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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第七章 邪神さん、デビューする
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20 犬人騎士

 件のエフェクトは、朔はパッシブと言っていたけれど、念じれば自分でも出せることが判明した。

 風とか光とか花とかが。

 だからどうなるということもないのだけれど。


 ある種の魔法だと考えれば喜ぶべきなのだろうか?

 でも、魔法というより手品っぽい。

 宴会芸には使えるかな?



 なお、風については、普通の人が魔法を使う際に発生する「魔法風」なるものを再現する目的で開発していたものの副産物らしい。

 光も、魔法陣や《極光》の再現を目的として開発していたところからの副産物だとか。


 もう少し開発が進めば、風と光の系統の魔法が使えるようになる可能性があるそうで、そこには期待をしたい。

 何ができるかは分からないけれど。



 朔としては、それらのエフェクトをオートメーション化するためにパッシブとやらにしたことは、流れとしては当然のことなのだとか。

 横文字が多くて意味が分からなかったけれど、朔が言うならそうなのだろう。



 とにかく、風と光については理解した。

 いや、できていないけれど、そこはまだいい。


 でも、なぜに花?

 何のためにそんなものを開発したの?


 いや、花は好きだし、花自体に罪はない。


 ただ、能力で花を出すことにどんな意味が?


 領域を花の形にしたり、世界樹を出す私が言っても説得力が無いかもしれないけれど、世界樹はまだ役に立つし?



 少し念じれば、空中にポンポンと花が出現して、その場でくるくる回りながら花弁を撒き散らせる。


 綺麗だけれど、いくら考えても分からない。


 そんなことを考えながら、出てきた花をレオに挿していると、いつの間にかレオがポン〇ライオンのようになっていた。




 思わずクスリとしてしまったのが切っ掛けになったか、レオが「はふぅ……」と気色の悪い声を洩らしながら再起動を果たした。


 レオは、かなりのへっぴり腰で、生まれたばかりの小鹿のように震えながらも立ち上がると、ゆっくりと近づいてきて――また地面に膝を突いた。

 応援してあげたい光景なのだけれど、私の顔で足にきているのかと思うと、そっちが気になってそんな気持ちもどこかに行ってしまう。



 それでも、レオは地面に膝を突いたままではあるけれど、どうにか顔を上げると、私を睨みつける。

 不屈の男だねえ。

 ……いや、顔を見ただけでダメージを受けることがおかしいのか。


 もう、何が何やら。


「お、ユ、お、俺様と、け、結婚を前提とした、その、お付き合いを――」


 脳までやられていた。


「嫌です」


 こうなってしまうと、迂遠(うえん)な断り文句では通じないだろう。


「だ、だったらせめてどつき合いを……」


「何を言っているの……?」


 駄洒落?

 少しだけ面白かったのが少し悔しい。



「「「ちょっと待ったあ!」」」


 壊れたレオ――略して壊レオに業でも煮やしたのか、遠間からレオの配下の人たちが飛びだしてきた。

 お願いだから、迷走を始めた壊レ王を止めてほしい。



「わ、私と結婚してください!」


「いや、俺と――」


「お前らは黙ってろ! そんなことより、幸せにします。絶対に!」


 なぜか、彼らは壊レ王をガン無視して、私に求婚してきた。

 こっちも壊れていたらしい。

 それとも、獣人特有の風習か何かだろうか?



「おい、お前ら!? 俺を応援するって言ってたじゃねえか!?」


「次から応援します」


「さすがにこの人は駄目っすよ。童貞にゃ荷が重い」


「ボスは女には興味無いんじゃなかったか?」


「くそっ、お前ら――お前らのこと、信じてたのに!」


 獣人たちの間で喧嘩が始まった。


 配下の人が死んでいないことを思うと、じゃれ合いのようなものだろう。

 ここは、「私のために争わないで」とでも言った方がいいのだろうか?


◇◇◇


 彼らにとってのじゃれ合いは、人間たちにとっては怪獣大戦争レベルだったのだろう。


 何かがあっても別動隊のみんなの所に余波が届かないように、小さいものとはいえ丘もひとつ挟んでいる。


 それでも、勘の鋭い人は異変に気づいたらしく、みんなを起こして回ったり装備を整えたりし始めている。

 ここにやってくるのも時間の問題かもしれない。


 ひとまず、面倒が増える前にバケツを被り直す。



「「「ああっ!?」」」


 私がバケツを被るとほぼ同時に、喧嘩をしていた四人の悲鳴に近い声が上がった。


「なっ何で被るんだよ!? あんまりじゃねえか!?」


「延長! 延長でお願いします!」


「もうちょっとだけ! 先っちょだけでもいいっすから! おなしゃっす!」


「バケツが憎いっ……! こんなにもバケツが憎いのは初めてだっ!」


 被っても面倒が起きた。


 切羽詰まった、腫れまくった顔で詰め寄らないでほしい。


 気持ち悪いので、とりあえずモザイクでもかけておくか。

 この魔法は便利だね。

 自動化してくれると、もっと有り難いのだけれど。



「くそがっ! お前らのせいで!」


「レオナルド様が童貞なのがまずいんでしょう!」


「あっ、お前そんなこと言うの? 言っちゃうんだ!?」


「ってかボス、アンタちょっとイカくせえんっすけど!?」


「パンツ洗って出直した方がいいぜ! とんだとばっちりだぜ!」


「お、お前らあ!」


 仲良いね?

 喧嘩というかじゃれ合いが、第二ラウンドに突入した。



「こっこれは一体!?」


「じゅ、獣人!? いや、この異様なプレッシャーは一体!?」


「み、見ろ! ユノ様が、ユノ様が巻き込まれてる!」


「た、助けるか? 助けられるのか!? ――いや、やるしかねえ!」


 そうこうしているうちに、別動隊の人たちも来てしまった。


「ああん!? 毛無しのサルどもは引っ込んでろ!」


 レオたちの喧嘩は激しくなるし、せっかく寝かしつけた人族の人たちは起きてまうし、その上首を突っ込もうとするし、本当にもうどうすればいいのやら。




 しかし、闖入者は人族の人たちだけではなかった。


 それまでずっと感じていた嫌な感じがひと際大きくなった。



「あいや、待たれい!」


 時代がかった言い回しと共に、混沌と化した現場に飛び込んできたそれは、顔はイヌ、手足もイヌ、ご機嫌に揺れる尻尾は紛うことなきイヌ。

 ただし、注連(しめ)飾りのようなものが付いた立派な着物を着て、二足で直立している。

 その非常識さも合わせて、どう見ても大きなぬいぐるみである。



「何だてめえは!?」


 逸早くレオが誰何(すいか)する――というより、レオ以外はそのイヌが放つプレッシャーで動けない。


「我が名は【シヴァ】。しがない土地神である」


 嫌な感じの正体はこれか?


 神域を纏った犬。

 その余波だけで人族は動くこともできず、レオ以外の獣人たちも、彼を警戒して動くことができないようだ。

 喧嘩は収まったものの、更なる問題の予感がする。


 おのれ、神め。

 またも気紛れで世界を掻き乱すか。

 神でなければモフり倒してやったものを。


 それと、見た目はゴールデンレトリバーなのに名前が柴とか、ふざけるのも大概にしてほしい。



「その神が何の用だ? その覇気、神かどうかは知らねえが、タダモンじゃねえことは分かるぞ。だが、事と次第によっちゃタダじゃ帰さねえぜ」


「魔王ごときが吠えよる。――だが、貴様には用はない。私はユノ様を捜しておったのだ」


 イヌに「吠えよる」とか言われちゃう百獣の王。

 コントかな?


 とはいえ、神域を持つ神に対抗できるのは、同じ神か竜くらいか。


 レオもそれは理解しているのか、挑発されても舌打ちするに留まっている。


 といっても、怯えているとか尻込みしているという感じではなく、考えなしに突っ込める相手ではないと悟って様子を窺っている感じである。

 感情に任せて無節操に暴れないのは、なかなかお利口な百獣の王である。

 よくできましたと褒めてあげるべきだろうか。



「私に何の用?」


 私に対しては千切れんばかりに尻尾を振っているイヌに、敵意は無いように見える。

 まあ、敵意や悪意もなく攻撃してくる神もいたけれど。


 それはともかく、直立してドヤ顔の犬というのはちょっと可愛い。


 率直に言ってモフりたい。

 神でさえなければだけれど……。


 次に神を名乗る者が現れたら、問答無用で殴ってやろうかと思っていたけれど、今回ばかりはできそうにない。



「助けていただいたお礼と、貴女様に忠誠を誓いに参りました」


 は?

 何だって?

 何を言っているの、このイヌは?


 私は難聴ではないので言葉は聞こえているけれど、内容が理解できない。

 神だと名乗った後でそんなことを言われると、相手がどれくらい困るかとか考えないのか?

 人の心とかないのか?


 いや、そもそも、ストーカー――いや、押しかけペットだったか。

 まともな感性を期待しても無駄だろう。


 どう考えても人違いだと思うのだけれど、何かいろいろと重い。



「貴方を助けた覚えなんてないのだけれど、人違いじゃない?」


「貴女様で間違いありません! でなければ、私が貴女様の名を知っている道理がない。それに、私はこう見えて鼻が利くのですよ」


 こう見えても何も、イヌだしなあ。

 ここにいるほとんどの人がそう思っただろう。


「ユノなんて名前、珍しくもないと思うけれど」


「御身以外がその名を名乗るなど、不敬極まりない! そのような不敬者には、必ずや神罰が下ることでしょう!」


 イヌ、怒る。


 今にも何かに噛みつきそうな様子で、犬歯を剥き出しにして低く唸っている。

 怒りの沸点が低すぎる。

 それと、全国のユノさんに謝れ。


 というか、せっかくの愛らしさが台無しなのだけれど――いや、神罰――神の罰――噛みの罰、なるほど?

 あまり面白くない。



「そういう傲慢なのは好きじゃない。貴方だって、名前に偽りありなんて言われて怒られたくないでしょう?」


 ゴールデンレトリバーなのにシバだし、虚偽表示も甚だしい。


「はて? 私の名前の何が偽りなのかは分かりませぬが、ユノ様がお優しいことは分かりました!」


 首を傾げる姿はなかなか愛らしいものの、理解力の方はしょせん畜生か。

 まあ、そういうところが可愛さの一因なのかもしれない。


「とにかく、私には貴方に会った記憶が無い」


「確かに、その時の私は肉体を失っておりましたので、この姿でお目にかかるのは初めてです。本日はユノ様のお力により、以前より遥かに進化したこの素晴らしい肉体のお礼と、その恩返しにと――ぬおっ!?」


 聞き捨てならない言葉が混じっていたように思ったけれど、それを聞き(ただ)せる状況ではなくなった。




「ちっ、避けられたか。穢れた身の分際で生意気な。大人しく浄化されておけばよいものを」


 またしても闖入者(ちんにゅうしゃ)が現れた。

 それどころか、挨拶もなく攻撃を仕掛けてきたのだ。

 いや、これが俗にいう挨拶代わりというものか?

 面白くない!



「くっ、貴様――!」


 遥か上空には、一体の天使――いや、神だろうか?

 神域を纏っていることから、その系譜であることは間違いない。


 背には大きな純白の翼に、頭上の輪っかは、以前私を襲ってきた天使と同じ。

 しかし、性別のなかった天使とは違って、外見は完全な男性型。

 装備も純白の鎧で――確かに、知らない人が見れば、神々しいと思うかもしれないものだ。


 それはさておき、何より、魂の形というか、完成度というか、在り方が違う――いや、以前に戦った天使の存在が歪であって、この人は不自然に整いすぎているというべきか。



 とにかく、その神は突然現れるや否や、イヌに向かって巨大な光の剣を投げつけたのだ。


 とはいえ、イヌも神を名乗るだけはあって――若しくは野生の勘なのかは分からないけれど、その不意打ちは見事に回避した。

 被害は地面に巨大なクレーターができたことと、余波で人族のみんなが吹き飛んだことくらい。


 なお、スティーヴ隊の面々は、空中で体勢を立て直して見事に着地か受け身を決めていたけれど、イアン隊には、死者こそいないものの負傷者が多数出た。

 彼らの治療は後でするとして、神同士の問題に私たちまで巻き込まないでほしいところだ。



『レオ、今日のところはお開きってことで。シヴァさんも取り込み中みたいだから、また今度ね』


「ちょっと待ってくれよ!?」


「あいや、待たれい! まだ私の用件は済んでおりません!」


 じゃあそういうことで、とばかりに手を振りながら離脱を試みたのだけれど、追い(すが)られてあっさり失敗した。



「おい、ちょっと待て」


 それどころか、騎士風の神にまで呼び止められた。

 聞こえない振りをしようか悩んだけれど、神は沸点が低い。

 そして、見境がない。

 無視するとキレるかもしれない。


 レオはともかく、すぐ近くに人族のいる状況で、絨毯爆撃されるのは避けたい。

 もちろん、その程度なら守り切る自信もあるし、そうなる前に無力化することもできると思うけれど――防戦に徹するにしても、目撃者や痕跡が残るし、殺すにしても同様だ。

 人族の前で、神を名乗った存在を殺すのは非常にまずい気がする。

 やるなら目撃者のいないところでしなければならない。



 それでも、ここは状況証拠だけでもアウトになる世界である。

 完全犯罪を成立させるためには、大規模な世界の改竄が必要になる――とはいえ、どこかしらに歪みが出るのは想像に難くない。


 つまり、あれやこれやを鑑みると、敵対した時点で負けなのだと思う。



「……何でしょうか?」


 ものすごく、ものすごーく嫌なのだけれど、呼びかけに応じた。


「貴様、ユノだな」


「貴様ごときがユノ様を『貴様』呼びするなど何様のつもりか!」


「……はい」


 白を切っても無駄なのだろうし、殺したいほど嫌なのだけれど、正直に答えた。

 直前のノイズはスルーして。


「ユノ様、こんなクズに構う必要はありません!」


「黙っていろ、駄犬が。やはり貴様から滅するか……」


「あの、用が無いなら帰りますね」


 神って面倒くさい……。

 喧嘩するなら余所でやってほしい。



「待て、【ディアナ】様がお呼びだ。そこの堕ちた神を処分した後、貴様には私についてきてもらう」


 嫌だよ。

 行ってもろくなことないだろうし。


 というか、ディアナって誰?

 そこへ連れていってどうするつもり?



「愚かな……。貴様らはまだあのような紛い物に尻尾を振っているのか。奴が私にした仕打ち、貴様とて知らぬはずがなかろう?」


「紛い物だと――!? ディアナ様のお役に立てずに捨てられた無能の分際で、言うに事欠いて紛い物だと!? 神が神を殺すことはできぬとたかをくくっているのだろうが……! その言葉、封印の中で永遠に悔いるがいい!」


 イヌの言葉に顔真っ赤な神。

 人として――両者とも神らしいけれど、それはどうなのだろう?


 とにかく、場の雰囲気は正に一触即発。


 イヌと狗の対決だ。


 さっきから全然面白くない。



「はっ! ディアナっていやあ、俺様も名前だけは知ってるぞ」


 知っているのか、レオ。

 お利口だねえ。

 それとも、自己顕示欲の強い神なのかな?


「美の女神とかほざいてる身の程知らずだったか? 手前も神だっていう割にゃ大したことねえな。本物の美の女神はここにいるんだよ!」


 参戦するのは構わないのだけれど、私を巻き込まないでほしかった。


「魔王風情が何を言うか! 畜生の身には分からぬことかもしれんが、あの御方以上に強く美しい存在などあり得ぬのだ!」


 もう天使のように問答無用で攻撃すればよさそうなものを、この神はいちいち言い負かさないと気が済まないのだろうか?

 話が通じるのかそうでないのか、微妙なところだ。



「なら、実際に見て確認すれば良いんじゃないでしょうか!」


 確かにそうなのだけれど、黙っていて、ユウジ。


「人の子らよ、比べるまでもなく決まっていることなのだ。それでも、というのであれば、お前たちを悔い改めさせねばならん」


「それはさすがに横暴では? じゃあ、せめてそのディアナ様に会わせてくださいよ!」


「お前たち人の子では、ディアナ様の《魅了》に抗うことはできない。諦めよ」


「《魅了》って言っちゃったよ!? それは本当の魅力じゃなくてスキルじゃないですか!」


「人の子には分からないか、このレベルの話は」


「それって議論から逃げてるんじゃないですか?」


「お願いします! 見てもらえれば分かりますから!」


「こっちはソースを提示してんのに、無視して持論だけ主張するってネットの荒らしみたいなもんじゃないっすか?」


「くっ、ネットやら荒らしやら何のことか分からぬが、なぜか侮辱されていると分かる……! よかろう! そうまで言うなら見てやろうではないか。だがしかし、私の言が正しかったときはどうなるか心得ているな?」


 よかろう、じゃないよ?

 なぜに本人を置いてけぼりで話が進むの?




「ほら、脱げ」


「ユノ、いっちょ景気よく脱いで一発かましてやれ!」


「ユノ様、奴らに真の美を見せつけてやるのです!」


「ユノ様! 見せちゃってください!」


「「「ユノ様!」」」


 何このセクハラ集団。

 というか、私の容姿に自分たちの命が懸かっていることを理解しているのだろうか?



 嫌な予感はやはり的中した。


 こんな展開になるのは想定外だったけれど。


 とはいえ、問答無用で戦闘にならなかっただけマシなのだろうか?

 もちろん、これからそうなる可能性も残っているけれど。


 とにかく、こうなってしまった以上はやるしかない。

 そしてやる以上は全力だ。みんなの命も懸かっているし。




 本日二度目のストリップ。 


 手甲を外して、背部にあるジッパーを摘まんで一気に下ろす。

 窮屈な鎧から翼が解放される感覚は、少し気持ちが良い。


 まあ、無理矢理詰め込んでいるので、当然といえば当然なのだろう。


 なぜこの鎧に翼が収納できているかって?

 それは女体の神秘ってやつさ!

 なんちゃって。


 やけくそ気味な冗談はさておき、上空にいる神はぽかんと口を開けて、信じられないものを見ているといった様子だ。


 続いて尻尾、上半身と出たところで、一度大きく伸びをする。


 別に凝っていたとかそういうわけではなく、気分的なもの――平静を装っているものの、やはり緊張しているのかもしれない。


 しかし、そこに何かを感じたか、神の高度は急激に下がっていて、レオは前屈みになって小刻みに震えているし、犬の尻尾は暴風を起こすレベルで振られている。

 そして、その風圧でまた何人かの人族が飛ばされていった。


 身体だけでこれでは先が思いやられるのだけれど……。



 問題は、顔の方だ。

 身体以上に好みの分かれるもので、神に効くかどうか――クライヴさんには効いたけれど、バッカスさんには効かなかったようだし、とにかく全力で頑張るしかない。


 とはいうものの、何を頑張ればいいのか分からないので、「えい!」とひとつ気合を入れてバケツを外す。

 同時に、地面や空中に花が咲き乱れて、空中に花弁がひらひらと舞う。


 こんなものが何の役に立っているのかまるで分らないけれど、朔がドヤっている雰囲気を感じるということは、手応えを感じているのだろう。



 それを証明するかのように、まだまだ上空にいたはずの神が、手が届きそうなところにまで下りてきていた。


 目が合った。

 止めとばかりに微笑みかける。


「きゅんっ」


 またも何かが壊れる音がして、言葉どおりに神が地に落ちた。

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― 新着の感想 ―
もうー面白すぎるーーー! 作者さんは人を笑わせる天才ですね!?
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