28 そして伝説へ
「こんな感じでどうよ?」
帝国軍本隊の撤退が完了してからも、レオナルドと帝国軍別動隊の面々の戦闘は続いており、しばらくは激しい火花を散らしていた。
しかし、帝国軍本隊が戦闘区域から完全に離脱できるだけの時間が経過した頃、レオナルドはピタリと手を止めて、ニッコリと恐ろしい笑顔を浮かべた。
「ふう……。ありがとうございました。レオナルド殿のおかげで、収まるところに収まりそうです」
そう言ってへたり込むスティーヴとイアン。
レオナルドたちにとっては遊びでも、人族の彼らには命懸けの芝居であり、満身創痍で疲労困憊とボロボロの状態だった。
「いいってことよ。同じ釜の飯を食った仲だろ」
この状況は、彼らの間にそういう段取りがあったわけではない。
レオナルドが介入したのも、彼の気紛れである。
もっとも、彼なりの考えがあってのことで、スティーヴとイアンが状況を利用して隊を分断、そして戦闘の終了を図ったのだ。
「ま、これで一件落着だな――いや、このスケルトンは何なんだ? どうするよ?」
ただし、彼らにとって唯一の想定外は、特異個体スケルトンの存在である。
「レオナルド殿でも斃せないのですか?」
「高レベルの《物理攻撃無効》持ってやがるし、魔法も効きやしねえ……。まあ、俺様の魔法なんざハナクソみたいなもんだけどな。というか、コイツ本当にスケルトンか? まあ、まだ昼間だし、本気出せばいけるだろうが、お前らがいちゃ本気は出せねえからな」
「なるほど――あ、ユノ様! それに神様方も」
レオナルドたちが、いまだに健在でシャドーボクシングを続けている特異スケルトンについて語っていると、そこへ今朝方別れたばかりのユノと神々、そしてハルトをはじめとした異世界人たちがやってきた。
「お疲れ様」
ユノが彼らを労う言葉をかけると、そこにいた全員が跪いて首を垂れる。
ついでに、彼らが特異スケルトンとよんでいたそれも、同様に跪いていた。
「アドンもお疲れ様。首尾はどう?」
「お久しぶりでございます、我が主ユノ様。長らくお会いせぬうちに、また一層お美しくなられたようで、我が心臓は高鳴りっ放しです」
「「「喋った!?」」」
特異個体スケルトンが喋ったことに、ユノを主と呼んだことに、更には冗談まで飛び交う仲であることに、人族の者たちは酷く驚いた。
「そういうのはいいから」
「お、おい、知り合いか?」
ユノと特異スケルトンのやり取りに、レオナルドが口を挟む。
「あ、この子は私の使い魔。アドンっていうの」
「ユノ様の第一の使い魔で、アドンと申します。以後、お見知りおきを」
アドンはそう言いながら魔王や神々を一瞥すると、特に何かを語ることなく、再び頭を下げた。
彼は、主人の魅力なら何があっても不思議ではない――と、本気でそう信じているので、これくらいのことでは動じないのだ。
「お、おう。こんな変わった使い魔を持ってるなんて、さすがだな」
「それで首尾ですが――」
アドンは、レオナルドの世辞にも構わずに喋り始めた。
アドンは、不死の魔王の側近(※ドミトリーの自己申告)には取り入った(※お持ち帰りされた)ものの、結局ヴィクター本人との接触はできなかった。
それでも、ドミトリーを通じて、ヴィクターが行っていたいくつかの実験についての情報を入手していた。
そのひとつが、ゴクドー帝国を実験場としたものである。
その内容は、異世界人――勇者を召喚する際に、その勇者が得るはずだったユニークスキルと個人を分離するというもので、その分離した力を、保存、移植、結合、変異など、様々なことに利用する実験をしていた。
ただ、分離と保存についてはそれなりに成功しているが、それ以外は芳しくない。
そして、その実験の副産物がユウジたち力を持たない異世界人であり、召喚コストとして魔石代わりに使用されているのが、廃棄処分となった奴隷だということ。
また、帝国を実験場にするにあたり、ヴィクターは、皇帝かそれに近い立場の者と密約を交わしている節がある。
そして、帝国はその見返りとして技術供与を受けていて、独自に研究をしている。
ヴィクターが独自に実験や研究を行わないのは、推論ではあるが、帝国を隠れ蓑とするためであるとか、美味しく実ったところで収穫するつもり、といったところだと推測される。
『詳細までは分からないけど、ひとまずいろんな点が線に繋がったね。で、これを神としてはどう思う?』
「禁忌ではあるのでしょうが、まだ我々が干渉する段階ではないと考えます」
「スキル――特にユニークスキルとよばれるものは、魂と密接な関係にあるそうです。魂を弄ぶことは禁忌ではあるのですが、魂の全てを奪われたわけではありませんし、分離されたスキルが元に戻せる可能性も残されています」
「同感です。これによってアレを召喚した、神に挑んだ、元主からの要請があった場合には出動することになるでしょうが、現状ではアナスタシアらの管轄でしょう」
「おい、何でアナスタシアが――って、まさか!?」
意外と勘の良いレオナルドが、その違和感に、そして隠されていた真実に気づいた。
それによって、他にも気づいた者は少なくなかった。
しかし、その多くは、実際にアナスタシアを見たことがなく、ユノという存在を知っていることもあって、「ふーん、そうなんだ」としか思わない。
しかし、結果的に「アレ」の話題が流されてしまったことは、レオナルドのファインプレーである。
『問題ははっきりしたけど、ボクらも手を出せる感じじゃないね。あの勇者とのパイプが残ってれば、まだ可能性はあったかもしれないけど、死んじゃったみたいだし……』
「私の知り合いの神に頼んで、巫女に《神託》でも送らせましょうか?」
『それが無難かな』
帝国の暴挙についてのユノたちの判断は、日本人たちからすると、非常に消極的なものだと批判されても仕方のないものだった。
それでも、批判どころか不満のひとつも上がらない。
彼らのユノへの信頼度が、限界突破して信仰にまで至っていたためである。
「じゃあ、お願い。魔王界隈でのこれ以上の情報収集は難しそうだし、アドンの潜入も終わりにしよう。お疲れ様」
「御意。それともうひとつ、我が背後の建物にあるアンデッドどもは、観測と記録の用途であったらしく――まあ、大した情報はないかもしれませんが、ご報告まで。――と、それらには自爆装置なるものが仕掛けられておりますゆえ、ユノ様には無駄なことかと思いますが、念のためご注意を」
『ん。ご苦労様』
「はっ!」
こうして、アドンの孤独な潜入任務は終わりを迎えた。
その喜びのほどは、態度にこそ出ていなかったものの骨の艶に表れていて、傍目にも分かりやすいものだった。
「それじゃあ、約束のご褒美」
ユノがそう言ってアドンに手渡したのは、一着のボロボロのローブだった。
それは、彼が以前に纏っていた物と形は同じものだが、ユノの手によって創り直された特注品――紛うことなき神器であった。
「お、おお! これは、ユノ様の手創り――! こっ、この感触は、ユノ様に包まれているような――! 我、またも神器を得たり!」
アドンが感動に震え、その身体からカタカタと乾いた歓喜の音が鳴り響く。
その陽気なラテンのリズムは、周囲の人の気持ちまで明るくさせるもので、アドンがいかに浮かれているかが分かるものだった。
「はい、これも返すね」
「ふおお! 我、完全装備!」
そして、再びその手に戻った神器を天高く掲げて、自らの骨が奏でるリズムに合わせて大鎌を振るうアドンの心情は、最早推し量るまでもない。
「ちっ、特異個体ってか、デスだったのかよ……。道理で《物理無効》なんか持ってるわけだ」
アドンがデスだったと発覚して悪態をつく者、驚く者など様々だが、日中だからかユノの使い魔だからか、それほど恐怖する者はいない。
陽気に踊っているのも一因だったのかもしれない。
「我らを差し置いて神器を下賜されただと……!? くっ、羨ましい!」
「くっ、妬ましい! 堕天してしまいそうなほどに!」
一部には悔しがっている者はいたが。
『それで、みんなの今後のことだけど』
しかし、朔がその話題を切り出すと、騒めきがぴたりと止まる。
「レオの用事はもう済んだの?」
「おう。元々良い王じゃなかったしな。辞めるって言って、それで仕舞いだ」
「威張って言うことじゃないっすよ。どっちかっていうと、婚活って理由が認められて、喜んで送り出されたってのが――」
「おい、余計なこと言うんじゃねえ!」
『それにしても早いね』
「王位は姪っ子の子供――いや、孫だったかに譲ってきた。強さはまだまだだが、王の資質は俺様より遥かに高い。まあ、後は何とかやってくだろうぜ」
「レオナルド様より王の資質が高い方などごまんといますが、確かにあの方なら良い王になるでしょうね」
「お前はいつもひと言多いな……」
「日頃の行いってやつだな」
「ということで、私たち四人、先にユノ様のところにお世話になりたいと思います」
なお、「先に」というのは、彼らの家族や、他にも希望者がいるということである。
暴君のように見えても、それだけレオナルドを慕っていた者が多かったということでもある。
それは、ユノも覚悟していたこと――というより諦めていたことで、細かいことまで訊いたりはしなかった。
それよりも、アイリスたちへの言い訳を考えるのに必死になっていた。
『この数日間の様子を見ていた限りでは大丈夫だと思うけど、魔王だからって特別扱いはしない。といっても、影響力の大きさを考えると、レオナルドはユノの預かりに、それ以外の人は町にってことになる。これが嫌なら――』
「いいぜ。迷惑は掛けねえようにすると誓う」
せっかちなレオナルドが、朔の注意が終わる前に誓いを立てた。
「自分らも同じくっす」
「じゃあ、これからみんなよろしく。それで――」
ユノはあっさりと受け容れを認めると、次の話題に移ろうとする。
「い、いいのか? 自分で言っといてあれだけどよ、俺様を取り込むってなると、結構騒ぐ奴らが出てくるぜ?」
「そうですね、ユノ様のことを知っていれば、問題などと感じないでしょうが――」
レオナルドたちは、受け容れてもらえるのは素直に嬉しかったし、断られても拝み倒してでも受け容れてもらうつもりであった。
しかし、何の躊躇いもなく受け容れられるとは思っていなかった。
そして、覚悟も何も感じられないユノの様子に、それによって迷惑が掛かってしまうことに考えが及んでいないのかと、心配になってしまったのだ。
『その昔、帝国軍の亜人狩りで捕まってた亜人たちを、ユノが助けたことがあって――』
しかし、それは突然始まった朔の昔語りによって遮られた。
『その時は受け容れられるだけの地盤もなかったし、連れて歩くようなこともできなかった。だから、ユノにしてみれば、ほんの少しの手助けをしたつもりで別れたんだ。それからしばらく彼らのことは忘れてたんだけど、いろいろあって、拠点を手に入れて、その時になって彼らのことを思い出して、様子を見に行ったんだ』
(全滅してたとかそういうオチか? 別段、珍しくもねえ話だが――俺様たちと重ねるには無理がある話だな。まあ、ユノが優しいってことは分かったが。チクショウ、惚れ直しちまうじゃねえか)
朔の話を聞いていたレオナルドたちは、揃って同じ結末を想像していた。
それはこの世界では珍しくもない話で、弱さが罪であるこの世界では同情すらもされないものである。
当然、レオナルドのような強者に当て嵌めるのは不適当な例えだが、彼らはそんな弱者にも心を砕く、ユノの母のような優しさに感動を覚えていた。
『そこには立派な神殿が建ってて、進化した住人たちが首狩り族になってて、ユノに祈りを捧げてたんだ』
「おう」
想像の遥か斜め上を行く朔の話に、レオナルドの口から変な声が漏れた。
「そういえば聞いたことがあるっす。うちと赤竜の領域の中間くらいに、ヤバい奴らがいるって。でも、知り合いが調査に行った時にはもぬけの殻で――あ、確かに神殿のようなものはあったらしいっす」
『君らがそうなるとは思わないけど、どうせ問題が起きるなら、目の届くところで起こった方がいい』
「そういうこと」
なお、同様の理由で、攻城戦では特に役に立たなかった亜人や精霊や魔物たちも、ひと足先に湯の川へ移送されている。
そして、当然のように絶賛宴会中である。
「なるほど。そういや、集会の時も、言いたい奴には言わせとけって堂々としてたしな。んじゃ、ごちゃごちゃ考えても仕方ねえ。ってことで、これからよろしく頼むぜ!」
レオナルドはそう言って手を差し出し、ユノもそれに倣って手を差し出す。
ふたりの手が重なった時、ユノの口から幸せそうな溜息と共に、「肉球……」という呟きが漏れたが、全員がユノの上気した表情に気を取られていて、それに気づいた者はいなかった。
『シヴァは土地神だって言ってたよね。戻らなくていいの? というか、戻らないことで、その土地の人とか、関係者に迷惑が掛かったりしない?』
「あそこには、私より遥かに守り神として相応しいものがありますゆえ、私などおらずとも、何の問題もないでしょう。それに、何十年も不在であった私には、最早かの地の信仰を集める力はありません」
『なるほど。――それで、君らは?』
「我らも、年月や程度の違いはあれ同様です。我らの守護する地や地位は、ディアナに囚われていた間に他の神に渡るか、埋められるなどして、帰る場所はありません。それに、待っている者もおりません」
「もうお気づきだと思いまずが、ひと口に神といっても、格というものがあります。一般的に広く認識されているのは、ディアナのように何らかの概念を司る神ですが、その神の下には、その補助をする神が存在していて、派閥を形成しています」
「そこのヨハンはディアナの派閥に属していましたが、ディアナを裏切った今は――いえ、先に裏切ったのディアナであるともいえますが、彼に帰る場所はありません」
神々の話は、神の社会構造や実情にまで及んだ。
当然、人族に聞かせるのはまずいものも含まれていたので、そういった部分については適宜防音効果のある結界が展開され、その中で行われている。
シヴァのような土地神は、その名のとおり、土地の管理が仕事である。
その性質上、特定の派閥に属することは滅多にない。
しかし、彼の言うように、より上位の存在――世界樹が座している以上、彼がその地に影響を与えることはできない。
管理という役割は残っているが、土地はともかく世界樹の管理は彼の手に余る。
それに、世界樹がある限り、その地の繁栄は保証されているも同然である。
そして、そこが他の地に与える影響についてまでは、彼の管轄ではない。
それこそ、世界樹を創造した当人が負うべき責任であった。
そして、ヨアヒムをはじめとした、ディアナから解放された男神たちは、建前上はどこにも属さず、何にも縛られない「調和を司る神」である。
この調和を司る神は多数存在していて、主に人の手に負えなくなった事件があると現れて、事態の解決に向けて動く。
なお、ユノと天使が衝突した際にも現れていたのだが、誰にも知られることなく喰われていた。
また、彼らは湯の川にある世界樹のことも把握していた。
しかし、この世界には、世界樹の取扱い規定は存在しない。
それに、大局的に見れば、それは世界の益になるものである。
何より、判断を仰ぐべき主神との連絡が取れなかったので、静観するしかなかった――といった状況だった。
とにかく、神が寿命以外で死ぬことは稀ではあるが、神も決して無限の存在ではない。
そして、役割を持った神の存在の重要性から、役割が果たせない状態になると、すぐに後任が選任される仕組みになっている。
つまり、男神たちがディアナの操り人形になった直後には、後任が誕生していたのだ。
そんな感じで、神々は、彼らがおかれている状況について、誠心誠意、拝み倒すレベルで説明した。
ユノに認められて、ユノの下で働くために。
「帰る場所を取戻してあげることも――」
神嫌いのユノとしては――想像上のものよりは嫌悪感はないものの、受け容れには否定的だった。
しかし、シャロンたちの例を考えると、放置することもできない。
『それは争いの火種――っていうか戦火になるけど、いいの?』
「むぅ。――分かったよ。でも、シヴァは定期的に里帰りすること」
とりあえず口に出してみたユノだったが、こうなる予感と諦念があったので、素直に折れた。
『それと、町に対する干渉は控えること。そこは人間たちの領域だから』
「「「心得ました!」」」
神々はとてもいい笑顔でそう答え、互いにハイタッチを交わしたり肩を組んで喜び合っていた。
ユノは、その俗っぽさをどう受け止めるべきかと少しばかり悩んだが、お堅いよりはマシかと判断して、考えるのを止めた。
『それで――』
「僕は、ここに――帝国に残ります」
話題が人族のものに移ろうとしたところで、ユウジが声を上げた。
同時に、ユウジをはじめとしたスティーヴ隊の面々が、一歩前に進み出る。
特に示し合わせていたわけではないが、仲間意識か信仰心の賜物か、言葉にせずとも想いが伝わるようになっていた。
「さっきの話を聞いた限りでは、俺らと同じ境遇の人たちが、まだまだ送られてくるんですよね」
「いつかはユノ様がどうにかしてくれるって信じてますけど、その間は、私たちがその人たちを守るお手伝いができればと――」
日本人たちは、彼らが召喚された事情を知った。
それは理不尽としかいいようがないことであり、帝国に対して怒りを覚えたり、見限ったとしても無理のないことである。
それでも、これから同様の被害を受けるであろう者たちを救いたい――その想いに、ユノは感動を覚えた。
あのユウジたちが、想像以上の問題児たちが、ここまで成長したのだと。
しかし、その前の「何とかしてくれる」という部分については困惑するしかない。
「人の子よ、お前たちの仲間を思いやる気持ちはとても尊いものである。だが、『どうにかする』ことも含めて、人の世のことは人の力でなさねばならないのだ」
「そうだよ。だからユノ様は、僕たちを鍛えるっていう回りくどい手段をとってたんじゃないかな?」
困惑するユノに、ヨアヒムがフォローを入れ、ユウジが意見を述べた。
「本来は、特定の人間に肩入れすることも望ましくないのだが……、ユノ様のお優しさに感謝するがよい」
「それは当然ですよ! ユノ様がいなければ、僕らはここまで来られなかった」
「それに、ユノ様は、私たちにどんなふうに思われても、私たちを見守ってくれていた! 私たちの成長を信じて、露悪的に振舞ったり。――やっぱり、私も残る!」
「駄目だよ、ヒカル。せっかく彼と再会できたんだし――それに、魔王から全員が生き残るなんて説得力に欠けるでしょ」
「それに、僕らもずっと残るつもりはないし。僕らだけじゃどうにもならないしね。だから、仲間とか後任を育てて、受継いでもらう流れを作りたいって考えてる」
「私は、帝国がそんなことになっていたとは、全く知らなかった。――いや、何かがおかしいと感じながらも目を逸らしていた。しかし、知ってしまった以上、もう目を逸らし続けることはできない」
「気張ってみたところで、できることなどたかが知れているがな。俺も、お前らやお前らの後輩が活動しやすい場を作れるよう、頑張ってみるつもりだ」
「ありがとうございます、スティーヴさん、イアンさん」
ユノは、彼女の思惑とは違うところで勝手に進んでいく事態に困惑していたが、本人たちがそう思うのなら、もうそれでいいかと訂正は諦めた。
何より、過程はどうあれ、彼らが自分たちの意思で進む道を決めたことが嬉しくて、それに水を差すようなことはしたくなかった。
そんな上機嫌なユノによる慰労ライブを経て、別動隊の数十人は辺境の町に帰還して、神々と大魔王は楽園へと移った。
なお、別動隊の彼らは、味方が大魔王から味方が逃げる時間を身を挺して稼ぎ、その上で生還した部隊として、生ける伝説となった。
こうして、帝国東部での騒動は、一旦幕を閉じた。
◇◇◇
ユノによる、異世界人たちから異世界の情報を集めて、妹たちを召喚する手掛かりを掴むという目的で始まった活動は、同一、若しくは極めて近い世界の異世界人ユウジの発見に至った。
しかし、彼女自身の「世間知らず」という壁に阻まれて、特定するまでには至らなかった。
また、そこから先の調査についても、帝国、神、魔王と、様々な陣営の思惑の絡み合うところもあって、軽々しく手を出せなくなった。
その反面、目的外のところでは大暴れした。
無節操に信者を増やし、世界のパワーバランスを崩し、神までをも篭絡し、下した。
とはいえ、全体的に見ると、帝国や魔王の悪行を暴いて人間の自浄を促し、乱心した神の暴走を未然に防いだ――と、功績も大きい。
確かに、うっかり世界樹を植えたなどという、言い訳のしようもない軽挙もあった。
それでも、ユノなりに、様々な状況に対しての配慮は行っている。
ただ、見落としが多かったり、結果が誰も想像しないところへ暴走したりするだけで、彼女としてはその場その場で最善を尽くしているつもりである。
しかし、そこに過去の嘘や場当たり的な対応などの後始末が加わって、採れる対応の幅が限定されたり、派手になっていく。
それが今回の騒動の結末を招いたといっても過言ではない。
しかし、真に恐ろしいのは、それらもまた積み重ねのひとつでしかないことである。
これより、世界は激動の時代を迎えることになる。
そして、これはその始まりにすぎない。




