始めているのデース。そこデ、弊社にユノ様公認のグッズを取り扱いさせていただけれバ、顧客の需要に応えることもでキ、ユノ様もあらぬ誤解を受けることはなくなるでショウ! ――あ、ちなみにコチラが現在出回っている偽ユノ様グッズの一例デース」


 一気に(まく)し立てられたので、あまり理解はできなかった――理解したくないところもあったけれど、アクマゾンとやらで、私のグッズが売られているということだろうか?


 とにかく、セーレさんがタブレットのような物を操作して、問題のページを表示させると、私にそれを手渡して見せてくれた。


「……これが、私?」


『うわあ、これは酷い』


 そこに表示されていたのは、私のどこをどう解釈すればそうなるのか分からない、邪神像とでもいうべき不気味な彫像だった。


 それでも買った人がいたのだろう。


 そこには、“この商品を買った人はこんな商品も買っています”という見出しの下に、同じ像の水着バージョンだったり、少し不気味さを増した商品がいくつか表示されていて、しかも不思議なほどに評価が高い。


 この世界(インターネット)は狂っている。

 怖い。



「造形は異世界の魔神をベースにしているようデース。恐らク、何でも食べてしまうという噂かラ、蝗害(こうがい)でも連想したのでしょうガ、尻尾がサソリで股間にヘビなド、ユノ様の実像からかけ離れすぎデース。ユノ様の魅力をまるで表現できていまセーン。何よりモ、こんな物でも売れてしまうのが問題なのデース」


『売らなきゃいいんじゃない?』


「予想図――予想像として出品されていましテ、購入者も納得済みであれば、それは難しいのデース。これは一例にすぎませんガ、中にはもっと酷い――はっきり言っテ、お見せできないような物もありマース」


『ユノの名前が広がるのはいいんだけど、間違った形で広がるのは好ましくないなあ』


「でショウ? ですかラ、弊社と専売契約を結んでいただけれバ、弊社名義で販売する物のみが公式の物であると大々的に宣伝を行いマス。もちロン、ユノ様のお名前を汚すような販売方法はいたしませんしのデ、ご安心ヲ」


『話の趣旨は分かった。ボクたちとしては異存はないんだけど、ユノのグッズ開発やイベントの企画をしているのは、ロメリア王国のアルフォンス・B・グレイっていう人族で、実際に製造しているのは湯の川の職人たちなんだ。だから、グッズの取引や詳細な契約内容はアルフォンスと、湯の川の代表として巫女のシャロンあたりと話してほしい』


「ありがとうございまス! ですガ、ユノ様のご意志はよいのですカ?」


『いいのいいの』


「よくないでしょ」


 私の考えがまとまるより早く会話が進むので、なかなか口を挟む機会が訪れなかったけれど、ここは何としてでも流れを切っておかなければならないと思って、頑張って口を出した。



『ところで、君の会社のサービスって、異世界の物でも取り扱ってるって認識でいいの?』


 しかし、私の意見は無視されて話は進んでいく。


「はイ。販売先の世界に合わせてローカライズした物になりますが、売買可能な大抵の物を揃えておりますネー」


『システム関連のサポートがないボクたちでも、それを使うことができるのかな?』


「ユノ様がお使いになられるのでしたラ、特別に対応させていただく所存デース。ですのデ、どうか先ほどの案ヲ、前向きにご検討いただけないでしょうカ」


 うーん、朔には何か欲しいものでもあるのだろうか?

 だから、私の意志を無視してでも話を進めているのかな?


『ユノのグッズを取り扱いたいって、需要があるから仕入れたいってことだよね。つまり、相応の利益が見込めると踏んでるんだよね』


 あれ、お金の話なの?

 確かにお金は大事だけれど、湯の川で生活する分には不要だよ?


「そうですネ。会議で何度も議題に上るくらいにハ。たダ、伝手がないこト、我々の素性、パチモンへの対処の件などいろいろとありましテ、まだ計画の段階だったのデース。それが今日、幸運にもユノ様にお会いする機会ができたのデ、失礼を承知でご提案させていただいていマース。利益については、当然、ユノ様や関係者の方々にもご満足いただけるよう配慮いたしマース。社運を賭けて臨む覚悟デース!」


 悪魔のエリートが土下座をしている……。


『うん。それはいいんだけど、ボクらが相応の利益を用意すれば、欲しいものを仕入れてきてくれる? 例えば、異世界からの特定個人とか』


 朔!

 何だかんだいっても、朔は私のことを考えていてくれたのだ!


「可能か不可能かで言えば可能――可能性はありますガ、星の数より多い異世界から特定個人を捜すとなると、代替物の多く存在すル物品と違っテ、現実的な確率ではありませんネー。それニ、召喚ではなく商品として入荷したのでハ、所有権など様々な問題が発生すると思われマース」


『やっぱりそう上手くはいかないか』


 残念。

 それでも、気にかけてくれていたことは嬉しい。


「ですガ、先ほどの件をご了承いただけるのでしたラ、弊社の総力を挙げて捜索させていただくことをお約束しマース。我々にハ、異世界での仕入れをスムーズに行うためのネットワークト、ニーズに合ったものを探し出すノウハウがありマース! 発見した後のことはまたご相談ということデ」


 なるほど。

 これが本場の悪魔の誘惑か。


 その「後のこと」でどれだけ吹っ掛けられるのかを考えると怖いけれど、朔が上手く対処してくれると信じよう。

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