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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第六章 邪神さんの子育て大作戦
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17 裏事情

 ゴニンジャーの集めてきた難民や子供たちと、回収した日本人たちの移送の日が決まった。


 当初の予定より早くなったけれど、ゴニンジャーが集めてきた情報の中に、「不死の大魔王の領域下に落ちた町の奪還」があったことによる措置だ。


 実現の可能性はまだ不明で、実現したとしても地勢的に直接巻き込まれることはないと思うけれど、魔物の大移動が起きたりという可能性は排除できないし、他にもいくつか面白くない情報もある。

 相次ぐ砦喪失の損害を補填するための増税の予定――はいいとして、中央に買い戻される奴隷が減ったことによる亜人さん狩りの強化とか。


 ……私のせいじゃないよ?

 いくら何でも、私の活動の開始からこの措置というか決定までが早すぎるし、前々からあった案とかだと思う。

 いや、私のせいでも構わないけれど、とにかく、万一を考えて、彼らの回収と、被害に遭いそうな所に住んでいる人たちに、湯の川への受け容れも含めた避難勧告を出すことにした。



 というか、こんな最上級の軍事機密を、ゴニンジャーがどうやって入手してきたのかは気になるところだけれど、この世界の人は結構莫迦なので、思わぬ抜け道のようなものがあるのかもしれない。


 もっとも、ノワールが言うには、特別なことは何もやっていないそうだけれど。


 とにかく、優秀なのはいいことだ。


 城内勤務の選考会はまだもう少し先だけれど、彼女たちについては私の一存で採用したい――もちろん、彼女たちが望むならだけれど。


 なお、直接提案してみたところ、「光栄ですにゃー」とか「有り難き幸せですにゃー」と、あまり光栄でも有り難そうでもない口調で承諾された。

 恐らく、彼女たちの個性の問題だと思うけれど、もしかすると、同胞の救出に私を利用するために、仕方なく承諾したのかもしれない。


 もっとも、私も神だ何だと一方的に崇められるより、ギブアンドテイクの関係の方が好ましいので構わないのだけれど。




 それはさておき、不死の大魔王との戦争になるとしても、この町がすぐに戦場になるわけではない。

 そうなったとしても、子供たちを守り抜くだけなら簡単だろう。


 しかし、否応なしに増してくるであろう戦争の雰囲気が子供たちに与える影響を考えれば、この町に残すメリットは何も無い。

 せっかく子供たちの状態も良くなってきたのに、わざわざつらい記憶を思い出させるようなことをする必要は無いのだ。


 まだまだ心配ではあるけれど、当初ほどの不安定さもないし、湯の川でも受け容れ準備はできているとの報告を受けているので、良い機会だと割り切ることにした。


 などと、子供たちに話したところ、大泣きされた。

 どうやら私の言葉が足りなかったせいで、捨てられると勘違いしてしまったらしい。


 必死に説明を続けて、どうにか事情を理解してもらったけれど、その日は夜遅くまで甘えられるはめになった。

 可愛いからいいのだけれど。



 問題は、日本人の扱いだ。


 まず間違いなく、この町の日本人たちにも動員がかかるだろう。

 このどさくさに紛れて、一斉回収の機会とするのもひとつの手だけれど、上手く立ち回らないと、ただでさえ低い信用を完全に失いかねない。


 とにかく、難しい年頃の子たちが多いのだ。


 安全なところから死体を回収しているだけでは、信頼は得られないだろう。

 信頼を得るためには私も帯同するべきなのかもしれないけれど、戦争で手を抜いているのがバレれば信用どころではないし、下手に活躍して目立つわけにもいかない。



 もっとも、現在ゴニンジャーに頼んでいる調査の結果次第では、この町での活動を終了することができる。


 確定ではないけれど、ユウジさんが私と同郷、若しくは極めて近似した日本の出身であることが分かった。

 完全に一致しているかどうかの証明は、不可能に近い――相違点があって初めて別の世界と認定できるからだ。


 それでも、近い世界というだけでも何かの手掛かりになるのではないかと、ユウジさんの召喚された施設の特定や、可能であれば術式や状況などの情報を集めるように頼んでいる。


 とはいえ、要人や特徴的な人物の調査ならまだしも、その他大勢に分類されるユウジさんの情報を探るのは、ゴニンジャーの能力をもってしても難しいそうだ。

 関係者も、ユウジさんのことをその他大勢としか認識していないようだし、当のユウジさん自身も、召喚された当時のことは混乱もあってよく覚えていないそうなので仕方がない。


 とにかく、結果が出るまでは保険はかけておかなくてはならない。



 そのためにも、彼らの育成計画を前倒しする必要がある。

 まだ死んでもらっては困るのだ。



 少なくとも、いくら帝国がろくでなしとはいっても、今のままで戦場に送り込むことは考えられない。

 役に立たなくても、食料などの物資を消費するのだ。

 帝国にそれだけの余力があれば別だけれど、常識的に考えればその可能性は少ない。


 現実的には、徴用されても後方支援だろう。

 前線ほど危険は無い――いや、補給線を叩くのは常套手段だし、《転移》や対象を不可視化する《透過》などの手段もあることを考えれば、前線より安全とは限らない。


 もちろん、使い捨ての駒として前線に送られる可能性もなくはないけれど、奴隷と違って強制することはできない以上、そういう士気を下げるような使い方は、ここぞというタイミングで、それしか選択肢が無いという雰囲気を作って行うだろう。


 いや、この世界の人って結構莫迦だし、そんなことを一切考えずにやらかすこともあり得る。


 どこにいても危険は変わらないのであれば、戦力の充実している前線の方がいい。

 それも、使い捨てにされない程度の地位まで引き上げてだ。


 とにかく、ひたすらレベルを上げさせて、何でもいいので実績を積ませて、不足しているパーティーメンバーの補充をさせる。

 これしかない。


 このままユウジさんたちと行動を共にした方がいいのかもしれないけれど、何をどうするのが正解なのかは今の段階では分からないので、何にでも対応できるように立ち回らなければならない。



 しかし、この件に加えて、魔族領での活動に、城内勤務者の選考会や私の誕生会――いや、誕生祭というべきか、そしてアイドル活動と、あれこれと抱え込みすぎている気がする。


 一度に複数のことを処理するのは昔から苦手だったけれど、それは進化というか、不本意ながら神化した今でも変わらない。


 種子としての能力にしても、システムのように広範囲にだとか長時間の連続行使は苦手だし、代わりに出力や干渉できる深度は比べ物にならない。

 それが良いか悪いかは別として、恐らく、それが私の個性とか特性なのだろう。


 つまり、問題はひとつだけに絞るか、若しくは順番に片づけるべきなのだろう。



 しかし、それが分かっていてもなお間違いを選ぶしかないこともある。

 目的や手段が正しいからといって、結果も正しいものになるとは限らないのが世の常だ。


 要は、結果を出せばよかろうなのだ。


 それに、ひとつずつ順番にやっているつもりでも、予想外の事態に迷走するのだ。

 むしろ、最初から迷走するつもりでやれば、逆に素直に進むのかもしれない。


 とにかく、決断すること、そして行動しなければ何も始まらない。


◇◇◇


 そんなわけで、ユウジさんたちの訓練を、限界の更に限界まで突き詰める。


 どうせ見られていないので気づかれないだろうと、前日のうちにこっそり迷宮に行って、大量の魔物を仕入れてきて――大半はゴブリンだけれど、少し大きいのや色違いのも交ぜてみた。


 それを、彼らの処理能力より若干多めに放り込む。

 ユウジさんたちの成長速度は上がったものの、負担も増えた。

 当然、危ない場面も増える。


 しかし、危なくなるとすぐに私が助けるとは思わないように、そして、どんな状況でも生き抜けるように、手足がもげようが胴体に風穴が空こうが、死ぬ間際まで手は出さない。



 結果どうなったか。


 戦闘能力は上がったのかもしれないけれど、人としての尊厳を失い、何かの(たが)が外れた狂戦士たちが誕生した。


 どうやらやりすぎたらしい。


 というか、人間を追い詰めすぎるとどうなるかは魔族領で見てきたはずなのに、すっかり失念していた。

 さすがに自らの汚物を投げつけるようなことにはなっていないけれど、準備万端と得意げな顔で布オムツを装備してきたあたり、もう手遅れな気がする。


 それに、彼らの《投擲》スキルもかなり上がって――最早魔球を投げるまでに成長しているので、危険極まりない状態になっている。

 超剛速球に、変化球、消えたり爆ぜたりする魔球――もし彼らが日本に帰ることができたなら、ベースボールで名投手になることは間違いない――いや、デッドボールしか投げないので駄目かもしれない。


 それはさておき、当初の目的からすると、彼らを強くするという点はクリアしているものの、私の評価の向上という点では疑問が残る――というか、これは駄目だろう。



 しかし、失敗したと言い切るにはまだ早い。

 失敗は誰にでもあることだし、そこからどう挽回するかが重要なのだ。

 今回の件でも、まだ挽回の余地は残されているはずだ。


 とはいえ、人の心を取り戻させるには何をすればいいのかよく分からない。

 そんなことができるなら、自分でやっている。


 常々、妹たちから「お兄ちゃんは人として大事なものが欠落している」と言われていた上に、例の事件で人間性をごっそり喪失しているらしい私には、他人の心なんて分からないのだ。

 というか、分かる人なんているの?

 世の中争いばかりじゃないか。



 しかし、適当に口にしてみた「区切り」という言葉が効果的だったのか、多少は理性のある狂戦士にはなったと思う。

 この調子なら、人の群れに戻せば、いつかは人の心を取り戻せるかもしれない。



 ユウジさんたちが仲間を喪った――実際には生き返っていて、隠れ里で同様の日本人たちとの生活にもすっかり馴染んでいるけれど――その因縁の地には、お誂え向きに分かりやすいボス的存在がいる。


 ひと目で普通のゴブリンとは違うと分かる――例えるなら、ひとり薄暗い部屋でインターネットとかゲームをしているもやしっ子(※個人の主観です)と、ムキムキでテカテカのボディービルダーくらいの違いがある。


 その存在のおかげでとでもいうか、集落の規模も平均的なゴブリンの集落の数倍はある。

 敵の数も、ちょっとした軍勢といってもいい。



 そこにたった4人で殴り込みをかける――というのに、ユウジさんたちは落ち着き払っている。


 私がいるから死ぬことはないと安心しているのではなく、戦闘になると、彼らはゴブリンを殺す機械のようになってしまうのだ。



 そこには恐怖も高揚も何も無い。

 彼らは、レベルアップで得た身体能力以外にも、万を超えるゴブリンを屠ってきた経験から、極めて効率的に、残酷に、鮮やかに殺すようになっていた。

 そして、それを目の当たりにしたゴブリンたちは、恐怖に駆られて逃げ腰になってしまうので、数的優位も役に立たない単なる烏合の衆と化すのだ。



 失禁などを気にもせず、感情のない声で笑いながらゴブリンを血祭りにあげる彼らには、私も恐怖を覚えざるを得ない。

 もちろん、「こんなつもりはなかった」と謝罪しても責任を取れるわけでもないので、予定どおりという体を装うしかない。



 とにかく、彼らは内心はどうあれ、今日も淡々と汚いレッドカーペットを敷く作業を続けている。

 ゴブリンの射手や魔法使いはこっそり間引いているけれど、数こそ多いものの連携を取っているわけでもないので、特に必要無いかもしれない。


 それでも、今日くらいは漏らさずに終わってほしいので、このまま続けることにする。



 王様気取り――お山の大将という表現がぴったりの、少し大きなゴブリンも見かけ倒しだった。


 硬い前衛を避けて後衛を狙うという発想は、ゴブリンの知能レベルからすると悪くなかった。

 というか、誰だって一度は考えるだろう。


 しかし、有効からこそ基本的戦術のひとつとして今も採用されていて、対応策も研究されているのだ。

 そんなことも分からないのか、それとも今まではこれが通用していたのか。



 残念ながら、ユウジさんたちにとって、ゴブリンが空から降ってくるのは初めての経験ではない。


 むしろ、ゴブリン以外もいろいろ降ってくるし、最近では、降ってきたゴブリンを直で打ち返すまである。


 逆に、ゴブリンの親玉にとっては全く怯むことなく、迎撃までしてくる相手は初めてだったようだ。

 とはいえ、生来の特性もスキルもないので、空中での姿勢制御などまともにできるはずがない。


 それに、これ見よがしに振り回していた無駄に大きな剣も姿勢制御の邪魔になっているようで、結局すぐに手放していた。

 こけおどしかよ。



 まあ、大きな武器にも、抑止力だとか浪漫があるのは理解している。

 ただし、間合いの操作ができれば、実際に使うのは相手を殺せる最小の物で充分なのだ。

 次点でダメージを与えられる最小の物――もちろん、最善は戦わないことだけれど、ここにいるゴブリンのように話も通じず、住み分けもできないならどうしようもない。


 などと思考が逸れている間にも、ゴブリンの親玉は、真っ赤なソースのかかった串カツのようになっていた。

 気持ち悪い。



 そして、彼らの力の象徴でもあった大剣を掲げるユウジさん――はいいとして、同様に串刺しになったゴブリンの親玉を掲げるサヤさんは、立派な蛮族だった。


 完全に戦意を失ったゴブリンを見れば、それが効果的だったことは明白だけれど、少しばかり野蛮な気がする。


 どうしてこんなことになってしまったのか。

 というか、モザイクが必要なそれを、嬉しそうに振りながら寄ってこないでほしい。



 しかし、意外なことに、彼らはゴブリンの非戦闘員を殺すことを躊躇った。


 特に妊婦や子供を殺すことに抵抗を覚えているようで、無言で「やらなきゃ駄目ですか?」というような視線を向けてきた。

 なまじ人間に近い姿をしているからだろうか、随分と変なところで感傷的になるものだ。


 姿は似ていても、魂や精神性は全く別の生き物だ。


 蚊やゴキ〇リの卵とか幼虫を殺すのに罪悪感を覚えるのはおかしな話で、もしもそれらが人の姿に近いものに進化しても――想像したら気持ち悪くなってきた。



 まあ、期せずして彼らが人間性を取り戻せたのは僥倖(ぎょうこう)というべきか、私の普段の行いが良いからか。


 とはいえ、極端から極端に走るのは、日本人の――人間の悪い癖なので、適当にフォローする必要がある。



 こんなことに正解はない――あったとしても、何事にも例外はあるのだ。


 決断して行動する。

 それが正しいとか正しくないとかはさして重要ではない。


 神だって間違えるのだ。

 人間が完璧である必要などない。


 全ての責任は、神に取らせればいいのだ。



 などと考えながら思いつくままに喋ったけれど、上手く伝わったかは分からない。

 後になって朔に任せるべきだったと気づいたけれど、彼らの様子を見るに、勢いで押し通せたようなので良しとする。



 何にしても、これでひとまずは彼らのことは一段落した。

 後のことは成り行き次第。


 その前に、ひとつ野暮用を済ませておこうと思う。

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