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08 偵察二日目

 本日の予定は、海の戦力を調査する予定だったのだけれど、(かなめ)となる、《遠視》の竜眼を持つミーティアが遅刻のため、急遽(きゅうきょ)、陸上の戦場跡に向かうことになった。


 一応、アルやレオンでも《遠視》の魔法は使えるそうなので、強行することもできる。

 しかし、竜眼でのものとは効果が桁違いなので、長射程を誇る現代兵器を相手にするのは控えることにした。


 もちろん、空の調査も条件は同じというか、飛行機の速度を考えるとより悪いのだけれど、その調査から始めないと何もできないことと、古竜たちが強硬に強行を主張して押し切られた。



 なお、ミーティアは昨夜も飲みすぎたせいで、寝過ごしていた。

 しかも、朝の時点でまだ酔いが残っていたというだらしなさである。


 何が、「迎え酒が必要じゃ」だ。

 それは根本的解決にならないし、収まったかのように感じたとしても、体内のアセトアルデヒドが抜けるわけではない。

 そもそも、私のお酒は悪酔いしない。

 甘えるにしても、約束をすっぽかしてまでというのは許容できない。



 この駄竜が素直に湯の川に戻ったのは、どうやら湯の川にいる私を独占しようと企んでいたらしい。


 もっとも、湯の川にはリリーとソフィアが残っていたので、ミーティアが思っていたような独占状態にはならなかったのだけれど。



 それにしても、ミーティアがこんなにも寂しがり屋――というか、甘えん坊だとは思いもしなかった。

 プライドの高さとボッチを拗らせていた反動が、今頃になってきているのかもしれない。


 その点については私も注意しておくとか、優しくしてあげる必要もあるかもしれないけれど、それでも、寝坊と飲酒飛行を肯定する理由にはならない。


 ひとまず、ミーティアには酔いが醒めるまでは放置して、その後は私と一対一での戦闘訓練してもらうことにした。

 それが終われば、反省文を書かせて、明朝にはきっちりチェストに連れて行こうと思う。


◇◇◇


 《認識阻害》の魔法の効果か、ヤマトへの潜入は、思いのほか簡単に成功した。



 今回の調査は戦場跡なので、市街地ほど人の目は無い。


 それでも、大きな戦場跡となっているのは、ヤマトの防衛拠点だとか、オルデアの進路上である。

 つまり、全く人の目が無いわけではないという、微妙な場所である。


 それに、魔法が科学的な観測手段に対してどこまで有効なのかは分からないし、魔法と科学を組み合わせたものとなると、完全に未知数になる。

 なので、《認識阻害》などがあっても、直接目的地に降りるというわけにはいかない。


 というより、ヤマトの地形は山地が多くて、人の住む所が少ない平地に集中している。

 しかも、目的地もその平地なので、感知されたり、違和感を覚えられずに降りられそうな場所がなかなかない。



 結局、上空からアルの《転移》で、目的地から少し離れた所に降りたのだけれど、それに不満を漏らしたのがアーサーだ。


 もっとも、歩くのが嫌とかではなく、今日はいつも夢に見ていた、私を乗せての初飛行だったのに、その飛行時間が短かったことが不満だったらしい。

 ミーティアといい、アーサーといい、古竜の誇りとやらをどこに落としてしまったのだろう。


 〇〇のくせに、という言い方は好きではないけれど――いや、何かと比較するまでもなく、器が小さい。



 それはそうと、今日はアルと一緒にアーサーに乗ったのだけれど、やはり私がシステムの恩恵を受けていないことが心配なのか、それとも、さきのレオンに倣ったのか、私の腰に手を回して支えようとしてくれた。

 あるいは紳士としての(たしな)みなのだろうか。


 落ちても大したことではないし、それ以前に、自力で飛べるのだけれど。

 いや、世界にアンカーを打ち込むのを、「飛ぶ」といってもいいのか?

 まあ、いいか。


 とにかく、そうすることでアルが安心できるなら――と、男性のプライド的なものを立てておこうと思ったのだけれど、なぜかシズクさんも逆側から私を支えようとして、サンドイッチの具のような状態にされた。


 恐らく、私の見た目が年下の女の子なので、心配してくれているのだろう。


 そういった気持ちは有り難いのだけれど、私の実年齢はシズクさんよりも上である。

 いや、年齢的なことよりも、自分自身や、家庭の方を守ってほしい。


 未成年や、妻子ある人との不適切な関係で、身を滅ぼした人も多いのだ。


 ……ミーティアに早く帰ってきてもらわねば。


◇◇◇


 それはさておき、ヤマトに侵入後、しばらく待ってみても、防衛や偵察の部隊が出てくる気配はない。


 もっとも、オルデアの人員不足はレオンから聞いていたし、要所でもない戦場跡までパトロールをするほどの余裕は無いのだろう。



 それでも、一応警戒はしながら前進して、戦場跡のひとつが見下ろせる丘の上までやってきた。


「うん、分からん」


「ま、俺ら軍事の専門家じゃないしな」


「あちこちに窪みはできているけど、時間が経ちすぎているわねえ」


「俺たちが暴れた後ほど酷くはない、としか言えんな」


 しかし、戦闘から三か月近くが経過している戦場跡から得られる情報には、有意義なものはほとんどなかった。

 そして、シロの《過去視》の竜眼でも、そこまでの過去には遡れない。



「変な話ですが、少しだけホッとしました。私の想像では、もっと酷い屍山血河(しざんけつが)ができていると思っていましたが……」


「まあ、ヤマトの戦術じゃ、兵器には太刀打ちできないだろうし、無駄な抵抗をしなかった――いや、できなかったんじゃないかな」


『どういうこと?』


「ヤマトって島国だからさ、他の国とあんまり交流してこなかったせいもあって、独特な文化をしてるんだ。ヤマト風――ってか、和風の建物や服にはさすがに作為的なものを感じるけど、文化っていうのかな、んー」


「この国では、何か揉め事があると、一対一の勝負で決着をつける風習があります。中でも、刀や槍などの武器を用いたものが盛んで、勝者には惜しみない称賛が送られます。それは、戦争――オルデアの侵略と区別するために、内戦というべきでしょうか。それでも同じで、最後は大将同士の一騎打ちで勝敗を決することが多いんです」


 アルが言葉を選んでいたところを、シズクさんが補足した。


 何というか、動物の縄張り争いみたいだ。

 海の向こうから敵が来るという発想がなかったからだろうか。



『なるほど。それで一方的な結果に終わったってことか。文化の違いって言ってしまえばそれまでだけど、納得できない人たちがまだ頑張っているわけだね』


「納得している民はいないと思います。抵抗している方々は、恐らく、それだけの力がある方々で――それに、この国では、戦闘に魔法を――特に純粋な攻撃魔法で戦うことは卑怯だという考え方が強いです。強化魔法や属性エンチャントなどの魔法を使うことはありますが、オルデアのやり方は……」


 それで、魔法無しで兵器を攻略?

 私ならできるけれど、普通の人は――戦車や船くらいなら可能性もあるかもしれない?

 しかし、飛行機はどうしようもない気がする。



「チェストはもっと極端で、魔法を使って戦う奴は女々しいと嫌悪される。――ってか、味方にチェストされるらしい。代わりに、剣から斬撃飛ばす奴もゴロゴロいるけどな。何よりヤバいのは、あそこには気性の激しい奴が多くて、一度相手を敵だと認識すると、何が何でも斬るマシーンに変わる。さらに、そいつらは撤退って言葉を知らない。もし相手を斬れなかったら、自分の腹を切るようなバーサーカーだらけだ」


 そういえば、アルスの迷宮には人間そっくりの魔物がいたのだけれど、あれは形勢が不利だと判断すると逃げようとしていた。

 逃がさなかったけれど。


 魔物より人間の方がヤバいとか――いや、元からそうだったか。

 追い詰められると排泄物を投げたりするし。


 私も人間を相手にするときは気をつけよう。




 分からないものをいつまでも見続けても仕方がない。

 あまり目立つような調査もできないし。


 ひとまず、分かるところから調べようということで、私とレオンとシロは地上の兵器の確認に、アルとシズクさんとアーサーは、シズクさんの家族の安否と帝都の様子を確認しに向かうことになった。


 なお、私が兵器を見ても分かることなどほとんどないのだけれど、帝都に潜入しても役に立たない。

 もう帰ってもいいのではないかと思うのだけれど、集団行動ができないと思われるのも面白くない。

 同様の理由で、不可視化しての同行も控える。

 まあ、こっちは気づかれる可能性がゼロではないけれど。


 とはいえ、魔法が効きにくい私には当然認識阻害も掛かりにくくて、掛けやすくするためにぴったり接触すると、アルやアーサーが若干前屈みになるとか挙動不審になる。


 これだから邪念塗れの大人は……。



 とにかく、私の配置はいわゆる消去法である。


 もちろん、役に立たないからといっても、サボるつもりはない。

 万にひとつでも、何かに気づくかもしれない。 


◇◇◇


「おお、ユノ様じゃねぇですか! こんな所にまで足を運んでいただけるたぁ感激です! こないだは、うちの孫に祝福をいただいたそうで――は、兵器? オルデア共和国? ああ、アナグラじゃねえですが、何年――十年くらい前からだったか、結構卸してるって話は聞いてます。そういや、こっちに来てるので詳しい奴がいたと思いますんで、呼んできやしょうか? でっへっへっ、そんなに褒められるようなこっちゃねぇですよ。え、いいんですかい? じゃあ、遠慮なく――おい、手前ら! ユノ様からの直の差し入れだ! 全員呼んで来い!」


 実際に兵器を見てもさっぱり分からなかったので、湯の川にいるドワーフたちから聞き込みを行った。


 結果、オルデアに売られた車両や兵器類のおおよそのスペックが判明して、オルデアの陸上戦力については少しは把握できたかと思う。

 さらに、ミサイルなどの弾薬の取引量も、かなりのものになるとも判明した。


 まあ、他からも仕入れているかもしれない――少なくとも飛行機はそうなので、最低限、それくらいの戦力があるかなというレベルだけれど。


 それでも、参考程度にはなるだろう。


◇◇◇


 その日の夕方、紙にまとめられた資料と、不貞腐(ふてくさ)れ気味のミーティアを連れて、瞬間移動でチェストに戻った。

 先に戻っていた私たちは報告会の真っ最中だったけれど、資料を手渡すと怪訝(けげん)な顔をしながらも、みんなそれに目を通し始めた。



「やるじゃないか、ユノ!」


「ちょっと見縊(みくび)っていたかもな」


 ふふふ、私だってやればできるのだよ。


「海と空は分からないままだけど、陸のは確かに、俺たちじゃなくても対処は可能っぽいですね。それに、兵器がこっちの世界のが主流って分かっただけでも大助かりだ」


「空も有効射程は一キロメートル程度、誘導性も大したことはないし、よほど接近して撃たれなきゃ逃げ切れるだろう。近距離からヘッドオンで撃たれると厄介だが、障壁で防ぐことができる威力だ。だが――」


「数が問題ってわけね。だから、青も静観しているのかしら?」


「冷静に、少しずつ、長い時間をかけて戦力を殺いでいけば、俺たちが勝つだろう。だが、それが勇者の能力であれば、勇者が寿命で死ぬのを待った方が賢明……。腸が煮えくり返る思いだがな」


「それで、どのあたりが禁忌じゃったのじゃ?」


「それもまだ分からないですけど、入手や維持に掛かるコストの拠出方法じゃないですかね」


「さすがに、化石燃料を入手できるとは思えないし――」


 そんなことを話していると、外から「出てこい!」などと複数人の大きな声が聞こえて、話を中断させられた。


 そして、外の声はどんどん大きく多くなっていって、収まる様子がない。



「恐らく、レオンホテルが閉館したことを知らない客がやってきたのだろう」


 恐らく、正解を口にして、レオンが対応に向かった。



 しばらくして、外からは、閉館を惜しむ声や、貯まっていたポイントをどうするのかなどと問い詰める声が聞こえてきた。


 押しかけてきた彼らからすれば、臨時の休館から突然の閉館では、寝耳に水としかいいようがないのだろう。

 この世界ではどうかは知らないけれど、普通は相当期間の告知を行ったりして、混乱を避けるものだ。

 それが、事情があったにしても、この突然の店仕舞いだと、計画倒産や、他の不正を疑われても仕方がない。



「気持ちは分かるけど、ポイントの返金とかは受け付けてたんじゃないのか?」


「当然だ。レオン様は筋の通った、(おとこ)の中の漢。だが、それでは納得しない客もいて――。しかも、ポイントが金に変わると知ると、この機に乗じて儲けようとでも考えたのか、欲をかいた下郎どもが、一億万ポイント貯めていたなどと言いがかりを……!」


「大体は、今まで贔屓(ひいき)にしてくれたお客さんばかりだし、手荒なまねや不誠実なことはしたくないのだけれど……」


「ほう、あの冷酷の権化のようじゃったお主が、これまた随分な変わりようじゃな」


「うふふ、レオンの愛が、私の冷えきっていた心を溶かしてくれたのよ。それに、変わったのは貴女たちもでしょう? 古竜が3頭も顔を突き合わせて談笑しているなんて、昔の私たちが見ればどう思うでしょうね?」


 愛とかよく分からないけれど、きっと良い話なのだと思う。


「そうだな、愛とは素晴らしいものだ。世界が輝いて見え、何気ない毎日が充実しているのだ。もう知らなかった頃には戻れない」


 アーサーのは愛なのかな……?

 愛の形は様々だというけれど、アーサーの感情が愛だとすると、ますます愛が分からなくなるのだけれど。


「儂はそれほど変わってはおらんと思うがの。じゃが、以前には無かった余裕があるのは確かじゃな。訓練と称してボコボコにされても、反省せいと心にもないことを書かされたり、次に寝過ごしたら3日間酒抜きじゃと言われても、広い心で笑って許せるのじゃ」


 余裕?

 余裕って何だろう?

 すごく根に持っているよね?

 しかも、逆恨みだよね?


「そんなことより、今はレオンを助けに行きませんか? 誰もが皆さんのように広い心を持っているわけではないですし、放っておくと、レオンはいつまでも解放されませんよ?」


 アルが古竜たちの会話を「そんなこと」扱いしてぶった切った。


「そうしたいのは山々だけれど、私たちにできることなんてあるのかしら?」


「儂らができることなど、騒ぎを大きくせんよう、大人しくしておることだけじゃろう」


「断る。ユノ様以外の者に(なじ)られても、気持ち良くならない」


 古竜たちにそれを気にした様子はないけれど、やはりアーサーのは愛ではないと思う。



「いえ、俺に考えがありますので、みんなは適当に合わせてくれればいいですよ。面白いものが見られるはずですから」


 アルはそう自信満々に言い放った。

 万能系主人公とやらは、クレーム対応までできるのだろうか。


 とにかく、アルの言うとおり、こんなことに時間を使っていても仕方がない。

 いい機会でもあるし、お手並み拝見しよう。

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