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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第七章 邪神さん、デビューする
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14 反省

――ユノ視点――

「なぜこうなった」


 声に出してみたところでどうにもならないのだけれど、それでもせずにはいられない――と、新たな温泉湧出地点で、ただひとり頭を抱える。


 温泉は良い。

 こんな所でも、心も体も洗われる。



 私としては、判断を誤ったという自覚はない。


 全て見なかったことにして、見殺しにするのもひとつの手だった。


 しかし、スティーヴさんの言葉のひとつひとつが、かなり危険なところを攻めてきていた。

 特に、命を捧げるとか、ものの例えだとか慣用句のようなものだとしても、そういうことを口に出されるのは非常にまずい。


 万一、それが前例として認知されればどうなるかは考えたくない。



 それでも、取り返せないほどの失点ではないのだけれど、そうでなくとも何かが暴走している現状を考えると、無駄な失点は避けるに越したことはない。

 というか、生かしたままポイントを重ねた方が良いに決まっている。

 あの時はそう思っていた。



 しかし、交替の時の、彼らの私を見る目――あれは、湯の川の住人が私を見る目と同じ種類のものだ。


 それに、いつの間にか、私の名に付けられている敬称が「様」になっていた。


 それも、「さん」付けで呼んでいたユウジさんたちだけでなく、「ちゃん」付けで呼んでいたスティーヴさんまでもがだ。


 ただひとり、ヒカルさんだけは思うところでもあるのか、「さん」付けに留まっている――というより、なるべく私の名前を言わないようにしているようだけれど、それでも以前のような険はない。


 私の正体がバレたとは思えない。


 この温泉だって、私がやったという証拠はない。

 あったとしても、世界を改竄(かいざん)したのだ。

 普通の人間に、世界の齟齬(そご)や違和感が認識できるはずがない。



 それとは別に――かどうかは分からないけれど、アンデッドの情報を出しすぎたのは失敗だったかもしれない。


 アイリスやソフィアといった専門家の知識。

 ミーティアやアーサーの竜からの観点。

 そして、ヴィクターさんの配下だった魔王たちからの聞き取り。

 さらに、他の人の目では見えないものが見える私の目――というか領域で観たものを照らし合わせて出した仮説なのだけれど、かなり良い線をいっているものだと思う。


 むしろ、私的には仮説ではなく、結論に近いと思うのだけれど、今のところ「私の目にしか見えないもの」というのが信憑性でもネックでもあって、他人に説明する場合は仮説としかいえないのだ。



「アンデッドってあれだね。ある意味、種子の性質をよく表しているよね」


 私が何となく発したひと言から、議論はかなり白熱した。

 あれこれ根掘り葉掘り聞かれて、研究者肌とか凝り性とか知識欲旺盛なのが集まると大変なのだと思い知らされた。



 最も誤解が多かったのは、魂に関することだ。

 というか、本当のことは誰も知らなかったというべきだろうか。


 クリスやセイラのように、扱っていながら詳しく知らないというのは予想外だったけれど、私の理解も感覚的なものなので、偉そうなことはいえない。

 むしろ、正確に認識できていないものを、破綻もさせずによく扱えていると賞賛するべきだろうか。


 しかし、朔も『よく理解できていないことを無理に言語化しようとすると、間違いなく齟齬が出るからしたくない』といって説明を拒否するし、そうなると私にどうにかできるはずがない。


 とりあえず、意志の無いアンデッドには明確な魂が存在しないことはほぼ確実なのだけれど、無いことを証明する(※悪魔の証明)など私(※邪神)には不可能だ。

 そもそも、私にだって全てを認識できていない可能性もあるし。



 それでも、私に説明できる範囲で頑張ってみた――頑張らされたともいう。


 とにかく、前提として、魔素と魂が似ていることから始めた。


 基本的に、魔素も魂も何にでも宿る。

 物質は当然として、空気だとか言葉、それこそ想いにまで宿る。


 ただ、宿っただけではあまり意味がなくて、魔素を例えにするなら、何かに宿って魔力となるように、魂にも、魂が宿って命になるようなプロセスがあるのだと思う。

 そのプロセスが何かはよく分からないけれど。


 それで、残留思念に魔素や瘴気が宿るように、人の意志や言葉にも魔素とか魂が宿るのだけれど、私が人の強い意志に惹かれるように、アンデッドも、魂や魔力だとか、魂の輝きに惹かれて人を襲っているのかもしれない。


 なぜ襲うのかまでは分からない。


 それと、説明が下手とか、言葉の選択が悪いことまではどうにもならない。


 仮説とはいえそれなりに合っていると思うのだけれど、私と種子は同じような存在ではあるけれど、同じではない。

 相違点を考えると、間違っていることも多いのではないかと思う。



 特に瘴気関連。


 私の出す魔素は濃密というか純度が高いというか、瘴気を発生させることが極めて難しい。

 少なくとも、湯の川で瘴気が発生したという報告は受けていないのだけれど、湯の川の魔素は大体が私の眷属――特に世界樹が出したもので、私とはほぼ関係無い。

 つまり、世界樹を創った私の魔素を汚染するのは、もっと難しいと思う。


 もっとも、湯の川は狂信者だらけでみんなハッピーなので、瘴気が発生しにくい環境なのだけれど。



 とにかく、そんな経緯で作り上げた仮説だったのだけれど、その一部を彼らに教えてあげると、尊敬の眼差しを向けられたのだ。


 今にして思えば調子に乗りすぎた。


 だって、知識をひけらかすのが――みんなの反応がとても楽しかったのだ。

 これが教え魔というものの感覚なのだろうか。


 確かに、ミーティアたちが知識をひけらかそうとするのも理解できる。

 あの崇められるのとはまた違う、尊敬されるというのはとても気分が良いものだ。



『快楽に負けたね。理解させたつもりが、理解させられちゃったわけだ』


 口惜しいけれど、言い返せない。

 最近薄々感じ始めたことだけれど、実は私はチョロいのだろうか?


 もちろん、私的にはそんなつもりは全く無い。


 それどころか、私は他人には厳しい方だと思うのだけれど、後から考えると、首を傾げるようなことも多い。



 もっとも、それは今考えるべきことではない。


 考えなければいけないのは、ここから何をどう修正していくかだ。

 判断のひとつひとつは間違っていなかった――不適切なものも多少はあったのかもしれないけれど、どれも些細なことだと思う。

 しかし、どうにも結果が芳しくない。



 現状、私を異常なほど信頼するようになった彼らを、よほどの失態を犯さない限り見捨てることはできない。

 湯の川の住人たちと似たような感じだけれど、彼らは私が見捨てたとしても、自分たちの責任だと思うだろう。

 少なくとも、シャロンはそんな感じのことを言っていた。


 信じた者は救われるべきなのか、信じた者しか救わないのか、そもそも救いとは何なのか、誰か教えてほしい。


 それでも、ただひとつ分かっているのは、生贄のようなまねを救済として認識させてはいけないことだ。



 彼らと湯の川の住人たちとの違いは、私が邪神だと知っているかどうかだ。


 だったら、正体をバラしてしまうのもひとつの案だろうか?


 しかし、彼らからの協力は得やすくなるかもしれないけれど、いつどんな状況でカミングアウトすればいいのか――突然「私、本当は邪神なの」などと言った日には、さすがに頭のおかしい人と思われるだけだろう。


 タイミングが重要だ――というか、そんなタイミングが来るのだろうか?



 それとも、彼らのことは諦めて、事態の収拾に当たるか。


 アナスタシアさんの依頼を片付ければ、いろいろと教えてもらえそうな感じだし――とはいえ、依頼の達成がいつになるのか、私の望んでいる情報があるかどうかの保証がない。


 せめて、もう少し情報が欲しいところだけれど、アナスタシアさんは「ある程度の成果を出してからね」と応じてくれない。


 ヒントから独自に答えに辿り着く可能性を考えれば、その言い分ももっともである。

 そうでなくても、一度引き受けた仕事を投げ出すようなことはしないけれど、その信用が無い。

 もう少し信用してほしいところだ。



 とにかく、今の段階では何の担保もないし、それ以前に、まだ処分を考えるほどの段階でもない。

 ということで、この案の優先度は低い。



 やはり、ここは困ったときの先延ば――様子を見るしかない。


 幸い、今のところ――といっても始まったばかりだけれど、他の部隊の成果も上々らしく、今すぐに決断する必要も無いのだ。

 どちらかといえば、即断即決が好みなのだけれど、「同じことをやって違う結果を求めるのは狂気である」とかなんとか、どこかで聞いた記憶がある。


 他人の考えや言葉が私に当て嵌まるかは疑問だけれど、これだけ予想外のことばかりが起きていれば、(わら)にでも縋りたい気分にもなる。




 振り返ってみれば、初日は何事もなく過ぎていった――いや、何事もなくというのは語弊(ごへい)があるだろうか。


 どの部隊も、当初の想定より大きな戦果を挙げている。


 特に、私たちの第一別動隊の戦果が素晴らしい。


 最悪は初日から撤退戦を想定していたけれど、戦線を維持しているのだ。


 もちろん、相手が軍ではなく統制の取れていないアンデッドの群れでしかないところが大きいのだけれど、それを差し引いても、過去に例を見ない撃破数を記録しているのだ。


 定時連絡でその数を聞いた本隊の兵士さんが、あまりに予想外の数に聴き間違いかと耳を疑ったとかなんとか。


 そして、今日は昨日よりも多くの撃破を報告することになるだろう。

 ドラゴンゾンビのような大物はもういないし、みんな昨日よりレベルが上がっているし、なぜか霊体まで掘れるようになっているし。


 何だよ、聖なる(ホーリー)スコップとか光の(ピッカピカ)ピッケルとか。

 駄洒落かよ。

 というか、そんな物を貸与した覚えはないのだけれど、なぜかよく分からない輝きを放っていた。

 この世界には理解不能なことがいっぱいだ。



 とにかく、2日目にして廃教会周辺のアンデッドを一掃して、廃教会内部のアンデッドの攻略も開始してしまった。


 廃教会の中には、【レイス】とかいう幽霊っぽいのや、グールという熟成されたゾンビなど、若干の知性があったり能力の高い上位種的なものもいたものの、アンデッド慣れした彼らの敵ではなかった。


 彼らが新たに手にした武器である聖水――温泉水によって、アンデッドが弱体化、若しくは消滅してしまうのだ。


 恐らく、私が干渉したせいで、私の成分的なものが混じってしまっているのが原因だろう。

 しかし、私にとって誤差以下の物にそんな効果があったとは、予想外としか言いようがない。



 また、それを利用するという発想に至ったということは、もしかすると、昨日湧いた時に何かがあったのかもしれない。


 あの時はスティーヴさんを死なせないことしか考えていなかったので、注意が散漫になっていたのだけれど、そうだとすればかなり手痛い失態だ。


「神より恩寵(おんちょう)を与えられた我らに、アンデッドなど恐れるに足らず! 皆、我に続け! これは聖戦である!」


 そのスティーヴさんは、何だか性格が変わっていた。

 そして、どんどんヤバいところを責めてくる。


 それに違和感を抱いた様子もなく従っている日本人の子たちもおかしいけれど、とにかく一時的な混乱か病気だと思いたい。


 ……定時連絡の時もそんな様子だったので、ある意味ではもう手遅れかもしれない。



 そして、もう一方の別動隊も、2日目終了時点で沼地のアンデッドをほぼ駆逐していた。


 ただ、あちらは私たちの戦果に対抗心を燃やした隊長さんの命令で、かなり無理をさせられたらしい。

 結果、死者こそ出さなかったものの、負傷者は多数に及んでいる。


 しかも、更なる戦果を求めてか、予定にはない最短ルートで、私たちとの、そして本隊への合流を目指して行動を開始したらしい。


 あちらの隊長さんは、部下を奴隷か道具だとでも思っているのだろうか。

 随分と酷い話だ。



 私たちの隊長は、スティーヴさんのようなまともな軍人でよかった。


「我らの女神に、勝利を捧げるのだ!」


 ……よかったのか?



 どうしよう?

 そんな想いばかりが募る中、2度目となる交替の時間が訪れて、なぜか全員に敬礼で見送られた。


 本当にどうすればいいのだろう?

 頭の中はそのことでいっぱいだ。


 これはまずい。

 別動隊や本隊と合流するまでにどうにかしなくてはいけない。


 口封じ――いや、もう正体をバラして、黙っているようにお願いするか?

 今がそのときなのではないか?


 いや、その前にアイリスたちの方も今は一段落しているし、みんなに相談してみるべきか?

 しかし、こうなった経緯をどう説明する?

 また怒られ――いやいや、余計なことでみんなを煩わせる必要は無い。



 そんなことを考えていると、本隊から緊急連絡が入ったようだ。


 その内容は、「勇者が負傷して、後送された」というもの。


 作戦の要が作戦の途中で離脱した。


 本当にどうするのこれ?

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