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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第六章 邪神さんの子育て大作戦
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08 介入

――ユノ視点――

「魔族って、変な風習があったりする? それとも頭おかしいの?」


「いきなり何? 何だか私まで莫迦にされている気になるんだけど?」


 領域で移動先を探っていたところ、とんでもないものを目にしてしまった。



 恐らくは、魔物を狩る一族と呼ばれる人たちと、吸血鬼の戦い。


 というか、どう見ても圧倒的に数で劣る吸血鬼さんの方が実力的に狩る立場で、魔族の人々は、数の力と工夫でどうにか凌いでいるといった状況だ。


 それはまあどうでもいいのだけれど、魔族の一部の人の戦い方に問題がある。



 吸血鬼に対抗する武器が、どう見ても排泄物である。


 それを、吸血鬼さんに向かって投げつけている。

 というか、当然のように本人も汚物塗れになっている。

 むしろ、汚物そのものだ。


 気が狂っているとしか思えない。



 いくらシステムの謎補正があるからといっても、そんな物に当たってもダメージはないのでは?

 しかし、吸血鬼たちも心底嫌そうに、本気で避けている。

 精神攻撃なのか……?


 確かに、私だってこんな人たちを相手にするのは嫌だ。


 あれ?

 思いのほか有効?



 ……というか、領域で認識してしまった時点で手遅れだ。

 いくら朔に調整してもらって、触覚や味覚は遮断しているからといっても、至近距離でそれを突きつけられたような感覚は、私が酷く汚されたような気になってしまう――いや、私でなければ汚されていただろう。


 こんなに恐ろしい領域妨害手段があるとは思いもしなかった。


 人間のことを見直し――いや、見下げ果てた?


 もちろん、本気で対処しようと思えばどうにでもなるのだけれど、そうしたところで得られるものが後味の悪さだけであって、相手にした時点で負けに等しい。



 吸血鬼たちも同じような心境なのか、極力相手にしないようにしているように見える。


『糞尿撒き散らしながら戦っている魔族がいるんだけど』


「……何それ? あっ、吸血鬼に噛まれると、身体の力が抜けちゃうって聞いたことあるわ。それで粗相をしちゃうこともあるのかも?」


『いや、《固有空間》から取り出して投げつけてる』


「え? 何それ? ……行くのやめない?」


 私もできることならそうしたい。


 しかし、妹たちを召喚する手段を確立するため、その確率を少しでも上げるためには、彼らへの接触は必要なことである。

 こんなときにこそ世界を改竄する能力を活用できればいいのだけれど、できることはできるものの、できないものは何をどうやってもできない。



 例えば、私に必要な情報が勝手に集まってくる世界に改竄しようとしても、私に必要な情報が何かが分かっていないので、世界の全ての情報が集まってくるかもしれない。

 というか、私がそう想像している限り、そうなる可能性が高い。

 それは勘弁してほしい。


 もちろん、情報を集めることと理解することは別なので、選別は朔に頼るしかないのだけれど、それでも何年何十年かかるか分からない。

 天使1体の情報量でさえ膨大なのだ。

 それが世界全体ともなると、どれほどの量になるのか――ということで、情報を集めるにしても、範囲を限定しなければ無駄な時間を使うだけなのだ。



 ならば、せめて汚物だけでもどうにかしたいところだけれど、ろくな結果にならないことは目に見えている。

 実行した場合、最も有効そうなのは焼却処分――言葉どおりのやけくそである。

 それに、人間なんて、多かれ少なかれ汚いところはあるものだし――いや、そういうところを含めて人間なのだ。


 そもそも、何をするにも干渉しなくてはいけないので、何もしないというのが最も被害が少ない。



「我慢して行くしかないか……」


「レティを召喚するためだものね……」


 ソフィアとふたりして、深い溜息を吐く。


『いずれ正体がバレるのは避けられないとしても、今はまだ大事にはしたくないし、できるだけ戦闘は避けるようにしよう』


「そんなこと言われても、今から戦闘中のところへ行くわけでしょ? 止めさせるにしても、ある程度の実力行使は必要じゃないかしら?」


『アイリスがいれば言葉で止められるんじゃないかと思うけど、あんな現場に連れていくのも気が引けるでしょ?』


「うん」


 それが最善だとしても、アイリスに不快な思いをさせてまで頼むつもりはない。


『だからユノがその代わりをすればいい』


「それこそ何言ってんのって感じだけど。この子に説得なんてさせたら、火に油を注ぐか――全部台無しになっちゃうんじゃない?」


 酷い言われようだけれど、否定もできない。


『何も、アイリスと同じことをしろって言ってるわけじゃなくて――』


 朔の出したアイデアは、荒唐無稽としかいえないものだった。

 まあ、いつもそんな感じのような気もするけれど、とても正気の沙汰とは思えない。


 それでも、アイリスに余計な負担を掛けなくて済むのなら、騙されたと思って試してみるくらいはいいだろう。


◇◇◇


 ――騙された。


 静寂が痛い。


 やはり、信じた私が莫迦だったのだろう。


『バケツを外してやらなきゃ効果ないよ』


 そんなことはひと言も言っていなかった。

 いくら表裏一体だといっても、言わなくても伝わっているなんて思うのは傲慢すぎる。


『さすがにそれくらいは分かってると思ってたけど……』


 行為の意味も分かっていないのに、そんなことまで分かるわけがない。

 というか、初対面の人の前で顔を出すなと言ったのはみんなだったはず。


 私も好き好んでバケツを被っているわけではないのだ。

 何かもう違和感無いというか、むしろ落ち着くまであるけれど。

 この余計なものを見なくて済むという安心感よ。


『それに、原稿どおりに喋るとも思わなかったよ……』


 こんなところで領域を展開するなど自殺行為なので、外界の情報は聴覚を除いて遮断している。

 そうでなければ、各種感覚が超鋭敏な私にこの環境は耐えられない。

 それは朔にも分かっているはずだ。


 全く情報が無い中で、アドリブなんてできるはずがないのだ。




「それはニコル様の獲物なんだ。返してもらうよ!」


 しばらく静寂に包まれていたのだけれど、少し離れたところで――声の方向から察するに、ソフィアの方で状況が動いたらしい。



「くそっ、莫迦な!?」


「何だこの強さは――我らを子ども扱いだと!?」


「何だか、少し前までの自分を見てるみたいで心が痛いわ……。で、これどうするの? もう制圧しちゃっていいのかしら?」


 会話の内容からすると、誰かがソフィアに挑みかかって遊ばれている――といったところだろうか。


 後、どうでもいいのだけれど、今この状況で「クソ」とか言わないでほしい。



「動くな! 動くとコイツの首と胴が離れることになるぞ!」


 そして、私が人質に取られたと、そういうことなのか。

 やはり五感のほとんどを遮断しているのは無理がありすぎたようだ。


「あー、そっちに手を出しちゃったか……。その()は私より強いし、好きにすればいいと思うけど、どうなっても知らないわよ?」


『本当にもう、何やってんの? ……仕方ないなあ。殺さない程度に反撃していいよ』


 お叱りとお許しが出た。


「薄情な……。まあ、助けが必要な状況でもないからいいのだけれど。――来て」



「「ここに」」


「何を――本当にうわああああ!?」


 私の呼びかけに応じたアドンとサムソンが出現した瞬間、私の背後にいた吸血鬼さんだけでなく、あちこちから悲鳴が上がった。


 一見すると強面な彼らも、よく見れば結構愛嬌があったり清潔だったりすることも分かるのだけれど、みんなイメージだけでビビりすぎだと思う。


 私としては、むしろ糞尿塗れになっている人の方に恐怖を感じるのだけれど、これが俗にいう「三(すく)み」という状況なのかもしれない。



「追い詰めすぎないように」


「「御意」」


 恐らく、汚物塗れの人たちも、いろいろと追い詰められすぎた結果なのだろう。

 そうでなければ怖すぎる。


 つまり、吸血鬼さんたちも、追い詰めすぎると精神が壊れる可能性があるのだ。



 アドンとサムソンを呼び出して、パニックになるのはいつものこと。


 しかし、今日はいつもとは違って、パニックに陥りながらも抵抗しようとしている魔族さんがいる。

 抵抗といっても、半ば錯乱しているような状態で、泣き喚きながら手当たり次第に物を投げつけているだけ。


 とはいえ、何を投げつけられるか分かったものではないので、ソフィアとふたりで、さっさと投擲の届かない上空に退避させてもらった。


 もっとも、彼らがそうまでして抵抗していた理由は、ソフィアが抑え込んでいた青年にあったようで、ソフィアが離れた隙に青年を回収すると、一目散に戦線の離脱していった。



 吸血鬼さんたちも、《転移》が使えた人と、その周辺にいた人はさっさと離脱している。


 どうやら、吸血鬼さんたちにとっても、デスは相当な脅威らしい。



 取り残されているのは、私を人質に取ろうとして逆にアドンとサムソンに拘束された吸血鬼さんと、なぜか瀕死の状態で地べたに転がっている吸血鬼さん。


 糞尿塗れにされていないところから察するに、ソフィアにやられたのだろうか?


 そして、その傍には同じく瀕死の魔族の戦士と、彼を救出しようとしている数人の魔族の戦士たち。



 要救助者がよほどの重要人物なのかとも思ったけれど、彼ら以外の魔族の人の退避はほぼ完了していて、彼らは完全に取り残された状況にある。


 先ほどの青年ほど重要ではないのか、それとも助からないと判断されたのかは分からない。



 とにかく、この状況はある意味では当初の目的どおり。

 結果として争いは収まったし、死者もほぼゼロだ。


 想像とは違うけれど、終わり良ければ全て良し、である。


 フン闘していた狂戦士もいなくなったことだし、理性の残っている人たちも確保できたのだ。


 彼らをこれ以上追い詰めないうちに、交渉のテーブルに着かせるべきだろう。

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