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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第七章 邪神さん、デビューする
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25 雪だるま式

「「「ユノ様、お帰りなさい!」」」


「ただいま」


 帝国軍別動隊の許へと帰還すると、最敬礼で出迎えられた。

 (ひざまず)かれるよりはマシだけれど、状況的には非常にまずい。



 なお、壊れた――私を異常に恐れるようになって、幼児退行を始めたディアナさんを残して逃げてきたけれど、大丈夫だろうか。

 といっても、私にどうにかできる状況ではなかったし――インプリンティングか何かなのか、私について回るようになった男神たちが彼女を責めるので、居残るわけにもいかなかったのだ。


 まあ、私が心配しなくても、彼女にも友人とか家族がいるだろうし、誰かがきっと何とかしてくれると思おう。




 そんな事情もあって、レオとヨハンさん、そして八柱の男神たちも一緒についてきた。


 正直なところ、全員あそこに置いてきたかった。



 特に神。


 事あるごとに主神に祈りを捧げる彼らと行動を共にするのは危険すぎる。

 しかし、置いてきたところで、シヴァさん同様追いかけてくるのは目に見えている。

 それならまだ目の届くところに置いていた方が――ということなのだけれど、これでは当初の目的を達成したのかどうか分からない。

 問題が減ったのか増えたのかも分からないし、本当に何をしに行ったのやら……。


 しかし、神が人の前に姿を見せても良かったのだろうか?

 いや、目的地も、そこに人間がいることも伝えたし、それでも偽装も擬態もせずについてきたのだから、問題無いのだと思いたい。



「とにかく、先に貴方たちのするべきことを片付けようか。他の細々したことは道すがらで」


「「「はっ!」」」


「「「ユノ様の御心のままに!」」」


 帝国軍の人と日本人たちにに向けて言ったつもりなのだけれど、なぜか神々までもが反応していた。

 誰か助けて。


◇◇◇


「俺様――いや、俺、魔王辞めるわ」


 なぜかまだついてきていたレオが、道中唐突にそんなことを言い出した。


 今日のあれはレオにとってもショッキングな出来事だったらしい。

 そこまで思い詰めていたとは想像もしていなかったけれど、あれはアナスタシアさんとかバッカスさんと同じで、相手が悪かっただけだと思う。


 というか、魔王は辞めたいと思って辞められるものなのだろうか?


「辞めるのは構いませんが、説明責任は果たしてくださいよ? それと、事後処理もきっちりお願いします」


 お供の獣人さんには許可されていた。

 というか、そんなに簡単でいいのか?


「辞めてどうするんすか?」


「ユノんとこに行こうかと思う」


「あ、ずりい! 俺だって行きてえよ! っていうか、絶対行くぜ!」


 えっ、何を勝手に決めているの?


『現状、面倒事は御免なんだけど』


 よし、言ってやって!


「貴様! 魔王風情がユノ様にご迷惑を掛けようなど、主がお赦しになられても私が赦さん!」


「ユノ様! ユノ様の御身は我らがお守りいたしますのでご安心を!」


「おはようからお休みまで、お望みであれば、ベッドの中でお休みからおはようまでもお守りいたします!」


 薄々はそんな気がしていたけれど、やはりこっちも湯の川までついてくるつもりか……。



『ユノは君らの主に一度思いっ切り怒られてるから、どちらかというと、君たちの方が厄介なんだけど』


「「「なんと!?」」」


「――致し方ない。主よ、今までありがとうございました。私はこれからの神生を、ユノ様と共に歩みたいと思います」


「私はもうユノ様を主にと心に定めておりましたので、問題はありませんぞ!」


 おいおい、さすがにそれは駄目でしょう!?


「ちゃ〜ら〜らら〜ちゃ〜ら〜〜らら、ちゃ〜ら〜ら〜ら〜ら〜ら〜〜〜」


 卒業式とか閉店時の定番メロディーを口ずさまないで!

 一体何から卒業する気なの!?


『君たちは下手に力があるし、問題起こしたら問答無用で殺すけど、それでもいいの?』


「ユノ様と共にある未来、プライスレス!」


 駄目だ、壊れている。


 いや、人はどこかしら壊れているもの。

 完全なものなど存在しない――そう考えればいけるか?


 いやいや、アイリスたちにどう説明する?


 まあ、魔界に出発したアイリスや、ヤマトに向かったアルが知るまでにはまだ猶予があるけれど、リリーとソフィアは湯の川にいる。

 ミーティアは……まあ、いいか。

 ミーティアとアーサーもこっち側だし。


 とにかく、どう言い訳しよう?


 いや、受け入れる前提で考えるのはまだ早い。

 どうにか上手い断り文句を考えたい。


(ユノの基本方針の、「意思を尊重する」ってのがある限り、殺さないなら無理でしょ)


 頼みの綱が切れた。


◇◇◇


 いつまでもくよくよしていても仕方がない。


 今は少々面倒事が多すぎて、これといったものが思いつかないけれど、無理矢理にでも楽しくしていれば、何かが変わるかもしれない。


 人生とは、自分の力で切り拓くものなのだ。



「お、お、お――オオクニヌシ!」


「渋いところ突いてきたな!? し、し――――シトリー!」


「ほう、やるな。大悪魔の名か。リ、リ――」


 歌でも歌うと思った?

 私が歌えば、何がどうなるか分かったものではない。

 もう鼻歌すら許されない身なのだ。


 なので、しりとりを提案してみた。

 まあ、定番中の定番で胸を張るようなものでもないけれど。



 しかし、その選択は失敗だったと判断せざるをを得ない。


 最初は少人数で回していたはずなのに、気がつけば全員参加になっていた。


 順番が回ってくるまでに数十分、誰が何を答えているかも分からないし、答えが適当なのかどうかも分からない。


 何だよ、オーク似の何とかって。

 そんなのが通るなら、何でもありじゃないか。


 アルスで冒険者の真似事をしていた時や、王都で軟禁されていた時にやったのはそれなりに楽しめたのだけれど、さすがに規模が大きすぎたか。



 というか、楽しいとかそういう段階はとうに過ぎた。

 最早順番など存在していない。

 それゆえに「しり」は複数同時に存在していて、ひとつのしりとりが終わっても、どこかで別のしりとりが続いている。


 混沌が――いや、世界の縮図がここにあった。

 終末とは、ある種の救いなのだと理解できる。



「ユノ様……。任務と使命しか知らぬ我々を想って、このような娯楽を提供してくださるとは……」


「無理矢理押しかけた我々にまで気を遣っていただけるなど――この【ヨアヒム】、感激のあまり天にも昇るような心持ちです!」


「まさか、神様や魔王と心を通わせる来る日が来るとは思いもしませんでしたよ。この先、帝国がどうなっていくのかは分かりませんが、いい冥途の土産ができました」


 しかし、苦痛すら感じている私とは違って、他のみんなは異種族交流を心の底からエンジョイしているようだった。

 というか、しりとりでも上がる私の株って一体……?



 それよりも、一部に最後の思い出作りに勤しんでいる人族がいるのも頭が痛いところ。


 明言こそしていないものの、さすがに正体もバレたことだろうし、そうでなくても、言い訳できないレベルで神がいる。

 なので、目的地に着いてから先は手出しできないと宣言している。


 その時は「もちろんです!」と良い笑顔で答えていたので、そんな覚悟を決めていたなんて思いもしなかった。

 もしかすると、知ってはいけないことを知ってしまったことで、口封じされるとでも考えているのかもしれない。


 レオや神々への対応を保留している手前、人族たちへの対応も同様に保留している――それ以前に、彼らに伝えていた、「できる限りの希望を叶える」では、レオや神々への対応も自動的に決定してしまいかねない。



 なお、レオは少し前に「魔王を辞める準備してくるぜ!」と言い残して自分の領地に帰っていった。

 思い立ったが吉日で、きっと毎日が大安吉日なのだろう。

 自由で羨ましい。


 というか、私はまだ受け容れるとは答えていないのだけれど、どうやら外堀を埋める算段らしい。

 ライオンのくせに、案外小賢しい。

 お供の人の入れ知恵かもしれない。


 ……いや、どうかな?

 レオと一緒に一度戻る人と、ここに残る人を決めるのに喧嘩をしていたし、それに構っていられない状況もあって、何が何だかさっぱりだ。



 とにかく、確かに私たちの情報が下手に洩れるのはまずいのだけれど、これ以上湯の川のバリエーションを豊かにしてもいいものか、私にはもう判断がつかない。



 というか、みんなが楽しそうに行軍していたのがピクニックにでも見えたのだろうか。


 そんな雰囲気に釣られて、付近にいた亜人さんとか精霊とか、知性のある魔物なんかが様子を窺いに来て、なぜかそのまま大量に合流している。


 当初は、彼らも遠巻きに様子を窺っているだけだったのだけれど、それに気づいた人――というか、神々が余計なことを言ったのが原因だ。


「そんなところで見ておらずに、貴様らも加わるがよい」


「ユノ様は寛大なお方。神も、人も、魔にも、全てに等しく愛を注いでくださる」


「ミミズだって、オークだって、カエルだって、全ては生きている友人なのだ!」


 などと、言葉どおりの神の赦しを得て、そしてどこかで聞いたようなフレーズに後押しされて、しりとりの輪に加わったのだ。



 なお、ミミズやカエルは苦手なのでご遠慮くださいと正直に伝えた。


 というか、そのふたつになぜオークを交ぜた?


 むしろ、そういう意味では、神も嫌い――というか関わりたくないのだけれど、逆切れされる可能性を考慮して口に出すのは控えた。

 どちらもフラグとやらになっても困るのだ。


 しかし、前者の方に反応した神々が大真面目な顔で「ユノ様に仇なす邪悪な者に神罰を!」などと気炎を上げるので、「私が関わらないように努力したり、我慢すれば済む話だから、攻撃は止めてあげて!?」と、どうにか説得したという一幕もあった。

 面倒くさい……。



「ユノ様、ご自分が苦手なものにまで……!」


「このヨアヒム、感激!」


 そして、なぜか私の株がまた上がっていく。

 これはマッチポンプというものではないのだろうか?

 解せぬ。


◇◇◇


 そして、大所帯になると避けて通れない問題がある。


 そう、食料事情だ。



 帝国軍の用意していた物は、あっという間に底をついた。



 いつの間にか千を超える数になっていて、今も絶賛増え続けている一行の食料を現地調達するなど、まず不可能だ。


 そうすると、私がどうにかする以外にない。

 さすがに、こんなことで見殺しにはできないし。

 こんなところで、「私を食べて」などという殉教者を出すわけにはいかないのだ。



 しかし、いかにそれが私が創ったものではなく、湯の川から出来立ての物を直送しているといっても、食べた人たちが感動するのは止められない。


 それが、更にピクニック感を加速させる。


 その楽しそうな雰囲気に釣られて、また参加者が増える。

 そして、しりとりで打ち解けたところに、ヴィクターさんの悪口なんかで意気投合して、湯の川の料理で同志となる。

 とてもスケールの大きい桃太郎っぽい感じ。



 当然、敵対的な存在も出現するけれど、数の暴力によって蹂躙された上に、神罰まで落とされる。

 むしろ、私もいつ主神から天罰を落とされてもおかしくない――そんな状況。


 いっそのこと、そうなった方が綺麗さっぱりしていいのでは、などとすら考えしまう。


 神でも何でもいいから、助けて!


◇◇◇


 2日歩いたけれど、助けはこなかった。


 そうして、目的地に到達した頃には、総勢二千を超える混成部隊になっていた。


 やはり、神は助けてほしいときには助けてくれないものらしい。


 なお、しりとりの結末は、どこかの誰かが「ユノ様!」と答えたことを切っ掛けに、なぜか私の名を連呼するゲームに変わった。

 うっかり返事をしてしまったのがまずかったのかもしれない。


 とにかく、何が楽しいのか分からないけれど、みんなとても楽しそうにしていたので止められなかった。


 私の名前を連呼しながら、楽しそうに行進している集団は、傍目にはすごくヤバいものだったと思う。



 さて、一向に帰る気配のない神々だけれど、主神が三行半(みくだりはん)を突き付けられたのは「ざまあみろ」と思わないでもなかったものの、そのポジションに私が据えられたのでは堪らない。


 そして、神がそう言うのならと、他の人たちがまねをするのは当然の流れといえる。

 困る。


 何をどうするにしても、崇められている状態はよくない。


 特に、依存だけは許容できない。

 それと、殉教も。


 湯の川では、シャロンたちが上手くコントロールしてくれていたのだろう。

 改めて彼女たちの有り難さが身に染みた。


 しかし、ここには頼れる人が誰もいない。

 シャロンも、アイリスも、アルも。


 つまり、私がやるしかないのだ。

 私にできることを、私なりに。


 私がいつも言っていることが、私自身に返ってきただけ。

 やって見せ、言って聞かせて――というやつだ。


 言って聞かせて――は苦手なので、他のところでカバーしなければならないのだけれど、とにかく精一杯やってみよう。

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