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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第七章 邪神さん、デビューする
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05 ヘルプミー

 なぜこんなことになっているのだろう?


 あの後、ユウジさんたちが連れてきた、【ヒカル】という名の少女と話をしていた。

 といっても、話せることなど、ギルドに報告した以上のことは何もないのだけれど。


 もちろん、初めから私に敵意のようなものを抱いていたヒカルさんは、私の話で納得することはなく、「不誠実」だとか「卑怯者」などなど、言いたい放題だった。

 もっとも、大半は華麗に聞き流しているので、「不誠実」というのは当たっているかもしれない。


 それでも、大筋では八つ当たりでしかないのだけれど、彼女が区切りをつけるために必要なら、受けることも致し方ないかと、そう思っていた。



 しかし、今、私と対峙しているのはヒカルさんではなく、帝国の勇者さんとその従者さんだ。


 解せぬ。


 いや、戦争が近いのだから、戦意高揚のための有名人や、作戦の要である勇者が前線に来ていてもおかしくはないのだけれど。

 それでも、なぜこうなるのかが分からない。


◇◇◇


 ヒカルさんが私を訪ねてきたのは、恋人の死の真相を知りたいという名目で、実際のところは私を糾弾したい――と、予想どおりのものだった。


 しかし、何度も言うようだけれど――実際に何度も言わされたけれど、その彼の死の真相といっても、ギルドに報告している以上のことは何もない。



 それに、その恋人が死んだのは、本当に罠――というか、騙し討ちによるものだ。

 いや、あえて言うなら、彼自身の倫理観や正義感といった、日本人的な価値観にだろうか。



 具体的には、彼らに主導権を預けていた探索中に、盗賊のアジトを発見したのが事の発端だった。


 私は、「ギルドか軍に報告して、後は任せておけばいい」と進言をしたのだけれど、彼らはそれを無視して突入して――それはそれは苦労しつつも制圧はした。

 まともに閉所戦闘もできない子たちのフォローを閉所でするとか、私じゃなければそこで詰んでいたと思う。


 その後、なぜか無力化した盗賊さんたちの身の上話を聞かされて――私の時のように無視すればいいのに律義に聞いて、挙句に嘘くさい女の涙に絆されて、仏心か下心からか、油断を見せたら刺されたという間抜け振りを曝したのだ。


 さらに、他のパーティーメンバーは、刺された彼の手当てと、彼を刺して逃げた女盗賊さんに報復しようと後を追うグループに分かれる始末。

 その隙に、投降していたものの無力化はしていなかった盗賊には逃げられるし、増援は呼ばれるしで大混乱。


 最終的に、私を残して各個撃破されるという救えなさである。



 もちろん、救おうと思えば救えた。


 しかし、彼らと同等の能力を見込まれて雇われている立場の私に、そこまでする義理はない。

 というか、一応仇は討ってあげたのだから、それで充分ではないだろうか。


 そもそも、最低限の助言はしていたし、装備やお金が欲しかったのであれば、最初からそれを報酬にすることもできたのだ。

 その方が私にとって都合が良いし。

 それに、一度痛い目を見た方が、彼らにとってもいい薬になるだろうという理由もあった。



 とにかく、全ては彼らの選択と行動の結果であって、私が責められるいわれなど全くない。

 それに、生き返らせた彼らも、不満はいいつつも反省はしていたし、最終的に感謝もされた。


 といっても、そこまでは説明できないし、感情的になっている彼女には、どんな理屈も通用しない。




 彼に限ってそんな油断をするはずがない! と、根拠のない信頼感を盾にして詰め寄られても、事実は先に述べたとおりで、話は平行線を辿るばかり。


 それに付き合っているのは酔狂などではなく、彼女に心の区切りを付けさせることが目的だからである。

 しかし、決して非を認めたり謝罪してはいけないのだ。

 それでは彼女の鬱憤は晴らされないどころか、やり場がなくなった感情がどこでどう爆発するかが分からなくなるから。


 なお、ただ謝罪してくれればそれでよかった――などと口にする人もいるけれど、大抵は嘘だと思う。若しくは「謝罪」の定義が違うか。


 今回のケースでいえば、「私に助ける力があったのに、助けなかったから私が悪い」という無茶な論法で責められているのだけれど、「助けなかった」という結果だけを見れば、彼女も同罪である。

 その場にいなかったとか、力がないとかは関係無い。


 それに、彼は一度は死んだのは事実だけれど、ロスタイム中に蘇生して匿っている。

 いつかそれを彼女が知ることになった時、ここでの出来事の全てが彼女に降りかかるのだ。


 とにかく、どんな形でもいいので、溜まっているものを何かにぶつけさせて――それで収まればいいな、というのが妹たちとの生活で学んだことだ。

 その程度なら、自分に返ってきたときも、ばつが悪い程度で済む。


 これに道理や理屈は役に立たない。

 とにかく、発散させた気にさせることが重要なのだ。

 これもその場限りのことで、後で蒸し返されることも多いけれど、完全に沈黙させようとするなら息の根を止めるしかないし、そこまでの案件でもない。

 それに、怒りを持続するにもエネルギーが要るのだし、他人を憎み続けるのも結構つらいと思う。

 聞いている振りをしていれば、そのうち終わるはずだ。



 そんな感じで、彼女が順調にヒートアップしていたところに、その騒ぎに惹かれて招かれざる客がやってきた。


 ひとりの少年と、その後に続く5人の若い女性。


 少年の背丈は低め――私と同じか、少し高いくらいで、かなりの細身。

 目つきと姿勢が悪いせいか、自信なさげとか地味とか不健康そうという、本人が聞けば「大きなお世話」だと思うような印象を受ける。


 そんな少年に続くのは、少年とは不釣り合い――容姿がではなく――いや、容姿もだけれど、自信に満ち溢れた女性たちだ。



「横からごめん。話は聞かせてもらった。僕が思うに、君が悪いんじゃないかな?」


 その彼に、なぜか突然断罪された。

 彼の容姿からは、こんな揉め事にわざわざ首を突っ込むようなタイプには見えなかったので、少し意外に思った。

 もちろん、人を容姿で判断してはいけないのだけれど、イメージと行動がかけ離れすぎている。


「おっと、ごめん。名乗ってなかったね。僕は帝国の勇者、シロウ」


 容姿など関係無く、最悪だった。


「勇者様!? こんな所で名乗られては騒ぎになります! 何のために別に宿を取ったと思っているんですか!?」


「あはは、ごめんごめん。でも、どこの誰とも分からない人の話なんて聴いてもらえないよね?」


 この勇者さん、従者らしき人に注意されても全く反省していない。

 人の忠告は素直に聞いた方がいいと思うけれど。


 というか、私も勇者と分かった時点で、話を聞きたくない。


 彼はなぜわざわざ揉め事に首を突っ込んでくるのか。

 勇者という肩書に他人を変える力でもあると思ったのか?

 いや、忖度してくれる人もいるのかもしれないし、それを勘違いしているのかもしれない。


 それか、魔王だけかと思ったけれど、勇者も空気が読めないのかもしれない。



「お言葉ですが、勇者様。こちらの方が言っていることにも一理あります。自分を最後に守るのは、自分自身なのです」


 また別の従者さんが、勇者さんを諫める。


「そうですよ。誰もが勇者様のように強くて優しいわけではないんです。この人しょせんBランクみたいですし、無茶言っちゃいけませんよ」


 優しい……?

 甘っちょろいようには見えるけれど、何の冗談だ?


「ここでこうしているということは、ギルドもお咎めなしと判断しているようですし、遺品も持ち帰ってくれているようですし、親切な方だと思いますよ?」


 いいぞ、もっと言ってやれ!

 この甘々勇者さんが、何にでも首を突っ込まないようにするのが貴女たちの役目だ。



「それでも、助けられるのに助けないっていうのは好きじゃないな」


 そんなことを、当事者でもない人に言われてどうしろというのか。


『助ける力があることと、助ける義務があることは繋がらない。助けたいなら、力のあるなしじゃなく、その意思がある人が助ければいいだけ。ただの雇われの身で、彼らの命と釣り合うだけの対価も貰っていない私に、そこまでする義理はないでしょう? そもそも、自分の大事なものは自分で守るべきだし、君の論法に合わせれば、助ける力があるらしい君が助ければよかっただけだ。そこにいなかったという言い訳は見苦しいだけだよ。少なくとも、関係の無い外野が妙な正義感を振りかざすことじゃない』


 朔の言葉は正論だと思うけれど、わざわざ口を出さなくても、従者の方々に任せておけばよかったのに……。



「貴様、勇者様に対して無礼だぞ!」


「それに貴様、勇者様が名乗っておられるのに、名乗り返していないだろう!」


「というか、人と話しているのに、バケツを被っているなどどういう了見だ!? ふざけているのか!」


 ほら、風向きが変わってしまった。

 無礼と言われても、私が言ったわけでは――と、釈明しても納得してくれないだろう。

 むしろ、火に油を注ぐだけのような気がする。


 それ以上に、バケツにツッコミが入ったことに、この世界にもまともな感性をしている人がいるのだと、ホッとした私がいる。



「妙な正義感? 貴女には、助けを求めている人の気持ちが分からないんですね……!」


 そして、勇者さんの表情――というか、雰囲気も変わった。

 それに、何だか話が飛躍したような?


 もちろん、私にだって助けてほしいと思うことは多々あるし、実際に助けられてもいるので、人助けを否定しているわけではない。


 ただ、本当に助けるとはどういうことを指すのかを考えると、安易な救済は逆効果に感じてしまうだけだ。

 助けるのが駄目だと言っているわけではない。


 むしろ、助ける側は自分の能力と意志で事を成そうとしているのだから、結果のいかんにかかわらず、好きにすればいいと思う。


 しかし、助けられる側がどれだけ自助努力をしているのか、助けたことで彼らの成長に繋がるのか、いろいろと考えてしまうわけだ。


 もちろん、「死んでしまえば終わりではないか」と言って、これを否定する人もいるけれど、私としては、「死ねば終わり」などというのは、視野が狭いというほかない。

 その人たちが死んだとしても、その人たちのことを教訓として、他の多くの人たちに自助努力が根付くなら、それはそれでいいのではないかと思う。



『ただ目の前で起きている問題を、肩代わりして片付けることが助けることなのかな? それでは助けられた人の成長は望めない。子供が転んだ時に、親はそれをただ助け起こすんじゃなくて、励ますとか、自分で起き上がらせようとするでしょ? 上手な転び方とか、自分で立ち上がる力を身に付けさせるのが、その人のためになるんじゃないかな。いつまでも親が助けてくれるわけじゃないんだし。それとも、もしかして、勇者様は、勇者様が助けてきた人たちのその後のことにまで責任を持っているのかな?』


 朔は私の考え方をよく理解しているようで、していないのかもしれない。

 感情的になっている相手には、どんな言葉も届かないものだ。


 というか、私とヒカルという少女との間の話だったのに、なぜか朔と帝国の勇者との口論みたいになっている。

 面倒なことになりそうな予感しかしない。


「それは……。だからって立ち上がれなかったら、死んじゃったら意味が無いでしょう!」


『そうならないように忠告はした。それ以外にも回避するポイントはいくつもあったし、それら全てを台無しにするようじゃ、遅かれ早かれそうなった。それどころか、そこにいたのが私じゃなかったり、私と別れた後に同じことを繰り返したら、犠牲者が増えたかもしれない』


 朔もまだまだ甘い。

 私の物分かりが良いせいで勘違いしているのかもしれないけれど、言葉で他人を変えるのは難しい。

 というか、世の中には、自分の持つ価値観以外を認められない人だっているのだ。


 朔も、決して正しいとか間違っているという話をしているわけではなく、ただ私の主張を代弁しているだけのつもりなのだろう。


 しかし、なぜかその手の人には、勝った負けたの話に摩り替わる。

 彼はきっとそんなタイプだ。



「目の前で困っている人を助ける、それのどこがいけない!」


 駄目なんてひと言も言っていないと思うのだけれど、もう何を言っても無駄だろう。


『勇者様は、勇者様の好きにすればいい』


「だったら、僕はお前を認めない! ――立て。勝負だ。お前を叩きのめして、そのふざけたバケツを外して、彼女に土下座させてやる!」


 何がどう「だったら」なのかは分からないけれど、まさか、ホテル内で剣を抜くとは。

 何事も理屈どおりには進まないものだ。


 というか、勇者さんは、暴力で意見を押し通そうとする自身の姿に思うところはないのだろうか?


 負けることなんて考えていないのだろう。

 でも、最初から勝負がついているなら、それは虐めか茶番だよ。

 負けたら喜劇だけれど。


 それと、朔にも良い勉強になっただろう――と、悠長に考えている場合ではないな。


 煽ったのが朔だったとしても、喧嘩を売られているのは私なのだ。

 というか、この状況からどうすればいいのだろう?


 誰か助けて!

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