28 トランザム
――第三者視点――
ヒロユキが宝珠を使用して生成した特大の《火弾》が、何の前触れもなく消滅した。
ヒロユキは、それが先ほどのエラーの影響かと考えたが、宝珠は正常に稼働中である。
そして、対峙しているふたりにそんなことができるとも思えず、その原因が分からなかった。
『君たちには君たちの都合があることは理解している。でも、君たちの都合がどんなものであれ、あれは今の君たちと世界にとって禁忌でしかない。そういうことだから、あれとあれに関わった人たちを処分するつもりなんだけど、自主的にやるつもりはある?』
その直後、バケツを被った謎の生物から声がかかった。
ヒロユキには、それが何を言っているのかよく分からなかった――言葉の意味は分かるが、脈絡がなさすぎた。
先ほども誰に何を言っているのか分からなかったこともあって、あまり触れない方がいいだろうとスルーしていた。
しかし、それが話しかけていたのは、ヒロユキで間違いないようだ。
当然、ヒロユキにしてみれば、戦う力もない雑魚――しかも、狂人に口出しされるのは面白くない。
むしろ、なぜか心を掻き乱される感じがして、無性に苛立ってしまう。
「……瘴気でも浴びて気でも狂ったのか? いや、バケツなんか被ってるし、最初から狂ってんのか。とりあえず死んどけ」
ヒロユキは、侮蔑と《威圧》を込めてそう言った。
そして、あまり良い状況とはいえない中で、改めてアルフォンスたちを玩具としてではなく、敵として認識する。
この世界では、相手の攻撃スキルが届く距離は全て近距離であり、その距離内で同等の実力を持つ戦士と魔法使いが対峙すれば、ほとんどの場合において前者が勝利する。
ヒロユキも、当然それくらいの教育は受けていた。
しかし、純魔というほどではないが、魔法偏重タイプの彼は、そんなことを聞かされても困るし、素直には認められなかった。
それでも、女神より賜った宝珠があれば、おおよその欠点は克服できたも同然である。
宝珠から供給される、無限ともいえる魔力があれば、魔法を使う隙を埋めることは難しくない。
近接戦闘型のヤマトの勇者も、魔力でできた剣を操る《踊剣》を18本も展開して封殺することができた。
言い方を変えれば、18本も出さなければ決められないくらいに剣の操作はお粗末だったのだが、MPにはまだまだ余裕があったし、基礎能力で押し切れることは自信になった。
ヒロユキは、今目の前にいる敵を、今更ながらに《鑑定》してみる。
そして、我が目を疑った。
ひとりは、ヒロユキの倍以上のレベルの、魔法寄り万能型の化物だった。
神器を持っていることで不利は埋められているはずだが、万一がなかったとはいいきれない。
アルフォンスが、ヤマトの勇者のように強引に攻め込んでこないのは、レベル相応の手札の多さと、ヒロユキが手にしている神槍――実際には神矢である【クピドの矢】を警戒しているのだろう。
矢なのに槍のようなサイズになっているのは、ヒロユキにクピドの矢を「矢」として使えるだけの技量が無いからである。
そもそも、本来なら神器に認められていなければ使うことはできないのだが、彼はそれを宝珠の能力で強引に支配しているのだ。
また、宝珠の力をもってしても、連発できるようなものではない。
なので、赤竜に対して使える状況になるまではただのお守りだったのだが、アルフォンスが警戒してくれているのであればご利益があったといえる。
そして、もうひとりの《鑑定》結果は、回復魔法特化のゴミ――魔力関係の能力だけは、宝珠を装備したヒロユキ以上の変態である。
これはヒロユキの想像の遥か上の結果だった。
何をどう評価していいのか分からない。
フィジカルは一般人に毛が生えたようなものだが、魔力量――MPが、アルフォンスの三千弱でも規格外なのに、トシヤのそれは三万を超えている。
魔力――MAGも、アルフォンスの六百やヒロユキの七百に対して、トシヤは倍以上である。
信仰心に至っては一万近い。
これならあるいは、瞬間的にだとしても、宝珠を封じることができるのかもしれない。
しかし、その容貌を見ると、どうしても認められない。
状況的にも、アルフォンスたちの能力的にも、もう遊んでいられる余裕は無い。
しかし、奥の手である《時間停止》は、再び宝珠が使用不能になると危険すぎるので使えない。
それに、ヒロユキには、アルフォンスが彼の《火弾》を防ぎきったからくりが分からない。
能力的には充分勝てる相手なのだが、手札が分からない――未知というのは脅威である。
そうなると、ヤマトの勇者の時のように、宝珠込みの基礎能力で圧し潰すしかない。
上級魔法の《爆裂》をつるべ打ちすれば、小細工など意味をなさないだろう――ヒロユキはそう考えて、宝珠を握る手に力をこめる。
しかし、なぜか魔法が発動しない。
彼はまた宝珠関係のファンブルかとも思ったが、宝珠に異常は見られない。
それなのに、何度やっても発動する気配がない。
そのうち、どうにも違うような気がしてきていた。
古竜が出現してからずっと鳴り響いていた《危険察知》スキルが発する警報も、心なしか大きくなっているような気がする。
いろいろな違和感が気になりだすと、突然知らない場所に来てしまったような不安に駆られ、どうにも落ち着かなくなる。
近い感覚でいうと、女神様の遣いを名乗る何かが、神槍と宝珠を持ってきた時のものに近い。
「ということで、私のファイアボールを見せてあげよう」
『ということでじゃないよ。そんなことしたら、禁忌どころか星ごと消滅しちゃうよ』
「え、何の話してるの? 何かすごい音量で《危険察知》の警報が鳴ってるんだけど」
『ユノが変な対抗意識出して、あれに太陽ぶつけようとかって莫迦なことを考えてるんだ。警報はそのための魔素を出したからじゃないかな』
「ちょっとスケールが大きくなりすぎっすね。……ってか、そんなことできるんすか?」
『まあ、できるかできないかでいえばできるけど』
「やった結果が世界の消滅とか、笑えないから止めてね?」
『ボクが協力しなきゃしない――とは思うけど、ユノにしてはアイデア自体は面白いし、使えるように工夫してみるのもいいかも』
ヒロユキには彼らが何の話をしているのか理解できない。
言葉自体は聞こえていたが、理解が追いつかない。
ヒロユキは言い知れない不安に駆られて、彼らの視線の先にある謎の生物に、宝珠を使って《鑑定》を仕掛けた。
しかし、それにではなく、なぜか宝珠に抵抗されたような気がしたが、彼はどうにか宝珠を捻じ伏せて《鑑定》を成功させた。
個体名 ユノ(処女)
種族 ユノ(邪神)
年齢 16
レベル 1
クラス 新神アイドル
女子力 無病息災
女子力 五穀豊穣
女子力 お砂糖とスパイスと素敵成分配合
女子力 夢見る乙女
女子力 私脱いでもすごいんです/身長160cm 体重54kg B90W52H89
女子力 綺麗好き
女子力 良妻
女子力 ママ
女子力 物理
恩愛 乙女の秘密
慈悲 料理魔法
E 邪神ドレス(一式)(呪)
とある英雄によってデザインされた、フェティシズムの極致のひとつ。
ポロリ防止・チラリ増加効果。
E 邪パンツ (日替)(呪)
とある英雄によってデザインされた、乙女の最後の一線を守る砦。
食い込み調節・魅惑効果。メイドイン邪パン。
E マジカルバケツ (呪)
特殊効果はないが、職人の拘りが感じられる逸品。
職人の想いが強すぎて、呪いの装備となった。
(何だこれ?)
それがヒロユキの偽らざる感想だった。
バグっていた。
どう見ても、何度見てもバグっていた。
(個体名がユノ(処女)――性別が処女? どういうことだ? 種族が個体名と同じでユノ(邪神)――えっ? 邪神? クラスが新神アイドル。何だこれ? 邪神って何? マジで? それが何でアイドル? 偶像なの? わけ分かんねーよ!?)
彼には分からなくても、何かとにかくヤバいことだけは分かった。
宝珠も、また強制終了からの再起動を始めている。
ポンコツが! ――と、ヒロユキは心の中で悪態を吐きながら、それなら神槍で――と、神槍を握る手に力をこめたが、神槍はそれを拒否するかのように猛烈な勢いで震え始めた。
(何だこれ? 何だこれ!? もしかして、あれにビビってる!?)
槍を使うとか、そういうレベルの問題ではなかった。
もっとも、神器に認められていない彼には、宝珠が作動していない状況でクピドの矢を使うことはできず、その反動を受けずに済んだという意味では助かったといえる。
ヒロユキは、これを戦ってはいけないタイプのイベントだと理解した。
逃げるしかない――全員の意識がそれに集中している今しかチャンスはなかった。
◇◇◇
――ユノ視点――
「さて、どうしよう」
太陽の複製は駄目。
領域を出すのも大人気ない。
ひとつずつ壊して回るのも面倒だし、ここで「歌う」という選択は、さすがに脈絡がなさすぎる。
『瘴気さえ取り除けば、後はミーティアたちでどうにかできるんじゃない?』
言われてみれば、そのとおりかもしれない。
禁忌は私がどうにかしなければならないと思い込んでいたけれど、結果として解決できれば何でも――むしろ、私ではない方がよかったのだ。
「瘴気は私がどうにかする。それと、魔素を供給してあげる」
分体を古竜たちそれぞれの背に出現させて、周辺の瘴気を浄化する。
個別にやるのは面倒なので、一気にやりたいところだけれど、また思いもしない影響が出そうなので、必要な部分だけに限定する。
同時に、古竜たちを汚染している瘴気も浄化して、更に魔素を供給――能動的にやった記憶がなく、どうすればいいのか分からなかったので、心の中で(美味しくな〜れ)と唱えながら念を送っておいた。
「こっ、これは――」
「ユノ様が入ってくるぅ!」
「ごめんなさい、レオン……。貴方を乗せているのに、貴方以外に満たされる私を許して……!」
「ふふふ、年甲斐もなく漲ってきたわ!」
どうやら、みんな美味しくなったようだ。
もう自分でも何だか分からないけれど、とにかく何とかなりそうな気がするので良しとする。
「存分に暴れなさい」
「うむ!」
「はっ!」
「ええ、行くわよ!」
「おう!」
そして、漲った彼らを解き放つ。
ここまで最も撃墜数が少なかったのはミーティアだ。
とはいえ、能力的に劣っていたわけではなく、むしろ、4頭の古竜の中で、最も破壊力が高いのだけれど、射程に劣る――と、単純に相性の問題だった。
古竜たちの魔法の射程は、最も長いカンナで七百メートルほど。
次いでシロが六百メートル、アーサーが五百メートル。
それに対して、ミーティアは竜眼の射程こそ長いものの、魔法に限れば、人間の限界と同等の三百メートルが精々だ。
そして、彼女の最大の攻撃であるブレスは、百メートルほどしか届かない上に溜めが長く、動きが素早いものを狙うのは不向きである。
また、射程限界へ魔法を放ったとしても威力や精度は落ちるし、魔力の消費も激増する。
魔法が兵器に後れを取るのはそういうところで、もしも、全ての飛行機を知性ある人が操縦していれば、古竜たちは瘴気兵器無しでも、もう少し苦戦していたかもしれない。
しかし、美味しくなったミーティアの最高飛行速度は、平時の軽く六倍。
恐らく、もっと美味しくなれば、もっと速くなるだろう。
とにかく、射程の差を速度で補うことができて、瘴気は私が片っ端から浄化していく。
というか、私が魔素を供給している限り、瘴気に汚染される余地が無い。
そうなると、フラストレーションを溜めていたミーティアを縛りつけるものは何も無い。
ミーティアは、お散歩を待ち詫びていたイヌを連れだした時のようなテンションで、目についた物に片っ端から飛びかかっていく。
もはや、魔法すら必要無い。
牙で、爪で、尻尾で充分。
ただ、そうなると急発進、急制動、急転換――と、私も振り落されないように必死にならざるを得ない。
どうせ魔素の供給の絡みもあるしと、アンカーを打ち込ませてもらったけれど。
元来アーサーは、《未来視》を駆使して、無理をしない戦い方を得意としていた。
個人的には、今回はそれに終始していればよかったと思うのだけれど、男の子としての性か、少々強引に攻めすぎて、撃墜数は最多だったものの、被弾も最多だった。
そして、美味しくなってからは、やはり全身全霊で散歩を満喫するイヌになった。
自身が火の玉になって敵機へ突撃するスタイルは、私への配慮か当てつけか。
また、こちらも振り落とされないように必死にしがみつかなければならなかったので、アンカーを打たせてもらった。
シロとレオンのコンビは、水から氷塊の生成、それを《転移》魔法で敵機の目の前に設置という特殊な戦い方で、安定した戦果を出していた。
システムの魔法というのは理不尽なもので、例えば、水を出す魔法では、水が出る――というか、水を作る。
その水を魔法で冷やして氷を作ることはできるけれど、いきなり魔法で作った氷は、融けても水にはならずに――というか、魔力が切れるまでは氷のままで、切れると消えてしまう。
もちろん、魔法の用途に合わせて術式を変えればその限りではないそうだけれど、私にはよく分からない法則が存在するのだ。
なので、シロの魔法の射程距離が多少長くても、射程限界を越えると魔法の氷は消滅してしまうし、凍らせた水を飛ばそうとすると、物理的な制限を強く受ける上に、消費魔力は増大して射程が短くなる。
そこで、凍らせた水を、レオンの《転移》魔法を使って、飛行機の針路上に設置する。
《転移》魔法は、高い適性と膨大な魔力、それに準備なども必要になるものの、射程に関する制限がかなり緩い例外的な魔法である。
アルくらいになると、数百キロメートルくらい移動できる。
一度行ったことのある場所とか、目印を設置しているとか、制限はあるようだけれど。
レオンの魔力なら、人間大の氷塊を飛行機の針路上に置くことなど造作もなく、装甲の薄い飛行機には、どこかしらに当たるだけで甚大なダメージを与えられる。
そのまま落下させれば質量兵器にもなる――と、アルたちとは違ったユニークな戦術を用いていた。
そして、美味しくなるとやはりイヌ。
嬉々として飛行機を追いかけ回しては、氷漬けにしていく。
制止するレオンの声も届かない。
こちらに関しては、レオンが受け止めてくれているので必死になる必要は無いけれど、時折レオンの手が私の胸とかお尻に触れるのは、レオンも必死なのか、それともセクハラなのか。
とはいえ、シロが咎めないことを思えば、レオンも悪気があってのことではないだろう。
それに、そもそも触られたからといって減るものでもない。
レオンにもアンカーを打つかは迷ったけれど、変な所で固定して誤解をされるのは御免なので、私の分だけ打った。
基本的に、他の3頭とカムイのサポートに回っていたカンナだけれど、折に触れて攻撃はしていたようで、撃墜数はミーティアよりもやや上だった。
攻撃方法は、単純に水属性のブレスを吐いただけ――水属性というものが何なのかは分からないけれど、イメージ的にはウォータージェットか、悪役レスラーの吹く毒霧のようなものか。
それよりも、敵味方の位置や行動を的確に把握して、必要な行動を取っていたところが評価のポイントだろう。
さておき、美味しくなったカンナは、他の三頭のようにハッスルすることはなく、なぜか小刻みにプルプルと震えているだけだった。
老体には刺激が強すぎたか――と思ったけれど、よくよく考えると、カンナの背に乗る許可を取っていなかったことに気がついた。
もちろん、すぐに謝罪した。
「べっ、別に、いいけど……」
そう言って、モジモジし始めた。
いい歳してはしゃぐのが恥ずかしいのか、みんなの輪に入るのが怖いのか――そういえば、カンナは筋金入りのボッチだったか?
これがコミュ障というものなのか。
それでも、飛行機駆除は他の3頭がいれば充分――というか、間もなく終わる。
沿岸部の戦艦と空母を合わせても、あと数分といったところだろう。
つまり、今のカンナに無理をさせる必要などこにも無い。
こういうことは急かすと逆効果なのだ。
多分。
まあ、ゆっくりと慣らしていけばいい。
◇◇◇
――アルフォンス視点――
『アルフォンス、オルデアの勇者が逃げたよ?』
上空の様子を眺めていると、朔から声がかかった。
もちろん、それには気づいていた――というか、あいつが何らかのアクションを起こせるように、わざと隙を作っていたのだ。
「あっ、ほんとだ」
同じく上空に気を取られていたトシヤが、視線を正面に戻して驚いていた。
オルデアの勇者の性格は、力を誇示するタイプだろうし、恐らく不意打ちはないと踏んでいたけど、トシヤがどう考えていたかは分からない。
ってか、隠せよ。
とにかく、退いていくれて助かった。
退いた理由は、きっとユノを《鑑定》でもしたのだろう。
いきなり顔色が変わったのが分かった。
気持ちは分かる。
女子力高すぎぃ! ――っていうか、多すぎだよな。
とにかく、何の用意もないのに、あんな危険な物を持ってる奴と、ガチでやり合うとか、追撃するとか危険すぎる。
神槍だけならまだ勝ち目もあったかもしれないけど、神の秘石まで持っているのは反則だろう。
神槍の代償を、神の秘石で支払うとかやられたら最悪だ。
「まあ、《火弾》連発しすぎて、頭の皿が乾いちゃったんだろ」
そんな内心を表には出さずに、軽い感じで冗談を言う――と、ユノがくすりと笑った。
しまった、バケツを外させてから言えばよかった。
「ひとまずはお仕舞いかな。みんなお疲れ様」
ユノがそう告げると、みんな気が抜けたようにへたり込んだ。
ってか、いい加減に隠せよ。
こいつ、初めての混浴の時は、俺やアーサーさんを見てビビってたのに。
「マジっすか。アンタらすげえな……」
とか言っていたのに、今では誰よりも見せたがり――いや、最初から素質はあったのか?
――いや、大イベントを乗り越えたってときに、他人のチ〇コに気を取られても仕方がない。
今はひとまず心の底から喜ぼう。
◇◇◇
――ヒロユキ視点――
奴らの気が逸れた隙に、気配を消して全力で逃げだした。
それまでの優位がもったいないような気もするし、腹立たしい気持ちもあったけど、そんな状況での奴らの態度を見るに、あの謎の生物――邪神には何かがあるのだ。
もちろん、《鑑定》結果がバグっただけという可能性もある。
でも、それだけでは説明がつかないことがいくつも起きていた。
《時間停止》もエラー吐いてたしな。
いや、今なら分かる。
神槍と宝珠は、あの邪神にビビっていた。
戦えば必ず負ける――とは思いたくないけど、切り札がこれでは踏み切れない。
麓までどうにか降りてきたけど、どうやら追撃はない。
でも、空を見ると古竜が想像以上に大暴れしていて、最悪、瘴気兵器を使えば古竜を弱体化できるという当初の予想が見事に裏切られていた。
いや、それすらも邪神の影響なのかもしれない。
古竜が群れてる時点でおかしいしな……。
何で人間の英雄が邪神を連れているのか――いや、邪神が英雄や古竜を率いているのか?
いくら考えても答えが出ることはない。
それでも、ひとつだけはっきりしていることがある。
あの邪神は、禁忌――飛行機なのか、瘴気兵器なのか、その両方なのかは分からないけど、かかわった奴を処分すると言っていた。
思い出すと、背中がゾクリとして――悪寒が止まらなくなった。
《危険察知》も止まらない。
(どうする――どうすればいい? 総督府に戻れば、数日後には――いや、それ以前に押しかけてくる可能性も――。助かるにはこっちも神を――)
◇◇◇
――第三者視点――
精神的に追い詰められていたヒロユキに、投降という選択肢は思い浮かばなかった。
彼も、この戦争で何人もの人を、そして同郷である勇者をも殺害していた。
無意識下で、それが決して許されないことだと認識していたのかもしれない。
助かるためには、生き残るためには勝つしかない。
視野狭窄に陥っていた彼が目指すのは、微かに見える希望の灯であり、女神を自称する存在から託された使命でもあった。
遠くに見えるその小さな灯が、実はどれほどの業火なのか、ヒロユキが気づくことはない。




