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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第七章 邪神さん、デビューする
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04 再会

 私たちの予想に反して、真っ先に状況が動いたのは、帝国軍の魔王領への侵攻だった。

 ノワールたちゴニンジャーを引き揚げていた間に、急展開する何かがあったようだ。


 これは、アナスタシアさんからの情報提供で判明した。

 彼女も、当然のように各地に配下を送り込むなどして情報収集をしているようだけれど、それを基に行動を起こすようなことは滅多にないらしい。

 立場があるのも分かるけれど、対処も自分でやってほしいものである。


 とはいえ、日本人の保護は私の都合だし、あの人に文句を言っても意味が無い。


 それと、もう少し詳細な情報がほしかったところだけれど、侵攻が決定してしまった以上、その原因や背景を探るよりも、対策が必要である。

 現状は、まだ部隊の編成段階で、実際に侵攻が開始されるのはもう少し先になるはずだけれど、何だか急いでいる雰囲気があるので、こちらもいろいろと準備していかなければいけないだろう。



 結局、回収した日本人や亜人さんを匿っている村の撤収も進んでいないし。


 湯の川への受け入れ準備はできているものの、特に日本人で進路というか希望が定まっていない人が多くて、延期せざるを得なかったのだ。

 宗教には寛容かと思えばアレルギーもある日本人を、同意も無しに湯の川に連れていくのはいろいろと問題ありそうだし。


 ということで、彼らの処遇についてはもうしばらく保留。

 申し訳ないけれど、彼らの面倒をみるための亜人さんにも、残ってもらう。

 一応、緊急避難の準備だとかはしておこう。



 一方、それ対する魔王軍に動きはない。

 何かしらの思惑があるのか、辺境のことなど気にしていないのかの判断はできない。


 地政学的な知見では、帝国がその町を奪還することには、一定の意義はあると思う。

 魔王と衝突してまでとなると、費用対効果は微妙だけれど。

 まあ、私たちは帝国の内情なんて分からないので、他にそうするだけの理由があるのかもしれない。


 逆に、ヴィクターさんの側から見ると、飛び地の感があるそこに固執する意味はあまりない。

 配下のアンデッドを駐留させているようだけれど、後は放置しているようだし。

 空いたので占拠してみたものの、持て余しているとかだろうか?


 しかし、奪還されるとなると、「魔王のプライド」とか、わけの分からないことを言い出す可能性はゼロではない。

 魔王ってちょっとあれな人が多いしね。




 とにかく、戦争に加担する気はないけれど、現地の異世界人を浪費されるのを指を咥えて見ているわけにはいかない。


 もちろん、同情だとか仲間意識などではなく、純粋に私の利益のためである。


 とりあえずは、同行して勧誘するなり回収するなりのチャンスを窺う予定だ。



 なお、今回の帝国領での活動はみんなに話してあるし、許可も得ている。

 ヤマトにも魔界にも魔族領にも行く予定のないリリーがついてきたがったものの、直接参加しないにしても、戦争など体験させたくない。

 むしろ、せっかく造ったのだから、学園で勉強してほしい。




 湯の川の町では、学園や孤児院、病院なども予定どおり始動している。


 学園では、初日にアルの息子がリリーに突っ掛かるといったトラブルもあったものの、アルに言わせれば「お約束」であるらしく、むしろ、井の中の蛙が大海を知ったと有り難がっていた。


 理解に苦しむところではあるけれど、実際にその後の関係は悪くない。


 それに、思い返せば、私とミーティアやアルも似たようなものだったのかもしれない。

 対話とは、言葉じゃなくても、肉体言語でもオーケーなのだろうか?


 とにかく、授業自体はまだ手探りの段階だけれど、同年代の友人を作って、共に切磋琢磨してほしいと思う。


 ただ――

「友達ってどうやってなればいいんですか?」

 と訊かれても、学生時代に特に親しい友人などいなかった――むしろ、適切な距離を置くように心がけていた私には答えづらい。


「ユノとの関係を誇示せず、普段どおりにしていればきっとできますよ」


 などと、私の代わりにアイリスが答えてくれたので、大丈夫だとは思うけれど。

 さすがはアイリスだ。


 何となく含みがあったように感じるのは、私の気のせいなのだと思う。


◇◇◇


 そんな感じで、帝国領での活動を再開したのだけれど、そのタイミングを狙っていたかのようにユウジさんたちが押しかけてきた。


 もちろん、用件は、帝国軍の魔王領への侵攻に関すること。



 実は、彼らも魔王領への侵攻の話を聞かされたのは、ごく最近のことだそうだ。


 そして、参加しろとの命令は受けたものの、役割はパーティー単位の遊撃任務――といえば聞こえは良いものの、都合の良い弾除けとか囮とか、その程度の扱いをされるらしい。


 てっきり後方支援に回されるかと思っていたのだけれど、そのポジションは貴族の子弟が箔付けするための指定席だそうだ。「してい」だけに!


 ……とにかく、飽くまで帝国軍の本命は、正規の精鋭部隊と勇者なのだ。



「それで、何が問題かというとですね、ユノさんと別れた後、新しいメンバーを探してたんですけど」


「私たちがゴブリンロードを倒したこともあって、何人かの応募があったんです」


「でも、試しに組んでみても、みんな一日で辞めちゃうんですよ」


「今では『あいつらは頭がおかしい。あいつらの力はすごいけど、それは人間として大事なものを捨てて得たものだ』って噂が広まっちゃって……」


 今回も食事をしながら話を聞いているのだけれど、用件を話すことと食べることを両立させるためか、彼らはリレーのようにみんなで順番に話して、自分が話す番ではない時に食べるというコンビネーションを披露してくれている。

 どこでチームワークを発揮しているのやら。



「それでまた私を誘いに来たの? 悪いけれれど――」


 要は欠員を補充できずに私を頼ってきたというところなのだろう。

 彼らの考えくらいお見通しである。


「いえ、それは考えていません。僕たちでは本気のユノさんにはついていけませんし、足を引っ張るだけなので」


 何……だと……?


「いくら私たちでもそんな恥知らずなお願いはできませんよ」


「っていうか、ユノさんも戦争に参加するんですか? 冒険者にも、依頼って形で募集は出てますけど――って、もちろん極秘らしいですけど、それでもユノさんが受けたって話は聞いてませんし」


「ユノさんって、この町では有名人ですからね。いつ受けるのかって、みんな興味津々なんですよ」


 どういう名目でついていくかを考えていた矢先のことなので、ギルドで依頼が出ていると分かったのは有り難い。


 しかし、この世界では、個人情報保護の意識やプライバシーに対する配慮もないのか?

 後で湯の川のギルドに行って訊いてみよう。



「だったら、私に何の用事なの?」


「ユノさんに会ってもらいたい人がいるんです」


『直接連れてこなかったってことは、問題がある相手なのかな?』


「やっぱり、ユノさんには分かっちゃいますよねえ……」


 うん。

 私が言ったわけではないけれど、もちろんそれくらいは分かっていた。

 本当だよ?



「実は、その子の恋人が、ユノさんと以前にパーティーを組んでたらしくて……」


「彼女、ユノさんに会わせてもらえれば、パーティーを組んでもいいって……」


 なるほど。

 回収した子――対外的には死んだことになっている子絡みとなると、どういう話になるのかも大体の想像がつく。

 死んだ時の状況を知りたいとか、若しくは私に八つ当たりをしたいとか、そのあたりだろう。



「いいよ」


「あ、あの! 私たちはユノさんが悪い人じゃないって知ってますけど――って、いいんですか?」


「もちろん、私も面倒なのは嫌なのだけれど、その子にとっては大事なことなんでしょう?」


「意外だな……。ユノさんなら甘ったれるなとか言うと思ってたのに」


 それは思っていても本人の前で言う言葉ではない。

 本音と建て前を使い分けるのが大人なのだ。



「貴方たちは腕も頭も悪かったけれど、心だけは強かった。でもね、みんながそうじゃないの。何らかの形で区切りをつけないと、前に進めない子もいるの。そんなとき、たとえ理不尽だったとしても、子供の行き場のない感情を受け止めて、道を示してあげるのも大人の役目だよ」


「ユノさんっていくつなんだろう……。って、それより本当にいいんですか?」


「いいよ。それに、貴方たちもその方がいいんでしょう? 全く、みんなに逃げられたって、一体何をやらかしたのやら……」


 本当はよくないけれど、それでも、目に見えないところで溜め込まれた方が面倒だ。


 それに、その矛先が私に向くならともかく、ユウジさんたちや関係ない人にまで及ぶと、面倒なんて言っていられなくなる。


 少なからず恨まれるのは、最初から想定していたことでもある。

 事件を起こされる前にガス抜きは必要だろう。



「ユノさんに教えてもらったことを、かなりマイルドにしてやっただけなんですけどね」


「とにかく、群れを見つけて突撃、とにかく突撃。群れがいなかったら見つけるまで走る」


「ユノさんみたいに効率的に群れを見つけられないから、走りっぱなしなんですけどね」


 確かに、客観的に見れば、私が彼らにしていたことと似ているのかもしれない。


 都合良くゴブリンの集団に遭遇するのは経験のなせる業だとか、走ることがレベルアップには繋がらなくても、逃げ足を鍛えておけば、役に立つこともあるかもしれない。

 それに、根性は鍛えられる――的なことも言ったかもしれない。


 しかし、どう考えても煙に巻かれたのだと分かるだろうに、額面どおりに受け取られるとは思っていなかった。

 普通は、私に何らかのスキルか何かがあると疑うものではないだろうか?



「頭の方も鍛えるべきだったね……」


 むしろ、そっちの方が重要だったかもしれない。

 とはいえ、その時は時間的余裕が無かったので、生存能力を優先した結果である。


 変な癖をつけずに基礎能力を上げて、死ににくくしただけ。

 私がスタート地点だと思っていたところを、彼らはゴールだと思ったのか?


 湯の川の学園では、こうはならないように気をつけてほしいところだ。



「「「ええ……」」」


 屋外の狩場でも迷宮でも、莫迦みたいに走り回っている冒険者は見たことがない。


 というか、斥候の重要性は説いたはずなのだけれど……。

 私の記憶違いだろうか?


 そもそも、比較的安全なキャンプまでの街道でも斥候が警戒していて、彼らは何度もそれを見ているはずなのに、おかしいとか思わなかったのか?


 さすがに冒険者のセオリーを知らない私でも、狩場で走り回るのは普通ではないと分かるものなのに、今更ショックを受けるとか、さすがに正気を疑う。


 そもそも、あれは中身のない促成栽培――パワー何といったか、ジャグリング? とにかく、特殊な例なのだ。


 彼らもレベルが上がって強くなったのかもしれないけれど、飽くまでそれはシステム上のことであって、本来その過程で身につくはずの経験や知識がごっそりと欠落している。

 そういうところも見せておくべきだったか。



『君たちを、短期間でできるだけ強くする――パワーレベリングっていうのかな? それをやっていただけで、あれが正しいやり方じゃないのは、言わなくても分かってると思ってた。レベルが上がって強くなったと勘違いした? そうやって勘違いした挙句に、足元を掬われる子を何人も見てきたけど……』


 ああ、レベリングか。

 惜しかったな――と、私が言葉を選んでいる間に朔が代弁してくれた。


 朔の言うように、私と組んだ子の死因には、戦闘以外――罠とか油断とか、対策を立てていたり、注意を怠らなければ回避できたものも多い。



「い、一応探知系のスキルにはポイント割きましたよ?」


「それに、そんなに深いところまで入ってませんし……」


「でも――」

『だから大丈夫。――って油断から死ぬんだよ』


 シノブさんとメイコさんの言い訳を遮って、そして、今にも言い訳を口にしそうなユウジさんとサヤさんを、朔が先んじて制する。



「強くなったとは言ったけれど、それは飽くまで過酷な状況でも生き抜くだけの下地ができただけ――スタートラインに立っただけだよ。それを勘違いして……」


 監視をサボっていた私にも非はあるけれど、そんな無茶をされて、知らないうちに死なれたりすれば私が困る。

 彼らに対する調査はひとまず終わっているけれど、次以降の調査のための広告塔なのだ。

 調査するかしないかは別にして。



「私が貴方たちに教えたかったのは、『生き抜くための強さ』だよ。確かに、戦闘はこの世界では重要な要素のひとつだけれど、手段のひとつにしかすぎないの。そもそも、戦いに勝つことと強さは別のもので――というか、戦い方だって教えていないし、まねをするにしても、貴方たち自身の特性と合った人を参考にした方がいいよ」


 戦いなんて、避けられるならそれに越したことはない。

 もちろん、避けてばかりでは状況が良くなることはほとんどないし、彼らの立場ではそうもいかないことも分かる。


 なので、とりあえずレベルだけでも上げておけば、変に染めることなく、選択肢も増えるかと思っていたのだけれど……。

 単純に充分な時間がなかったとか、他に何も思いつかなかったのは事実だけれど、この結果は予想外だ。



「えーと、それはもちろんそうなんですけど……」


「あんなのを経験しちゃうと……」


「ゴブリンとか狼しか出ないような所で、慎重にやりすぎるのもどうかと……」


「それに、今まで私たちを莫迦にしてた人たちが、びっくりするのも面白くて……。てへっ」


「てへっ、じゃないよ。怪我したり死んだりする前に止めておきなさい」


 メイコさんって、こんなキャラクターだったか?

 というか、四人とも少し調子に乗っていて、若干イラっとさせられたけれど、声音や態度には出さずにやんわりと止めておいた。


 まあ、周りの彼らを見る目も、彼らを増長させる原因になったみたいだけれど。



 理由はどうあれ、彼らが奇行に走ると、私の評判まで下がる。


 私がいくら彼らの奇行は彼ら自身の問題だと言っても、事情を知らない第三者がそれを信じることはまずないと思うし。

 彼らの生死だけの問題なら手は打てるけれど、私自身の評判とかそういうことに対処するのは難しいのだ。



「とにかく、さっき言っていた子――他の子でもいいけれど、新しい子に逃げられないようにしなさい。これからのことを考えると、4人じゃ厳しいでしょう?」


 彼らも一応は反省しているようだし、ひとまず、これくらい言っておけば大丈夫だろうか。

 いや、この子たちは想像を絶する莫迦だし、私ももう少し注意しておくべきだろう。

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