04 プロジェクト始動
私がアイドルをする――ライブを開催するという噂は、あっという間に町中に拡散した。
アイドルとは何なのか、ライブとは何なのかというところからのスタートだったけれど、アイリスやアルたちの仕込みや、シャロンたちの不断の努力で、これまたあっという間に認知されたらしい。
もう引き返せない。
客寄せパンダだとかおもちゃにされるのは、日本にいた時の文化祭なんかのイベントで経験済みだし、今回もきっとそんなノリなのだろうと甘く見ていた。
しかし、今回はみんなの真剣度がまるで違う。
楽曲や衣装は、既にアルが相当な数を用意していた。
楽曲はどこかで聞いたようなものも多く、彼が日本にいた時の知識に頼っている――有り体に言えば、パクっているのだろう。
しかし、この世界には著作権は存在しないし、それを指摘できる人もいない。
衣装に関しては「よくもまあこんなに」と感心してしまうほどの量で――もちろん、質も兼ね備えているけれど、これをアルがひとりせっせと作ったのだというのだから、その本気度が窺える。
しかし、奥さんたちはこのことを知っているのだろうか?
私が家庭内不和の原因になったりしないかと、少し心配してしまう。
そして、彼の領地や、王国の将来も心配だ。
とにかく、やると言った以上は本気で取り組むつもりだ。
とはいえ、一か月にも満たない僅かな準備期間で、何曲もの歌詞や振り付けを覚えるのは大変だ――と思ったのだけれど、そうでもなかった。
手本をまねればいいだけなら、一度見聞きすれば完璧以上に再現することができる。
手本が示されずに、説明が分かり難いものについては少し苦労したけれど、それはある意味正解も無い。
朔が納得するかどうかだけの問題だろう。
ただ、物覚えが良すぎるのも問題らしく、「更なるクオリティを!」と要求水準がどんどん上げられるせいで、いつまで経っても終わりが見えない。
大変なことを引受けてしまった。
もっとも、大変なのは、むしろ裏方の方だろう。
会場の建設から設営に、設備機器の設置や当日の段取りなど、みんなイベントの運営経験などない中で一生懸命働いているところを見ると、泣き言など言えるはずもない。
まあ、歌と振り付けの指導を朔が担当しているので、言いたくても言えないのだけれど。
朔の指導は、スパルタというのも生易しいものだった。
基本的に、朔の指導はイメージとして伝えられるため、間違えることはない。
ただ、人体構造上不可能に近いものは努力でどうにかなるけれど、精神的なハードルが高いというか、観客受けがいいようなキュートな振り付けを――時として正気を疑うようなまねをさせられるのはきつい。
それができなかったり、少しでも躊躇すると身体に激痛を与えられる。
まあ、そんなものは私には効かないのだけれど、それがかえって朔の変なスイッチを入れてしまったらしい。
痛みが駄目ならといろいろと試されて、その中のひとつで、強制的に身体を発情状態にされるのはなかなかつらかった。
耐えられないわけではないのだけれど、今までに感じたことのない疼きというか衝動というか、身体以上に精神を汚染されるような感じがきつい。
それに、耐えているつもりでも、気がつけば肌が紅潮していたり息を乱れさせられていたり、いろいろと人様にお見せできる状態ではなくなってしまう。
普通の人は、こういうのを抱えて生きているの?
なかなかハードな仕様である。
もう少し、みんなに優しくした方がいいかもしれない。
更に性質の悪いことに、これは朔によって強制的に疑似発情期にされているため、何をしようと解消しないと思われることだ。
朔は私をどうしたいのか。
もちろん、対抗手段がないわけではない。
しかし、それをしてしまうと、このお仕置きが有効だと朔が認識することに繋がるので、効いていない振りをして、朔が飽きるのを待つのが最善なのだ。
それにしても、随分と恐ろしいことを考え出したものだけれど、朔がこれに懸ける情熱がそれだけ高いことの証明なのだろう。
ただひとつ救いがあるとすれば、みんなそれぞれの仕事で忙しく、当面は私の痴態を見られる心配がないことくらいか。
みんなの仕事が落ち着いたり、楽器担当の人たちと合わせる前に、朔に怒られることがない程度に仕上げておかなければいけない。
恥ずかしいとか言っていられる場合ではなくなってしまった。
◇◇◇
会場は世界樹の麓に設置されて、当日は町の人たちにも開放される。
私としては、お城の住居区域以外なら普段から好きに出入りしてもらっても構わないし、滅多に使わないレジャー施設なども有効活用してもらった方がいいのではないかと思う。
しかし、やはりどこかで線引きはしておくべきだとみんなから言われては、大して考えていないので強くは言えない。
それに、ただ場所だけを開放しても、今の人手では敷地内で遭難者が出かねない。
もっといろいろと整ってからでないと駄目っぽい。
そういう意味でも、この開発にも期待したい。
それはさておき、イベント規模は地方の納涼祭とか学園祭レベルのステージを想像していたのだけれど、アルが陣頭指揮を執って造っているのは、収容人数十万を超える巨大な競技場だ。
町の人口を上回る客席数もさることながら、巨人がサッカーをできそうなほどの競技スペースなど、アルが一体どんな規模のものを考えているのかさっぱり分からない。
とはいえ、この競技場は、私の誕生日――新年度に先立って行われる、神殿と城内での勤務を希望する人たちの選考会場にもなるそうだ。
この報せもあっという間に町中に広がって、私のライブの件と合わせて、町は異様な熱気に包まれている。
なお、町長も決めようかという話も上がったらしいけれど、こちらは驚くほど反応が悪かったらしい。
町の人たちの大半は、一兵卒でも雑用でも、神殿やお城で働く方が魅力的なのだそうだ。
とにかく、競技場の建設は順調で、選考会やライブの準備も合わせても、期日には充分に余裕があるそうだ。
しかし、どんなことにもイレギュラーはつきものだ。
私の歌と踊りが六割くらいの完成度に達したところで、一度音楽と合わせてみようという流れになったのだけれど、アルが連れてきた楽器奏者さんたちが揃って緊張してしまって、ことごとく使い物にならなかった。
人前で演奏することには慣れている彼らも、魔王前や古竜前、邪神の後ろで演奏するなど初めてのこと。
プレッシャーに負けて泣き出すレベルだと、フォローのしようもない。
というか、楽器の演奏スキルが高いだけの普通の人を、こんなところに連れて来てはいけないと思う。
恐らく、彼女たちが私たちに慣れるより、私に慣れている人が楽器を覚えた方が早いだろう。
ということで、いい機会だし、みんなに一緒にバンドをしようと提案したのだけれど、今は忙しいからとあっさり流された。
なぜだ。
楽曲は打ち込みでもいいし、エアーバンドなんてものもあるのだし、みんなでやった方が楽しいと思うのだけれど……。
とはいえ、忙しいのも事実である。
みんなの邪魔をしないように、まずは自分のやるべきことをやっておくべきだろう。
今回で駄目だと判断されれば、次回はないかもしれないのだから。
◇◇◇
――第三者視点――
「おい、聞いたか? ユノ様がアイドルでライブやるってよ。でも、アイドルとかライブって何だ?」
「巫女様の話を聞いてなかったのか? ああ、ずっと引き籠ってユノ様への贈り物を作ってたのか。お前みたいな奴も多いんだよな。まあ、俺もよく分からねえけど、ユノ様が俺たちのために歌って踊ってくれるんだよ」
「何だって!? そりゃ一大事じゃねえか! ……でも、それって普通逆じゃねえの? 俺たちが歌って踊って、ユノ様を楽しませなきゃなんねえんじゃねえの?」
「それは分からんが……。そのためだって会場を造ってるのは本当だぜ」
「マジかよ!? 出遅れちまったなあ……。なあ、今からでもまだ手伝えるかな? 俺もユノ様が歌って踊るところにかかわりてえ。何だったら、人柱になってもいいぜ!」
「いや、超でかい会場造ってるから全然間に合うぞ。人柱は禁止みたいだけどな。俺もユノ様の舞台の床になりたかったんだけどな」
「お前もか! 実は俺もなんだよ! 種族は違うのに気が合うな!」
「お、何だ? ユノ様に踏まれたいって話か? 俺もまぜろよ!」
湯の川の住人たちのテンションは異様に高かった。
ユノを公然と祝う機会が与えられただけでも幸せだったのに、ユノからのお返しが貰えるとなると、正に天にも昇るような気持だった。
そして、そのテンションが、全てプレゼントの制作や、会場の建設設営に向けられている。
湯の川始まって以来の一大イベントということも相俟って、狂信者同士の結束も一段と固いものになっていた。
もっとも、特に何も無くても結束が固くなるこの町では些細なことである。
その元凶のひとりであるアルフォンスは、ユノに現況とこれからの予定を伝えるために、ユノがアイドル修行のために籠っているキャットタワーの最上階を目指していた。
アルフォンスも、楽器奏者たちが魅了されることは危惧していた。
だからこそ、彼の妻たちに白い目で見られるのも我慢して全員女性で統一していたし、更には事前に念入りに注意喚起して、精神力強化や状態異常耐性を目一杯上げてから臨んでいた。
それでも、結果は演奏不能状態になるという、想定の中でも最悪のものであり、計画の見直しを余儀なくされた。
最悪の場合は、ユノの言ったとおり打ち込みを使うことになるが、それではやはり味気ない。
エアーバンドというアイデアも、ユノにしては珍しく良い案だった。
とはいえ、アルフォンス自身は当日も裏方仕事があるので参加できないし、アイリスたちには時間――いや、アイリスたちにはステージ上でユノの横に並ぶ勇気が足りない。
いくらアイリスがユノのパートナーだと公言していて、ユノがそれを否定していなかったとしても、二番手三番手――それ以降狙い者も多い。
また、アイリスが類稀な美貌を持っていたとしても、ユノの隣では霞んでしまう。
異性なら「不釣り合い」で済むが、同性では存在すら認識されないおそれもある。
そして、ただ側にいるだけならともかく、今回のライブのような、ユノの可愛さをアピールするための場で無様な姿を見せてしまうと、立場を揺るがしかねない。
下手をすると、アイリスの主張に物言いをつける人が出てくるかもしれない。
ユノがそれを許容するかは分からないが、少なくともアイリスはその可能性を考慮しているし、そういった可能性を極力下げるように行動している。
アルフォンスも、二番手を狙うひとり――むしろ、チャンスがあれば取って代わる気満々である。
だからこそ、アイリスの足を引っ張るようなことはできない。
むしろ、ユノのポイントを稼ぎたいなら、アイリスたちが満足できるようにサポートするべきなのだが、アルフォンスにもそこまでの時間の余裕は無い。
アルフォンスがキャットタワーの最上階に到着すると、最上階にただひとつだけ存在する扉には在室を示す札が掛かっていた。
中にいるのはユノ以外にない。
ここもユノの私室のひとつであり、実験内容によっては不測の事態もあり得るので、アイリスたちでも滅多に近寄らない場所である。
つまり、誰が在室中なのかを表示する必要は無いのだ。
アルフォンスは、「コンコン」と控え目にノックをして反応を窺うが、ユノからの返答はない。
ノックの音が小さいとか、そもそも室内が異世界だとか、ユノが歌の練習中で気がつかなかったということはあり得ない。
そもそも、この部屋は完全防音仕様であり、ノックは朔への合図でしかないのだ。
神の目ともいえる認識能力を持つ朔には、壁や扉の存在など障害にならない。
そして、ユノと違って常時発動しているので、見落とすこともない。
だというのに反応がない――ということは、札を元に戻さずに部屋を出たか、アルフォンスには想像もつかない理由で、返事ができない状態かのどちらかしかない。
アルフォンスは、ユノと朔が同時に行動不能になるとは考え難いため、うっかり札を戻し忘れただけだろうと判断した。
いないならいないで、せめてそれを確認しようと、ゆっくりと扉を開ける。
中ではユノが倒れていた。
まさかの後者だった。
そして、なぜか全裸だった。
もっとも、うつ伏せで倒れているために、以前露天風呂で遭遇した時のように、先端に薄桜色の禁断の果実が実る双丘を拝むことはできなかったが。
代わりに、それとは別の双丘を発見したアルフォンスは、その誰も足を踏み入れたことのない穢れなき雪原のような肌と、未知の黄金比があるとしか思えない見事な曲線に、心の中の「いいね!」ボタンを連打する。
程なくして、こんなことをしている場合ではないと我に返ったアルフォンスは、ユノに駆け寄り抱き起した。
その際に、たゆんと揺れた胸に目が釘付けになったのは、健全な成人男性である以上仕方のないことである――と心の中で言い訳しながら、アルフォンスは胸の先端にあるやる気スイッチから目が離せない。
アルフォンスは、ユノの裸体に目を奪われながらも、やるべきことは忘れない。
意識――無し。
呼吸――無し。
脈拍――自分がドキドキしすぎてよく分からない。
やむを得ないので、直接心臓の音を聞く――柔らかい! いや、心音無し。
(つまり死んでる? でも、身体はまだ温かい。こういう時は心肺蘇生――っていうか、ユノはいつも心臓動いてないんだったか? 心臓マッサージとか人工呼吸とかやっちゃっていいのかな?)
ユノの心音を聞くために、胸に耳を押し当てたままの状態で、アルフォンスは考え込む。
もっとも、いくら考えたところで対処法など思いつくはずもない。
いっそ、このまま時間が止まればいい――そんなことを考えていた。
思い切り惑わされていた。
しかし、アルフォンスは何かに気づいたかのように勢いよく立ち上がると、自らのジャケットを脱いで、ユノの裸体を隠すように被せた。
(やっべ、あのままだと言い訳できねえ状況だった……。それに、いくらチャンスでも、意識の無い相手にってのは卑怯だよな)
「何の遊びなのかは知らないけど、とりあえず人を呼んでくる。それと、世の中俺みたいな紳士ばっかじゃないから、あんまり無防備なのは駄目だぞ?」
アルフォンスはそう言い残すと、振り返ることなく部屋を出ていった。
アルフォンスは、ユノが危機的状況にあるとは微塵も思っていない。
ただ、紳士というには無理があると、口にした本人も思っていたが、あの場で反論がなかったので、ひとまず危機は乗り切ったと安堵していた。
しかし、対象が無防備なユノであったことを考慮すると、アルフォンスの取った行動は、充分に紳士的――むしろ、英雄的であったとさえいえる。
そして、被害者であるはずのユノも、発情期のつらさを知って以降、無駄に寛容になっていた。
そのためか、アルフォンスが理性で踏み止まったことに、尊敬を覚えるほどだった。
◇◇◇
『もっと悪戯されるかと思った。――と、やっぱりどうやっても無理みたいだから返すよ』
「ん」
アルフォンスが出ていってしばらくすると、何事もなかったかのようにユノが動き出した。
「全然駄目?」
『全然ってわけじゃないけど、日常的な動作もできないレベルじゃ、現実味がないね』
「仔猫の義体は動かせるのに、私の身体が動かせないっていうのも変な話だと思うけれど」
『この身体、普通の人間の感覚じゃ動かせない――扱いが難しすぎるよ。というか、何で動くの? ってレベル』
この会話から分かるように、彼女たちはユノの身体を朔が操縦する実験を行っていた。
ユノの思惑は、歌や踊りを朔に実演させることである。
朔のイメージは飽くまでイメージでしかなく、実演するとイメージどおりにいかないこともある。
それで罰を受けるのはユノとしては理不尽だったので、そんなに言うなら自分でやってみればいいと、身体の操作を任せてみたのだ。
しかし、朔の分析どおり、ユノの身体は通常の手段では動かなかった。
その性能や頑強さは全て魔素によるもの。
生まれてこの方負荷がかかったことのない身体は、生まれたばかりの赤ん坊以下の強度なのだ。
それは、魔素無しでは動くどころか、生存すら不可能なレベルである。
ユノと同じく魔素を操れる朔なら操作できるかというと、周囲の警戒や服の維持などを停止して、身体の操作に集中しても、先ほどの状態が示すようにまともに動かせない。
ユノの身体は、【ユノ】という名のある種の概念であり、ユノとして成立させるためには、身体と魂と精神をひとつにしてようやくスタートライン――それで初めてユノとなる。
そこから逸脱すると、身体を動かすどころか維持すらできない。
朔では、身体の維持だけで限界だった。
朔の能力でユノの肉体を再現してみても、動かすどころか生きるために最低限の筋力もなく、それを解決しようと筋肉をつけたりすれば、ユノではなくなってしまう。
そして、魔素で無理矢理動かしても壊れるだけで、やはりユノではなくなってしまう。
そんな悪戦苦闘していたところに、アルフォンスが現れたのだ。
こうしてユノの企みは潰えたが、朔がこんな実験に協力したのも、それなりの理由があってのことだ。
朔は、ユノを魔法少女にしたかった。
当然、それはこの世界に普及している魔法を使う少女ということではなく、現代日本での漫画やアニメに出てくる方のあれである。
朔は、明確な自我を得てから初めて触れた娯楽――漫画、中でも魔法少女の物語に、刷り込みに近いレベルでハマっていた。
常々ユノにもその素晴らしさを懇々と語り聞かせたいと思っているが、ユノが興味の無いことや難しいことは聞き流してしまうことはよく知っている。
それでも、ユノも必要性があれば聞かざるを得ないし、彼女なりに理解しようと努力する。
しかし、いくら朔でも、魔法少女に必要性を用意できない。
よくある魔法少女の物語のように、対象が普通の少女であれば、変身願望や非日常への誘惑など付け入る隙も多かったのだろう。
しかし、ユノは変身を通り越して神化しているし、非日常が日常の彼女に更なる非日常をプレゼントなど、嫌がらせでしかない。
とにかく、多くは望まない。
変身シーンと決めポーズだけでもやってくれれば、ひとまずは満足なのだ。
なぜだと問われても面白そうだからとしか答えられないし、アルフォンスの企みに協力しているのも、面白そうだからである。
ただ、アイドルと違ってメリットをでっち上げにくい魔法少女では、いくらユノが莫迦でも首を縦に振ることはない。
そのための策のひとつとして、ユノの発情を促してみたりもした。
敵に敗れた魔法少女が、敵や守るべき市民から性的なあんなことやこんなことをされるのも、魔法少女もの(※R18)の定番のひとつである。
しかし、ユノの発情した姿は、お色気とかサービスという枠には収まらず、ただただ生物の本能を煽る危険なもので、間違いなく禁書指定されるものだった。
それは朔の求めていた魔法少女とは違うものである。
そもそも、ユノが本気で拒否するなら、肉体を破棄してしまえばそれまでだ。
それに、万一破棄せずに代償行動を取られた場合、どんな惨事が起きるか分からない。
それでは下手をすれば魔法少女の敵になる。
ユノは善悪や倫理に囚われていないが、朔はユノを魔法少女にするため、人間の味方でいさせなければならないのだ。
そんなところに、肉体のコントロールを奪う練習機会を、ユノ自らが与えてくれたのは僥倖だった。
ユノの肉体のコピーを操れるようになれば、ユノに魔法少女をお願いする必要も無くなる。
しかし、ふたりが出会った頃のユノ――ユーリならともかく、今のユノは朔でも及ばない領域で構成されているため、彼女から強引に支配権を奪うことはできない。
とはいえ、できたとしてもユノとの関係を悪化させてまですることではないが、選択肢のひとつとして、悪戯で済む程度であればやっていた可能性もある。
残念ながらユノの肉体は、さすがは神の器というべきか一筋縄ではいかなかった。
それでも、それが分かっただけでも進歩である。
それに、こんなくだらないことでも、協力的な態度を見せておくのも悪いことではない。
それに加えて、アルフォンスを強請るネタもできた。
当然、安易な脅迫に使うつもりはないし、そもそもそんなことをしなくても今は協力関係にあるのだが、手札は多いに越したことはない。
それに、アルフォンスのユノのアイドル化計画のおかげで、魔法少女のハードルも下がったように思えた。
全く論理的ではないが、一見するとそれらしい理由で外堀を埋め、勢いだけで押し通した手腕も侮れなかった。
『アルフォンスは、脅すより上手く味方につけた方が、いい案を出してくれるかもしれないね』
「何の話?」
『アルフォンスは興味深い人間だねって』
「確かに、ユニークではあるよね。こんな莫迦なことでも、一生懸命にやっているから、なぜか不思議と応援したくなるんだよね」
『ユノはそういう人が好きだよね』
朔は、ユノをコントロールするには、アイリスやアルフォンスを利用するのが正解だと判断した。
『それじゃ、アルフォンスに負けないように、仕上げていこうか』
「う、うん……」
差し当たっては、アイドル活動で良い結果を出せれば、後の魔法少女にも光明が差すかもしれないと、朔のユノの指導には一層の熱が籠ることになる。




