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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第六章 邪神さんの子育て大作戦
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23 選考会

 ひと言に選考会といっても、単純に「神殿やお城で働く機会をあげますよ」と宣伝しただけでは応募が殺到して、巫女たちやホムンクルスがパンクするのは目に見えている。



 私が深く考えずに難民や魔王の配下をホイホイ受け容れ続けた結果、今では城と町の人口の合計は一万を超えている。

 精霊なども合わせれば、更にプラス数千――精霊の増加ペースが早すぎて集計が追い付かないそうなので、二万を超える日も近いらしい。


 選考会に応募してくるのが、就労させるには不適切な子供や老人を除いた五割程度だとしても、それを僅か十数人で処理するのは、書類選考にしても無理がある。

 そもそも、識字率の低い今の状況では書類選考など不可能だし。



 なので、今回は鍛冶や服飾などの技術職は、まずは製品を作らせて、その出来を競わせている。

 要はコンペを行っているのだけれど、これでは能力の高い物しか選ばれない。


 私としては能力や成果だけでなく、人格や将来性なども考慮したい。

 一応、私も選考に関与する機会はあるのだけれど、ある程度性能で(ふるい)にかけられた後で、特別採用枠になるらしい。


 とはいえ、性能重視もひとつの正解だし、シャロンたち神殿関係者にとっては、能力が高い人を雇うことは急務である。


 逆に、お城の方は喫緊の課題といえるようなものもないので、あまり優秀ではなくとも性格が良くて、遊び心を理解して、融通が利く――そんな人材を雇うこともできる。

 というか、是非とも欲しい。


 私としては、優秀すぎる人が側にいると息が詰まるかもしれないので、適当なくらいがちょうど良いのだけれど。




 なお、コンペで製作された作品は、武器や防具といったそれぞれの得意分野の物が多く、次いで鍋や包丁などの日用品や、鍬や鋤などの仕事道具が多い。


 しかし、日用品の中で、なぜかバケツだけは、底部にネコミミだとか羽飾りなどの装飾が付いていたり、被った際に目がくる位置に覗き穴らしい穴が開いていたりと、バケツとしての用をなさない物ばかりが作られていた。


 どうにも、私が被るに相応しいバケツを作っているようなのだけれど、この町ではバケツは水や物を入れる道具ではなく、被る物だという認識が広まっているらしい。


 それは間違った使い方なのだと教えてあげたいところなのだけれど、私が言っても説得力が無い。

 どうしたものか。


 私がバケツを被っているのは、無暗矢鱈に魅了しないためという理由があるのだけれど、それを私の口から説明すると、私が可愛いと宣伝しているようなものである。

 それは事実なのだけれど、元日本人として、そんな謙虚さの欠片もないようなまねはできない。


 ひとまずバケツには「良い子はまねしちゃいけません」と書いておいた方がいいかもしれない。




 技術系以外では、事務職と神殿騎士、そして巫女見習いの求人が出されていた。


 技術職も、神殿付きになったからといって何がどうなるのかがよく分からないけれど、それ以上に神殿騎士とやらが何と戦うつもりなのかが分からない。


 町には町できちんと自警団的なものもあるし、ギルドのようなものだって存在するのに。


 もちろん、自分たちの町を自分たちで守ろうという心構えは良いことだし、アイリスたちが何も言わないところを見ると、それがこの世界での常識なのかもしれないので、深く追及したりはしないけれど。




 話は変わるけれど、帝国領に潜入するための変装とかあれこれの中で、翼を出し入れできるようになった。


 ただし、どうやら翼がある状態の方が「通常」の状態となってしまっているらしくて、翼を仕舞うと能力がほぼ使えなくなる――こっちの世界に来たばかりの頃と同じ状態になってしまう。


 領域の展開レベルでも能力を使おうとすると、翼も飛び出てしまう。

 まあ、集中していれば出さずに頑張れたりもするので、慣れの問題という気がしなくもないけれど。


 そもそも、領域を展開する必要がある時は、翼の有無はあまり関係が無いし、普段の服の選択肢に幅が出るのはいいことだと思う。



 しかし、それをアイリスたちに報告すると、なぜかお気に召さなかったらしい。


「それじゃ、ただの猫人じゃないですか。オフの時はいいかもしれませんが、人前に出るときはそれに相応しい格好をしてくださいね?」


「ユノさんのお羽根、お布団にすると気持ち良かったのに……」


「お主、空にはもう飽きたのか……。まあ、空を飛ぶときは儂が乗せてやってもよいが、翼はあった方が快適じゃぞ?」


「翼より、光輪をどうにかした方がよかったんじゃない? というか、翼は必要でしょ。ハッタリ利かさなきゃ犠牲者増えるんだから」


『背中を隠す? とんでもない。ユノは背中も綺麗なんだから、背中で語るつもりでどんどん出していかなきゃ!』


 などと散々な評価で、シャロンたちにも「いつものお姿の方が素敵だと思いますよ」と言われるくらい、オプションのはずが標準装備だと認識されているようだった。



「もちろん、そのお姿もとても可愛らしいですよ」


 そんな取って付けたようなフォローをされても微妙なので、結局城内にいる時は出しっ放しにすることになってしまった。


 とはいえ、アイリスの言うとおり、見た目――というか、TPOに応じたドレスコードは必要だと思う。

 翼も該当するのかはわからないけれど。


 それに、リリーの言い分ももっともだ。

 私の羽根は、そこいらのダウンよりも上質なのだ。


 ミーティアは何を言っているのかよく分からなかった。

 ミーティアも普段は翼を出していないし、そもそも、翼の力で飛んでいるわけでもないと言ったのはミーティア自身だ。


 ソフィアの指摘はどうなのだろう。

 一応、「虎に翼」という言葉もあるけれど、私の場合、どちらかというと人の割合の方が多いよ?

 あまり抑止力にはならないと思うよ?


 そして、朔は何を言っているのか分からなかったのだけれど、協力するつもりがないことは分かった。


 とにかく、誰ひとりとして喜んでくれる人がいないとは想定外だった。

 その経緯について聞かれなくて済んだことは幸運だったと思うけれど。




 さておき、騎士団の選考は、まず第一に戦闘能力である。

 そして、それに関連した技能を持っていること。

 さらに、品格も重要視されるらしい。


 もっとも、教育も満足に受けさせていない現状では、品格を求めても仕方のないことだと思う。

 この世界の品格が、私の知っている品格と同義とは限らないけれど。


 アルスの冒険者たちがやって来た時の部隊長のダークエルフ――【ベアトリーチェ】なら見た目も良いし、みんなから信頼されていた様子から、実力も申し分ないのだろう。

 彼女なら納得する人は多いのではないかと思う。


 しかし、アルスの冒険者――モヒカンのような、騎士とはイメージが真逆な人でも、髪を下ろしただけで選考に残っている。

 いや、彼が駄目だというわけではないけれど、審査基準がよく分からない。


 とにかく、お城の方では戦闘要員を雇う予定はないので、神殿騎士の選考はシャロンたちに任せておけばいい。



 例外として、ゴニンジャーのような人材を育成して、諜報活動を行う部署は作る予定である。

 ただし、これも私が好き勝手にできないように、別に管理者を置くことになるらしい。


 自覚はなくても、私は一応神らしいので、人間に命令するような立場はまずいということらしい。



 なので、私に与えられている採用枠は、当初の想定より遥かに少ない。


 可愛いものを見つければ、すぐに持って帰ろうとするところも考慮されているのかもしれない。


 しかし、私にだって持って帰ってもいいものしか持って帰らないくらいの分別はある――と思う。

 虎人の姉弟や、懐いてきたエルフの子供たちを手放すのはつらかったけれど、どうにか我慢して町に預けた。

 いつか、自力でお城に帰ってきてほしい。



 さておき、翼を出し入れできるようになったのとほぼ同時期に、翼だけでなく、私自身も消せるようになった。


 もっとも、消せるというのは領域の不可視化と同じで、他人の目に見えないとか触れないだけなのだけれど、潜入や観測にはぴったりの能力で、いつでもお忍びで子供たちの様子を見に行ける。


 翼を収納した時とは違って、能力の使用に制限がない点も素晴らしい。

 微妙に納得がいかないけれど、本来の姿を歪めているか、認識されないだけかという点が差になっているらしい。


 とにかく、魔法での探知には引っ掛からないし、よほどのことがなければ気づかれないと思うので、犯罪にならない程度に活用しようと思う。




 またもや話が逸れたようだけれど、この世界ではなり手が少なく、ある意味では専門職と化している事務職には、アルスのギルドで受付をやっていたお姉さん方が、既に内定を取っていた。


 曰く、「お給料も安い日陰仕事だったけど、続けてて良かった!」だそうだ。


 なお、この部署だけは定員割れした。


 応募自体は多かったものの、求められている技能を満たす人が少なくて、要求水準を「見込みのある人」に変えても定員には届かなかった。

 やはり、識字率の低さや、計算能力に人族ベースの価値観など、問題点が多かったことが原因だろう。


 ただ、この倍率の低さのおかげか、町では事務系の仕事の人気が出たり、そのための学習が流行っているのだとか。

 次回以降の採用に期待しよう。



 逆に、想像以上に応募の多かった巫女や神官の見習いは、一次審査で信仰心のパラメータが高い人が残って、今は二次審査を行っている最中なのだとか。


 その信仰心が私に向けられるのかと思うと、少し気が重い。

 それ以上に、信仰心が変な方向に暴走しないかが心配だ。


 また、二次審査は、当人の人格や、私への理解度を問われる面接が行われているらしい。


 人格はともかく、私への理解度って何?

 試験官の人、私の何を理解しているの?



 などなど、選考会といっても、私のやることはほとんどない。


 適当に視察を行って、気に入った人がいれば、許された枠内でスカウトしてもいいというだけの簡単なお仕事――というか、今この町で一番仕事をしていないのは私かもしれない。



 勤勉なアイリスはもちろん選考の手伝いをしているし、ソフィアも召喚魔法の研究の傍ら、学校で教えるカリキュラムの作成を手伝っている。

 もちろん、リリーは勉強や友達作りを頑張っているし、ミーティアやアーサーだって魔王たちに稽古をつけてくれている。


 私も、歌や踊りの練習を頑張っている――といいたいところだけれど、私ひとりで練習する段階はとっくにすぎている。

 アルが楽器奏者の手配に手間取っているので、それ以上の練習ができないので、惰性で続けている状態だ。


 楽器奏者の馴致(じゅんち)が間に合わなければ、打ち込み音源を使ってやることになる。


 しかし、アルの連れてきた奏者たちは、私にはどうにか慣れてきた――信徒化してきたものの、古竜や魔王のプレッシャーを克服することができそうにないので、十中八九そうなるだろうと思う。


 アルも案外詰めが甘い。



 なお、音源の再生は、朔や十六夜なら一度聞いた楽曲は音源や装置がなくても再現することができたりする。

 だったら歌も再現してほしいところなのだけれど、ふたり揃って拒否された。


「お母様のお手伝いをすることが私の存在理由ですので、そうであれば是非もありませんが、晴れの舞台の邪魔をすることなどできません」


『ユノのやることを再現するって難しいんだよ。そりゃ、ただの音としてなら再現するのは簡単だけど、そんな妥協はボクのプライドが許さない』


 などと、十六夜は融通が利かないし、朔はよく分からないものと戦っていた。



 というか、私が歌うと何が起きるか分かったものではないので、音声だけで充分だと思うのだけれど。

 しかし、このふたりはそれを問題とは感じていないどころか、それが重要なのだと思っているようだ。


 もちろん、ゾンビが観に来ることはないと思うし、あまり我儘ばかり言って怒らせたりすると、また強制発情状態にされてしまうかもしれない。

 だからどうということはないのだけれど、あの状態はつらいんだよね。


 本番のステージ上でやられたりしたら、何のライブか分からなくなるだろうし。



 とにかく、歌や踊りの練習でもしていないと、本当に何も仕事をしていない人になってしまう。


 それでも、ひとりきりの練習はつまらない。

 朔や十六夜はいるものの、お目付け役のようなものである。

 マンネリを感じてしまうのは、私でなくても仕方がないと思う。



 なので、たとえ眺めているだけだったとしても、選考会で頑張っている人たちの姿を見られたのはいい気分転換になった。

 何より、私も頑張らなければという気にさせられた。


 何にしても、後数日のことだし、後腐れのないようにしっかりとやり遂げよう。

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