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05 英雄と魔王

――第三者視点――

 最初の勇者が召喚されてから、既に二千年以上。


 以降、数多くの勇者によって、多種多様な日本文化がこの世界に持ち込まれた。

 それらは勇者の影響力も合わさって、この世界に急速に広がっていった。



 その最たるものが料理だろう。


 なぜか、この世界に召喚された日本人たちのほとんどが、食に対して並々ならぬ思い入れや情熱といったものを持っていた。


 豊かな生活に慣れていた彼らには、異世界での効率を優先した食生活が合わなかったこともあるのだろう。

 しかし、それ以上に、最低限の教育を受けた日本人の知識水準が高かったところが大きい。



 魔物という、人間以上の力と数と多様性を誇る存在がいる世界で、それに対抗できる存在がごく僅かという状況では、慢性的な資材不足や食糧難は当然のことである。


 そんな中で、常人ではまねのできないレベルで魔物を駆逐し、限られた資源を有効活用して生活の質を向上させる勇者という存在は、民衆にとっては希望――神の御使いともいえる存在だった。



 勇者がこの世界に(もたら)したものは数知れない。

 初期においては、「マヨネーズ」で無双した勇者もいた。


 その当時の一般大衆レベルでは、「とりあえず塩! 塩ふっとけば大体食える! 塩に漬けときゃ日持ちもする!」というものである。

 権力者でも、「オリーブオイル最高! 胡椒最高! 塩だけとかマジないわ!」だった時代に、いろいろと段階を飛ばしてそれが出てきたのだ。


 しかも、それが権力者にではなく、大衆向けに出されたということでひと悶着あったというのは有名な話である。



 なお、ユノがその話(マヨネーズ無双)をアルフォンスから聞いた時には、「魔物や敵兵にマヨネーズを掛けて食べたのか」と戦慄していたが、当然、そういうことではない。


 マヨネーズの件で争いが起きたことは事実だが、知識や技術を独占しようとする貴族や商人と、チヤホヤされたいだけの勇者との間にいざこざがあったというだけで、彼女の想像したような猟奇(りょうき)的な事件は起きていない。




 とにかく、多くの人を笑顔にできて、もてはやされる料理は、知識チートの定番である。


 それは、貴重なスキルポイントをそこに割く者も少なくないくらいに人気で、中には膨大な時間を費やして、農耕に挑む変わり者もいたレベルである。

 しかし、どれも長続きするものではない。



 スキルの補正で多少美味しい料理が作れるようになったとしても、大半の者は、元々料理が好きだったわけでもない、いち消費者である。


 そして、人間とは、良くも悪くも慣れる生物である。

 スキル任せで引き出しの少ない彼らの料理は、最初こそは高評価を得られるものの、すぐに慣れられてしまう。

 決して不味くなるわけではないのだが、新鮮味がないとリアクションも落ち着いてくるものだ。


 それは勇者の側にもいえることで、賞賛されてはいても、いつも同じようなものでは次第に物足りなくなってしまう。

 しかし、底の浅さが露呈してしまうことを考えると、それ以上の味を追求するのは躊躇(ためら)われてしまい、料理から徐々に離れていく者が多い。


 本職の料理人であれば、毎日食べても飽きられないような工夫をしていたり、相手やロケーションに応じて、手を変え品を変えられるよう研鑽(けんさん)を積むのだが、勇者の多くは趣味レベルで止めてしまう。


 それに、勇者を召喚した国家などからすれば、そんなことに情熱を燃やされても困る。


 そもそも、そこまで真剣に料理に向き合う者が、勇者として召喚されることはまずない。



 農耕においては、魔法による品種や土壌の恒久的な改良が不可能だと知ると、挫折する者が多い。


 あるいはシステムなら可能なのかもしれないが、システムを掌握することは、この世界では神になることと同義であり、人の身では到底不可能なものである。



 そうやって、刹那の承認欲求に身を(スキルポイントを)委ねて(注ぎ込んで)、大した功績も残せずに消えていった勇者も多い。


 さらに、パッと思いつく範囲の物はほぼ出揃っている近代になると、チヤホヤされるために必要になるスキルポイントも多くなる。


 それでも、既に多くの失敗例が存在するにもかかわらず、「自分ならできる」と根拠の無い自信で同じ轍を踏む者が後を絶たない。




 元勇者で現魔王レオンと、初代勇者の再来とまでいわれる英雄アルフォンス・B・グレイも、その例に漏れなかった。


 レオンは多くの勇者がそうであったように、食には拘りはあったものの、自身が料理をすることに対してはそうでもなかった。


 ただ、スキル任せの料理でも、そこそこ美味しい物が作れていたし、それで賞賛されるのが心地よかっただけで、チヤホヤされるなら料理以外でもよかった。

 彼が勇者のまま終わっていれば、他のスキルや功績に埋もれてしまっただろう。



 しかし、レオンは魔王に堕ち、人間の限界を超えた能力と寿命を得た。


 ただ、魔王に堕ちたからといって、彼の本質が変わったわけではない。


 彼は、人間と敵対したり、他の魔王と勢力争いをしようとはしなかった。


 そこまでの力がなかったことも理由のひとつだったが、彼が魔王に堕ちた理由が「仲間たちと共に生き延びること」だったのに、わざわざ仲間を危険に曝すまねをするのは本末転倒だからである。


 当然、彼らを裏切った人間たちに報復したい気持ちもあった。


 それでも、彼は、彼を慕う仲間と白竜を連れて、争いのない地を探して流浪の日々を送ることを選択したのだ。



 そんなレオンの日々の慰めになったのが料理だった。


 苦労を掛け続けている仲間や白竜に、せめて少しでも美味しいものを食べさせたいと、料理に対して真摯(しんし)に向き合うようになったのだ。

 それはチェストに落ち着いてからも続いていて、今では「奇跡の料理人」とか「フレンチの魔王」の異名をとるまでに成長していた。




 一方のアルフォンスが料理を始めたのは、前世の小学生時分からだった。


 比較的厳格な家に生まれた彼は、文武両道を是とする両親に、幼い頃から様々な習い事を強制されていた。


 残念ながら、彼の能力は平凡そのもので――決して悪くはなかった――むしろ、何事も平均以上に優秀だったのだが、すぐ近くに優秀すぎる兄がいては、劣等感を覚えるのも無理はない。

 それによって、両親や兄が彼を冷遇したりということはなかったのだが、それがかえって彼を追い詰める結果になった。



 ただひとつの例外が料理だった。


 今日日(きょうび)の男の子は、料理くらいできなくては――という母親の方針で、料理のいろはも叩き込まれたのだが、料理に関してだけは、兄よりも褒められることが多かった。


 実際には、自信を失っていた彼を元気づけるための、家族ぐるみの優しさだったのだが、それをまだ純粋だった彼は真に受け、料理にのめりこんでいった。


 料理ができる男の子は、女の子にモテると聞かされていたのも一因だったのかもしれない。


 そんな理由から、彼はその青春の大半を料理に費やして――念願の彼女はできたが、性的強者によって美味しくいただかれてしまい、その肉体的、精神的ダメージを引き摺り続けて、就職にも失敗した。


 なお、就職に関しては、料理関係の仕事をすればよかったのではと思うかもしれないが、当然、彼もそれくらいは考えた。

 しかし、和洋中にそれ以外も、どれを選べばいいのか決められなかった。

 そして、「全ての料理を平等に愛したい」と、余人には理解できない理屈を掲げて仕事にすることを諦めたのだ。



 勇者として異世界に召喚されて、職を手に入れてからも、生まれ変わって料理をする身分ではなくなっても、親友や嫁を手に入れても、彼の料理に対する姿勢は変わらない。

 彼の愛は拗れていた。




 料理に対する絶大な自信と、それを裏付ける知識と技術を持つふたりだが、唯一の不満は、同じレベルで語り合える相手がいないことだった。


 同じ想いを抱えていたふたりは、これまでの不満を一気に発散させるかのように語り合い――料理の山を作って絆を深め合った。



 どちらが上かなどという、低レベルなことは頭にはない。


 上には上がいることは充分に知っている。

 その理不尽な存在が出してくる料理は、どう考えても料理を愚弄(ぐろう)しているのに、美味い不味いを超えた感動と恩恵を否応なく与えてくる。


 もっとも、彼女の料理は、料理という可能性が世界として顕現した物であり、ただの物質でしかない料理とでは次元が違うのは仕方がない。

 これを超える料理を作るというのは、可能性のその先に至るということであり、ある種の神殺しなのだ。



 そんなものと競っても仕方がない。

 最早カテゴリーが違う。



 とはいえ、彼女の料理を食べることは、料理人としても大きな糧になる。


 今も、「萌え萌えキュン」とやっている彼女の、たゆんたゆんと形を変える真理や、ひらひらと揺らめくスカートから垣間見える境地は、料理人ではなくても糧になる。


 そうして、ふたりは料理を通じて交流を重ねていった。




 既に料理に関する会話は無い。


 ふたりには、言葉にしなくても、何気ない動作やところどころに光る技巧を見ただけで、相手の考えていることが理解できるようになっていた。


 実食の段階に入っても、味についての言及はない。


 ユノがおまじないをした時点で別物になってしまったことは明白で、それ以前から美味いことは分かり切っていたので、その必要も無かったのだ。

 本来の味が味わえないのは少々残念だったが、それでも美味い料理に罪はない。



 そうすると、話題は本来の目的や雑談に移っていく。


「《主人公体質》か。随分とヤバいスキルを持ってるんだな。もしも、お前があいつらより先にうちに来て、俺たちの正体を見破っていたらヤバいことになってたかもな」


「いえ、あの結界は存在にすら気づきませんでしたし、気づいたとしても――こんな言い方は失礼かもしれませんけど、今更魔王程度ではそこまで取り乱しませんよ」


 ふたりの会話は、お互いのユニークスキルにまで及んでいた。


 迂闊に手の内を晒すのは危険である。

 そんなことは両者共に充分に理解していたが、それでも、誰かに話したいという欲求も同時に存在する。

 賞賛されたくない人間などそうそういないのだ。



 なお、他方では古竜たちが、各々のパートナーの自慢を繰り広げていた。

 更に他方では、萌え萌えキュンでキュンキュンしてしまったシズクとレオンの眷属たちが、ユノを取り囲んで盛り上がっていた。



 ふたりの会話を遮るものは何もない。


「まあ、あれだけヤバいのと一緒にいれば耐性もできるだろうし、それは構わないんだが。世間に俺の居所とかの情報を知られたくないっていう、こっちの都合でお前を消そうとしたかもしれないってことだよ」


 平穏を望んでいるレオンにとって、拠点が割れることは厳に避けなければならないことである。

 それゆえ、さきに口にしたことも脅しではない。

 先にユノや古竜たちが現れたことで、その意味が無くなっただけである。


「あの結界のおかげで、俺たちの存在は誰にも探知されることはなかったんだが、引き換えに俺たちも外のことが分からなくなるって代物でな、お前らに限らず、知った奴を生かしておくのは、俺たちの死活問題になるんだよ。といっても、こうなってしまった以上、次の引っ越し先を探さなきゃいけないんだろうな……」


 チェストは、闘神の異名を取る魔王クライヴの領域下にある中立都市だが、よもやそこに他の魔王が潜んでいるとは思わないだろう――というのが、レオンの選んだ戦略だった。



 レオンとクライヴの関係は悪くはない。


 高みを目指して努力を怠らない者には寛容なクライヴは、稀にとはいえ、彼が主催する修行に参加するレオンが嫌いではなかった。

 当然、レオンはそんなクライヴの性格を知っているからこそ近づいたのだが、パートナーである白竜に見合うだけの男になりたいという想いも確かに存在していたため、真剣に修行に励んでいた。


 しかし、いくら良好な関係を築いているとしても、自らの領域に勝手に住みつかれているとなると、話は違ってくる。



「迷惑を掛けてすみません……。でも、もし戦うことになってたら、レオンのユニークスキル《万死一生》――確率操作ってかなりヤバい代物ですよね。戦うことにならなくて本当によかったと思いますよ」


 レオンのユニークスキルは、その言葉どおり、万死に一生を得るものである。


 もっとも、生死に関わる状況に限定されたものではなく、一万分の一以上の確率がある事柄を確実に成功させるスキルであり、様々な事柄に対して任意に使用することができる、正しくチートとよぶに相応しいスキルだ。


 ただし、常時発動型のアルフォンスのユニークスキルとは違って、任意発動型スキルであることと、再使用が可能になるまでのクールタイムが24時間もあるというデメリットがある。

 ゆえに、奇襲や波状攻撃を受けると役に立たなくなる可能性がある。

 さらに、新月の日には使えないという制約もあるが、それでも短期決戦では無類の強さを誇る。


 そんな能力が、他の魔王に知られた時にどうなるかは、容易に想像がつく。


「初見殺しってだけで、知っていれば対処法はいくらでもあるけどな」


 そんな能力をこうやって話すのは、協力する上で必要なことでもあるが、レオンの能力がそれだけではないからである。

 当然アルフォンスもそんなことは理解しているが、それ以上の追及はしない。


「シロさんって素敵なパートナーがいますしね。でも、そういうことなら、ユノのところに行けばいいんじゃないですか? 魔王でも竜でも何でも受け容れてますからね」


「……あれが神の一種で、超ヤバい力を持ってるのは理解してるが、あの町はどう考えてもヤバいだろ。お前はまだ帰るところがあるからいいのかもしれんが、あの町で暮らすうちに、あの町の奴らと同じようになっていくかもしれないと考えると、恐怖しかねえよ……。魔王に堕ちた俺には分かるんだよ。これは堕ちるやつだ。堕ち始めたら止められないし、二度と上がれないやつだってな」


 アルフォンスの提案は、そうするのが最善だろうという掛け値なしの善意からだったが、レオンの抵抗は思いのほか大きかった。



「ああ、確かにそんな感じはありますね。でも、魔王だからこそ分かるんじゃないですか? 魔王として肩肘張って生きてきた人たちが、ユノの前では魔王じゃない自分に戻れるんです。しかも、ちょっとくらいなら、甘えても笑顔で受け容れてくれるんですよ。ユノがみんなから慕われてるのは、神様だからじゃなくて、むしろ、神様らしくない態度とか、憎めない性格とか――そういえば、子供にはめっちゃ優しいんですよ。まあ、口では厳しいことを言ったりしますけど、基本的に誰に対しても優しいんですけどね。その証拠に、真剣に頼み込んだら、アイドルとしてステージに立ってくれたんですよ。超盛り上がったんですけど――あ、映像ありますけど見ます? 後で? そんな感じでみんなに慕われてるんですけど――ああ、でも恋愛感情とかそういう感じじゃなくて、何ていうか――そう、尊い! 尊いんですよ! 分かります? よくいう『俺の嫁』ってやつです。現実の嫁とは別枠なんです」


 しかし、アルフォンスにも、レオンの気持ちはよく分かっていた。

 かつては、アルフォンス自身も通った――堕ちた道だからだ。


「お前も相当ヤラれてるのな……。それと、すごい度胸してるな……」


 魔王であるレオンが、英雄としてではないアルフォンスの一面に気圧されていた。

 同時に、彼の脳裏では、忘れかけていた日本での記憶が蘇っていた。



 歴史の教科書でもニュースで流されていたものでも、彼の記憶の中では、宗教とはろくなものではなかった。


 もっとも、それらで伝えられていたのは、基本的に事件などの非日常であり、それによって日々を穏やかに過ごしている人がいることには滅多に触れられない。

 そして、最初から宗教に否定的で、更に神の実在する世界で魔王に堕ちたレオンは、そんなことには思い至らない。


 ただ、神を偶像化したり、嫁と言い張ったりと、恐れを知らないアルフォンスに驚愕するばかりだった。



「多分、ユノとも肩書抜きで話してみれば、面白さが分かると思います。あぁ、そういえば、このホテルって温泉あるんでしたっけ?」


「ん? ああ、あるが……」


 アルフォンスの突然の話題転換に、レオンは怪訝(けげん)な顔で答えた。


「露天風呂が混浴だって聞きましたけど」


「それは一般客用のだな。まあ、こっちの方にも露天じゃないが混浴はある。――まあ、自慢できる出来の物だ。あとで楽しんでくるといい」


「おい、ユノ! 良い温泉があるんだって! 一緒に行かないか?」


「お、おい!?」


 てっきりアルフォンスが彼の嫁と楽しむものだと思っていたレオンは、あまりの暴挙に驚きの声を上げてしまう。


「うん、いいよ」


「え、ええ!?」


 そして、少し離れた位置にいたユノから、ノータイムで返事がくる。


「ユノは温泉が大好きなんですよ。ってことで、レオンも一緒にどうです?」


「は、はぁ!? お、お前、何言ってんの!? 嫁の前だろ!? ってか、あれ、一応神だろ!?」


「ははは、言ったじゃないですか。現実の嫁と心の嫁は別腹なんだって。それに、腹を割って話をするなら、裸の付き合いってやつが一番じゃないですか!」


(何言ってんだ、こいつ?)


 レオンは、既に言葉も出ないほどに混乱していた。


「あいつ、脱いだらもっとすごいですよ」


 アルフォンスがレオンの耳元で小声で囁くと、レオンの喉がゴクリと音を立てる。


「む、風呂か。勝負は一旦お預けじゃな」


「風呂で勝負をつけるという手もあるが――。くくく、貴様と貴様のパートナーに、その勇気があればの話だがな!」


「言うてやるな、アーサーよ。既に酒でメロメロになっておるこやつに、止めを刺す気か?」


「くっ、莫迦なことを言わないで……! 行くわよ、レオン! 貴方の造ったお風呂で、こいつらに思い知らせてやるのよ!」


 その話題は、当然のように古竜たちの耳にも届いていた。


 レオンたちには、彼らの勝負がどんなものだったのかは知る由もないが、悔しそうな白竜の様子に、勝負の趨勢(すうせい)だけは見て取れた。



「ユノ様、皆様、それでは、当ホテル自慢の大浴場にご案内いたします」


「レオン様、今日はもう営業終了の札を出しておきますね!」


「ってことで、俺らもご一緒させてもらっても……」


「いいんじゃないですか? これから協力していくことになるわけですし、裸の付き合いでお互いを理解できれば最高じゃないですか」


「「「よっしゃぁ!」」」


 アルフォンスが出した許可に、レオンの眷属たちが歓声を上げた。


 彼らはすっかり堕ちていた。



「…………」


 レオンは、百余年の人生の中で、初めて外堀を埋められる感覚を味わうことになった。


 それは、彼の眷属――大事な仲間たちまで篭絡され、ある意味では彼が魔王に堕ちたとき以上の屈辱だった。

 それでも、《万死一生》を使ってこの状況を脱しようとは思わなかった。



 相手が神だから、一万分の一の確率ではどうにもならないから――ではない。


 本来、彼は一途な性格であり、パートナーであるシロを大事に想っている。


 しかし、彼とて健全な男性である。


 決してそういうことに興味が無いわけではない。



「はぁ……」


 溜息を吐き、仕方がないという(てい)を装いながらも、内心は期待に満ち溢れていた。



 そんな様子を見たアルフォンスは(堕ちたな)と、心の中でほくそ笑んでいた。

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[気になる点] >現実の嫁と心の嫁は別腹 こいつほんと女をモノとしてしか見てないんだなぁ 嫁さん達も哀れなもんだ…
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