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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第六章 邪神さんの子育て大作戦
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22 撤収

――ユノ視点――

 目を閉じたまま、記憶の底に沈んでいる古い記憶をどうにか引き出していく。


 もちろん、十年以上も前の記憶がそう易々と蘇るはずもなく、ほとんど鼻歌で、楽曲自体もでたらめになっていると思う。

 何だか、同じところをずっとリピートしているし。


 しかし、こういうことは気持ちの問題なのだ。

 細かいことを気にしてはいけない。



 それでも、歌っているうちに、昔の記憶――歌詞とは全然違う記憶も蘇ってくる。


 両親と妹たちの五人で過ごせたのは僅かな期間で、大変なことも多かったけれど、楽しかった。


 決して現在が良くないということではないけれど、少なくとも迷走はしていなかったと思う。


 一体いつから迷走しだしたのかと考えると、やはり両親が失踪してからになるのだろうか。


 当時は自分なりに熟慮した上で決断して、それから行動していたつもりだったけれど、今になって思い返すと、決断から行動までの時間が短かったような……。

 今よりも短絡的な行動が多かったように思う。

 よく問題にならなかったものだ。


 だからといって後悔したりはしていないけれど、もしかすると、今の私がやっていることも、未来の私からすると莫迦なことをやっているのかもしれない――おっと、しまった。


 鎮魂歌を歌っているのだから、ちゃんと気持ちを込めなければ。




『ユノ、やりすぎ』


 さて、と気合を入れ直したところで、朔から声がかかった。


 歌っていただけでやりすぎるって何だろう?

 盛大に音程でも外したのかな?


 とにかく、そう言われても何のことか分からないので、恐る恐る目を開けて辺りを確認する。



 あれ? 何だかすごくお花畑になっている。

 それに、なぜかゾンビも消えている。

 というか、お花畑に倒れている人たちは誰?

 お花畑に誘われてやってきたの?



「さすがです、お母様。お見事な審判でした」


 何がさすがなのか分からないけれど、十六夜の口調からすると、これは私がやったことなのだろうか?


 分からない。

 私はただ歌っていただけ。

 審判って何?

 アウトなの?



 頼んでもいないのに、朔がここで何が起こったのかの情報を提供してくる。


 歌に合わせて花が咲いて、ゾンビが新鮮になって消えていったり蘇ったりしていた。

 何がどうとはいえないけれど、かなりまずいことが起きた気がする。

 アウトだった。



「いや、私のせいじゃない。――そう、春が近いからだよ。きっとそう」


 熟慮に熟慮を重ねた結果、知らない振りをすることに決めた。


 まだまだ寒いけれど、春が近くなっていることは事実である。

 そして、私がやったという証拠はどこにもない。


 駄目押しに、世界樹の苗を植えておいて、それのせいにすればいい。


 それもさっきの怪物がいた辺りに――生物が死んでも、その死体を糧に植物が育って、それを生物が食べて、そうやって世界は循環しているんだよ的な話にしてしまおう。



『春が近くなったらゾンビが人に戻るの? まあ、いいけど』


 そんな春があってもいいじゃないか。

 大体、蘇生なんて、ちょっとしたコツさえ知っていれば難しいものではないのだし。


 ソフィアはアンデッドを人間に戻すことは不可能だと言っていたけれど、実際に動く白骨ことグレゴリーは問題無く人間に戻せたし、既存の常識に囚われていては、進歩はあり得ないのだ。



 というか、今更だけれど、死者が生き返るような歌を、生きている人が聞いても平気なのだろうか?

 もうすぐ、かなりの人の前で歌うことになると思うのだけれど。



 もっとも、アイリスたちにそれを指摘するには説明が難しい。

 どうしても話したくないことにまで触れてしまうし。


 ……まあ、お酒や料理同様に、多少元気になるくらいなら、問題は無いということにしておこうか。



「あ、ほらきっとあれのせい」


 とにかく、これは私が意図してやったことではないし、今更責任を取って、生き返った人たちを殺し直すなんてことをするつもりもない。


 当初の予定どおり、なぜか突然出現した世界樹のせいにしてお仕舞にする。

 誰も損はしていないし、それでいいじゃないか。


『……こんなの残していく方が問題じゃない? といっても、人間の手でどうこうできるものじゃないけど。とにかく、気が済んだならそろそろ帰ろう』


 それは私も思ったけれど、この苗は精々が半径百メートルほどに、湯の川とは比較にならない薄い魔素を出す程度のものだ。


 さらに、湯の川のものとは違って、物理的な干渉はできなくしているし、普通の人ではこれを使ってどうこうはできないだろう。

 放置していてもどこかに被害を出したりするようなものではないし、それどころか、この周辺の実りが少し良くなる程度のもののはずだ。


 当然、帝国に悪用されるほどのものではないはずだ。


 ということで、撤収!


◇◇◇


 廃教会で回収してきた人たちが全員起きてから、状況の説明をする。


 今回は事情が事情なので、人の手を借りるわけにはいかないので自力である。

 もちろん、どうやって生き返ったかなど詳細については触れずに、「春だから」で通した。


 なお、エルフの子供たちは、みんな私が奴隷として買った子供たちの知り合い――同郷の子たちだった。

 予想どおりというか、期待していた結果ではあるけれど、全員を救出できたわけではないので、手放しでは喜べない。


 それでも、子供たちは死んだはずの友人と再会したことや、自分たちが生きていることに驚きつつも、私を見るとなぜかすんなりそれを受け容れた。

 そして、再会が叶わなかった友達に祈りを捧げた後、改めてお互いの無事と再会を喜んでいた。



「「「ユノ様、ありがとうございました!」」」


 子供たちに感謝された。

 助かった子については純粋によかったとは思うものの、さきの子供たちのように廃人同様になっていないのはどういうことだろう?

 同じような経験をしているはずなのだけれど……。


 元主人の邪教徒さんを、彼らの目の前で処分したところが関係しているのだろうか?

 いや、それにしても、その瞬間は目にしていないはずだし……。


 よく分からないけれど、無事なのはいいことだ。



 そのすぐ後に、他の人たちからも感謝されたけれど、そっちは事故みたいなものなので気にしないでほしい。



 さておき、子供たちの全員が救われたわけでも、酷い扱いを受けたことがなくなったわけではないけれど、幼いながらに支え合って、前へ進もうとしている姿は感動ものである。

 しかし、体調面や精神面に不安の残る子たちもいるので、しばらくは私が面倒を見るしかないだろう。

 決して(ほだ)されたとか流されたわけではない。



 それ以外の人たちは、旅の途中や近隣の村から攫われて生贄にされた人たちだった。

 彼らも、自身の最期の記憶にパニックになる人もいたりしたけれど、周りにいた人たちの手で落ち着きを取り戻して、説明を受けた後はおおむね現状を受け容れて、生きていることの喜びを噛み締めていた。


 ただ、彼らは私自身の意思で蘇らせたものではないので、何か不具合でもあったり、そもそも生前と同じ存在ではないのかもとの危惧もあった。


 何より、死に至る直前の状態を再現しただけの存在だと、既に出ている結果――「死」という結果に収束するのではないかと危惧していたのだけれど、今のところその兆候はない。

 もちろん、身体や魂や精神が正常な範囲にあるというだけで、因果のようなものまでは見えない――感覚的にしか分からないので、それを保証するものは何も無い。

 一度、《蘇生》の現場を見て比較した方がいいかもしれない。


 とにかく、不安そうにしている彼らには悪いけれど、私にも上手く説明できそうにない。

 ただ、突然死んだりゾンビになったりはしないと思うので安心してほしいとは伝えておいた。


 ……そのひと言で、全ての不安が消えたように喜ぶ人たちに、私の方が不安にさせられた。



 とにかく、この件については固く口止めはしておいたけれど、バレた時のことを考えて言い訳を考えておいた方がいいかもしれない。




 それはさておき、生き返った彼らを元いた場所に戻すわけにはいかないので、一旦帝国領辺境に用意した集落へ連れて行って、諸々の準備ができ次第湯の川に連れて行くことになる。


 これは、彼らが私に繋がる手掛かりになっては困る――というのが理由のひとつ。

 辺境の町のように変装もしていないしね。


 それに、私だけでなく、彼ら自身やその家族にまで被害が及ぶこともあるかもしれないので、やむを得ない措置だ。


 もちろん、私に関わることだけなら記憶を奪ってしまえば済むことなのだけれど、彼らが死んでいたり、行方不明になっていた事実は消せない。

 いや、世界を改竄すれば可能かもしれないけれど、認識外のことがどうなるかの保証はないので、控えるべきだと判断した。


 そんなわけで「貴方たちは、これから新しい人生を歩むことになる」と伝えたのだけれど、当然のように「最後にひと目だけでも家族に会いたい」とか「せめて別れを言いたい」などの要望が出た。

 家族と離れたくないという不満が出なかったのは意外だった。



 もちろん、家族と引き離されることのつらさは私もよく知っている。

 なので、二時間の猶予を与えて、その間に説得できれば、家族も連れていくことも許可した。


 これはもう、帝国からすれば手の込んだ集団拉致事件である。

 しかし、私には家族を無理矢理引き離すことはできなかったのだから仕方がない。


 なお、説得できなければ、その間の家族の記憶は奪わせてもらうし、二時間後に戻ってこないとか逃げれば殺す。

 最後の別れだとか、そういうところの趣旨とは少し違うものになるけれど、私の平穏――ひいては世界の平穏には代えられない。



 もっとも、そうやって心配していたような事態になることはなかった。

 説得に出かけた人たちの成功率は100%――いや、自分の家族だけでなく、友人やその家族まで説得していた人もいたので、最終的に回収した人数は当初の1000%以上になった。


 明らかに想定外だけれど、家族に限定しなかった私の落ち度でもあるし、何より彼らが頑張った結果なので認めざるを得ない。



 後で聞いた話では、説得に向かった彼らは不思議な魅力に満ちていて、その話にも不思議な説得力があったそうだ。


 死んでも治らないものも多い中、蘇れば増えるものもあるのだろうか?


 そういえば、聖人も死んでようやく一人前みたいなところがあるし……。

 そう思うと、違う意味で心配になってくる。


◇◇◇


 後日、帝国領の辺境で起きた村人の大量失踪事件は、邪教徒の犯行ということになっていた。


 つまり、私に嫌疑が及ぶ心配はないということだ。

 これも日頃の行いが良いせいか。



 とにかく、これで帝国領での活動は一旦休止にする。

 さすがに最後の方は少しはしゃぎすぎた。

 しばらくは大人しくしておこう。


 とはいえ、ユウジさんたちの動向はチェックしておかなければいけないし、魔王領への侵攻の兆しが見えればその限りではなくなるけれど。



 ひとまず、ノワールたちゴニンジャーも一旦引き揚げさせて、湯の川でのイベント――採用大選考会と私の誕生祭に臨む。

 そこで有望な人を見繕って、ゴニンジャーの増員もしたいと思う。


 それが終われば、私が抱えている問題の数は一気に減る。

 多分。

 減ればいいなあ……。



 暴力で片がつく問題は――相手次第のところもあるけれど、とにかく殴ればいいだけだし、勝敗の判定も単純なので簡単だ。

 単純に勝てばいいというものではないというところが面倒だけれど。


 しかし、頭を使って解決する問題――戦略とでもいうのだろうか、そっちはどうしても判断が甘くなったり、遅れたりしがちになっているように思う。

 とにかく、情報収集と分析能力の底上げが急務だと思う。



 それに、今回は領域の使い方の実験的な意味合いも強かったので、いつも以上に苦労した。


 総評としては、「問題はひとつずつ片付けた方が楽だ」というところに落ち着くのだろう。


 もう少し上手く使えるならともかく、現状の問題の多さを考えれば、不慣れな能力に頼るのは逆に更なる問題を生み出す原因にもなりかねない。


 ということで、アイリスたちには報告する必要も無いだろう。

 アイリスたちも忙しいのだ。

 そんな身のない話に付き合わせるのは気の毒だ。

 話す必要ができた時に話せばいい。


 ということで、この件は終わりにしようと思う。

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