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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第六章 邪神さんの子育て大作戦
169/725

28 身から出た錆3

「なぜ黙ってたんですか?」


「実用レベルになったら報告しようかなと……」


「別に責めているわけではないんですよ? ただ、相談してくれればいろいろと――」


 アイリスは責めていないと言うものの、何となくそうした方が良いような気がして、正座をして弁明している。


 なぜバレたのかはいまだに分からないけれど、そこまでバレているということは、これ以上の悪足掻きは逆効果だろう。


 こういう時は、素直に謝るのが最も傷が浅くて済むものなのだ。

 それに、この世界では、疑惑が掛けられた段階で有罪なのだし(※偏見)、これ以上嘘を吐いてまで誤魔化すものでもない。

 心証は量刑に影響するしね。



「ここと帝国で同時に行動できておる時点で、実用レベルは充分満たしてると思うがの」


 アイリスの長めのお説教を、ミーティアが遮ってくれた。

 私に助け舟を出したというよりは、ただ自分が飽きたのか、私の能力に興味があるかだろう。


「そこでも世界樹を創ったいうなら、展開可能な距離や、性能、持続時間、独立性、どれを取っても充分よね」


「ユノさん、すごいです!」


 ソフィアも飽きていたのか、ミーティアの話に乗っかった。

 それはそうと、リリーはいつも可愛いなあ。



『へえ、この能力って、普通に認知されてるものなんだ?』


「普通ではないですよ。結構なレアスキルで――いえ、エクストラスキルだったかもしれません。しかも、よほど能力が高くないとまともに運用することはできないと聞きます」


 お、何だかアイリスのお説教も終わったようだ。

 ふたりとも、珍しくナイスフォローだったよ。


 それとも、リリーの愛らしさで毒気を抜かれたのかな?


 おいで、リリー。

 撫でてあげよう。



 さておき、自分がふたり、若しくはそれ以上いれば――というのは、誰しも一度くらいは考えたことがあるだろう。


 発想はそんなふとした思いつきで、予想していた形とは違ったけれど、近い形のものは実現はできた。


 しかし、想像以上に面倒くさい能力で、世の中にはそんなに都合が良いものがないことを再認識させられただけだった。


 増えたといっても見かけだけで、それにしょせんは自分なのだ。

 できないことができるようになるわけではない。

 当然だろう。


 それに、結局のところ、手の数が増えたからといっても、労力が減るわけではない。

 むしろ、増やした手の分の手間が余計に掛かるだけなのだ。

 まあ、確かに、作業ペースだけは上がるけれど、効率は悪い。

 私にとっては、「効率」はあまり意味がないものだけれど、それでも面倒くさいのは嫌いなのだ。


 今ではよほどの理由がなければ、そして朔のサポートがなければ使おうという気すら起きない。



「ユノちゃんくらい元の能力が高ければ、デメリットも気にならないというか、ちょうどいいくらいなんでしょうけどねえ」


 それは私を買い被りすぎだ。。

 全然よくなんかない。


「とにかく、一度どんなもんか見せてくれないか?」


 面倒くさいことになってきたなあ――と思いながらも、アルに言われるままに私を出現させる。


 というか、「出現させる」という表現は不適切なのだけれど、他に適当な表現が思いつかない。

 まあ、その説明も面倒くさいし、何でもいいか。



「へえ、これはすごい……。どっちが本体か見分けがつかないな」


「「本体? どういうこと?」」


 うん?

 アルは何を言っているのだろう?


「ん? 本体は本体だけど? ――もしかして、きっちり50%で分けてるのか?」


「「50%って何のこと?」」


 本体とか50%とか、意味が分からない。

 残りの50%は何だ?

 優しさか?


「ああ、元の状態からの能力値の割合のことだけど――もしかして、減衰が激しい? それで実用レベルじゃないとか?」


 減衰?

 何が?


 やはり、アルが何を言っているのかよく分からない。


 本体とか割合とか減衰とか、この能力にそんな要素があったのだろうか?


「「「何の話をしているの?」」」


 三人寄れば文殊の知恵ともいうし、もうひとり分出してみたけれど、結局私は私でしかないので何も変わらない。



「――可能性はあると思ってたけど、これって《並列存在》じゃないの?」


「どちらが本体かではなく、全て本体――いや、オリジナルといった方が正確か」


「ユノ殿の瞬間移動とネタは同じ――存在確率の操作でござろうから、できても不思議ではござらんが。三人になると三倍――いや、百億倍可愛いでござるな!」


 三魔神たちが何やら考察を始めた。

 いや、ひとりは錯乱しているだけか。

 どんな計算をしているのか。



『君たちの言う並列存在の定義は知らないけど、ニュアンス的には少し違うような気がするかな。んー、恐らく、君たちの認識ではそう見えるってだけで、ユノが増えたわけじゃないんだ。何て言えばいいんだろう――』


 難しいことは私には分からないので、説明は朔に任せる。

 ただし合っているかどうかは知らないし、それは私の責任ではない。


『うーんと、ユノ、ちょっと領域展開してみて』


「「「ほい」」」


 私に伝えるだけなら声に出す必要は無いので、恐らくみんなに見せるためなのだろう。

 ということで、それぞれの私の足元から、花弁状の領域を展開する。


「相変わらず見事ねえ。魔力でもここまで精緻な制御ができる人はいないわよ」


「うむ。筋肉ではないが、実に見事だ。吾輩も負けてられんな」


「おお、美しい……! 拙者、ミツバチになって、ユノ殿のお花を受粉させたいでござる! ウボァ!?」


 クライヴさんがまた殴られていた。

 アナスタシアさんの暴力はどうかと思うけれど、クライヴさんも、さきの暴言はアウトだと思う。

 子供もいるのだから、下ネタというか、セクハラは勘弁してほしい。


『この状態で、どこからどこまでがユノなのかっていうと、それぞれ花弁状の領域まで含めて全てがユノなんだ。むしろ、花弁の方が、ユノの本質に近いんだよ。そもそも、領域っていうのが、ユノの目であり耳であり手であって、人の形をしているのは、機能を限定された領域というのが近いのかな。みんなとコミュニケーションを取りやすいようにね』


 そうそう。

 みんなから見た私は3人に見えているのかもしれないけれど、私はいつもひとりなのだ。


 もちろん、ボッチ的な意味ではない。



「なるほど。そういえば、ユノちゃんの本質って種子だったわね。可愛いからすっかり忘れてたけど」


「種子の中でもかなり特殊な気がするが……。根本的に我らとは違う存在なのだな」


「拙者らも含め、同じ感覚で考えてはならんのでござろう。つまり――グエッ!?」


 今度は、何か言う前に潰されていた。

 クライヴさんの信用がゼロになっていたようだ。



『人間の姿をしている部分は、物質的には人間だよ。本質が少し違うだけ、かな?』


 三魔神はあんな説明で理解できたのか、納得している様子。

 ただ、惜しいところもあるけれど、朔の説明も完全に正解ではないかな。

 何がどうとは私にも説明できないけれど。


 アイリスたちにも、私がみんなと同じ人間ではない――どころか、生物であるのかすら怪しいことを突き付けたのだけれど、動揺した様子は見られない。

 リリーに至っては、なぜか目をキラキラさせて憧れのような眼差しを向けている。

 どこにそんな要素があったのだろう?



「これのどこが実用レベルを満たしてないんだ? 俺には充分なものに思えるんだけど……」


『能力的にじゃなくて、相性的な問題だね。問題がひとつだけでも迷走するユノが、複数のことを同時にやるとどうなるかってこと。ボクとしては面白いからどっちでもいいんだけど』


 相性が悪いというのは否定しないけれど、そんなに言われるほど酷かっただろうか?

 私としては、単純に手間が増えるのが嫌だっただけのつもりなのだけれど。



「そうねえ。報告を受けてすぐに世界樹の生えたって場所を見に行ったんだけど、そこだけ不自然なお花畑になってて、既に帝国の調査隊も入ってたわ。あれは間違いなく奇跡認定されるわね……。大きな問題にならなければいいけど」


 ……そんなに大騒ぎするようなことではないと思うのだけれど、わざわざそんな言い方をされると、少し不安になってくる。


「どんな経緯で世界樹を創るに至ったかはまるで分らんが、野放しにするのは恐怖しかないな。自重しようとしているのがせめてもの救いか……。いや、世界樹を創る時点で自重とはいい難いな……」


「残念でござる。一家にひとりユノ殿がいる夢の生活が――いや、ユノ殿に囲まれて暮らす夢の楽園が……」


 言いたい放題だなあ。

 藪蛇になりそうだから静観するけれど。


 でも、壊れている人は、どうにかしてあげた方がいいと思うよ?

 措置入院とか。



「アイリス様、魔界の件、やっぱりお願いできませんか? ユノも、向いてないのは分かった上で、助けてくれないか? ――このとおり、お願いします!」


 クライヴさんが莫迦なことを言っていたところ、この話題も終わるかというところでアルが、話を蒸し返した。

 というか、跳躍からの見事な土下座。

 D難度かな。

 DOGEZAだけに。



『そんなに焦るような状況なの? ユノじゃなくても、同時に複数のことをするのはお勧めしないけど』


「分かってる。今まではよかったんだけど、義妹が外に出るための選抜にエントリーしちゃったんだ。それ自体はいつかはするだろうなって予想してたんだけど、予想よりタイミングが早くて……」


 義妹という響きには心を揺さぶられるけれど、だからといって手を出すほど短絡的ではない。


「なぜ最初からユノじゃなくて、私なんでしょう?」


 それに、頼まれているのはアイリスだ。

 私を理由に、アイリスの意思決定が左右されるのは望まない。


『そうだね。その子だけならユノが回収しちゃえば済む話じゃないか』


「それも確かに考えましたけど、それだと根本的な解決にはならない――義妹(いもうと)以外の家族のリスクが上がるんだ。だから、現地で状況を見て、柔軟な判断ができればと思うんだけど、ユノは他人の話を聞かないし、高度な判断も期待できないじゃないですか」


 なんだか失礼なことを言われているようだけれど、あながち間違いではない。

 なお、下手に反論して高度な問題とやらを持ち込まれないように――というのが私の高度な判断だ。



「あ、魔界に行くんだったら、中の様子を教えてくれると助かるんだけど」


「行くとは言っていない」


 この人は、本当に空気を読まないな。

 そんな感じの話の流れではなかったと思うのだけれど。



「もちろん、タダでとはいわないわ。そうねえ、報酬として『異世界を観測できる魔法』――なんてどうかしら?」


 くっ、何と心を揺さぶる誘惑か!

 さすが、本場の悪魔族は違う。


 ずるい。

 断れないじゃないか。


 でも、我慢だ。

 その報酬は、別件で引き出そう。



「はあ、仕方がないですね……」


 などと思っていたけれど、アイリスが引き受けてしまった。


「いいの?」


「ええ、まあ、私にとっても魅力的な報酬ですしね」


 ああ、そうか。

 アイリスにとっての故郷を見たりもできるかもしれないしね。


「おお、ありがとう! 今更俺に出せるものなんてないけど――本当に恩に着るよ!」


「貸しにしておきますね。いつかきっちりと払ってもらいますから」


 私は――まあ、いいか。

 その分、努力している姿を見せてくれれば。


「拙者も! 拙者も恩に着るでござる! 拙者も何も持っていないゆえ、身体で返すでござるよ!」


「クライヴは関係無いでしょう」


「お前さんはここに残る口実が欲しいだけだろう……」


「お莫迦さんは放っておいて、早速詳しく話し合いましょうか。アルフォンス君からも、もう少し詳しく話を聞きたいしね」


 とりあえず、話が長くなりそうなので、ホムンクルスにお茶の用意を命じておく。

 面倒なことになってきたなあ……。



 それにしても、向き合う問題を減らそう、絞ろうとしていた矢先にこんなことになってしまうとは、やはり人生とはままならないものだ。


 アナスタシアさんの出した条件が良いことだけが救いだけれど、それもまた落とし穴なのかもしれない。

 それでもやるしかないのだけれど。

 お読みいただきありがとうございます。


 本章では、いろいろなところで火種を作っているだけで、これといって大きな動きはありませんでしたが、次章からは頑張りますので、見捨てないでいただけると有り難く思います。


 追記

 短い幕間をひとつ、19時に投稿します。

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