27 決戦
「よし、みんな、今のうちだ!」
「神のご加護を受けし我々に、恐れるものなど無い! 突撃だ!」
「行け行け行け行け! 勝利を我らが女神に捧げるのだ!」
別動隊の向かう先、その城壁上に取りつけられた兵器は、城門間近にまで迫った彼らにではなく、その遥か後方に向けて撃ち出されていた。
砲弾の向かう先――全く届いていないそこには、神々しく輝く神々の姿があった。
より強い魔力に反応するアンデッドは、その強い魔力の前に、人間たちの姿を見失っていたのだ。
「まったく、手を出さないって言っておいてあれかよ」
「確かに手は出してないけどな」
「ユノ様に怒られるかもしれないのに、みんな、本当に最高の方々だぜ!」
砲弾が音を立てて頭上を乱れ飛ぶ中でも、別動隊の面々に恐怖の色は無い。
ユノや神々への信頼に加えて、疲労こそ残っているものの、ライブの興奮や完徹のテンションなども加わって、彼らは最高にハイな気分になっていたのだ。
本来、攻城戦ではいくつかの定石が存在するが、大別するとふたつに分けられる。
空から攻略するか、地上から攻略するか。
当然、どちらかではなく、両方を用いることがほとんどで、今回のように地上部隊だけというのは珍しい。
これは今回の作戦の部隊編成によるもので、本隊の方には多少の航空戦力が存在していた。
もっとも、魔法やスキルに頼った攻略をしないという方針で、活躍の場は無かったが。
攻撃側の戦術は、航空部隊が上空から敵陣内に侵入して内部から破壊するか、地上部隊が城壁や城門などを破って強引に侵入するかに大別される。
城壁の外側で撃ち合っている限り、兵器や物資の量の差などで、基本的に防衛側が有利である。
したがって、攻撃側が勝利するためには、リスクを覚悟の上で、敵陣内に侵入することが前提で、それからが本番となる。
ロケーション次第では他に選択肢があったりもするが、当然、防衛側もそれは理解しているので、対策されていることがほとんどである。
空からの攻略では、《飛行》や《転移》魔法、又は空を飛べる騎乗生物などを用いるのが一般的である。
しかし、それらの魔法は使い手が少ない。
さらに、《飛行》魔法で兵器の集中砲火を掻い潜れるような機動ができる者は更に稀であるとか、《転移》は妨害されたり、《転移》直後の隙に集中砲火を受けるおそれがある。
その問題を解消できるだけの熟練者がいたとしても、少数精鋭どころか、ほぼ単身での特攻は無謀というほかなく、どちらにしてもギャンブル性が高い。
空を飛べる騎乗生物も、大量に揃えられるものではない上に、少数では大した効果は見込めない。
そして、力押しできる数が揃えられるなら、自力で領土を開拓した方がいい。
とはいえ、防衛側も機動力に優れる彼らを無視はできない。
兵器の射程より高く飛べる存在はほぼいないとはいえ、機動力の高い小さな的に砲撃を命中させるのは難しい。
また、機械式の誘導兵器はさほど発展しておらず、魔法による誘導兵器は現代兵器に比べると格段に精度が低い上に、そもそも魔法の射程に限界がある。
航空戦力は、基本的には陽動であることが多いとはいえ、突破されると非常に厄介な敵に変わる。
航空戦力だけでは拠点の占拠などは難しいとはいえ、制空権を取られるのが致命的なのはどこの世界でも同じである。
どうしても地上戦力以上に気を遣わなければならない。
地上からの攻略は、単純に兵器や兵力での力勝負になる。
攻撃側が兵器を持ち込んで撃ち合うこともできなくもないが、運搬のコストを考えると常識的ではない。
また、地球で見られた攻城塔のような物も、現代兵器の前にはただの的でしかない。
そのため、高威力の魔法やスキル持ちを、城壁や城門付近に送り込んでの破壊工作が主流となる。
無論、城壁が簡単に破れるような能力者は極めて稀で、狙い撃ちされないように一撃離脱を繰り返すことになる。
とはいえ、敵に知性があれば妨害してくるし、そもそも、接近するのが最も難しい。
そこで、高レベルの回避スキル持ちや、単純に運が良さそうな者などを一斉に走らせ、城壁付近に《転移》用のマーカーを設置したり、本人がマーカーとなる、非人道マラソンが攻撃側戦術の主流になっている。
つまり、囮と破壊工作を同時にこなしていたシロウは、勇者として恥じない活躍をしていたのだ。
◇◇◇
「イエァ!」
「ヒャッハー!」
別動隊の飛行経験者たちが、ユウジに打ち上げられて次々と城壁の上に取りつくと、次々にそこにいたアンデッドと兵器を無力化していく。
神という最高のデコイの前に、彼らをろくに捕捉することもできないアンデッドは、彼らに経験値を献上するだけのオブジェクトにすぎなかった。
そうして、別動隊はあっという間に城門の開放に成功した。
ユウジたちが、危険な過程をすっ飛ばして城壁に接近できたのは、神々のおかげである。
それでも、従前の戦術のように破壊工作を始めようとすれば、どうしても魔法やスキルを使わざるを得ず、そうすると、多数のアンデッドに襲われたはずである。
ドラゴンゾンビの時ように、城壁を掘ることもできたかもしれない。
しかし、掘れたとしても、崩落に巻き込まれてしまうのは確実である。
掘ることだけは達人級に成長していたが、崩落を防ぐような補強技術は獲得していないのだ。
しかし、彼らは、大して魔力を使わずに、人を城壁の上まで打ち上げるという手法で、それを華麗に、そして強引に回避した。
ある意味、攻城戦に新たな可能性が生まれた瞬間だった。
門が開いた瞬間、待ち構えていたイアン指揮下の異世界人たちが、まるで暴徒のように突入していった。
それを、サヤ、シノブ、メイコといった《投擲》スキルの高い者が、城壁の上からあれこれ投げて援護をして、瞬く間に東部区域を制圧する。
そして、そのまま本体と合流するべく南へと向かった。
東門から南門までの短くはない距離、少なくない数のアンデッドと遭遇したが、彼らの進攻を阻むことはできなかった。
彼らはマスタークラス以上がゴロゴロといる、対アンデッド戦のエキスパート集団である。
しかも、日中でデコイ代わりの魔石も充分となると、ただのゾンビやスケルトンでは足止めにもならない。
◇◇◇
東門陥落から程なくして、町の監督を任されていた不死の魔王の腹心で、死霊術師の【ドミトリー】がその報告を受けていた。
もっとも、腹心といっても、失ってもそれほど惜しくはない辺境の監督に任じられる程度の人材である。
ヴィクターにとっては、町同様に失ってもそれほど惜しくはない道具のひとつにすぎない。
ヴィクターの考えでは、この辺境の町を失ったとしても、特に懐は痛まない。
むしろ、アンデッドが大半を占めるヴィクターの勢力が、領土を拡大、維持する理由が無い。
勢力さえ維持できれば、食い扶持を増やすために領土を広げる必要が無いのだ。
むしろ、町を奪還させた方が、帝国はその整備や維持に非常に多くの資金や労力が必要になる。
そして、帝国の国力は一時的にマイナスになる。
その後、多少とはいえ瘴気に汚染されたそこが、プラスに転じるかどうかは怪しいところで、しばらくは他に手を出す余裕は無くなるだろう。
そもそも、この町は疫病の発生と、それによる働き手不足で、食糧事情等が悪化したことが原因で放棄された町である。
ヴィクターは無人となったそこに、ドミトリーを派遣しただけのこと。
それも、疫病の調査や、それが何かの役に立てばと考えて、手が空いていた者を使っただけのことで、役に立たなくてもさほど問題は無い。
当然、備え付けられていた兵器なども、帝国が残していった物である。
それを手放して帝国が大人しくなるのであれば、当面は帝国の相手などするつもりのないヴィクターにとっては、好都合といえる。
不満を挙げるとすれば、帝国内に忍ばせている工作員による、帝国のコントロールが上手く機能していないことだ。
それも、帝国内で行っている実験が破綻しない限りは大した問題ではない。
ドミトリーもそのくらいのことは理解していたため、町の放棄を早々に決定して、撤退の準備――《転移》装置の発動準備にかかっていた。
元々、彼の役割は、情報収集――といっても、彼自身が集めるわけではなく、配下のアンデッドが集めたものを、ヴィクターの許に送るだけである。
ただ、帝国軍の進攻速度が予想以上に早かったため、少々慌ただしくなってしまったのは彼の油断である。
勇者が負傷し、後送された――その戦果に気を良くしてしまい、気が抜けていたのだろう。
それでも、末席とはいえ、魔王の腹心にまで任ぜられているだけあって、彼も高い戦闘力を誇っている。
それは、たとえ勇者であっても互角に戦える自信もあったくらいだったが、労せずして戦果を得た幸運に浮かれてしまっていた。
日本人に言わせれば、「典型的な中ボス」であるが、神の目でもなければ当人がそれに気づくことはない。
そもそも、彼の任務は飽くまで情報収集であって、決して敵を倒すことではない。
むしろ、勇者のような、貴重ではあっても替えが利く駒を相手に、彼らの内情や手の内を晒すようなまねをすれば、ヴィクターの不興を買うおそれもあったのだ。
ヴィクターは、「機」というものを重要視している。
彼にとっては、何でもかんでも手を出すのは当然として、とりあえずで結果を出せばいいというものではない。
当然、レオナルドのようなタイプは大嫌いで、大いに苦手だった。
ヴィクターは、大局を見据えて、中長期的な視点で作成された計画に従って行動しているのだ。
事実はどうあれ、少なくとも、彼自身はそう公言している。
それを無視すれば、最悪の場合は捨て駒にされるかもしれない。
「人間どもの姿が見えました。距離500――間もなく建物内に侵入されます」
「それなら充分に間に合うわね。アナタ、私とロックちゃんが脱出したら自爆なさい」
「畏まりました」
ドミトリーの無茶苦茶な命令にも、配下のアンデッドは諾々と従う。
もっとも、それには多少のコミュニケーションが取れるだけの知性は持たせているが、意思や感情の無いゴーレムに近いものである。
むしろ、用途を考えれば、安定性と耐用年数に優れるゴーレムの方が優れている。
ドミトリーはそれを理解した上で、彼なりのヴィクターへの配慮で、アンデッドを使用しているにすぎない。
とはいえ、結果論ではあるが、耐用年数を超える前に使い捨てることになったのは、多少なりともゴーレムよりは節約できたという意味では正解だった。
「――何か来るわ!?」
そんなやり取りをしていたドミトリー頭の中で、《危険察知》スキルが突然けたたましい警報を鳴らし始めた。
その直後、北東の方角で、ひと際大きな破壊音が鳴り響いて、濛々と土煙が上がっているのが見えた。
ドミトリーは当初、砲撃が市街に撃ち込まれたのかと考えたが、帝国軍が移動式砲台を用意していたという報告は受けていない。
東側から侵入した部隊も、その進攻速度の速さから、そのような荷物を運んでいるとは考えにくい。
それに、その破壊力は、移動式砲台に出せるようなものではない。
ドミトリーが思案している間にも、断続的に大きな破壊音と振動が届く。
「侵入者、魔王レオナルドのようです」
侵入者の正体を認識したアンデッドの報告に、ドミトリーの顔が、彼の濃い青髭と同じくらいに蒼褪める。
「な、なぜあの魔王がこ、こんな所に!? み、見間違いじゃないの!? ここは奴の領域から最も遠い辺境よ!?」
「間違いありません。魔王レオナルドです。こちらに気づいた様子はありませんが、足止めは不可能な様子。こちらに来るのも時間の問題かと」
恐怖を感じず、配慮もできないアンデッドが淡々と答える。
「くそっ! ――あぁん、『くそ』なんて言っちゃったわ。もう、忌々しい。――仕方ないわね。ロックちゃん、その子と一緒に時間稼ぎしてらっしゃい」
ドミトリーは、深く考えることを諦めた。
レオナルドのような、「野生の勘」などという理解不能なロジックで行動しているものを、完全に把握するのは不可能である。
ドミトリーが指示を出した、「ロックちゃん」とよばれた体長二メートルを超える大型のスケルトンは、生前はどんな種族だったのかも判然としない、謎の多い特異個体である。
しかし、ドミトリーは偶然見つけたそれの、あまりに見事な肉――骨体美に一目惚れして、こっそり連れて帰っていた。
彼を盗んだ――いや、保護した場所が、ヴィクターの領域の中枢付近だったので、しばらくは気が気でなかったが、特にクレームが来ることもなく時間が過ぎていたので、安心していたところだった。
ややあって、ロックちゃんは無言でひとつ頷くと、傍らにいた観測及び記録用のアンデッドを抱えて立ち去っていった。
「後で骨は拾ってあげる。――アナタの骨密度、とても素敵だったわ」
ドミトリーの言葉が、ロックちゃんに届いたのかどうかは定かではない。
ただ、ロックちゃんが立ち去った先から、「コーン」という乾いた音が返ってきた。
◇◇◇
「前方の建物よりスケルトン――って、大きい!? 特異個体のようです!」
斥候の少女の報告に、周囲にいた兵士たちの視線が一斉にそちらへ向いた。
そこにいたのは、体長二メートルを超える大型スケルトン。
しかし、それを即座に特異個体と判断したのは、そのサイズからではない。
サイズだけなら、巨人や小巨人など、目の前のそれよりも大きい種族のスケルトンも存在する。
それらは危険度こそ変わるものの、特異個体と呼ばれることはない。
そのスケルトンが特別だと理解できる理由は、ごく単純である。
その身に纏っている妖気のようなものが、ドラゴンゾンビを遥かに凌駕するくらいに桁違いだったからだ。
さらに、軽快なステップでシャドーボクシングをしていることも、その異様さに拍車をかける。
「近接特化タイプか! 不用意に近づくな! 囮の魔石は!?」
「ここに! ――行きます、3、2、1、今!」
カウントダウンでタイミングを合わせて、囮となる魔石と同時に、タンクと近接アタッカーが前に出る。
「ぐはっ!」
「ぐっ!?」
しかし、その全てが、電光石火ともいえる拳撃で打ち返された。
「魔石が全く効かねえ! 意思持ちか!?」
「タ、タケシ!? ガ、ガードの上から腕を砕かれてる!」
「衛生兵! 負傷者を後退させろ! 治療は充分に離れてからだぞ!」
「何てパワーとスピードだ!?」
前に出ていた兵士たちが体勢を崩して、致命的な隙を晒してしまったが、彼我の実力差や、スキル等を使用していなかったことを考えれば、生きているだけでも幸運である。
そして、更に幸運なことに、追撃も飛んでこなかった。
「まさか、後ろの建物を守っているのか!?」
その兵士が気づいたように、そのスケルトンは、建物の入り口から離れようとしない。
そのスケルトンの行動範囲は、精々が建物の入り口から三メートルほどで、そしてそれがスケルトンの間合いであることも見てとれる。
「だったら、遠距離攻撃で――」
「なっ!?」
そのスケルトンは、《投擲》マスターの異名をとるユウジたちの投石も、軽々と打ち砕いた。
あまつさえ、余裕さをアピールしているのか、手招きして挑発してくる有様だった。
「くそっ、やっぱり魔法やスキルで――」
「莫迦者が! 余計な敵まで呼び寄せては手がつけられん! ――あの建物に何かがあるのは間違いないが後回しだ!」
熱くなったユウジをスティーヴが諫めたその時、彼らの視界の隅で、建物が轟音と共に吹き飛んだ。
濛々と立ち込める粉塵の中から悠然と姿を現したのは、黄金色に輝く立派な鬣を持った獅子の獣人だった。
「じゅ、獣王!? ――かの大魔王がどうしてこんなところに!?」
「ああん? それはこっちのセリフだぜ。人族が何でこんなところにいやがる」
スティーブの上げた殊更に大きな驚愕の言葉に、獣人の魔王が律義に反応する。
そして、彼の発した「大魔王」という言葉は、大魔王の発する覇気と共に、帝国軍の全部隊に瞬く間に伝播していった。
◇◇◇
「な、ど、どういうことだ!? ま、魔王? 大魔王? ――がいるのか!? なぜ獣王が――いや、とにかく、た、退却だ!」
そして、それは当然、市内に侵入して、別動隊と合流寸前だったキャメロンの下にも届いた。
不退転の決意を固めていたキャメロンでも、さすがに大魔王との交戦は選択肢に無い。
そもそも、敵前逃亡に問われるのは通常戦闘時のみであり、魔王や古竜などの災厄と遭遇した場合、最悪は他国に支援を要請することも必要になる。
そのため、誰かひとりでも生き延びさせ、この情報を持ち帰らせなければならないのだ。
魔王から逃げ延びることがいかに難しいかを知っていたとしても、やり遂げなければ、被害は彼らだけでは済まない。
「私たちが殿を務める! 本隊は後退を!」
「おっと、あんたらだけじゃきついだろ。俺らも手伝うぜ!」
スティーヴとイアンの部隊が、大魔王レオナルドの前に立ち塞がる。
「おいおい、普通の人族ごときが俺様とやり合うってのか? ――莫迦にしてんのか!?」
大魔王が、怒気を込めて帝国軍の兵士を睨みつける。
しかし、その気勢に反応したのか、特異スケルトンが魔王に向かって攻撃を仕掛けた。
「おおっと、何だコイツ!? 骨のくせに良いパンチ撃つじゃねえか!」
「今だ! 今のうちに退却するぞ! ――諸君らの献身に感謝する! 総員、退却急げ! 彼らの心意気を無駄にするな!」
これを機とみて、キャメロンが吠えた。
同時に、全ての正規兵が撤退――逃走を開始する。
全員が半ばパニックに陥りつつも、最低限の規律は守り、迅速に撤退できているのは練度の高さの表れか。
「おいおい、逃がすと思ってんのか? 【クロード】、【ジャン】、【ポール】、行け!」
人族には興味は無さそうにしていたものの、獅子の獣人としての本能か、大魔王としての矜持か、レオナルドは配下の獣人たちに追撃の指示を出した。
「どこに行けと? まさか奴らを狩れと? ご自分でやってくださいよ」
「食料にでもするんすか? でも人間ってまずいっすよ?」
「どうしてもって言うならやるけどよ、ここは一応不死の大魔王の領域なんだし、あんまり派手なことはしねえ方がいいと思うぜ?」
しかし、魔王の配下であっても、魔王の矜持とは無縁な彼らは、その指示に異論を唱えた。
彼らも、それが魔王や自分たちの敵や獲物であれば、言われるまでもなく戦いに赴いただろう。
しかし、眼前の帝国兵たちは、どう足掻いても彼らの敵たり得ず、獲物としての魅力もない。
「いいから行けよ!」
「「「はいはい」」」
しかし、最終的には王の命令に逆らえなかったようで、3人の獣人は、殿を務める帝国軍の兵士に向かって、ゆっくりと歩を進め始めた。
「ここから先には行かせない!」
「ここが踏ん張りどころだ、人族の意地を見せろ!」
「「「おう!」」」
そこに、別動隊の面々が立ち塞がる。
「人ごときが私たちを止めようなど……」
「身の程知らずも、ここまでくると滑稽っすね」
「ここから先、言葉は要らん。力で示せ!」
口上が終わった途端、双方が激突した。
獣人たちは、僅か3人とはいえ魔王の側近で、それぞれが百戦錬磨の猛者である。
対する帝国兵も、多くの死線を越えてきた精鋭集団で、数的有利もある。
戦況はほぼ互角――ただし、気分の乗らない仕事で、怪我をしないようにと立ち回る余裕のある獣人たちに対して、負傷やペース配分に構う余裕の無い帝国兵たちには後が無い。
何より、今は特異個体スケルトンで遊んでいるが、魔王の気が変わった瞬間に全てが終わる。
唯一彼らに味方するのは、魔力や音に惹かれてやってきたアンデッドが、例外なく獣人たちや魔王に向かうことだ。
アンデッドを殲滅に来たはずが、アンデッドに助けられているのは複雑な気分になるが、帝国兵たちには、そんなことに気を向ける余裕は無かった。




