23 戦場に架かる虹
――ユノ視点―
「剣術が使えぬから追放とは、随分とおかしな話なのじゃ。過去にも剣術はからきしじゃった勇者もおったはずなのじゃが……。お主、その姫に良からぬことでもしたのではないのか?」
「まさか! その当時の姫は、6歳か7歳くらいですよ? 確かに可愛らしい子でしたけど、俺は紳士なんで、イエスロリータノータッチですよ! ってか、最初は姫様を嫁にみたいな話もあったんですけど、当時の俺は健全な二十歳ですよ? 姫様が成人して、結婚するまでそういうこと禁止。もちろん、つまみ食いや浮気は厳禁とか、もてあますに決まってるじゃないですか」
「うわぁ、気持ち悪……」
『シズク、声に出てる』
「お前の気持ちはよく分かる。俺も、ユノ様から500年のお預けをくらっているからな」
「500……!? ちょっとスケールが違いすぎるっすね。いや、でも、相手がユノさんくらいならありかもしれないっすね」
「気持ち悪っ!」
シズクさんの、トシヤに対する当たりが厳しい。
確かに、性的嗜好は少々アバンギャルドなところがあるけれど、それはアルやシズクさんにもあることで、程度の差でしかないと思うのだけれど。
それに、追放されても腐ることなく前向きに生きているところには好感を覚えるのだけれど、やはり、ヤマトの人らしく魔法使いは嫌いなのだろうか。
状況が落ち着いて、トシヤが望むなら、剣術――は無理だけれど、体術でも教えてあげようかな。
さておき、ヤマトの姫の匂いの追跡を始めてからしばらく経つと、街道から山道へ、山道から獣道へ、そして道なき道へと移り変わっていた。
起伏が激しく、大小様々な草木が生い茂る山中、時には流れの速い川や、垂直に近い崖が立ち塞がる。
私たちにしてみれば多少スパイスの効いたピクニックでしかないけれど、本当に姫がこんな所を通っているのかは疑問が残る。
とはいえ、先導するクズノハが自信満々なので、信じるしかない。
そんな中での話題は、やはり姫についてのこと。
トシヤさんに交流があったのは、彼が召喚されてから追放されるまでの僅かな期間だけ。
シズクさんは、アルと結婚する以前に、何度か話す機会があったらしい。
そして、直接姫との接点はないものの、ヤマトのことをずっと観てきたクズノハ。
その三人の話を聞いていたはずなのだけれど、気づけば私の話にシフトしていた。
昔話をするなら、最後までしてほしい。
いや、それほど興味があったわけではないけれど、今は私の話をする状況でもないでしょうに。
「お前は銀にお熱だったのではないのか? それとも、雌なら何でもよいのか?」
「ふっ、俺はユノ様に出会って、真の愛を知ったのだ。ミーティアなどただの気の迷い、いや性欲にすぎん」
「うわぁ、最低」
シズクさんが吐き捨てるように言った言葉は、アーサーには届かなかった。
寛容さとかそういうことではなく、ノイズか何かくらいにしか感じていないらしい。
さておき、アーサーの言うように、愛と性欲は別なのか、それとも、アーサーが特別なのかが分からない私は、会話に混ざることができない。
アイリスとの関係にもしっかりと向き合いたいとは思うのだけれど、そのあたりの人間性を失くしてしまったのか、今ひとつ理解が難しい。
そんな私の手を、カムイがクイクイと引っ張る。
「合法」
うわあ、ドヤ顔可愛い。
しかし、一体何をアピールしているのだろう?
もっと可愛がれということか?
「どちらにせよ、お主らのような軽薄な者や変態に、ユノ様が落とせるとは思わんが――」
「アーサー殿にはかける言葉すらありませんが……、トシヤ殿は高望みせずに、姫様で手を打っておけばよかったのです。幼い頃は気難しい方だったと聞いていますが、今では性格も良く、容姿も『ヤマトの太陽』と称されるほどの美しさだそうですよ。――といっても、貴方の後の勇者と婚約していたそうですけどね」
さっきから、シズクさんの言葉に棘があったり問題があったりしているのだけれど、アルと離れていることが不満なのだろうか。
アーサーやトシヤは特に気にしていないようだけれど、無駄に雰囲気を悪くするのは止めてほしいところだ。
クズノハは……。
まあ、神ってそういうものみたいだし、ある程度流していくしかないか。
さておき、姫と接触する際に、多少なりとも面識のある人がいた方がいいだろうということで、シズクさんとトシヤさんはこっちのチームに欠かせない。
そして、アルを向こうのチームに追いやったのもシズクさんだ。
その美人と噂の姫と会わせたくなかったのかもしれないけれど、いくらアルでも、婚約者を喪ったばかりの女性を口説くことはないのでは?
信用していないのか――いや、ある意味では、これ以上ないくらいに信用しているのか?
それでも、不安なのか不満なのかはなくならないと?
これが女心というものなのだろうか?
アルからしてみれば、どうするのが正解なのだろう?
度し難い――を通り越して、厄介だね。
「ふっ、ユノ様は寛容な方。生理現象は大目に見てくれるのだ」
嗜好はともかく、節操がないのは生理現象とは違うと思うけれどね?
「十年前に姫様が成人してれば――ってか、その当時から嫌われてたみたいですし、良い感じに綺麗になってる姫様に冷たい目で罵られたりしたら……あ、それはそれで……。でも、やっぱりユノさんに優しく声をかけてもらう方がいい――いや、姫に罵られた後に、ユノさんに優しく慰めてもらう。これっすね」
トシヤさんは、性格的には前向きではあるけれど、対人関係に難ありっぽい。
コミュ障というわけでもないようだけれど、必要以上に自信が無い――というか、いろいろと拗らせているようだ。
性交――いや、成功体験がないことが大きく影響しているのだろうか。
……あれ、前者もか?
とにかく、彼のユニークスキルの名のとおり、何事も挑戦してみなければ、結果は得られない。
勇気を出して挑戦して、精いっぱい努力をしてもなお失敗したそのときは、彼の希望通り慰めてあげるのもいいだろう。
何に挑戦するのかは知らないけれど。
出会った時のようなのは理解できそうにないので、勘弁してほしい。
そんなたわいのないことを話しながら進むこと数時間。
ついに追手の最後尾と思われる集団を、肉眼で捉えられる所までやってきた。
つい先刻、アルたちから入った連絡では、彼らは「オワリ」という町の領主が放った追手で、オルデアに姫たちを売って、身分の保障を求めるつもりなのだと判明した。
その是非について論じるつもりはないけれど、逆の立場になって考えてみれば、同胞を売って取り入ろうとする人が信用されるのだろうか。
それはともかく、追手の人たちの作る行列は、縦に長く延びていて、状況が既に捜索ではなく追跡になっていることは一目瞭然だ。
彼らの列は、山の向こうまで続いていて先頭は見えないものの、領域をちょいと伸ばせば、行列の先頭と、その先にいるターゲットを発見することなど造作もない。
とはいえ、クズノハの案内やアルたちからの報告がなければ、それを姫の一行だとは思わなかったかもしれない。
なぜなら、彼女たちは、一見するとただの冒険者――というか、遭難中のパーティーにしか見えない有様である。
その中心で憔悴しきっているのが姫だと気づける人が、どれだけいるだろうか。
その顔は酷く窶れていて、髪や服は汗や埃や土でドロドロで、シズクさんが称したヤマトの何とかからは程遠い。
というか、事情を知らなければ、ゾンビかと思うレベルである。
そんなことより、状況は一刻を争う――というか、自力でどうにかなる段階はとっくに過ぎていて、どう考えても詰んでいるように見える。
それに、ここを切り抜けたとしても、魂が半分死んでいるような状態では、助かったとはいえない。
「トシヤさん」
「は――え?」
トシヤさんが反応する前に、彼の胸ポケットに保険のエリクサーRを突っ込んで、そのまま持ち上げた。
「姫、超ピンチ。何でもいいから、生きる希望を与えてきて」
「え? お、おおおおお!?」
そのまま返事も聞かずに、そこへと向かって投げる。
瞬間移動させようかとも思ったけれど、それだとトシヤさんには追手の配置などが分からない。
数については口頭ではある程度伝えているものの、それだけだと逆に無用な不安を与えてしまうかもしれない。
実際には、隊列はかなり間延びしているし、地形が複雑で障害物も多いので、やりようはいくらでもあると思う。
そう考えると、数秒程度のロスで、上空から敵配置が確認できる方がいいだろう。
それに、空から現れるというのは、ヒーローの条件のひとつのように思う。
トシヤさんは、アルのような華のある英雄ではないけれど、英雄とは決して容姿が条件ではないはずだ。
さておき、もうひとり掴んで持ち上げる。
「えっ!? わ、私もですか!?」
シズクさんは、目が合った途端に、一歩後退ったけれど、もちろん逃がさない。
そして、質問には無言で頷いて答える。
『こっちからも援護はするけど、メインはトシヤと君で。合流地点はそこから西にある海岸。そこに着くまでに、彼らに希望を与えておいて』
「そ、それはユノ様がご自身でなされた方がよいのでは……?」
「控えよ、人の子よ。ユノ様のお立場と影響力を考えよ。人同士のことは、人同士で決着をつけねばならないのだ」
悪足掻きするシズクさんの肩を、ヨアヒムが励ますように叩く。
「せ、せめて、投げる以外の方法で――私、主人のように飛べたりしないんですよ!? というか、普通の人間は飛べないんですよ!?」
『大丈夫。ユノはコントロール良いから』
「い、いえ、そういう問題では無くて――」
『大丈夫大丈夫。中々死なないのも実験済みだから。それに、エリクサーRもあるから』
「え、あ、ちょ、きゃあああああぁぁぁ!」
長々と説得する時間もないので、トシヤさんと同様にエリクサーRを持たせると、これ以上は有無を言わさずぶん投げた。
朔の言うとおり、コントロールには自信がある。
それに、ゴブリンでも二割くらいは生き残った。
その時より遥かに長距離だけれど、ゴブリンより遥かにレベルの高い彼らなら、大した怪我もしないはずだ。
多分。
◇◇◇
シズクさんのドップラー効果のかかった悲鳴が聞こえなくなってから、私たちも援護――狙撃地点へと瞬間移動した。
よく考えれば、ここから投げた方が近かった。
とはいえ、終わってしまったことは仕方がない。
必要なのは、これからのことだ――と、人数分の狙撃銃を取り出して、それぞれに手渡した。
一応、仲間外れにするのは可哀そうなので、カムイにも手渡したけれど、彼女の小さな身体では、大きな狙撃銃をまともに使うことは不可能だろう。
それと、カムイはまだ古竜ではないにしても、竜である。
人間社会に帰属することもないと思うので、殺人が悪いことだなどと人間のルールを押しつけるつもりはない。
そもそも、人どころか天使でも殺す――というか、喰らう私が言っても、説得力がない。
まあ、人間に限らず、生物であればいつかは死ぬのだ。
それに、死ぬこと自体にも大きな意味がある。
人間というか、生物はいつかは死ななくてはならないのだ。
とにかく、最終的に追い払うことができればいいので、皆殺しにする必要などないのだけれど、わざわざ狙いを外す理由も無い。
何より、ここにいる人たちが普通に介入しようとすると、想像以上の大惨事になる。
それと比べれば、人間の造った武器で介入するのは、良い落としどころではないかと思う。
トシヤさんとシズクさんがどんな対応を取るのかは分からないけれど、戦闘になれば援護開始だ。
そして、今度は領域ではなく、肉眼でトシヤさんたちの様子を窺う。
その瞬間、目を疑うような光景が飛び込んできた。
この僅かな時間に、なぜこんな状況になっているのか――。
◇◇◇
――トシヤ視点――
何が何だか理解できないまま、空へと投げ出された。
突然のことで、心臓がバクバクいっているけど、恐らく恐怖によるものじゃない。
俺も、勇者の嗜みとして、《飛行》魔法はマスターしている。
あるいは若気の至りだったのかもしれない。
あれは何年前のことだったか。
アクロバティックな自慰に目覚めてからしばらくして、「大空でGを感じながら自慰をする」という素敵なアイデアを閃いたんだ。
早速実行すべく――さすがに昼間や月明りの明るい夜にやる勇気はなかったから、新月の空へと舞い上がった。
残念ながら、《飛行》魔法の副産物として、個人のレベルやスキルレベルに応じて、風圧やGが軽減されるようになるっぽい。
つまり、俺が望んでいたような刺激は得られずに、悔しい思いをした。
まあ、全裸で飛ぶのはそこそこ快感だったけど、《飛行》魔法を制御しながらやるって、かなり熟練を要するし、疲れるしで、どう頑張ってもそっちに集中できないんだよね。
スキルポイントかなり使ったのになあ……。
それ以来、活躍の機会もないまま長らく死蔵していたんだけど、ユノさんに投げられた時に感じたGは――下半身に血が集まる感覚と、いつもと違う角度から見るユノさんの胸の谷間に、思わず勃起しそうになった。
そして、体全体で感じる風圧――俺のレベルやスキルによって、時速約六十キロメートルほどに軽減された風圧。
《飛行》魔法によらない飛行――耐性だけだとこんな感じになるのか!
だったら、高高度からの落下とかでもよかったのか――いや、さすがに死ぬか?
とにかく、これは一説によると、おっぱいと同じ感触で――俺は今、それに全身を包まれている!
手は自然とズボンのベルトへと伸びていた。
その時、このまま行くとぶつかるであろう山肌付近が目に入った。
それと同時に、ユノさんに言われたことを思いだした。
あそこにいるのはユーフェミア姫たちで、俺たちが助けなければ全てが終わってしまう。
自分の欲望に負けている場合じゃない!
だけど、無情にもベルトの外れたズボンとパンツは、風圧に負けて脱げて飛んでいって――というか、飛んでいる俺が置き去りにしてしまった。
まだ日の高い時間に、下半身丸出しで空を飛ぶ元勇者。
やだ、何この解放感!?
夜間飛行なんて目じゃない。
股間の垂直尾翼が風を感じる股間飛行。
すごいのぉ!
ひとりなのに編隊――いや、変態を組んで、股間のミサイルがFOX3しちゃいそう!
僅かに残った理性で、ヒラヒラと地上へと落下していくズボンとパンツを取りに戻るかと迷ったけど、そんな余裕が姫一行にも俺にも無さそうなことと、快楽に負けた。
それでも、着地する寸前、《固有空間》から咄嗟に取り出した何かで股間を隠すことに成功した。
◇◇◇
これから戦場となる、独特の緊迫した雰囲気の中。
そこに、突然下半身丸出し――小さな金属製のラウンドシールドで辛うじて股間を隠したおっさんが、空から降って来た時の空気というものをご存じだろうか?
面と向かい合っている姫様一行は、突然現れた珍客の登場にカチンコチンに固まってしまっている。
ははっ、洒落が利いてるね!
でも、腰を抜かしたり、反射的に斬りかかってこないだけでもすごいことだ。
俺だったら漏らしてる自信がある。
まあ、斬りかかってきても、このイージスの盾で君らの攻撃は防ぐけどな。
そして、周りを取り囲んでいる追手の連中は、姫様たちより距離があったせいか、比較的動揺は少ないみたいだ。
それでも、混乱はしているようだけど。
「も、もしや、あれがこの山に住むという大天狗様なのか!?」
「ま、まさか!? そんな話は聞いたことがねえぞ!」
「莫迦野郎! 大天狗様の伸ばしてるのは鼻だ! イチモツじゃねえ! 罰が当たるぞ!?」
「ああ、それにどう見ても大じゃねえ。小だろ!」
「俺好みの良いケツしてやがる」
なんて会話が聞こえてくる。
そりゃ、アルフォンス君やアーサーさんに比べれば小さいけど、あのふたりが規格外であって、俺だって平均サイズなんだから!
今は緊張して縮こまってるだけだから!
それと、ノーマルなんだから!
針の筵というか、軽く百を超える人から、警戒と敵意と微妙な好意――いや、性欲の対象にされて、ヤバい、緊張しすぎておしっこ漏れそう。
「ナニモノだ?」
そんな俺に、目の前の侍が誰何してきた。
イントネーションが微妙だったのは、彼も緊張しているからだろうか。
それよりも、早く答えないとただの不審者なんだけど、素直に答えても信じてもらえそうにない――ってか、俺の困ったちゃんの手が、無意識に盾をずらして局部を露出させようとしている!
「はいっ!」
そうはさせまいと気合一閃、意思の力で欲望をねじ伏せて、盾を高速で半回転させて事なきを得た。
そして、その中で思い出した、とある人物の名を少し拝借させてもらうことにする。
「通りすがりの半裸100%です」
「――トシヤ? はっ、まさか、先代勇者のトシヤ殿か!? なぜここに――」
「もしや、追放された恨みを、今になって晴らそうと!?」
偽名を名乗ったのに、なんでバレた――いや、盾の裏に名前が!
持ち物に名前を書く癖が災いしたか――ってか、そこの老剣士には見覚えがある。
十年前に会っていたかもしれない。
「トシヤ――お兄ちゃん?」
俺の名前を聞いて、ユーフェミア姫らしき人が、伏せていた顔を上げた。
美人に成長したと聞いてたけど、こんなにドロドロだと判別はつかない――のに、何だか興奮する。「お兄ちゃん」と呼ばれたからだろうか。
しかし、過去にあれだけ嫌われていたことを考えると、ガン見するのはまずい。
「い、いや、逆っす! 助けにきました、ほら!」
それよりも、話が拗れる前に誤解を解いておこうと、《無詠唱》で範囲回復魔法を使って、彼らの負傷や体力を回復してやった。
「え……、恨んでいないの?」
「お互い過去のことはもう水に流して、今はこの窮地をどうにかすることを考えましょう」
いや、マジで。
そんなことを言っている場合じゃないんだよ。
いろんな意味でピンチなんだよ。
「……そう言ってもらえると有り難い。しかし、過去の謝罪と今回の礼は、生きて戻れたときに必ずさせてもらう」
「そうだな。しかし――その、勇者殿はなぜにそのような姿で……?」
「ちょっとした風の悪戯です。気にしないで――」
いろんな意味で苦しい言い訳をしていたその時、これも勇者の嗜みである《危険察知》が報せる警報が、頭の中で激しく鳴り響いた。
確かに、状況も膀胱も危機的状況にあるけど、警報は包囲している敵からじゃなくて、上空からのものだった。
ドップラー効果のかかった悲鳴と共に、空から人妻が降ってきた。
風圧を軽減する類のスキルを持っていないのか、ものすごい勢いで、そして、その風圧で見るに堪えない酷い顔で。
このままでは直撃コース。
ユノさん、本当にコントロール良いんだな――ってか、このままではシズクさんが大ダメージを負ってしまう。
それどころか、打ちどころが悪ければ――システムのあるこの世界で、シズクさんのような高レベルの人がそうなることは滅多にないけど、それでも運が悪ければ――いや、この勢いだと普通に死ぬんじゃね?
きっと、優しく受け止めるなりして、助けるべきなんだろう。
だけど、そうするためには、この盾から手を離さなければならない。
いくら俺が勇者でも、パンツを穿く時間的余裕は無い。
盾から手を離したら、違う意味で勇者になる。
マジ大チン――ピンチ。
「――失礼!」
それでも、俺の社会的評価と、シズクさんの身の安全を天秤にかけることはできないと、なおかつ合法的に女体に触れるチャンスと判断して、《飛行》魔法を発動させる。
人妻――中古などに興味は無いし、彼の巨チンと比べられると心が折れると思うけど、どさくさに紛れておっぱいを触るくらいはセーフだろう。
ユノさんたちと行動を共にするようになってから発散できていないし、ユノさんを見てるといろいろと溜まるのだから仕方がない。
上昇する最中、自分とシズクさんに対して《防御力上昇》や《衝撃耐性上昇》などの魔法を掛けて、上空百数十メートルのところで、無事にシズクさんをキャッチすることに成功した。
中古なのに、柔らかくて、良い匂いがします。
しかし、残念ながら、俺の膀胱は無事ではなかった。
シズクさんをキャッチした衝撃で、ついに堰き止めていたものが決壊してしまった。
終わったな。
止めどなく流れる涙と尿。
みんなに見られているという羞恥心と、圧倒的な解放感。
それに、人妻の柔らかさと匂いがプラスされて……これはクセになりそう!
この時、戦場の空には見事な虹が架かっていたそうで――ここがヤマトの転換点になったと、後の歴史書に記されることになった。
その中で、俺は「虹の勇者」と呼ばれることになるなど、思いもしなかった。
虹より二次元が好きなんだけど……。
ちなみに、シズクさんを抱えて降りてきた俺の股間には、なぜかモザイクがかけられていましたとさ。




