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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第七章 邪神さん、デビューする
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29 平穏な日常

――ユノ視点――

「ふぅ」


 何だかいろいろなものが洗われて、心が軽くなっていくような気がする。


 レオと神々、その他諸々を連れて湯の川に帰還した。

 といっても、私はずっと湯の川にもいたのだけれど、そのあたりは表現のしようがないし、そもそもがどうでもいいことである。

 ミーティアやクリスたちは、言語化しようと躍起になっているけれど。



 さておき、彼らはひとまずシャロンに預けて、湯の川で生活を始めるにあたってのオリエンテーションを受けさせている。


 シャロンといえば、神や魔王を相手にしても全く怯まなくなった彼女に、出会った当初の面影は全く無い。

 信仰が彼女を強くしたのか――私は特別なことは何もやっていないのに。

 狂信者って怖いね。

 それさえなければ優秀なのに。



 とにかく、その間に私はひとっ風呂浴びにきているのだけれど、以前にも増して気持ちが良い。

 ひと仕事終えたからであろうか。


 それとも、少々思うところがあって、源泉に秘石を放り込んでみたのだけれど、それが泉質に影響しているのだろうか。


 まあ、身体に悪いわけではなさそうだし、どうでもいいか。


 難しいことは何も考えずに、広い湯船で翼と尻尾と手足を伸ばす。

 少し行儀は悪いけれど、最高です。




 しかし、そんな至福の時間は長くは続かない。


 ドタバタと、大きな足音を響かせて露天風呂にやってくる――領域を使わなくても分かる。

 この粗野な感じはソフィアだ。


 いろいろと落ち着いたら、恥をかく前にマナーとか礼儀というものを教えてあげた方がいいだろう。



 さておき、それがソフィアのものだと決めつけているのは、他にも理由があってのことだ。


 というのも、アイリスと私は既に魔界に出発していて、アルとミーティアとアーサーと私も既にヤマトへ出発しているので、今のところ、この大浴場の利用者は、私とリリーとソフィアしかいないのだ。

 私が多くて混乱する。


 さておき、推理の続きをすると、リリーの足音はこんなに大きくない。

 以上を考慮すると、ソフィアしかいない――という消去法である。


 ふむ、名探偵になれるかもしれない。

 最悪、全員喰ってしまえば、解けない謎はないし。

 誰も救われないけれど。

 ……探偵である必要が無いな。



「ちょっと、何よあれ!? あんた、何考えてんの!?」


「お風呂場に服を着たまま入ってくるなんて、非常識な」


 何を考えているのかと言われても、それは私の台詞である。


「あ、あんたにだけは言われたくないわ!」


 これが逆ギレというものか。


『ソフィア、話せばきっと長くなるし、お風呂に入りながらでもいいんじゃない?』


 朔にそう促されると、「逃げるんじゃないわよ!」と言い残して、ソフィアは服を脱ぎに戻った。

 魔王の逃走妨害スキルは私には及ばないので、釘を刺しに来たのだろうか?

 そんなことをしなくても、私は逃げも隠れもしないのだけれど。


 さておき、ソフィアと入れ替わるように、全裸のリリーが浴場に入ってくる。


 もちろん、浴場では飛びついてくるようなことはなく、真っ先に身体を洗いに行った。

 マナーをわきまえた良い子である。


 とはいえ、それが終わると飛びついてくるのだけれど、お風呂場で走ったり飛び込んだりはよくないこと――と叱るべきなのかもしれない。

 まあ、もう少し大人になればそんなこともなくなるだろうし、甘えてくるリリーが可愛いので、もうしばらくの間は大目に見ようと思う。



 ほどなくして、ソフィアも浴槽に浸かり、審判の時が訪れた。


『ひとまず、ソフィアが溶けなくてよかったね』


「は? 何のことよ? わけの分からないことを言ってないで、この状況の説明をしなさい!」


 恐らく、朔は私が掘り当てた温泉で、アンデッドが溶けたことを言っているのだろう。

 あれはアンデッドの瘴気が温泉で浄化されたからで、魔力で動いているソフィアには効果が無いのは分かりきったことだ。


 そもそも、これで溶けるくらいなら、お酒で溶けているはずなので――あれ? ある意味、お酒で蕩けていたような気もするけれど?

 まあ、本人に痴態を晒している記憶は無いようだし、問題無いことにしておこう。



「何ひとりで納得してんの? あの天使は何なのよ!?」


「天使じゃなくて神」


「はあ!? もっと駄目じゃないの! 後、大魔王もいたわよ? 何がどうなってるの――いえ、何を考えてればこんなことになるの!? 納得できるように説明しなさい!」


 帝国での活動が一段落したので、その報告をしなければならない時がきた。

 いや、アイリスやアル、アナスタシアさんが本番と考えると、その前哨戦といったところか。


 というか、私はここにもずっといたわけで、しようと思えばいつでも報告できたはずなのだけれど、「一段落したらまとめてやるから」と誤魔化していた。


 一段落しなければ、ずっと報告しないつもりで。

 一段落させなければいいのだ、と。



 そして、レオや神々、他にもいっぱい連れて帰った今となっては、やはり説明せずに済ませることはできないようだ。


「骨の大魔王の領域に侵攻する帝国軍に帯同してたのだけれど」


 確か、そんな感じで始まった。


「それは聞いてるわ。ていうか、骨って。『不死の』、ね」


 そうだった。

 イメージの一番に「骨」が来るから、どうにも間違えがちになるようだ。


「気がついたら崇められていた」


「何でよ!? っていうか、その間に何があったのかを話しなさいよ!」


 分かっていないなあ、ソフィアは。

 なぜそうなったかが分かるなら、そんなことになったりはしないのだ。


「特に何も――あっと、温泉掘り当てた」


「え、何で? 何で戦争に行って温泉掘るの? あんたが分からないわ……」


 私にも分からな――あ!


「戦闘するつもりが、銭湯に浸かっていた。あると思います」


「……本当に何言ってるか分からないわ。このままじゃ話が終わりそうにないから、とりあえず進めてくれるかしら……」


 渾身の出来――というほどではないけれど、さらりと流されると少し寂しい。

 冗談の通じない人だ。




「私にも経緯は分からないけれど、勇者が負傷しちゃって――というか死んで、本隊と合流することになったのだけれど」


 気を取り直して、報告を再開する。


端折(はしょ)りすぎてる気がするけど、とりあえず、それで?」


「レオ――獣の大魔王レオナルドと遭遇して」


「どんな経緯があればそうなるのかしら……」


「そこに神が乱入してきた感じ」


「何でよ!?」


 何で、と言われても嘘は言っていない。


「運が悪かったとしか言いようがないのだけれど、そのあたりはまあ解決してきたと――少なくとも、その件で敵対者は残っていないと思う」


「運が悪かったのは、あんたじゃなくて……。まあ、いいわ。それで、こんなことになったと?」


「うん。あ、しりとりしていたら、すごく人数が増えた」


「…………?」


 自分でも莫迦みたいな話だと思うので、変な顔をして黙らないでほしい。

 この沈黙の中、唯一の癒しは、膝の上でニコニコしているリリーだけだった。



「みんなにもあんたが説明しなさいよ……」


 沈黙にも飽きたのか、しばらくするとソフィアが恨みがましい目を向けて、話を打ち切った。

 話が理解できなかったのか、どうにも手伝ってくれないらしい。


 まあ、私だって逆の立場になれば知らん顔するだろうし、仕方がないといえば仕方がない。



「それで吸血鬼の方――狩人の一族だっけ、そっちはどうなってるの?」


「どうにもこうにも」


 ソフィアが言っているのは「狩人の一族」――名前負け感も(はなは)だしい、追い詰められすぎて壊れてしまった一族のことだろう。

 その中でも、多少マシな人に交渉役というか仲介役を頼んだのだけれど、相手が復讐に囚われてしまった人たちばかりで難航しているようだ。

 なので、いまだ合図らしきものはない。


 無理矢理乗り込むのもひとつの手なのだけれど、吸血鬼やアンデッドに過敏になっている人たちの前にソフィアを連れていくのは、混乱の素にしかならないだろう。

 ただでさえ精神が壊れているのに、これ以上追い詰めると何をするか分からない。


 そもそも、彼らの情報には大して期待していないので、優先順位は低い。


 復讐だけに囚われている人たちが、未来を見ている人たちまで巻き込んでいるのは面白くないけれど、できればそれも自分たちの力で決別するとかして解決してほしい。


 一応、現在は吸血鬼との交戦回数は減少していて、規模も小さくなっているようだけれど、手遅れになる前に、もう一度くらいは接触したいところだ。



 そして、吸血鬼の魔王の方には大きな動きはない。

 というか、吸血鬼の魔王は、骨の魔王ヴィクターさんの監視下というか管理下にあって、満足に動けないといった方が正しいっぽい。

 アドンを使っての情報収集の賜物である。


 眷属の吸血鬼が、監視の目を盗むように活動をしているものの、そこを潰すことに大きな意味は無さそう。



 目的は、吸血鬼の殲滅でも、ソフィアやレティシアに酷いことをした魔王への報復でもなく、妹たちを召喚する手掛かりを手に入れることなのだ。

 召喚した後のことも考えなければいけないので、あまり暴れまわるのも都合が悪い。


 それに、表向きの話では、ヴィクターさんと吸血鬼の魔王とは繋がりがないことになっているけれど、私たちが吸血鬼の魔王に手を出せば、介入してくることは充分に考えられる。

 それ自体はどうでもいいのだけれど、私が下手に世界の動向に関与した場合、神が出てくる可能性がある方が問題となる。



 もっとも、出てきたからといって私を止めることはできないと思うのだけれど、ヨハンやヨアヒムたちのように、ついてこられると困る。

 彼らを通して根回しとかできないだろうか?

 むしろ、余計な火種になるか?


 ……とりあえず、この件は保留しておこう。




「私だけ何もすることがないっていうのも、つらいわね――!?」


 ソフィアも、時間があるとグレゴリーたちの研究を手伝ったりしている――というか、最近はそちらに入り浸っているので、何もしていないということはない。


 しかし、そんな話題は脱衣場――男性用の方から聞こえてきた物音と喧騒によって中断される。



「ちょ、ちょっと、誰か来るみたいだけど!?」


 みんなのプライバシーに配慮しているため、必要に迫られなければ領域を展開しないので確証はないけれど、恐らくヨアヒムとかヨハンといった神々だろう。


 オリエンテーションが予想より早く終わったか、神だけあって理解が早かったか。

 私の話は誤解してばかりなのに、納得がいかない。



『神とかレオナルドとかだね』


 私が認識していないといっても、朔には百メートル以内のほとんどのことが認識できている。


 もちろん、私はプライバシーの侵害とかはしていない。

 湯の川にいる間は、必要が無ければ教えなくてもいいと伝えているのだ。

 それをいいことに、悪戯をされたり、悪巧みをされたりしているけれど、その程度で前言を撤回するつもりはない。


「え、な、何落ち着いてるの!? 女湯に戻るわよ!」


 ソフィアが慌てている理由は、ここが露天風呂――混浴仕様だからだろう。


 これまで、城内に立入ることのできる男性は、アーサーと不定期にやって来るアルくらいのもので、鉢合わせることはほとんどなかった。



「別に見られても減るものでもないし、見られて恥ずかしい身体もしていないし。ソフィアだってスタイル良いし、大丈夫だよ」


 男だった時は不満だらけだった身体だけれど、女になってみると、どこに出しても恥ずかしくないものである。

 露出趣味はないので、どこにでもは出さないけれど。


 なので、お風呂で裸を見られることに特に――というか、全く抵抗は無い。


「え、ありが、と? いやいや、そんな問題じゃないでしょ! 男に見られるのよ――っていうか、あんたと比べられるのが何よりつらいわ!」


「そんなに卑下しなくてもいいのに。人の好みなんてそれぞれだし、ソフィアにあって、私に無いものだってあるよね。私よりソフィアが良いって人もいるはずだよ」


「私にあって、あんたに無いもの――牙、とか?」


『毛もだね』


「あ、あほー! な、何、あほー!」


 ソフィアのボケに、朔がボケ返しただけだと思うのだけれど、ソフィアは顔を真っ赤にして、股間を押さえながら女湯へ走り去ってしまった。


 レオのように、毛深いのが好きな人だって少なからずいるのになあ。

 私だって、尻尾が毛深いどころか、背には羽毛だって生えている。

 リリーの尻尾なんてモフモフだ。



「リリーは女湯に戻らなくていいの?」


「リリーはユノさんと一緒がいいです」


「やや、ユノ様! こちらにおられたのですか!」


 リリーに確認を取った直後、白々しい態度の神々とレオが連れ立って露天風呂に入ってきた。

 ……レオは入浴前から逆上せているけれど。



 お湯に浸かる前に体を洗う。

 タオルや髪をお湯に浸けてはいけない。

 日本人にとっては当然のことでも、異世界人、しかも、神とか獣人には理由が理解できないらしい。



 いや、日本人でも、当然だと言い切るのは傲慢なのかもしれない。


 しかし、お風呂――特に公衆浴場とは、不特定多数が利用する憩いの場である。

 そこに存在するマナーは、多くの人が気持ち良く利用するためのものである。

 それなのに、ああだこうだと言い訳して我を通したりして、自他共に嫌な思いをするのは本末転倒ではないだろうか。


 肝心なのは、お湯が汚れるかどうかではない。


 他の人にほんの少し優しくなれる、心の汚れを落とすことが重要なのではないだろうか。

 外の世界では敵同士だったとしても、お風呂の中くらいは、浮世のことなど水に流してしまえばいいのだ。


 そんなことを力説したからか、彼らは素直に私の言葉に従って、円になって互いの背中を流すなど、高速で交流を深めていた。



 話は変わるけれど、何の役にも立たないと思っていた頭上の輪っか――光輪にも、ひとつだけ役に立つことがあった。


 入浴時、タオルを上に乗せられるのだ。

 アタッチメントとか付ければ、ドリンクホルダーとかにもなるかも?


 それは、私に倣った神々も、今正に実感していることだろう。



 まあ、それは本題とは関係無いのだけれど――世界の違いか価値観の違いか、まだ幼い子がいるのだから、そのあたりの配慮もほしかった。


 子供に反り返ったものを見せるのは、教育上どうかと思うものの、リリーの年齢を考えれば、そろそろそういった教育も必要になる時期である。

 しかし、生理現象は仕方ないとしても、見せつけるのはどうかと思うし、浴場で欲情などとくだらない駄洒落を肯定したくもない。


 ひとまずモザイクをかけてこの場は凌いだものの、いずれリリーにもどう教えるかを考えなくてはいけない。

 世のお父さんお母さんは、どういう感じで教えているのだろうか?



「童女よ、ユノ様のお膝の上は心地よいか? だが、ユノ様にとっても沐浴は癒しの時。あまり困らせてはならんぞ?」


「とっても! ここはリリーの指定席です! ――ユノさん、重いですか?」


「重くないし、気にしなくていいよ」


「ぬぅ……」



「童女よ、我が膝も試してみたくはないか?」


「ユノさんのお膝がいいです」


「むぅ……」



「童女よ、我が許に来れば、高い高いをしてやろう。神の高い高い――それは天にも昇る心地であろう!」


「ユノさんが、お風呂場ではしゃいじゃ駄目だって」


「ぐぅ……」


 何このやり取り?



「童女よ、長時間同じ姿勢でいるのは身体に悪い。少し体を動かすといい」


「こうですか?」


 リリーが体の向きを百八十度回転させて、ぎゅっと私に抱きつく。

 一瞬、リリーがにやりと笑った気がしたけれど、恐らく気のせいだろう。


「っ!? だが、これは、これで……!」


 リリーが障害物になって見えない私の裸が見たいのか、それとも、リリー本人に興味があるのか――後者であれば、女性専用露天風呂を――いや、女神型ロリコンがいないとも限らない。

 やはり、ロリコンだけは問答無用で滅した方がいいのかもしれない。



 しかし、こんな莫迦なことで悩めるのも、きっと平和な証拠なのだろう。

 本当に、せめてお風呂場くらいは――いや、湯の川では、こんな平和が長く続けばいいなと、心から思う。



 この後、いろんな人から怒られたけれど、まだ湯の川は平和です。

 お読みいただきありがとうございます。


 本章では帝国の辺境での問題をひとつ片付けて、いくつかの問題の種を蒔きました。

 正確には、問題は片付いてなどいないのですが、これ以上収拾がつかなくなる前に、ひとまず終わったことにしたというべきですが。


 そして、新たな問題の種は、すぐに芽が出るもの、しばらくしてから芽が出るものなど様々ですが、着実に世界を侵食しています。



 ひとつ幕間を挟んで、次章では、極東での問題解決に励みます。


 今後ともお付き合いいただけると嬉しく思います。

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