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11 誤算

 海上からの偵察も無事に終わると、今日もレオンホテルで、報告会という名の宴会が始まった。


 毎日宴会をしているような気がするけれど、そうやって相互理解を深めているそうなので、水を差すわけにもいかない。

 会議自体もきちんとやっているしね。

 これも雰囲気だけの気もするけれど。


 それに、この宴会の手際の良さは、湯の川にも順応しやすいと考えれば、悪くはないのかも――いや、どうだろう?



「今日の偵察は、とても有意義なものだった。それで、(ちち)(しり)(ふともも)とひととおり見てきたわけだが、何か気づいたことはあったか?」


 うん?

 何だか含みがあったような?


「どれも最高でした」


 兵器が?

 調査結果が?

 どういうこと?


「うむ。確かに禁忌というに相応しい迫力じゃった」


「ああ、あれにはさすがに俺たちでも勝てん」


「ええ、これからも調査が必要ね」


 よく分からないけれど、調査はまだ続くらしい。



 もっとも、料理の用意から偵察結果の総括など、明日以降の方針や作戦もアルとレオンのふたりだけで事足りる。


 私は、お酒を出したり、「美味しくな〜れ」とお呪いをする役で、シズクさんはそれらを配膳する役。

 古竜たちは飛ぶことが仕事なので、今は言葉どおり翼を休めている。


 つまり、完全分業制というやつだ。




「潜水艦がいなかったのは想定の範囲内でしたけど、イージス艦も見当たらないし、駆逐艦とか巡洋艦もいない。巨大空母はともかく、時代錯誤も甚だしい巨大戦艦がある。わけが分からない。恐らく、俺たち以上に軍事の素人なんだと思います」


 潜水艦がいないのは、運用が特殊で、保守整備も難しいだろうということで、何より、ヤマトを相手に必要無いことが理由らしい。

 イージス艦については何となくイメージが湧くけれど、他の艦種についてはさっぱり違いが分からない。


「同感だ。俺たちにとって脅威となり得るのは、飛行機のみ。――ヤマトの被害を考えなければ、だけどな。ヤマトなら艦砲射撃だけでも充分な脅威になる。どうするかなあ……」


「まだ戦うって決まったわけじゃないですけど、やるとすれば、やっぱり補給線を断つのが定石ですかね。何にしても。、もっと調査しないと駄目ですけど、あれだけの軍隊の維持をするのは大変でしょうし、オルデアの勇者が軍事に疎いなら、ちょっと(つつ)いただけでも大混乱してくれるかもしれません」


「そうだな。次点で空母に先制攻撃か――それは泥沼化するか? まあ、オルデアにどれだけの軍備があるのかはまだ分からないが、ダラダラと戦い続けるのは愚策だな。とにかく、もう少し情報を集めないとな――と」


 レオンは、話が一段落したところで立ち上がると、《認識阻害》を掛けてから、窓から外を見下ろした。



「囲まれてるな」


 レオンが神妙な顔でそう呟くと、アルも立ち上がって窓から外の様子を窺う。


「武装してる……? 昨日とは様子が違いますね……」


「役人だな。どう見ても友好的には見えないが……。どうする? といっても、俺の選択肢は多くはないが」


「相手は武装した役人で、退路を塞ぐように展開。――寝静まるのを待って突入するつもりなのか? 理由は何だ――いや、何にしても、今はまだこの拠点を失うのはよくない。逃げるのは簡単だけど、理由は探るべきかな。といっても、魔王や竜のことがバレるとヤバい。……うーん、俺ひとりならどうにかなるか?」


 アルが、要点を口に出して列挙したのは、考えをまとめるためだろう。

 それと、過不足がないか、私たちの考えと照合する意味もあるのか?

 私を頼られても困るけれど。



「俺がひとりで対応してみます。みんなは隠れててください」


 しばらく考え込んでいたアルが出した答えは、独断専行――というわけではなく、朔としても、それが妥当だろうというものらしい。



 相手が友好的ではないとはいえ、それを理由に戦うのはオルデアを非難する際に正当性を欠くので論外。


 面倒を避けるために、逃げることは悪いことではないけれど、それはいつでもできる。

 逃げたことで問題が起きないかを確認してからでも遅くない。


 その確認をするのに、魔王であるレオンや、古竜であるシロが矢面に立つのはまずい。

 従業員的立場の眷属の人たちでは、肩書的に不適切だと判断されて、過剰に攻撃的な対応を受けるかもしれない。

 どちらにしても、反撃は可能だけれど、アルの作戦に影響してくる可能性を考えると避けた方が賢明だ。


 そして、ミーティアとアーサーはやはり論外で、シズクさんは交渉能力には期待できない。


 私については、最悪の場合、ここで聖戦が始まる。

 否定できないのが悲しい。

 もちろん、いろいろな意味でそれを認めるわけにはいかない。


 結局、アルしかいないということらしい。


 なるほど。



「おう。それじゃ、俺らは発着場の方に行っとくわ。危なくなりそうなら逃げてこいよ?」


 恐らく、みんな同じような結論に達したのだろう。

 アルが結論を出した直後には、既にレオンの魔法によって発着場への《門》が開いていた。


 そして、それぞれが料理やお酒を持って移動し始めていた。



「お前様、無理はなさらないでくださいね?」


 言葉の上ではアルを心配している風のシズクさんだけれど、大量の寿司桶を抱えているため、顔が隠れている。

 当然、頭を下げることもできない有様だ。


『あまりはめを外さないようにね』


「お、おう……」


 シズクさんでそうなのだから、他の人の反応は更に淡白なものだった。



 もちろん、アルを信用しているところが大きかったと思うのだけれど、それがまさか、あんなことになるとは、この時は誰も想像もしていなかった。


◇◇◇


――アルフォンス視点――

 割と面倒事を引き受けた気がするんだけど、みんなの反応は「ちょっとトイレ」と言うのとそう変わらなかった。

 ちょっとくらい心配してもいいんじゃないかなあ?

 全くもって酷い話だ。



 それはそうと、トイレといえば、ユノにはトイレに行く必要が無いらしい。

 なんと、「アイドルはトイレに行かない」を地で行っているのだ。


 排泄もしなければ、化粧も必要無い、正にパーフェクトアイドル。


 しかし、器官としての膀胱(ぼうこう)や尿道は一応あるらしく、アンモニアの代わりにアルコール類が出せるとの噂がある。

 何とも夢のある話だ。

 いつか確かめてみたい――と、こんな時にこんなことを考えるなんて、酔っているのだろうか?




 さて、マウントを取ってやろうと思って、《転移》で指揮官と思しき人物の背後に《転移》しようとしたんだけど、座標の指定でエラーが発生してファンブルに終わった。


「ははは、参ったね、こりゃ」


 酔っているからではなく、どうやらこの辺り一帯の空間にジャミングがかけられていて、《転移》を阻害されているようだ。

 《転移》の妨害って、効果の割には大掛かりな仕掛けが必要なんだけど、それくらい本気ってことか。

 レオンの《門》は、ギリギリセーフだったのかも。

 もしかしたら、《万死一生》は運に補正が掛かってるのかもな。



 何にしても、《転移》ができないのは大した問題じゃ無い。

 これくらいの妨害なら、無理矢理突破することもできるしな。

 無駄に警戒させるだけだからしないだけで。



 さて、これを俺が主人公の物語として考えた場合、問答無用でバッドエンドはない。

 後にヤマトが控えてるのに、こんなところで打ち切りで、「神様の次回作(きまぐれ)にご期待ください」とか非難が殺到するだろ。


 とにかく、原因は、ほぼ間違いなく昨日のあれ――というか、ユノだと思う。

 といっても、ユノの真価はバレてないだろうし――バレてたらこんな規模じゃ済まないから、そこが解決の鍵かな?


 根拠は無いけど、こういう感じのは何回か経験してるし、それによく似てるんだよな。


 恐らく、問題自体はつまらないことか、どうしようもないことだけど、考えなしに下手に暴れたりすると、バッドエンドや魔王覚醒ルートへまっしぐら。


 とりあえず、どうにかして話ができる状況を作るのが当面の目標で、根底にある問題を暴けばほぼミッションコンプリート。


 その過程で関連クエストが発生するかもしれないけど――その前に、実力を見せる系のイベントも発生するかも。


 話をややこしくしそうな連中は遠ざけているし、さっさと済ませてしまおう。


◇◇◇


「「「動くな!」」」


 ホテルから一歩外へ出ると、刺股(さすまた)や警棒――そこは十手じゃないのかと心の中でツッコミを入れたけど、物騒な物を持った屈強な役人たちに、瞬く間に取り囲まれた。

 訓練されたいい動きだ。


 ついでに、彼らから少し離れた位置には、刀や槍で武装した役人――というか、兵士の姿も見える。


 といっても、抵抗する気など最初から無いので、大人しくお手上げのポーズを取りながら、落ち着かせるように穏やかに話しかけてみる。



「こんな夜中に皆さんお揃いで、一体どうされました?」


「貴様、誰が喋っていいと言った!? ――行け」


 だというのに、口を開いた瞬間に刺股を強く押しつけられた。

 少し痛いけど、捕獲目的の得物を使っているということは、いきなり殺し合いになるようなことはないということで、その点については安心できる。


 また、俺が出てきた時点で待機している必要が無くなったからか、正面口や裏口から次々と役人たちが突入していった。



「質問は我々が行う。貴様は『はい』か『いいえ』だけで答えろ」


 随分な警戒のされようだけど、《無詠唱》で魔法を使える俺には無意味なものだ。


「分かったら、『はい』と答えろ」


「はい、分かりました」


「『はい』だけでいいと言っただろう! 次にふざけた態度を取るようなら、身の安全は保障しない。いいな?」


 この程度でふざけていると言われても困るんだけど、役人の顔がマジなので、挑発しない方がよさそうだ。



「貴様は魔女の一味か?」


 やっぱりなー。

 まあ、予想できる理由の中で、最も可能性が高いものだったわけだ。


 ホテル閉鎖についてのあれこれだったらよかったんだけど。


 とにかく、ユノを魔女として認めると拗れそうだし、そもそも認めたくないし、まずは魔女の定義でも訊いてみるか。

 ミーティアさんやシロさんのことって可能性もあるしな。



「すみません、魔女とは――つっ!?」


「喋るなと言っただろう!」


 質問を口にした直後、言い切る前に警棒が太ももに振り下ろされた。

 レベル差があるので彼らから致命傷をくらうようなことはまずないけど、それでも痛いものは痛い。



「もう一度問う。貴様は魔女の一味か?」


「――いいえ」


 もちろん、心当たりがないわけではないけど、みんな魔女なんて可愛いものじゃない。


「嘘を吐くなぁ!」


 怒声と共に、また殴られた。

 理不尽だ。

 イエスノーで答える以前に、前提がはっきりしない質問には答えようがないんですけど!?



「貴様らが夜な夜な怪しい儀式をしていたことは既に調べがついている! 隠し立てするとためにならんぞ! どうなんだ!?」


 どうなんだ、じゃねえよ。

 宴会しかしてねえよ。


「どうやらいろいろと誤解があるようですが」


「貴様、また――くっ」


 今度は友好的な表情を保ったまま、警棒を受け止めてやる。

 さすがにこんな茶番には付き合ってられない。


 当然、追加で刺股を押しつけられるし、他の役人からも警棒で殴られた。


 ダメージは大したことないけど、痛いのは痛い。


 《苦痛耐性》は、無条件で発動させていると、気がついたら重傷だったとかでビビることがあるので、俺は痛みが長引かないように設定にしているだけだ。


 もちろん、戦闘に支障が出るレベルなら別だけど。

 痛みを感じなかったせいで、キルゾーンに突っ込んでいたことにも気づかなかった狂戦士や勇者の話は枚挙に暇がないし。


 それでも、《苦痛耐性》無しで、こういった嬲り殺しの状況だと、なかなか死ねないのに痛みは普通にあるのでマジ地獄らしい。

 誰だ、こんな仕様にした奴は。



 だけど、俺もユノを禁呪の的にしたり、心臓を串刺しにしたりしているのだ。

 いずれは破瓜の痛みも与えたいと思っている。

 この程度の痛みでキレては、何を言われるか分からない。



「魔女、そして儀式とは何のことでしょう?」


 正面の役人の目をじっと見詰めて、ついでに《威圧》を込めて問い直すと、役人たちの顔色が、闇夜でもはっきり分かるくらい蒼褪めた。

 それを見て少しだけ溜飲が下がったけど、同時にあることに気がついて、急激に心が冷えていく。



「――町の人たちをどうした?」


 夜中とはいえ、この辺りで明かりが灯っているのが、レオンホテルのみというのはおかしい。

 結構な騒ぎと殺気を振り撒いているのに、誰ひとり様子を見に出てくる様子もない。


「か、神の奇跡などと吹聴(ふいちょう)し、人心を惑わせる反逆者は、ひとり残らず捕らえて改心させておるところよ! 後は貴様ら首謀者のみ――」

「何てことを――」


 さすがに、ひとり残らずというのはハッタリだろう。

 俺たちが調査から帰ってくる前にこの辺りを封鎖して、その範囲で捕縛したというところだろう。


 それでも、完全に失策だ。

 騒ぎを大きくしたくなくて、イベントを小規模にしたことが、得た人と得られなかった人の間に決定的な格差を――埋められない溝を作ってしまったのか。


 ユノ自身が選別したのであれば、納得はできなくても理解を得られたかもしれない。


 だけど、奇跡をちらつかせて、貴方たちは幸運だとか何とか、その場限りの適当な謳い文句で――まるで、催眠商法のような悪質さじゃないか。


 あの時は良い案だと思ったんだけど、やっぱり酔ってたのか――いや、反省は必要だけど、後悔しても仕方がない。


 それに、宝(くじ)に当たったことを言い触らす人はまずいないように、恩恵を受けた人がそうすることはないと思っていたけど、ユノに感化された人は、かなりの確率で狂信者バーサーカーになることを忘れていた。

 厳に反省しなければならない。

 逆にいえば、全員狂信者にしてしまえば争いなど起こらなかったのだ。


 いや、それはそれで問題か。

 やっぱ、酔ってるのかなあ。



「逃げられる――逃げようとなど思うなよ? そのときは奴らがどうなるか――分かるな?」


 駄目だ、これはガチで駄目なやつだ。


 ここで逃げなければ――捕まって、自由を奪われるとかなりまずい。


 でも、逃げれば、俺の浅慮で犠牲を出すことになる。

 ハッピーエンドを目指す主人公的にはそれは許容できないし、チェストの町と戦うのもアウトだ。


「町の人たちには手を出すな。あの人たちに罪はない」


 言っちゃったよ。

 しかし、挽回するにはこっちのルートを選ぶしかない。


「やっと認めたか……。貴様を国家反逆罪で拘束する。他の者は逃げ果せたようだが……。絶対に吐かせてやるから楽しみにしていろ」


 抵抗を止めた俺にぐるぐると縄が巻き付けられる。

 迂闊(うかつ)だった。


 それでも、諦めなければまだチャンスはある。


 主人公の底力、見縊るなよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] いいじゃんアルフォンスはここで退場させよう。 こいつは女の敵過ぎる。
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