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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第一章 邪神さん、異世界に立つ
14/735

13 修行パート

誤字脱字等修正。

 クリスさんの館でお世話になり始めてから7日が過ぎた。


 本当はすぐにでも王都に向かいたかったのだけれど、準備不足なことくらいは誰に言われるまでもなく理解している。


 俺も子供ではないのだ。

 感情だけで突っ走っても何も解決しないどころか、問題を悪化させる可能性が高いことは身をもって知っている。

 世の中、気合や戦闘能力だけで解決できる問題ばかりではないのから。


 とはいえ、最終的にものをいうのはそれらであることも多いのだけれど、この世界でも通じるかというと、未知数なところがあるのは否めない。


 特に、魔法やスキルの中には様々な特殊効果を持つものがあるそうなので、その対策は必須となる。

 もちろん、完全にとはいかないだろうし時間的に限度もあるけれど。



 特殊効果の例としては、即死や石化などといった、ちょっと何を言っているのか分からない致命的なものや、空間に干渉する魔法などなど、対処法どころかイメージすら湧かないものがある。


 石化というと、コンクリ詰め的なものを想像してしまうけれど、どうやら身体そのものを石に変えるとか更に意味の分からないもので、コンクリ詰めどころか人類未踏の深海でも活動可能な俺でも、身体が石になるなどどう対応していいかは分からない。


 空間干渉に至っては、想像すらできない。


 というように、その使い方次第では、単純な戦闘能力だけでは手も足も出せないものもあるのかもしれない。

 それを知っていて、無策で挑むのはただの莫迦だろう。


◇◇◇


 初日は真っ先に邪神グッズの解呪を試みたものの、専門家もおらず、ろくな設備もない状況では、成功しそうな気配がまるでみえなかった。


 こうなると、後は本職――教会の専門家に頼むくらいしかないらしい。


 信仰心とは無縁の――というか、神の存在どころか、その存在意義自体に否定的な俺が神頼みとは何の冗談かと言いたいところだけれど、この世界で呪いを解くのは教会の領分というのが一般常識らしい。

 そもそも、この世界の神と余所の世界の神が同一存在であるとは限らないので、今回は大人しく従っておくべきか。



 しかし、教会に依頼するには多額の寄付が必要らしく、そのくせ成功は保証されていないし、失敗してもびた一文返金されないという。

 なかなかに欲の皮が張った宗教団体である。


 やはり、神や信仰などという、目に見えないものでお金を取るのは、詐欺師と変わらないのかもしれない。

 そもそも、神だと名乗らないと神だと認識されないような神には、説得力なんて無いのではなかろうか。


 もちろん、個人で信仰する分には構わないと思う。

 むしろ、それで心の平穏とかが得られるなら、何と安上がりなことか。



 さておき、俺のような根無し草というか、素性の不確かな存在がお金を稼ぐには、魔物を倒してその素材や魔石を売るか、傭兵にでもなるか――つまり、冒険者になることが手っ取り早いらしい。

 なお、何が「つまり」なのかよく分からなかったのだけれど、話の腰を折らないように頷いておいた。


 とにかく、冒険者稼業は、ギルドから依頼を受けて、それを達成して報酬を受け取るか、若しくは自由探索にて斃した魔物の素材を売って収入を得るかのふたつに大別される。


 俺の場合は、余計な柵を作らないためにも後者になるのだろうか。


 魔物の素材の中でも、特に魔石は魔力の結晶というだけあって、魔法装置などの動力源としてとても重宝されている。

 そして、強い魔物を斃せば、それだけ質の良い魔石が手に入る傾向があるらしく、熟練の冒険者にもなれば、魔石だけで巨万の富を築くことができるのだとか。


 とはいえ、やりすぎて権力者などに目をつけられないように注意はしなければならない。

 この世界には個人情報保護だとか、それ以前に基本的人権すらないのだから。



 少し余談になるけれど、《固有空間》という名前の魔法が存在する。


 名前に「空間」とあるものの時空魔法の系統ではなく、厳密には魔法であるのかどうかも分からないらしい。

 この世界にJAR〇があれば連絡しなければならないところだった。


 さておき、この魔法の系統は生活魔法で、属性が無属性、そして名称が《固有空間》である。

 正式な表記は「生活魔法:無属性《固有空間》」となるのだけれど、「生活魔法:無属性」に属するのは、この《固有空間》だけで、派生などは一切無い。

 その上、魔法が使えない人でもこれだけは使えることが多いことから「スキルではないか?」という意見も根強い。

 それでも、時空魔法の適性が高ければ《固有空間》の効果も上昇することから、便宜上魔法扱いされているというのが実情らしい。


 この魔法は、日常生活においては最後の名称だけで、《固有空間》と表現することが多い。


 肝心の魔法の効果は、その名のとおりに自分だけの空間を作って、そこに様々な物を収納できて、必要に応じて取り出すことができるものだ。

 つまり、影の中の人の能力と似たようなものだろう。


 ただし、《固有空間》の方は、容量の少なさという問題がある。


 高レベルになるとちょっとした倉庫程度には収納できるそうだけれど、低レベルだと小荷物程度らしい。

 その点では影の人とは随分と違う。


 それでも、極めて習得が簡単なスキルで、ほぼ全ての人――どころか、動物や魔物までもが無意識に習得していることがある。


 動物や魔物を倒した際に時折出現する装備品やお金などの正体は、《固有空間》の術者が集めた物が、その死によって《固有空間》が解除されて出現しているのだとか。


 ただ、必ずしも《固有空間》内の全ての物がその時その場で出現するわけではなく、時間差や離れた場所で出現したり、地下迷宮といわれる場所では宝箱に入った形で出てくることもあるそうだ。


 何を言っているのかさっぱり分からなかった。


 とにかく、魔物とは歩く貯金箱のようなものらしい。

 もっとも、斃せるだけの実力がなければ、自分が貯金にされてしまうことになるのだろう。


 もうひとつ補足しておくと、この《固有空間》を使った犯罪は誰もが一度は思いつく。

 しかし、基本的に他人が身につけているような物は収納できず、身につけていなくても、他人が所有している物を許可なく収納すると、その物品には【盗品】属性が付く。

 そして、それを消費したり売買したりすると、【盗人】の称号が付いてしまうらしい。


 正直、何を言っているのかさっぱり分からなかったけれど、分かったような顔で頷いておいた。


◇◇◇


 セイラさんの監督の下、俺の状態を調べるために、ただ走ってみたり、言われるままに魔物を斃してみたりと、様々なテストをした。


 残念ながら、大したことは判明しなかった――というのも、セイラさんは大魔法使いといわれる人物らしいけれど、魔法以外の能力は普通なので、俺の走るスピードには全くついてこれないし、間合いを支配して、影すら踏ませず一撃で魔物の首を斬り落とす格闘能力も評価できなかったのだ。



 なお、常人であれば太刀打ちできないとされるこの森の魔物を、ことごとく一撃で狩っているのは、俺の戦闘スタイルが一撃必殺だということではない。


 むしろ、本来のスタイルはどちらかというと安全第一の手数で攻めるタイプで、その手数においても攻守のバランスを優先しているため、見る人によっては散発的に映るかもしれない。


 一撃で終わっているのは、相手との能力差の問題である。


 当然、バランスを重視したコンビネーションでも斃せる。

 しかし、こっちの世界の動物や魔物は、向こうの世界の動物とは違って、質量や体型から予想される速度や破壊力を大きく超えてくるとか、システムの補正のせいで耐久力が測りにくいとかで、下手に手数で対応しようとすると事故――グロテスク的な意味での大惨事が起きる可能性があるのだ。

 そのため、多少不自然な立ち回りになってでも、可能な限り原型を残すように、急所への一撃で――この場合は首の切断だけを狙っているのだ。

 首を切ったら大体の生物は死ぬしね。


 相手が強くなってくるとそんな余裕は無くなるかもしれないけれど、そのときは素直に逃げるか、それも無理なら腹を括るしかない。



 本来、戦いとは間合いを制した方が勝つ――斃しきるまで自分の間合いを保っていればいいのだ。


 間合いとは、身体能力や技術の差に体格や得物といった物理的な距離だけではなく、環境や相手の精神状態なんかも含んでいる。


 まずは自身の肉体と得物という物理的な間合い。

 それに身体能力や技術を加えた、いわゆる一足一刀の間合い。

 先に一発当てればいいような戦いではここまででいいのだけれど、先制したところで逆転されては意味が無いし、逆にあえて先制されることで勝利を掴めるなら、そちらの方が間合いを制しているということになる。


 それらを踏まえた上で、最終的な目的を達成するのが間合い操作の神髄で、それについては上手く説明できそうにない。


 物理的な距離や能力、状況、相手のスタミナや集中力などなど、要素が多すぎて上手くまとめられる気がしないから。


 それでも、さきの双頭のイヌを例にすると、素手の俺とイヌでは、イヌの方が物理的な間合いは長いけれど、速度で勝る俺はそれを充分に補える。

 よく分からない火炎放射や、負け犬の遠吠えのリーチはもっと長いけれど、起こりが非常に分かりやすい上に精々が音速程度の攻撃なので、避けるのは難しいことではない。


 したがって、イヌの攻撃が届く距離だからといって犬の間合いではない。


 むしろ、迂闊な行動は俺が踏み込むチャンスとなるだけだ。


 それに、俺の緩急虚実はあるのにブレが全く無い行動技術は、相手の認識を著しく阻害するらしい。

 相手から見ると、距離感や速度、そして移動方向までもが非常に掴みづらくなっているのだとか。


 つまり、俺と同等の技術がなければ牽制すらまともにできない。


 なので、俺とイヌが戦った場合、どんな状況であっても俺の間合いの中であるため、万が一にもイヌに勝ち目は無い。


 身も蓋もないけれど、これが実力差というもので、これだけ差があれば間合いも何も無視してぶっ飛ばすことも可能である。

 しかし、間合い操作は母さんから教えてもらった数少ないものなので、疎かにしたくない。

 それに、間合い操作とはその一戦のみに限定されるものではなく、その後の戦いだとか不測の事態に備えることも含まれているし、セイラさんと話しているだけとか、何なら眠っている時も含まれている。

 常在戦場とかそういう感じ?


 まあ、俺くらいになるとほぼ無意識でもできるのだけれど、考え無しだと「うっかり」も多いのは事実である。



「身体能力は勇者級なのかしら? でも、スキルがないからか動きが変――いえ、ユーリちゃんの話が正しいとすると、システムによる慣性や反作用の低減がないと、こうなってしまうということなのかしら? 武器や防具が装備できないのも不便だけれど、武器の方は手刀が聖剣レベルの切れ味とか、雷撃を避ける反応速度と身体能力だと必要無さそうね。というか、何で雷撃が避けられるの? 避雷針を設置するとか、絶縁体で遮断するとか、対抗手段は多い属性だけれど、物理的に避けるのはおかしいでしょう?」


 おかしいと言われても、避けられるのだからそれ以上でも以下でもない。

 それに、避けられるといっても電撃くらいの速度になると、それほど余裕があるわけでもないし、そもそも魔法の間合いは掴みにくいので避け損なうこともある。

 必ずしも見えているから避けられる――とならないのは、俺も間合い操作でよく仕掛けることで、避けられない方が未熟なのだ。

 まだまだ俺も精進が足りないということだ。




 体力測定のついでに、実地で薬草学も学んだ。


「ユーリ君、この薬草の名前が何だか分かる?」

 などと訊かれても、花の名前なら多少は分かるけれど、葉っぱには興味が無いのでどれも同じに見える。

 さすがにサボテンくらいになると分かるけれど、俺の認識では葉っぱは葉っぱで草は草だ。


「……シソ!」


「残念、これは大麻よ。基本的にどの国でも所持しているだけでも違法で、合法なところでも使うにも国の許可を受けた施設内じゃないと、これも違法になるわ」


「これがあの有名な……? とりあえず、見分けがつかないので葉っぱは摘まないようにします。それと、俺は薬なんか使わなくても大体ハッピーなので、そういう所には行かないと思いますし、お酒も嗜む程度なので、問題を起こしたことはないです」


「うふふふ。そう、ユーリ君は良い子ね」


 セイラさんは優しく微笑むと、なぜか俺の頭を撫でてきた。

 子供扱いされている気がしないでもないけれど、一応は信用されたのか、薬草学はこれが最初で最後となった。


 とまあ、他にもいろいろとあったけれど、俺がどれだけ魔物を倒してもレベルアップしないことだけが判明した。


◇◇◇


 俺の近接戦闘能力は充分だけれど、搦手や未知の攻撃への対応に不安が残る――というのが、クリスさんとセイラさんの共通の評価だ。


 もちろん、彼らの知識にある諸々を教えることはできるそうだけれど、セイラさんは魔法、クリスさんに至っては後方支援特化なので、近接戦闘にどう落とし込むかまでは教示できない。


 それでも、知らないままでいるよりはマシだろうと、訓練時間の大半は魔法の訓練と座学に注ぎ込むことになった。


 座学は苦手なのだけれど、彼らが言わんとするところは理解できるので頑張った。


 なお、魔物の捌き方とか魔石の取り出し方などの講義もあったのだけれど、それは影の人に丸投げした。


 影の人は俺とは違ってグロに耐性があるらしいので、適材適所というやつだ。

 というか、影の人に解体してもらうと、血の一滴も無駄にしないレベルで解体してくれるのだ。

 俺にできないところを補ってくれるとか、最早パートナーといっても過言ではない。


 ただひとつ残念なのは、解体や組み立てはできても、加熱したり冷凍したりはできないことか。


 それと、何でもかんでも取り込めるものだと思っていたけれど、魔法そのものや魔法で生み出した火や雷は取り込めなかった。

 どうにも、取り込もうとする瞬間にレジストしているらしい。


 だったら、自然物なら取り込めるのか――はこれはこれで難しい。

 雷を取り込むということが意味不明だったために火でしか試していないけれど、火だけを取り込むことには成功したように見えたものの、取り出したときには消えている。

 そもそも取り込めていないのか、取り込んだ先で消えているのか、出した時に消えたのかも分からない。

 もっとも、火や電気を取り込めないのは《固有空間》でも同じらしいので、そういうものだと諦めるしかないのか――いや、さきの鑑定では、俺には《固有空間》のような魔法やスキルは一切無かったので、同一のものと決めつけるのは早計かもしれない。


 もしかすると、影の人の能力なので表示されないだけかもしれないけれど、今のところは検証のしようもない。


 火を取り込めればどこでも料理ができるようになるかと思っていたのだけれど、そう上手くはいかないらしい。


 しかし、こんなことで諦めるわけにはいかない。

 いつか絶対に料理を作れる男になるのだ。


◇◇◇


 セイラさんは、死属性という物騒な系統の魔法が得意で、それ以外の各種属性魔法も人並み以上に使える大魔法使い(自称)だった。


 なお、セイラさんのように魔法のみを使って戦う――いわゆる【純魔】と呼ばれるタイプは珍しいそうだ。


 魔法のみ――特に火力のみを追求したスタイルは、集団戦闘でこそ輝く。

 中でも先制打で勝負を決めてしまうほどの大火力は、戦争などの集団戦においての花形だそうだ。


 ただし、魔法の威力や精度は距離によって減衰するそうなので、相手が結界を張るなどの防御を行っていないことが前提となる。


 そして、パーティー単位などでの小規模戦闘の魔法使いの役割は、攻撃より防御が優先される。

 敵味方入り乱れての乱戦では同士討ちになることも珍しくなく、その火力を持て余すのだ。


 そして、個人戦では、同格以上の戦士が相手になると、詠唱する暇も与えてもらえない――と、割と残念なクラスらしい。


 とにかく、この辺りの魔物くらいならセイラさんひとりでも狩れるけれど、本気を出すとなると深刻な森林火災などの自然破壊が起きるらしく、下手をすれば竜に目をつけられて殺される――と、あまり高度な魔法を見せてもらうことはできなかった。



 それでも、各属性の基本的な魔法はひととおり見せてもらうことはできた。


 それらは、基本的――初心者向けのものだけあって、それほど複雑ではない呪文の詠唱や、魔法陣の構築などを経て、様々な魔法が発動するものだった。


 ただし、戦闘中に長々と詠唱している余裕がいつもあるわけではなく、むしろ実戦では威力より迅速さを要求される場面の方が多いため、一定のレベルに達した魔法使いは、《詠唱短縮》や《無詠唱》というスキルを習得するものらしい。


 この《詠唱短縮》や《無詠唱》というスキルがあれば、その名前のとおり詠唱を短縮したり省略できるそうで、状況次第――威力を求めるか速さを求めるかで使い分けるのだとか。


 なお、セイラさんも当然のように《無詠唱》のスキルを持っているそうだけれど、俺に見せてくれた時は詠唱していた。


 お手本として見せてくれたのだろうか、それともいい格好をしようとして盛ったのか。



 魔法の発動に必要な、魔力と魔力操作についても説明してもらった。

 というか、魔力は俺のいう()と同様のものらしい。

 なるほど、魔法とは気合で使うものだったのか。


 何にしても、名称は重要ではない。

 特に拘りがあるわけでもないし、この世界で「魔力」で通っているなら合わせればいいだけだ。


 しかし、「気合を入れる」のは分かるけれど、「魔力を入れる」だと何のことか分からない。

 やはり、適当でいいか。



 まずは入門用の、灯りを灯すだけの簡単な魔法を親切丁寧に教えてもらって、気合――魔力を練って、詠唱して、発動するための言葉と共に魔力を放つ。


 何も起きなかった。


 もちろん、何もミスはしていない。


 呪文は「《灯よ》」、発動句は「《光明》」、合わせて「《灯よ》、《光明》」――たったこれだけで間違えるほど莫迦ではない。

 というか、熟練者なら詠唱しなくても発動するものだし、素質があれば詠唱や発動句がでたらめでも発動するものらしい。

 要は、イメージがしっかり構築できていて、充分な魔力があれば発動するのだ。


 しかし、何度やっても駄目だった。

 光魔法の素質がないのだろうか?



「なぜかユーリちゃんから魔力を一切感じないのよね……。魔力が一切ない人なんているはずがないのだけれど……。ごめんなさい、私にはユーリちゃんに合った属性も分からないわ」


 セイラさんが言うには、魔力とは個々人の資質に応じた属性を持っていて、その属性と相性が良い魔法は覚えやすく、相性が悪い魔法やスキルは覚えにくいそうだ。

 例えるなら、闇属性の魔力では光属性との相性が悪くて覚えるのが難しいとか。


 ちなみに、セイラさんは闇属性で、クリスさんは金属性だ――お金ではなく金属のことで、もちろん、金属製ということでもない。

 彼の身体は鋼ではなく、どちらかといえばモヤシだ。


 ということなので、他にも様々な系統の魔法を試してみたけれど、どれも発動するものはなかった。

 どうやら俺には魔法は使えないらしい。



 最後の手段として、魔法が込められた魔石の力を解放するという手段にも頼った。

 これは魔法の素質が低い3歳児でもできることらしい。


「《光明》!」


 できなかった。


「術式は構築済みだし、必要な魔力を魔石が保有しているのだから、できないはずがないのだけれど……」


 魔法無効化能力とやらが原因でないことは、同じ場所でセイラさんの魔法が発動していることから明らかである。

 例えるなら、俺だけ魔石に無視されているといったところか。

 いや、まあ、相手は無機物だし、それが普通なのだけれど。



『ボクの力が、システムの干渉を妨害しているのが原因かも』


 そこで出てきた推論がこうだ。

 システムが邪神と表現する彼の存在のせいで、システムが俺に干渉できないのではないか――逆に俺からもシステムにアクセスできないのではないか。


 確かに、システムの力が彼にまで及んでいないことは、鑑定結果に彼が出ていないことからも明らかだ。


 同時に、俺のレジスト能力が、完全に魔法やスキルを無効化できないことも翻訳の指輪が証明している。

 まあ、これに関しては気合を抑えている間だけだけれど。


 まとめると、システムの効果は俺には及びにくく、影の人にはほぼ及ばない。

 影の人の一部である服には多少効果があるものの、物理的、魔法的な干渉は不可能。

 システムの影響を受ける順に並べると、服、俺、影の人。


 つまり、システムと俺との間に「服」という異物が存在していて、更にそれが呪われているのが問題なのだろうか。


 ということなので、決して素質がないわけではないのだ。

 そういうことにしておいてほしい。



 どう取り繕ったところで、俺には今現在システム上にある魔法は使えない――かなり難しいと思われる。


 しかし、俺の主観ではそもそも魔法が使えないことが普通で、能力的なものは以前とほとんど変わっていない。


 つまり、それほど大きな問題ではない。

 魔法の対抗手段もレジストがあるので、何もないよりはマシだろう。



 もっとも、少し楽しみにしていただけに、多少の落胆はある。

 とりあえず、今後も可能性を信じて――ステータスすらオープンしなかったけれど、それでも一応は魔法の練習を続けることにする。



「ユーリちゃんからは魔力とは違うけれど、何だか不思議と癒されるような感じはするし……。もしかすると、システム上の魔法が使えなくても、未知の魔法が使えるようになるのかもしれないわね? ちょっと燃える展開よね!」


 セイラさんが感じているのは、もしや彼の気配では――いや、それだと癒されることはないはずだ。


 さておき、魔法とは単純にシステムが提供するだけのものではなく、上級者になれば、基本のものを発展や改良したものや、完全なオリジナルの魔法を使えるようにもなるらしい。


 単なる慰めかもしれないけれど、訓練を続けるのは、気――魔力操作の訓練の一環だと思えば無駄になることもない。



『この前見せてもらった、マンガの魔法少女みたいなことができるかも!? 燃えるね!』


 そういうのは必要無いです。

 というか、なぜに少女?


「『ねー』」

 息がぴったりだった。



 ふたりはこの7日間でとても仲良くなっていた。


 彼は夜な夜な影を伸ばして、クリスさんの館の裏手にあるセイラさんの館を訪ねていた。


 どうやら、彼女の部屋にある聖典――漫画が大層お気に召したようで、着々と余計な知識を身につけていたのだ。


 ちなみに、この世界での漫画――というか、書物は結構な高級品である。


 製紙技術はあるけれど、大量生産ができない――紙だけでなく鉄や木材、それ以前に食料ですら余裕があるとはいえない世界で、趣味だの娯楽だのに割ける労力や資源は多くないのだ。


 この世界に趣味や娯楽を持ち込んで、普及させようとした勇者たちには残念なことだけれど、生態系の頂点でもないのに好き勝手はできなかったらしい。


 とにかく、日本では大衆文化だったものでも、この世界ではお金持ちの道楽であって、クリスさんやセイラさんのような成功者でもなければ収集は難しいらしい。

 それを魔法や錬金術で延命してまですることかと思うけれど、価値観は人それぞれなので、俺が口を出すことではない。



 俺もそんなセイラさんの館に招かれたことがあるのだけれど、あまりの異質さにすぐに逃げ出してしまった。


 彼女の館では、扉を開けた瞬間から様々なタイプのイケメンに出迎えられた。

 その上、これでもかと構われた。


 これだけなら、クリスさんの館と対照的だとか、性別の差だと割り切ることもできただろう。



 しかし、更に奥のステージでは、何かの花びらの舞い散る中、これまた様々なイケメンマッチョが妖しいポーズを取っていた。

 そして、俺と目が合うと、「バチーン」と音がしそうなほどのウインクをして、アピールしてくる。


「俺、男だよ!?」


「もちろん、構わないさ。私たちも、セイラ様も、そっちもイケる」


 イケメンホモ――ホムンクルスが、妖しい笑みを浮かべてハグをしてこようとするので、慌てて身を躱す。

 しかし、ホムンクルスはそのひとりだけではない。


 俺をロックオンした近くにいたホムンクルスたちが、皆妖しい笑みを浮かべながら、服を脱ぎながらにじり寄ってくる。


 ここは危険だ!

 早く地球に帰りたい!


 あまりに異質な光景にそう判断して、脱兎のごとく逃げ出した。



 なお、あれらもクリスさんの手によるホムンクルスだそうだ。


「セイラの趣味なのだが、ノンケにはあの作業は地獄だったのだよ……」


 あれの製作期間が、敬愛する勇者様との死別以外で、人生で一番つらい時期だったらしい。

 心中お察しします。


 まあ、趣味嗜好は個人の自由だと思うけれど、押しつけられると困るよね。


 でも、男の()とか言って喜んでいなかった?

 それと男色とどう違うの?


 訊くと面倒なことになりそうなので訊かないけれど。


◇◇◇


 訓練と平行して、様々な検証も行った。


 スーツの性能は微妙だった――いや、生地や縫製などはとても上等なことは分かる。

 壊れない、燃えない、濡れない、汚れない。

 ある意味では最高だ。


 しかも、若干のレジスト能力まで備えている――かと思いきや、確かに弱い魔法ならレジストするものの、一定以上の精度や威力の魔法は素通りしてしまう。

 役に立つのかどうか微妙なところだけれど、全体的に見れば服の問題は些細なものでしかない。


 いや、着たきり雀は体面が悪いので、早急に改善してもらいたい。



 服に関する検証の傍ら、もうひとつ分かったことがある。

 俺には武器、防具などの装備や、大半の道具が使用できないのだ。



 剣を持つことはできるし、振ることもできる。

 しかし、何かを斬ろうとすると、対象に触れた瞬間に塵になってしまう。

 武器ではなく、包丁などの道具でも同様で、野菜を切ることすらできなかった。


 しかし、洗い物をするために使ったタワシやタオル、掃除をするのに使った箒やモップは壊れなかった。

 正確には、極めて優しく使ったときは壊れなかったけれど、少し力を入れると、武器同様に塵となった。

 やはり、世界は俺に優しくない。


 また、投擲なら普通に効果を出すことができたし、弓矢は駄目だったもののボウガンなら普通に撃つことができた。


 魔法道具に関しても、使える物と使えない物があったけれど、恐らく常時発動型の魔法道具なら使用可能で、それ以外についてはまだ調査が必要っぽい。


 とにかく、俺が武器や防具を使って対象にダメージを与えたり軽減すると、補正をしようと干渉したシステムがエラーを起こして、俺の持っている武器や防具が壊れることで解決を図っているのではないかということだ。


 逆に、俺にダメージを与えようとした相手の武器などには影響がないところに悪意を感じる。


 もっとも、世界が俺に優しくないことなど今更なのでどうでもいい。



 とにかく、防具――鎧などであれば、能動的に攻撃を受けなければ壊れることはない。

 とはいえ、そこまでして着るものではないし、攻撃を受けなくても派手に動けば壊れてしまう。

 それに、万一不測の事態で壊れたりした場合、全裸で放り出されるおそれがあると考えると、デメリットの方が大きい。


 とりあえず、保留かな。



 服に関するもうひとつの事案。


 脱げないこと。


 これに関しては、影の人の協力もあって一応脱げる状態にはなった。


 当初は、服を着たままお風呂をいただくわけにもいかないので、当面は遠慮するつもりでいた。


 クリスさん宅のお風呂は、温泉でこそないものの立派な大浴場である。

 湯船にタオルや髪を浸けるのは許されない。

 服を着たまま入るなど論外だ。


 しかし、クリスさんの厚意で「丸洗いOKなら問題無いのだよ」との許可を得て、バニーさんやメイドさんたちに俺ごと丸洗いしていただいた。

 丸洗いってこういうことだったか?



 そして今、服の問題がひとつ消えた。


「脱げないのなら、一箇所に纏めてしまうのはどうかしら?」


『――――!』


 セイラさんの言葉が発端だった。


 天啓を得たりとばかりに泡立つ俺の影。

 怖いよ?


『できた――!』


 その言葉と共に、スーツがスーッと消失する。


 クリスさんやセイラさんの面前で。


 辛うじてネクタイが残ったので、前垂れのような感じで際どい部分を隠しているけれど、横から見れば丸見えだろう。


 というか、この仕打ちはあまりにも酷い。


「せめて時と場所を……」


『靴下を残したほうがよかった?』


 残す場所のことではない――いや、彼もそんなことは当然分かっているはずなのに、面白そうだからやっただけだろう。



 セイラさんのところに通うようになって変な知識をつけ始めた彼は、当然のように悪戯を覚えたのだ。


 クリスさんとセイラさんはガッツポーズしながらにこやかに笑っているだけだけれど、これを街中でやられたりすると笑いごとでは済まない。


 その後、服を脱ぐタイミングは俺が指示を出すと言って聞かせたけれど、不安は尽きない。

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[気になる点] 突然出てきたユノって誰ですか?そのうち紹介されるんでしょうか。
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