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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第六章 邪神さんの子育て大作戦
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14 再会

 これまで回収した日本人たちの中に、私と同郷の人はいなかった。


 確認方法は至って簡単で、いくつかの常識レベルの質問するだけ。

 例えば、元号とか有名人の名前などの一般常識的なものや、文化やスポーツなど、一般常識に疎い子用のもので、なおかつ私に正解が分かるものである。



 ただ、彼らが例外なく高レベルの《翻訳》スキルを所持していることが問題だった。


 元々、《翻訳》スキル自体が所有率の高いものではあるのだけれど、その大半は、言語の差を埋める程度の低いレベルでしかない。

 稀に、物好きがレアな言語まで訳せる中位のレベルまで伸ばすそうだけれど、基本的には好き好んで習得されるものではない。


 しかし、異世界から召喚された日本人たちには標準装備らしく、さらに、低い人でも7という高レベルのものがついている始末である。


 私がこの世界に来た当初、クリスに貰った翻訳スキルの付加された指輪と同レベルである。

 着けていると能力が使えなくなるし、すぐに言語知識を奪ったので頼らなくなったけれど、あれの存在には助けられた。

 ありがとうございます。

 恩は返すけれど、変な物を作るのはほどほどにしてください。




 さておき、まだ私自身が日本人たちから聞き取りをしていた頃の話だ。


 日本人同士が、お互いに日本語で会話しているはずなのに、話が噛み合っていない。

 それに気づいているのが私だけだったことから、違和感を抱いた。


 いや、正確には朔が気づいたのだけれど。

 その朔にしても、クリスの仮説が無ければ気づかなかったかもしれないらしい。



 例えば、私が「召喚された時の元号は?」と問いかけた時に、ひとり(甲)はAと答えて、もうひとり(乙)がBと答えても、その両者の認識が大きく違っていなければ、甲には乙の回答がAだと聞こえて、乙には甲の回答がBだと聞こえているようだった。


 さすがに日本人と異世界人くらいに認識が違えば通じなくなるものもあるようだけれど、どうやら《翻訳》スキルは言語の違いを埋めるだけでなく、本人や相手に理解不能な言葉まで、無理矢理それに近い言葉や概念に置き換えられている。


 そして、甲と乙以外の人物がそれを聞いていたとしても、よほど注意して聞いていないと、甲と乙は「A」や「B」ではなく、「同じこと」を言っていると解釈してしまうようだ。

 私も、興味が無いことだと聞き流してしまうので、こういった調査を行わなければ気づかなかったかもしれない。



 更に調査を進めていくと、それが聴覚だけではなく視覚にも働いていることが分かった。


 試しに、日本語での記述形式で問答を行ったところ、さきの例えと同じように、彼らの認識と記述の間には食い違いがあったのだ。


 特に、固有名詞はかなり捻じ曲げられるようで、自分や相手の知識の中で共通点が多いものが同一のものとして判断される。


 つまり、《翻訳》スキルとは、認識に働くものではないかと思われる。

 それが、スキル保有者になのか、スキル保有者と対象の間になのかまでは分からないと朔やクリスは言っていたけれど、あまり高度な話になると私には理解できない。

 これも《翻訳》スキルのせいか?

 時折、みんなが「こいつは何を言っているんだ?」というような顔で私を見るのも、私の言葉に《翻訳》スキルが上手く働かないせいか?


 とにかく、これはある意味、誤解発生スキルといってもいい。


 私のやることなすこと全てがあらぬ方へ向かうのは、このスキルが原因なのかもしれない。

 管理者かどうかは分からないけれど、アナスタシアさん辺りにクレームを入れておいた方がいいのだろうか?

 でも、あの人何だか絡みにくいし、この件は保留にしておこう。



 それはさておき、私のいた日本との同一判定は、私の問いに対して、その答え以外にその問いも記述させることで正確性を上げることにした。


 スキル持ちの人からすると意味不明なやり取りだったと思うけれど、私の問いが正確に理解できているかの確認も必要なのだ。


 とはいえ、これでようやく試験方法が確立しただけで、肝心の当たりを引かなければ意味が無い。


 元から確率が低いだろうとは覚悟していたけれど、五十人以上に当たってヒットなしどころか被りもなし。

 確率の計算とかは分からないけれど、異世界日本とは一体いくつ存在しているのか、あと何人回収すれば当たるのかを考えると気が重くなる。


◇◇◇


 そんな折、ホテルの支配人さんが、直々に私に来客があると伝えに来た。


 訪ねてきたのは、以前ストーキングしたパーティーの生き残りの少年ひとりに少女がふたり。


 この数日、領域を展開して町の様子を探っていた時に、彼らが走り回っているのを認識していた。

 どうやら、もうひとりいた少女の怪我が完治していないようで、その治療費を稼ぐためにといったところか。


 そういえば、町中で死んだ日本人の回収のことは考えていなかったと、今更ながらに思い至った。


 町の外ばかり探査していたけれど、「治療の甲斐もなく」ということもあるし、町中で死ぬこともあり得るのだ。



 それは今はいいとして、日頃からいろいろと便宜を図ってくれている支配人さんが直々に呼びに来たのだから、彼を待たせるのも悪い。


「少し行ってくる――」


 不安そうに見上げてくる子供たちにそう告げようとしたところで、ふと思いついた。


 そろそろ外に出るリハビリを始めてもいいのではないか?


 虎人の子たちは、総支配人さんとの約束もあって、ホテル内を連れて歩けないけれど、エルフの子供たちについては言及されていない。


 何より、虎人の子たちがそうだったように、自分よりテンパっている相手を見ると、逆に落ち着いたりするものだ。

 そういう意味では、ロビーに来ている少年たちには余裕が全く無く、お(あつら)え向きだといえる。



「やっぱり、貴方たちも来なさい。悪いけれど、【リンリン】と【フェイフェイ】はお留守番ね。帰ってきたらその分遊んであげるから、良い子にしていてね」


 そう言って、虎人の子たちを優しく撫でる。

 しょんぼりしながらも、撫でられて嬉しそうにしている子供たちが可愛くて離れ難い。


 エルフの子供たちは、私たちにはかなり慣れてきたけれど、他人はまだ怖いのだろう。

 不安そうにしていた子供たちの顔が更に不安そうに――というか、恐怖に歪んでいた。


 それでも、いずれは私以外の人とも接していかなければならないのだし、マリアベルの言葉を信じるなら、彼女と一緒にいて大丈夫なのだから、大抵の相手は大丈夫なはずだ。


 できれば虎人の子たちにも馴致(じゅんち)訓練を受けさせたいところなのだけれど、この子たちの愛らしさなら、パンダのような名前のとおりに、湯の川でも人気者になるであろうことは間違いない。

 ゆえに心配は要らない。


 万一虐められたら虐められたで、手元に置く口実にもなるか?



「おいで。貴方たちに意地悪する人はいないから――させないから、安心しなさい」


 私と離れることと、外に出る恐怖を天秤にかければ、子供たちが拒否することはないとは思う。

 そもそも、良くも悪くも、今まで指示に背いたことなど一度も無い。


 それでも、可能な限り不安は取り除いておいてあげたい。

 事実、どんなに渋っていても、おいでと声をかけた途端にとてとてと駆け寄ってきて、私の手とか指を控え目に握ってくる。

 可愛いなあ、もう!


 このままムツ〇ロウさん並に撫で繰り回したいところだけれど、虎人の子たちが不満そうにしているし、最低限の面目は保たなくてはならない。


 最早、「甘えさせてもいい時間」というのは「甘やかしもていい時間」になってしまっている気がするけれど、子供たちに悪影響が出ていなければ問題は無い。


◇◇◇


 そんなこんなで準備に少し時間がかかってしまったけれど、日本人の少年少女たちは文句ひとつ言わずに待っていた。


 というか、私に何らかの頼みごとをする緊張感と、ホテルの雰囲気に呑まれて、ガチガチになっていたというべきか。



「こんにちは。初めまして、ユノです」


 豪華なホテルの中にあってなお、ひと際目立つ白銀の鎧を着ているので人違いはしないと思うけれど、彼らの緊張を解すためにも、私の方から挨拶をした。


 しかし、挨拶を返してくるどころか、何のリアクションもない。

 さすがにテンパりすぎじゃないかな?



「立ち話も何ですから、カフェにでも。――支配人、構わないかな?」

「もちろんでございます」


 この微妙な緊張感で子供たちを不安にさせるのも嫌なので、ひとまず場所を移そうと提案する。

 支配人さんからはノータイムで返事が戻ってきた。

 奴隷とテーブルを一緒にすると嫌な顔をする人も多い中、彼は何も問題は無いとばかりに、私をエスコートまでしてくれる。



「ありがとう。――お客人は緊張しているみたいだから、案内してあげて」


 この支配人や従業員は、みんなは良い人たちだ。

 もし私が帝国を滅ぼすような展開になったとしても、彼らは殺さないようにしようと思う。


 それはともかく、子供たちのリハビリのために、少し無茶振りをしてみた。



「「「はい! ユノ様!」」」


 しかし、子供たちからは想像以上に良い反応が返ってきた。


 私以外と目を合わせようとしなかったり、若干震えていたりと、無理をしているのは明らかである。

 声が大きかったのも、気持ちを奮い立たせるためなのだろう。


 そうやって健気に頑張る姿には、胸がキュンキュンしてしまう。


 こんなにに良い子たちにトラウマを植え付けるなんて、信じられない人間もいるものだ。

 などと、腹は立つものの私が報復するのも筋違いだし、せめて罰が当たるように祈っておいた。


◇◇◇


 子供たちにご褒美代わりのおやつを与えながら、彼らの話を黙って聞いた。



 ひとりきりでの交渉に、そして子供たちの前で格好悪いところを見せられないという緊張はあるけれど、それ以上に彼らが緊張していて勝手に墓穴を掘っていく。


 彼らが至って真剣なことや、必死なことは伝わってくるものの、話は要領を得ないし、目的というか着地点もはっきりしない。


 どうも緊張しすぎて空回りしている感じだけれど、緊張を解してあげようと冗談ぽく口を挟んでみても、余計に焦らせてしまうだけだった。



『ゴメンね、君たちの状況は大体知っていたんだ』


 このままでは埒が明かないと判断したか、朔が良い感じで口を出してきた。


 そういえば、この子たちにはバレてしまうので忘れていたけれど、普通は私と私の声真似をしている朔との判別は、できない人の方が多い。


 それに、どのみち最終的には私が責任を取るだけのことなので、途中で朔を頼るのは悪いことではない。


 子供たちもこれがズルだとは思わないだろう。


 そんな感じで、彼らのことは噂程度に聞いていたことにして、話を進めてさっさと交渉に入ろうとした――のだけれど、彼らのリーダー格であるユウジさんが、不必要な情報まで一生懸命に話すので、お茶もすっかり冷めてしまった。



 ちなみに、彼の関心事は重傷を負った仲間を助けることらしく、そこに熱が入るのは、本心から助けたいと思っているためだろう。

 そのために交渉の成功率を上げようと躍起になっているようだけれど、どんな美談でも(くど)くなれば嫌になってくるものだ。


 もっとも、私にとっては、他人の話を聞き流すことなど朝飯前である。

 適当に相槌を打ちながら、子供たちの相手をしていたので何も問題は無い。


 ここでの今後の活動を考えると、交渉前に悪いイメージを与えてはいけないのは、私も同じなのだ。

 なお、付き添いの少女ふたりは、飲食に夢中で全く役に立っていなかった。


 彼女たちは、何をしについてきたのか。




 ようやくユウジさんの話も一段落して、これで交渉を始められる――と思った途端、「「「お願いします!」」」と3人揃って立ち上がって、勢いよく頭を下げられた。


 驚くほど息がピッタリで、ここだけ打ち合わせとか練習してきたであろうことは一目瞭然だった。


 なぜだ――と思ったのは私だけではない。


 朔も、話の流れをぶった切って突然頭を下げた――いきなり泣き落としというか拝み倒しに入った彼らに困惑している。



 もしかすると、あんな目に遭っても、まだ日本にいた時と同じ感覚でいるのだろうか。


 困ったときはお互い様とか、助け合うことが当たり前だとか、そんな甘い考えを持っているのだろうか。

 彼らの日本はそんなに良い世界だったのか?


 私の居た日本は、性善説を前提とした、一見すると平和な世界だった。

 しかし、それを理解していないか、曲解している一部の思慮の足りない人たちが、いろいろと台無しにしているような国でもあった。

 もちろん、良い人も多かったけれど、目立つのは声が大きい変な人なんだよね。


 というか、バケツを被った人間が、そんなお人好しに見えるのだろうか?

 私は違う意味でも人でなしだというのに。


 見方を変えれば、彼らにはそうやって誠意を見せる以外に手段がないとも考えられるし、私も誠実な人は嫌いではない――むしろ、好ましいと思うけれど、ここでは誠意ではなくただの莫迦だと思う。


 そして、彼らの考えなしの行動のせいで子供たちも怖がっているし、周りの人たちも何事かと驚いてこちらを見ている。

 もちろん、私も困っている。


 善良な日本人なら、他人の迷惑を考えるべきだ。




「事情は分かったから、とりあえず座って」


 しかし、ここで私が不機嫌を表に出したりすると、事態は悪化する。

 大人の余裕で、周りの見えていない少年たちに、一旦落ち着くように促した。


『うーん……。言いたいことはいろいろとあるんだけど、何があっても、自分たちを安売りしちゃ駄目だよ』


 結論を焦る彼らが渋々席に着いたところで、朔がゆっくりと話し始めた。


『切羽詰まってるのは分かるけど、相手の条件を何も聞かない状態で頭を下げるって、白紙委任を渡すみたいなものだよ? 仲間が本当に大事なら、安易な自己犠牲なんかに逃げちゃ駄目ダメ。同じ自己犠牲でも、彼女はその時にできる最善を尽くしたんじゃないの? 彼女がそうまでして守ったものを君たちが祖末に扱ったりしたら、彼女の覚悟が報われないと思わない?』


 朔が、まるで子供を諭すかのような口調で、正論という名の凶器で滅多打ちにする。

 彼らの年頃なら、反発のひとつもしたくなるものだろう。


 しかし、覚悟――自分が痛みを負う覚悟ではなく、相手の決意を踏み躙ることを覚悟かと問われてしまうと、言い返せないらしい。



『逆の立場で考えて――仲間が自分のために、私みたいな不審人物に奴隷のように扱われてたらってどう思う? そんなことのために助けたんじゃないって思わない?』


 他人のために自分が犠牲になる、というのは案外難しいものだ。

 助けたつもりが、かえって傷付けていることなど珍しくもない。


 サヤという少女も、最初から自分が犠牲になるつもりはなく、最善を尽くした結果そうなっただけ――というのが正確なところだろう。

 なので、朔の言っていることも少し的外れな感じはするけれど、彼らに今一度考えさせるという意味では、良い問いかけだと思う。



「――まあでも、仲間を助けたいって気持ちは分かったから」


 とりあえず、彼らをこれ以上追い詰める意味は無いし、仲間の怪我の件に区切りをつけなければまともに話もできそうにない。


 しかし、そんな状況の彼らを利用する作戦をふと思いついたので、それに向けて話をまとめに入る。



 おもむろに一本の小瓶を取り出して、テーブルの上にわざとらしく音がするように置く。


「――これは?」


 当然のように、ユウジさんが食いつく。

 この流れで出すのだから、これが何なのかは薄々ながらも察しているはずだ。

 少なくとも、調味料だとは思わないだろう。


 お笑いは好きだけれど、TPOくらいはわきまえている。



 私が取り出したのは「エリクサーA」――「エリクサーR」の精製に失敗したときに出来る、いわば劣化版である。

 とはいえ、これでも充分――というか、湯の川で病院などに配備される予定の、蘇生能力までは無い物だ。


 ちなみに、Aはアメリカンの略である。

 エリクサーRとは比べ物にならないくらいに薄いので私が名付けたのだけれど、もちろん誰にも言っていない。

 この世界にアメリカという国はないと思うし。



 さておき、Rに比べれば劣るといっても、エリクサーの一種である。

 ただの人間が対象なら、失った手足がリハビリも要らない状態で復元するだろう。

 臨床試験はまだだけれど、きっと大丈夫だとクリスも言っていた。

 少なくとも死にはしないだろう。



 とにかく、この正体不明の薬をそのまま使う莫迦はいないはずだ。

 何しろ、七色に輝く液体が入っているのだから。


 もちろん、彼らが《鑑定》できるような品物ではないので、《鑑定》のできる店で見てもらうか、高レベルの《鑑定》スキル持ちに頼むしかない。

 もっとも、この町にはそんな人はいないようだけれど、それでも高位の回復薬であることと、私がそれを彼らに譲った事実は広まってくれるだろう。


 これで死神の名が消えたり、そこまでいかなくても良い噂が広まったりしてくれれば、今後の活動がしやすくなるかもしれない。

 そして、彼ら同様に薬を求めてくる人もいるかもしれない。


 要は撒き餌である。


 しかも、撒き餌でありながら目の前の3人、いや被験者の少女も合わせれば4人とも釣りあげられるのはまず間違いない。

 我ながら素晴らしい作戦を閃いたものだ。




 しかし、何事も頭の中で考えたとおりには行かないのが世の常だ。


 そんな甘い世界なら、私も彼らも異世界になんて来ていないのだから。


 それでも、この件に関してはどう転んでも私が不利になるような要素は無いと思う。

 朔も、アイデア自体は良いと言っている。



 とはいえ、薬に釣られて一気に人が押し寄せたりすると面倒だけれど、多少強引でも情報収集が終われば姿を消してしまえばいいのだ。

 その後は、アルや王国の手を借りるという手もある。

 何にしても、少なくとも彼らに恩を売ることはできたと思う。


「薬。これをあげるから、その子に飲ませるなり、患部に塗るなり、どちらでもいいから一本きちんと使いきること。信じられないならこの話はお仕舞い。それを持って今日は帰りなさい。貴方たちにも他にもすることがあるでしょう?」



 特に返事はなかったけれど、私が去った後、彼らは何の疑いもなくその薬を手に取った。

 まあ、取らないという選択肢は無いのだけれど。


 タダより高い物はない――彼らはその意味を理解しているだろうか?

 もちろん、必要以上に吹っかけるつもりはないけれど、今後は完全に私のペースで話を進められるだろう。

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