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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第六章 邪神さんの子育て大作戦
165/725

24 イブ

 3月30日。


 私の誕生日の前日。

 といっても、地球とは暦が違うので、実際の誕生日とは若干のずれがあると思う。

 それでも、その計算をするのは面倒なので、こちらの世界に合わせればいいや程度のものである。

 《鑑定》で分かるものなら、勝手に反映されるしね。




 現在、城内の謁見の間では、新体制の始動を明日に控えて、神殿やお城での勤務が決まった人たちが勢揃いしていて、アイリスやシャロンの訓示に耳を傾けている。


 訓示の内容は、ごく普通の常識的なもので、特別なことは何も言っていないと思う。

 ところどころ、余所事を考えたりして意識が飛んでいるので、自信は無い。


 きっと、恐らく誰もが一度は聞いたことがある内容だと思うけれど、それでもみんな真剣に聞き入っている。

 巫女の力、恐るべし。



 そんな感じなので、私が改めて話すようなこともなく、大人しく神座に座っていることが今日の私のお仕事だ。


 有り(てい)にいうと、私はいてもいなくても変わらない。

 私以外の人たちのモチベーションに影響を与えているそうだけれど、実務的には差し支えない。


 もちろん、最後にひと言求められると思うけれど、それも形式的なものだろう。

 それに、相応しくない内容だったとしても、アイリスやシャロンが上手くまとめてくれるに違いない。

 それこそ、「にゃーん」と鳴いても着地点を見つけるのではないだろうか。

 鳴かないけれど。



 話を聞いている振りだとか、大人しく座っているだけでいいなら、私の得意分野である。


 というか、特に必要の無い視察を(※邪魔にならないように)行ったり、同じく必要性は無いのに世界樹や自動販売機のチェックをしたりと、私の仕事は日本にいた時とあまり変わっていない。


 まあ、適材適所ということは充分に理解できるけれど、それでも何の役もあたらないというのは案外寂しいものである。



 それでも、私が何かをしでかしたときの影響を考えれば仕方がない。


 そういう理由だと、アイドル活動も駄目なのではないかと思うのだけれど、アルや朔のことだから、私がそう言い出したときの対処くらいは十二分に整えているだろう。

 それに、今更そんな指摘をして、怖気づいたと思われるのも面白くない。


 むしろ、きっちりやり遂げた上で、問題が起きたら起きたで、それを何かの交渉材料などに活用することを考えた方が建設的だ――と、同じようなことを何度も考えているのも女々しい気がする。



 それでも、腹は決めたものの、やはり気が乗らない。

 それはもう、どうしようもないことだと思う。


 アイドルをしている私を客観的に見ると、違う意味で人間性を投げ捨てているようにしか見えないし。

 後はもう、当日どれだけ吹っ切れるかだけだ。




 それはさておき、謁見の間に並んでいるのは見知った顔が多い。


 オウルとかクロウといった魔王の元側近。

 ソフィアの刀を売ってもらったドワーフの職人。

 いつかの騒動の時に会ったベアトリーチェや、名も知らぬケンタウロスの青年、そしてモヒカンたち元エリート冒険者の姿もある。


 どうでもいいことだけれど、元魔王ギルバートの腹心オウルの首は、超回転する。

 身体は正面を向いているのに、顔が真後ろを向くくらいは余裕らしく、気をつけて見ないと、どちらか前後か分からない。

 さらに、首を傾げるときの可動域もエグくて、上下が逆さまになるくらいに首を傾げたりできる。

 ちょっとしたホラーである。


 彼だけではなく、有翼人の中にはこういった人は少なからずいるようで、更に人族から見た獣人に当たる、鳥人という種族は、顔が鳥そのものらしい。

 むしろ、鳥に手を付け足した感じだとか。


 だからどうしたというわけでもない、本当にどうでもいい話である。



 さておき、彼らは皆、胸に所属を示す徽章の付いた真新しい制服に身を包んでいて、更に騎士団の面々は腰にお揃いの剣を佩いている。

 よくこの短期間にこれだけの物量を揃えたものだと感心する。


 もちろん、数だけではなく品質の高さも折り紙付きである。

 それは、技術屋たちの疲れ果てていると同時にやり遂げた感の溢れる、満足そうな顔を見れば察することができる。

 心の中でお疲れ様と――いや、よく考えればなぜこんなことになっているのか。



 本当に今更だけれど、家が大きすぎたなら、建て直せばよかっただけの話では?

 しかし、大きなお風呂は憧れだったし――しかも、温泉は最高の楽園で、眺望の良さやプライベートビーチなどの施設も、今となっては捨て難い。


 もっとも、私が利用するためというより、利用しているみんなの楽しそうな顔を見ているのが好きなだけで、それでなければ駄目ということではないのだけれど。


 とにかく、そうしてお城や施設の維持に人手が足りないからと人を集めていたら、町ができた。


 そして、なぜだか――本当に目的も手段も分からないのだけれど、冒険者たちまでがやってきた。

 ストーカーというレベルではない。


 というか、彼らはこの町では私が神扱いされていることに何の疑問も抱かないどころか、すんなりと馴染んでいる。

 適応力が高すぎる。

 さすがエリート冒険者である。



 思うところは他にもいろいろとあるけれど、本当にこの世界の価値観は、私の理解を超えている。


 もちろん、これも私の選択と行動の結果のことなので、無かったことにしようとかそんなつもりはないけれど、どこで判断を誤ったのかが分からないことがよろしくない。



 決断して行動する以上、失敗は避けられないものだ。

 しかし、そこから何も学べないのは駄目だ。


 現状が失敗だということではないけれど、意図していた――望んでいたものとは違うことは事実で、せめて原因を考えて、反省くらいはしておこうと思う。

 ただ、心当たりが多すぎて、何を反省すればいいのか分からないだけで。


 強いて挙げるなら、温泉や海に気を取られて、お城自体の異常さに思い至らなかったことか――しかし、これは私だけの責任ではないはずだ。


 故意犯であるアルはともかく、アイリスやミーティアもそれを指摘しなかった。


 それに、あの時はそれ以上に衝撃的なVの件などもあって、それどころではなかったこともある。

 そんな理由もあるので、一概に私のミスとはいい切れないところもある。



 しかし、朔の『ユノは成長しない』という言葉が私を不安にさせる。


 明日になれば、若しくは数日のうちに、少なくとも肉体的な年齢については確認が取れると思う。


 しかし、自分でも成長していない実感があるので、望み薄だろう。

 それでも、肉体的なものは仕方ないとしても、精神的なものについては成長したいところである。




 私の飽きっぽい性格を考慮してか、式典は一時間ほどで終わった。


 まあ、大体聞いていなかったしね。


 そして、その中で私の出番は、「期待しています」のひと言だけ。

 なお、「頑張って」にするか迷ったけれど、それは場合によっては禁句になるらしいし、そうでなくても何をどう頑張られるか分からないので、ふんわりした方を選んだ。


 さすがにこれくらいはどちらを選んでも大差はないと思うけれど、考える時間はたっぷりあったのだし、そんな時くらいはじっくりと考える癖をつけようと思ったのだ。


 その甲斐があってかどうかは分からないけれど、そのひと言だけでも歓声が上がっていたので、良かったのだと思いたい。



 その後、彼らは庭園の一角に設けられた会場での、懇親会という名の宴会に行ってしまったけれど、私はまだ解放してもらえない。


 明日からの段取りの打ち合わせや何やらで、むしろ、私にとってはここからが本番なのだ。

 私のライブの最終調整はもちろん、明日はロメリア王国の国王陛下や王妃殿下も挨拶に来るらしい。


「陛下や殿下たちの接待の段取りはアイリス様には伝えてあるし、準備も済んでるから気にしないでいいよ。ただ、他の貴族も、数は少ないけど挨拶に来ると思うから、適当に偉そうに相槌打っといて。それと、将軍なんかも一緒に来るから、彼らに『仲良くしてますよ』ってアピールしてくれればそれでいい」


 そういう外交だとか、貴族との付き合い的なものは面倒くさいので勘弁してほしいのだけれど。

 というか、名目上では私はここでは神なのだから、名代に任せてしまえばいいのではないだろうか?

 もちろん、陛下と殿下がアイリスの実の両親でなければだけれど。


 まあ、アイリスとアルのことだから、外交的な感じにならないように配慮はしてくれていると思いたい。



「それと――悪い。楽器奏者は間に合わなかった」


 知っていた。

 むしろ、今更間に合ったと言われた方が困る。

 音源を仕上げてくれただけでも充分だ。


「悪いけど楽曲の方は音源で――」


「あ、それじゃあ――アイリスたちも楽器持ってステージに立ってみない? 私のいた日本じゃ、エアギターとか――ゴールデン何とかってエアバンドなんてものが流行っていたし――」

「内輪だけでやるならともかく、今回はみんなユノを見に来ていますから、遠慮しておきますね」


「私も歌ってるユノさんを見ていたいです」


「楽器をマスターする程度は造作もないことじゃが、アイリスの言うとおりじゃの。というより、儂も、お主の歌を聴きながら飲む酒を楽しみにしておるのじゃ」


「わ、私はそんな大勢の前で何かするとか無理よ!? 考えただけで心臓が破裂しそうになるわ!」


 という私の提案は揃って断られた。

 しかも、食い気味に。


 まあ、以前にも誘って断られているし、分かっていたけれどね。



「俺でよければ、打楽器として使っていただいて結構ですが……」


 アーサーは何を言っているのか分からないので無視した。



「アイリス様の言うとおりだろうな。多分ユノ以外は眼中に入らないと思う。――それと、悪いんだけどもうひとつお願いがあって」


 そんなことはないと思うのだけれど、よくよく考えれば、アイリスたちが好奇やいやらしい視線に曝されるのは面白くない。

 そして、リリーには、そんな汚れた世界があるなんて知ってほしくない。


「まあ、準備もしてないし仕方ないか。それで、お願いって?」


 また変なことを思いついたのだろうか――と思ったけれど、アルの表情からはいつもの余裕が感じられないので、そんな感じでもない。

 むしろ、もっと面倒な話の予感がする。



「どっちかっていうと、ユノにじゃなくてアイリス様に、なんだけど……」


「私に? 何でしょうか?」


 アイリスにも心当たりがないようで首を傾げている。



「実は――誕生祭が終わって、落ち着いてからでいいので、……魔界に行ってもらえませんか?」


 アルは一体何を言っているのだろう?

 アルが突飛なことを言うのは今日に始まったことではないけれど、今日のは特に酷い。


 それとも何かの比喩なのだろうか?

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