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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第六章 邪神さんの子育て大作戦
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11 変身

 奴隷商で買った奴隷のうち、経過観察が必要なエルフの子供5人と、別の意味で経過観察が必要なモフモフ姉弟を連れて、ホテルに戻る。


 もちろん、ホテルの支配人さんに話は通して許可を貰っているし、その分の料金も払ってのことだ。



 ただ、虎人の子に関しては極力部屋から出さないように言われている。

 というのも、亜人とか獣人差別的な意味ではなくて、食堂やラウンジなどでの抜け毛が問題という、衛生的な意味でだ。


 少々残念な感はあるけれど、それでもホテル側として最大限の譲歩をしてくれているのだろう。

 それに、あまり我儘を言って、追い出されるのは避けたい。



 なお、彼ら以外の奴隷は特に問題を抱えていなかったので、一旦ノワールたちの集めた奴隷や難民たちと合流させた。

 そこで事情を聞いた後で、希望者は湯の川に受け容れる予定である。


 その都度行わないのは、湯の川ではひとりでも新入りが来ると、宴会が始まるからだ。


 もちろん、宴会が駄目だというわけではない。

 しかし、一般的な食糧の大半はまだアルに依存しているところが大きくて、毎日のようにやられると、さすがに備蓄量が心許ない。

 そうでなくても、アルも忙しいのだし、あまり負担にならないようにしなければいけないと思う。


 それに、あまりアルのフラストレーションが溜まると、何らかの形で私に返ってくるという理由もある。




 ホテルの従業員さんの手も借りて、子供たちを部屋に運び込み終えると、ようやくひと息吐けた。


 エルフの子供たちは、まだ眠っている。

 しかし、虎人の姉弟は、マリアベルを目にしてから――彼女は今は私の領域の中に戻っているけれど、それからずっと恐怖に震えている。


 もちろん、このふたりが特別に怖がりだからではなく、大人の奴隷であっても恐怖で泣き出す人もいる。

 というか、砦を攻めている時は、屈強な兵士さんでも泣くし、冷静でいなければならない指揮官さんでも泣くこともある。

 もっとも、泣かずに立ち向かうと死ぬので、泣いて逃げた方が正解なのかもしれない。



 とにかく、気配にも伝承にも疎い私にはよく分からないけれど、マリアベル――デュラハンも相当に恐ろしい魔物らしい。


 それが自分の主人になるとくれば、誰だって怖いのだろう。


 私だって、虫の奴隷にされるなんてことになったら泣いてしまうかもしれない。


 なので、最初は弟を守るように――双子らしいので、歳は変わらないはずだけれど、弟の前に出て庇っていたお姉ちゃんの恐怖の許容値を超えたとしても、仕方のないことだ。

 むしろ、その意志を見せただけでも賞賛されるべきだ。



 さておき、私の帝国領での姿は、マリアベルの色違いにも見えるらしい。

 さらに、彼女に対する主人然とした態度と合わせて、私も恐怖の対象に映ってしまうらしい。



 それでも、ノワールたちに引き渡して任せておけば、情報収集に支障はないし、町に送る前には誤解も解いてくれる。

 とても恐怖している虎人の姉弟を見ると、そうした方がよかったかなとは思うものの、彼女たちも忙しい。

 というか、広大な帝国領で活動するには、全く人手が足りていない。

 移動や移送面を私が担っているので何とか成り立っているけれど、増員しないと働かせすぎである。


 というか、彼女たちの本分は諜報活動や潜入工作で、有能なだけに、それ以外のことをさせるのはもったいない。

 それに、安心して活動させられる、ギリギリ狂信者化していない貴重な人材なのだ。


 というか、竜や魔王が闊歩する湯の川で、デュラハン程度を気にしていてはやっていけないので、早めに慣れてもらった方がいい。

 そういうことにしておこう。




 それはともかく、エルフの子供たちはマリアベルの姿を見ておらず、いまだ眠り続けているので問題は――今のところは無い。

 しかし、部屋の隅でガタガタ震えているぬいぐる――虎人の姉弟の誤解は自力で解かなければならない。



 まずは鎧を脱げばいい?


 そんなことは分かっているけれど、鎧の下の私の格好は、超ハイレグレオタード――通称ラスボス装備を身に着けているのだ。


 もちろん、私の意思ではない。


 鎧の中は蒸れるからと、朔が気を利かせたような感じで選択しているのだ。

 私は暑さ寒さ程度で参ったりはしないし、汗もかかないので、そんな配慮は無用なのだけれど。


 とにかく、鎧を脱がないのは、子供たちの教育上、悪い影響を与えてしまわないかが心配なのだ。

 私のラスボス姿はR15らしいから。



 どうしたものかと考えながら子供たちを見下ろしていたのだけれど、それが余計に子供たちに恐怖を与えていたことに気づいた。


 これはまずいと思って、慌ててお菓子やジュースを取り出して、子供たちの前に並べてみる。


 私自身、物で釣るのはどうかと思うものの、他に思いつかなかったのだから仕方ない。



 それに、子供たちも、怯えながらもそれが気になって仕方がないといった感じだ。


 餌付けは作戦としては悪くなかった――いや、子供とはいえ、虎ならお肉の方がよかっただろうか?

 さすがに母乳は卒業していると思うけれど、卒業していなくても出ない――いや、お酒なら出るかも?

 頑張ればヤク〇トくらいは出せるかも?


 おっと、そんなことを考えている場合ではなかった。



「好きな物を食べていいよ」


 できるだけ優しく語りかけて、子供たちから少し距離を取る。


 しかし、子供たちの震えは止まらない。

 口元からは涎が滝のように流れているけれど、それでも恐怖と警戒心がそれを上回るらしい。


 私の創造物が負けたのは悔しいけれど、それ以上に、この子たちにこれほどの恐怖を刻み込んだ人に怒りを覚える。


 私とマリアベルか!


 とはいえ、今更どうこうできる問題でもないので、ひとまずこの子たちを(さら)った見知らぬ誰かの不幸でも祈っておくことにする。



 さておき、現状は、なまはげイベントなんかで絶叫している子供たちのようなもの。

 いや、子供たち的には、泣いても守ってくれる大人がいないので、より深刻か?


 そうすると、やはり脱ぐしかないのだろうか。

 子供たちを前にして悩むには不適切な選択肢だけれど、今は他に頼れる人もいないし、トラウマを植えつけるよりはマシだと思いたい。



(そんなユノに素敵な提案があるよ)


 いざ脱がん! と決意したところで、頭の中に朔の囁きが聞こえてきた。


 朔とは感性が違うので、朔の素敵は私にとっての素敵とは違うものであることが多い。

 よって却下――といいたいところだけれど、聞くだけなら損はない。



(子供が、鬼とか幽霊は仕方がないとして、知らない大人を怖がるのは当たり前。だったら子供が大好きなものを用意すればいいと思わない?)


 言っていることは理解できる。

 というか、極めて正論だと思うけれど、そんなことは私も当然考えた。

 それで、お菓子やジュースを出して敗北したのだ。



(エサで釣るのは悪くないと思うけど、正義の味方が差し出した物ならともかく、悪の手先が差し出した物なんて食べないでしょ?)


 それはそうかもしれない。

 この子たちも、大人になれば正義の味方なんていないと気づくと思うのだけれど、それとこれとは別の話だ。



(だから子供たちにも分かりやすい、大人気の正義の味方を用意してあげればいいんだよ)


 そう言われて一番に思い浮かんだのは、物語に出てくるような英雄――アルだった。

 実際には正義の味方ではないと思うけれど、好人物であることは否定しない。

 なので、彼を連れてくればいいのかとも考えたけれど、そんなことをしてしまうと単独行動をしている意味が無くなってしまう。

 そもそも、アルが英雄なのは、王国限定の話ではないだろうか?



 もしかすると、私に何かを創れと言っているのかもしれないけれど、この世界の英雄譚なんて知らないし、桃太郎とか出しても、異世界の子供たちには分からないだろう。


 というか、桃太郎って、勧善懲悪といえば聞こえは良いけれど、略奪者から略奪しただけじゃないのか?

 戦利品を被害者に返還したとかあったかな?

 いや、略奪された物を返還するからといっても、それを理由に鬼を攻撃するのはどうなのか?

 悪人相手になら何をしてもいいというのも傲慢ではないだろうか。(※現代日本において自力救済は禁止されており、違反した場合は罪に問われる可能性があります)

 しょせん子供の読むものだとしても、教育目的ならそれを正義だと教えては駄目だと思う。



(何を考えてるの……? 本当にユノの思考は理解できないなあ)


 考えていることが駄々洩れだったらしい。


(子供に大人気の英雄ものっていえば、魔法少女じゃないか!)


 は?

 私には、朔の考えていることの方が理解できない。



(思い返してみるんだ。君の妹たちも、そういうの好きだったんじゃない?)


 言われてみれば、そんな感じの番組を見るために休日も早くから起きていたり、平日も夜遅くまで起きていたりしたようだけれど……。

 それは、日本のサブカルチャー的な下地があっての話ではないだろうか?

 いや、日本の若者が多少なりとも召喚されていて、日本的な文化も多分に浸透しているこの世界では、通用しなくもないのか?



(それに、ラスボス装備を晒すより、ちょっと振り付けと一緒に変身した方が、子供たち的にもよくない?)


 確かに、それなら少なくとも怖がられることはないと思うけれど……。


 上手く乗せられてしまったような気もするけれど、ラスボス装備よりはマシだという点では同意見だ。

 というか、私自身に服の選択権は無いし。


 とにかく、そういう意味でも、やると決めたのなら本気でやる。

 こういうことは中途半端にやると、余計にダメージを負うのだ。



 とはいえ、いきなり言われても、変身の振りつけなんて練習していない。

 それに、その手の番組もほとんど見ていないので、要領も分からない。



 ひとまず、なぜか朔が用意していた、クリスマスツリーの上端にあるようなお星様が先端に付いたステッキを取り出して、それを高く掲げる。


 子供たちがそれに合わせてビクリと身を竦めたけれど、もちろん、危害を加えるようなことはしない。


 ただ、全身鎧の人物が玩具を誇らしげに掲げる様は、さぞかし不審に映ったのだろう。



 しかし、それも一瞬のこと。


 ふわりと私の身体が浮いたかと思うと、ステッキの先からキラキラとお星様が零れ落ち始めた。

 これも朔が作ったオリジナル魔法らしい。

 他に作るものがあるんじゃないの?


 これで子供たちの恐怖が完全に消えたわけではないようだけれど、少し興味を覚えたようで――最初からこれだけでよかった気がしないでもない。



 しかし、朔の魔法は止まらない。


 空中に浮いた身体が、ターンテーブルに乗せられたかのように回転を始めると、それと同時に竜の鎧が――ラスボス装備ごと消失して、素っ裸にされた。


 話が違う! と言いたいところだけれど、局部からは謎の光が発生していて、見えないよう一応の配慮はされていた。

 いや、だからセーフというわけではない。



 さすがに、ずっと全裸ということはなく、足、手といった身体の末端部分から、ポン、ポン、と軽快な音と共にコミカルな感じで星が飛び散る。

 そして、それと入れ替わるように、ニーハイソックスやロンググローブが装着されていく。

 それはパンツとガーターベルト、ブーツ、グローブ、ミニスカート、ビスチェと続いて、胸を強調するようなアンダーバストコルセットを装着した時点で変身が終了した。



 全体的には、ゴスロリ服に近いだろうか。

 編み上げの代わりにベルトが多用されていたり、リボンやフリルの代わりに鋲や鎖が付いていたりとパンクロック的なイメージが強くて、私の想像していた物とはかなり違っていた。


 更には、なぜか瞳が☆――五芒星のようなものになっていた。

 カラーコンタクト的な? 意味が分からない。



(フリフリの可愛いのはアイドルのときに着るし、それとは違ったものにしようとダークヒロイン調にしてみたんだ。それより、台詞とポーズを早く!)


「魔法少女ユノちゃん、推参☆彡」


 少しタイミングを外した感はあるけれど、慌てて言われたとおりの決めポーズを取って、台詞を口にした。

 というか、いろいろ突然すぎて、「変身☆彡」と言うのをすっかり忘れてしまった。



『説明しよう! 平穏な日々を送っていた平凡な少女ユノは、ある日偶然、傷だらけで倒れていた朔と出会った。実は朔は悪の組織と戦う組織のマスコットで、世界樹を守る神獣でもあったのだ。いろいろあって事情を知ったユノは、さらにいろいろあって世界を守るため、朔の力を借りて魔法少女ユノちゃんとなり、日夜悪の組織と戦っているのだ!』


 おい、止めろ。


 子供たちが唖然としているじゃないか。

 というか、途中から「いろいろ」雑すぎない?



「やーらーれーたーーーぐふっ」


 いつの間にか子猫の姿で出現していた朔の台詞が終わると同時に、呼んでもいないマリアベルが出てきて、棒読みの台詞と共に床に転がった。


 子供たちも私も置いてけぼりにして、話を進めないでほしい。

 というか、せっかく収まりを見せかけていた子供たちの恐怖がぶり返しているじゃないか。



(ステッキをマリアベルに向けるんだ!)


 何だか分からないまま、反射的に朔の言葉に従う。


 すると、またしてもステッキから星が飛び出して、マリアベルに当たるとポンという音を立てて彼女にモザイクがかかった。



「うわあ!? ちょ、何なんですかー!? 人を猥褻物(わいせつぶつ)扱いとか、これはちょっとあんまりなんじゃないですかねー!?」


 マリアベルが悲鳴というか非難の声を上げたけれど、その声もボイスチェンジャーがかかっているかのような違和感があって、感情が全く伝わってこない。


『これに懲りたらもう悪いことはしないと誓うか?』


「誓います! 誓いますから、早く何とかしてくださいよー」


『それじゃ、子供たちに「怖がらせてごめんなさい」って謝るんだ!』


「怖がらせてごめんなさいっす。もう悪いことはしないっすから、許してほしいですー」


『どうかな? 許してあげる?』


 モザイクがか掛かってかっているのではっきりとは分からないけれど、ペコペコ頭を下げているらしいマリアベルを眺めながら、朔が子供たちに問いかける。



 子供たちに、全く事情が呑み込めていないことは一目瞭然。

 それでも否定することが怖いのか、こくこくと首を縦に振っていた。


 これ、脅迫じゃない?




 よく分からない寸劇が終わると、私も平服に戻って、マリアベルのモザイクも除去された。


 やはりというべきか、子供たちがマリアベルに恐怖を抱くのは変わらない。


 ただ、マリアベルが私や朔には逆らえないことは理解したようで、私が守ってあげると約束すると少しだけ安心したようだ。


 終わり良ければというものの、結局のところ、魔法少女を演じる必要性は無かったような気がする。

 またしても朔に乗せられてしまった。



 もっとも、翼が収納可能になったのはとても有り難い。

 しっかり仕事もしていたんだね!


 とにかく、尻尾はある方がバランスがとりやすいし、耳も元のより性能が良いけれど、翼はあまり役に立たなかったというか、大きすぎて扱いが難しいというか、大味になってしまうのだ。

 私の使いこなすための努力が足りないのかもしれないけれど。


 後は、本当に使い道の分からない、頭上の輪っかをどうにかしてほしい。



 なお、瞳に関しては、やはり装着感や違和感のないコンタクトレンズのようなものだったらしく、ちょっとした変装に使えると思えば悪くはない……かな?

 ただ、クリスの作ったニプレスがヒントになっているそうなので、もしかすると、ハート型のもあるのかもしれない。


 いや、まさか――仮にあったとしても、どんな場面で使うのだろう?

 あまり変なことに使わないでくれると有り難いのだけれど。

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