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22 ギルバートのお悩み相談室

――第三者視点――

 湯の川には邪神がいる。


 その邪神は、若くて美しいだけでなく、人間の想像を遥かに超える実益をもたらす存在でありながら、それまでの神のイメージを払拭する親しみやすいキャラクターで、町の人からとても愛されていた。


 その邪神ユノが住む城の名を【大吟城】という。

 酒の神でもあるユノの、故郷の酒にちなんだものだ。


 大吟城は、この世界では他に類を見ない巨大高層建築物であったが、ユノに相応しい物であるかといえば、力不足であるというのが大勢の見解だった。


 しかし、それもまた、

「ユノ様は、俺らのレベルに合わせてくれてんだな」

「高嶺の花にゃ変わりはねえけど、俺たちに見えるところにいてくれてんだ」

「知ってるか? 水が高い所から低い所に流れるように、ユノ様成分も高い所から低い所に流れるんだ。つまり、低い所にいる俺たちは、ユノ様で満たされているといっても過言じゃないんだぜ」

「「「さすがユノ様だな!」」」

 と、何もしていないのに彼女の株が上がっていく要因となるのだが、ここでは特に関係の無い話である。




 その城の横に、一基の塔があった。


 城の規模や豪華さから比べると、随分と小さく、造りも質素な物だ。


 しかし、その中は世界樹の魔素で強化された異世界になっており、主に、強大な力を持つ城の住人の訓練や実験などに用いられていた。


 城の主であるユノが、何かを思いつくたびに籠ることから【キャットタワー】と名付けられていたそれは、今は新たに湯の川の一員となった、魔王たちの訓練のために使用されていた。


 ユノから見れば大した力を持たない彼らではあるが、一般的な感覚でいえば、彼らもまた大きな力を持つ存在である。

 外で気軽に訓練するには、周囲に与える被害が大きすぎるのだ。


 そんな彼らが、全力以上の力を発揮できる場所という点で、これ以上に適した場所はないといえるだろう。




 しかし、一番の利点は、そんな魔王たちの阿鼻叫喚が外に漏れないことだった。


 訓練はごく単純なものだ。


 午前中は、基礎能力の向上や基本の反復訓練を、午後からはミーティアたちを相手にした実戦訓練をするだけ。


 ただし、午前中の訓練は、それぞれの能力に合わせてギリギリ達成可能な負荷を掛けられ、午後の訓練では、手足が無くなるなど日常茶飯事だった。


 レベルアップすれば、体力や魔力が瞬時に回復するシステム上の仕様まで利用して、楽になりたければレベルアップしろ、できなければ苦しめという素敵な方針。


 当然、楽になるのは一瞬のこと。

 それに、魂や精神は回復することなく削られ続けている。


 訓練終了の合図は、彼らにとってどんな福音にも勝るものだった。


 更には、僅かな休息時間(※肉体のみ)であるはずの睡眠時にも訓練は続く。


 夢魔の夢への介入原理を応用した装置で、最低限必要な知識などを、繰り返し夢として見せられているのだ。

 疲弊しきっているため目覚めることはないが、うなされることは避けられない。

 ただ、夢の最後で、ユノが「期待しているから、頑張って」と耳元で囁いてくれるサービスシーン(※無許可)が入っているため、目が覚めればギリギリ行動可能な状態になっている。


 この邪神式ASMRは、後に湯の川において大流行するのだが、それはまた別の話である。



 しかし、本当に恐ろしいのは、ユノが手抜き対策に設置していた「邪神くん」とよばれる人形だった。


 それは、手を抜いている者に忍び寄り、じっと観察する。

 そして、それが限度を超えていると判断するや否や、裏返って臓腑とも毒虫ともつかないおぞましい物が溢れ出す。

 そして、容赦なくその怠け者を喰らう。


 それが実際に作動したのは一度だけだ。



「ミーティア殿やアーサー殿が強いのは認めるが、このような訓練はそこの蜂のような弱者のためのもので、我らはそれにつき合わされておるだけであろう!? こんな物にいつまでも怯えておっては魔王の名が廃るわ!」


 不満を吐いて訓練の手を止めたのは、小巨人族の魔王だった。


「それに、ユノ様は規格外の強さゆえ、分かっておられぬのだ! 我が力は戦闘に特化しておるというのに、このような経験値にもならぬお遊びで疲弊させられて、本番の実戦で実力を発揮させぬというのはセコいのではないか!?」


 それは、「弱小魔王が何を言っているのか」としか思われないような不満だった。

 それだけなら、笑い話で済んだかもしれない。

 しかし、所々に込められた、ユノ批判がまずかった。


 ユノ本人であれば笑って流したかもしれないが、ユノを崇拝する狂信者や、彼女の眷属にとっては流せることではなかったのだ。


 直後、力自慢を自称する魔王が、人形から溢れ出したナニかに身体中の穴という穴をなす術無く侵略された。

 惨劇は一瞬のこと。

 後に残ったのは、重要器官を残して貪り喰われた、小巨人の変わり果てた姿。



 これには他の魔王たちも絶句し、ミーティアやソフィアですらもドン引きしていた。

 幸い――というか、ユノの指示どおりに辛うじて命だけは助かったし、喰われた身体もエリクサーRで復元された。


 そして、当人はその時のことを全く覚えていない。


 それでも、その恐怖は魂に刻み付けられたようで、以降彼は手を抜くことも愚痴を漏らすこともなくなった。

 それが一層周囲の恐怖感を煽る。

 当然、その様子を見ていた者たちは、二の舞にならないように必死にならざるを得なかった。


 ただひとり、アーサーだけは時折思い出したように恍惚の表情を浮かべていたが、アーサーの病気は早いうちに皆に知れ渡っていたので、誰もそれに触れることはなかった。


◇◇◇ 


「なあ、ちょっといいか?」


「ん? ああ、【ライカンスロープ】の……。すまない、名前を失念してしまった」


 数少ない休憩時間のひとつ、昼休み。


 有翼人の魔王ギルバートに話しかけたのは、ライカンスロープという、満月の夜だけ獣人に変身する種族の、まだ若い魔王だ。


 食事を摂るだけでもギリギリという、息も絶え絶えの者が多い中、数人の視線がふたりへ向けられたが、人物の確認だけすると、すぐに興味を失ったように己の体力の回復に努めていた。



 ギルバートは、ほんの僅かな差ではあるが、湯の川での古参である。


 さらに、魔王たちの移住に際して、彼がユノとの連絡役をしていたという理由から、新参の魔王たちから相談を持ちかけられることが多かった。


 相談といっても、大半はユノへの顔繋ぎの依頼である。

 しかし、ギルバートとて別段ユノに顔が利くわけではないし、ユノにそれ以降の橋渡しを仰せつかったわけでもない。


「【リック】だ。――まあ、今の状況じゃ他人の名前なんて覚えてる余裕はねえし、気にしないでくれ。それより少し相談があるんだが、いいか?」


「別に構わないが、休憩時間で終わる話か? そうじゃないなら夕食後にしてくれないか」


 ギルバートはそう言ったものの、間違いなく面倒事だと確信していた。

 ここにいる魔王の中には、複雑な事情を抱えている者が多いことはよく知っていたし、相談に乗るのもこれが初めてというわけでもなかった。


「ああ、それじゃあ夕食後に頼む」


 切羽詰まったようなリックとは対照に、ギルバートの表情にはまだ余裕がある。


 リックはその様子にほんの少し安堵するのだが、ギルバートとしてはこの手の相談に慣れてきただけで、別段お人好しというわけではない。


 しかし、この地獄より酷い訓練を共にしている中で芽生えた連帯感とでもいうのだろうか、ギルバートとしても、彼らに対してできる限りのことはしてやりたいという気持ちになっていた。



 それに、ギルバートに持ちかけられる「ユノとの顔繋ぎ」は、公然とユノと話せるという楽しみがあった。

 事情を知らない者が聞けば、魔王がそんな思春期の少年少女のようなことをと思うかもしれない。

 しかし、実際にユノの前に立てば、舞い上がらない者の方が少ないのだ。


 ギルバートなど、何度も顔を合わせているのに、いまだにユノとの会話は慣れないくらいである。

 視線が合うだけで、言葉を交わすだけで、同じ空気を吸ていると意識するだけでも胸が高鳴る。


 それでも、ギルバートには、魔王としての意地と矜持がある。

 彼を慕ってついてきた部下たちの前で、無様な姿を晒すわけにもいかない。


 ユノの魅了はスキルによるものではないので、そうやって強く気を張っていれば抵抗できるのだが、反面、アーサーやクライヴのような強者でも陥落させる恐ろしいものでもある。


 それを理解していてなお、挑まずにはいられない。


 他人が聞けば莫迦なことだと思うだろうが、望みもせずに魔王になったギルバートや他の魔王たちにとって、ただの少年だった頃に戻ったような時間は貴重であり、それを差し引いても、ユノと言葉や身体で触れ合うことは、何物にも勝る至福の時間だった。



 しかし、いくら魔王であっても、用もなく城内に立ち入ることはできない。


 平時のユノは、種族はもちろん、老若男女を問わずに気さくに接しているが、公私はきっちりと線引きしている――と、彼らは勝手に考えている。

 少なくとも、城と町、城の敷地と城内には、精神的な壁が存在するのだ。


 ユノとしては、そんなことは全く考えていないのだが、最古参の亜人たちの言動や、夜な夜な聞こえる魔王たちの呻き声が、それを現実のものと認識させていたのだ。



 ユノには、優しさはあっても甘さはない。


 ギルバートはそれは身をもって経験している。

 生死の狭間を彷徨うほどの訓練を思い出すと、優しさの意味が分からなくなるが、それはそれで、余計に公私のけじめは必要になる。


 だからこそ、これをチャンスだと考えている。



 噂では、町に住む者には城で働ける機会が、城で働く者には、城内に自室を与えられる機会があるという。

 そして、城内に自室を持つ権利に最も近いのは5人の巫女、その次に自分だ――と、ギルバートは考えている。

 実際には特に根拠の無い、ただの願望だが。



 今の住居に不満があるわけではない。


 用意されていた住居は、以前までの屋敷に比べれば専有面積は狭くなったものの、設備は超高級ホテル並みである。

 さらに、ホムンクルスのコンシェルジュが24時間待機しており、些細なことでもすぐに対応してくれる。

 飲食は最高級――時には天上級の物を味わえる機会もある。

 他にも、温泉を始め、エステティックサロンなどのリラクゼーションや、レクリエーションを目的とした施設も充実している。

 もっとも、後者の方を楽しむ余裕は、現状では無いが。



 湯の川に人間の冒険者たちが来てからは、実験的に【成果ポイント】と【貢献ポイント】というものが導入された。


 仕事の成果に対して加算される成果ポイントは、湯の川で使用できる代用貨幣であり、王国や帝国の貨幣と交換することもできる。

 それを使用することで――事前の申請は必要だが、およそ金で買える物はほぼ手に入れられる。


 そして、貢献ポイントは――成果だけを追い求めれば、効率のいい仕事に人が偏ったり、自身の成果を優先して、後進の育成がなされなくなるおそれがあるとして考案されたもので、成果とは別に、どれだけ町や城に貢献できたか、又は努力の質や量を評価してポイント化されるものだ。


 成果ポイントは、能力が稼ぎに直結する分かりやすいシステムだが、貢献ポイントの方は、能力に対しての努力や貢献度を評価するシステムであるため、能力の有無や老若男女にかかわらず稼げる余地がある。


 例えるなら、ドワーフの名匠が出来の良い装備を作ったとして、成果ポイントは多く、貢献ポイントはそれなり。

 彼に及ばない職人が、努力してそれと同等の物を作ったとすれば、成果ポイントは同じで、貢献ポイントは多くなる。

 装備は作らずに後進の育成をしたとすると、成果ポイントは僅かだが、貢献ポイントは非常に高くなる。また、努力を評価するシステムのため、育成された側にもそれを評価する形で貢献ポイントが入る。


 つまり、学園で教壇に立つ魔王たちは両ポイントとも保障されていて、教えを受ける子供たちにも貢献ポイントが入るという素敵な仕様である。

 裏を返すと、目の前にエサをぶら下げられて、延々と努力を強いられるシステムでもある。


 ただ、この仕様が「ユノがみんなの努力を見守っている」とも感じられるためか、町の住人たちのやる気が非常に高くなってしまい、一部ではオーバーワークの兆候も見られた。

 それを受けて、現在では適度な休息でも貢献ポイントが得られるように変更されている。



 現状、貢献ポイントの使い道は明言されていないが、ギルバートはこれが城内での居住権に関係してくると踏んでいた。


◇◇◇


「よく来てくれた。早速だが、明日の訓練のこともあるし、手短にすませたい」


 夕食後、リックがギルバートの部屋を訪れると、リックは飲み物を出すどころか挨拶もそこそこに切り出した。

 もっとも、訓練は正しく命懸けであり、休息できるうちにしっかりと休息しておくことが重要なのは、ギルバートも理解している。


 そもそも、お茶が飲みたいなら、リックに淹れてもらわずとももっと美味しい物が飲めるし、くだらない挨拶や駆け引きで時間を浪費されるようであれば、ギルバートの方から本題に切り込んだだろう。



「俺が獣王【レオナルド】の回し者だってのは気づいてるんだろ? 俺だけじゃなく他にも何人か入り込んでるし、他の陣営のもいるよな。――俺ら泡沫魔王にとっては、敵味方の嗅ぎ分けは生死を分けるからな」


「やはりそういう話か。当然俺は知っているが、誰にも――ユノ様にも言うつもりはない」


 話の内容は、ギルバートの予想どおりのものだった。

 ギルバートに寄せられる相談のほとんどは同様のものだったのだから、予想できない方がおかしい。

 そもそも、古竜が2匹もいる所で、バレないと思っていたことの方が理解に苦しむところで、「ユノ様莫迦にすんな」というのが正直な気持ちである。



 稀に、「ユノ様をお茶に誘いたいんだけど、どうすればいいかな」などというふざけた相談もあったが「当たって砕けるしかないんじゃないかな? いや、砕けろよ。物理的に」というアドバイスくらいしかできなかった。

 ギルバートにしてみれば、そんなことを知っていれば、まず自分で実行することである。

 何しろ、「良いお茶が手に入ったので、一緒にどうです?」などという常套手段は、湯の川では使えないのだ。



「なぜだ!? それは裏切りではないのか!?」


 リックは驚きを隠そうともせず、ギルバートに詰め寄る。

 リックの主観では、湯の川に帰属したいと考えている彼は裏切り者であり、それを知ってユノに告げないギルバートもまた裏切り者だからだ。


 しかし、ギルバートは同様のやり取りは既に何度も行っていたため、リックの反応に驚きはない。


 リックにしても、古竜が2匹もいる意味や、間諜であることがバレていることにも薄々気づいていたが、直接そう問い質されたこともなかったため、もしもの可能性に縋りたかった。

 そして、そうではないと分かった今、例えようもない不安が心中を埋め尽くしていた。


「ユノ様がいつも言ってるだろう。『貴方たちの意思で決めたことなら尊重する』と。お前はお前の好きにすればいい」


「そんな莫迦な!? そんなことをして、ユノ様に何の得がある!?」


「莫迦はお前だ。損とか得など、ユノ様は気にしておられない。お前のちっぽけな物差しでユノ様を測るんじゃねえ」


 言葉を失ってしまったリックを余所に、ギルバートは続けて畳みかける。


「ユノ様と敵対したいなら、自分の意思でやれ。戦いを挑んだからって、すぐに殺されるわけではない。――ミーティア様やソフィア様でも、敵対関係からスタートしたと聞くしな。――まあ、お前にできることは精々レオナルドに情報を流すくらいだろうが、何をどう流せばユノ様にとって害となるのやら。ユノ様は情報を流されても、逆に手間が省けたとしか思わないかもな」


「それは……。そんな……」


「そもそも、ユノ様はそんなことは織り込み済みで、お前らを受け容れてるんだ。好きにすればいいじゃないか」


「それでも……」


「要はお前の意思次第だ。レオナルドや状況を言い訳にするな。――お前はどうしたいんだ?」


 ギルバートへの相談は、いつも大体こんな感じの流れになる。


 まずは、彼らの前提が違うことを教えてやる必要があった。

 ギルバートも、それに気づくまでは、説明するのに随分と苦労した。


 答えも聞かなくても分かる。

 違う答えが出せるなら、相談などするはずがないので当然である。


「そんなもの! もちろん、ここで暮らせるなら暮らしたいさ! ――レオナルドのところから足抜けしたい。だが……」


 リックが渋っているのは、レオナルドに弱みを握られているからだ。


 獣王レオナルドにとって、事前の準備が足りない状態でリックを送り出したことはやむを得なかったが、それでも簡単に裏切られることがないようにと、随分前から手は打っている。


 本来であれば、こんな危険を冒すことは悪手なのだが、この機会を逃すと、外界と隔絶された町の情報収集は難しいものとなる。


 よって、もしバレて捕らえられたとしても、尋問で口を割らない者か、切り捨てても痛くない捨て駒が送り込まれている。

 リックはその後者であり、彼自身、その立場をよく理解していた。



 手下を使い潰すことに躊躇いがない――弱者に興味が無いレオナルドの下にいても、未来は無い。

 もっとも、レオナルドが特別配下の扱いが悪いわけではない。

 むしろ、レオナルドは力のある配下には寛容な方で、配下を餌と勘違いしている不浄の魔王【ダミアン】や、支配しやすいアンデッドに変えようとする不死の魔王ヴィクターよりはいくらかマシだったが、いずれにしても何の慰めにもならない。



 対するユノは、かなり過激ではあるが、鍛え直してもらえるどころか、(夢の中で)期待しているとまで言ってくれるのだ。

 裏切りを考えるのも当然の成り行きだ。



 しかし、リックには最初の一歩が踏み出せなかった。

 リック個人にはその問題を解決する能力はなく、その解決にユノを頼れば、間諜であったことがバレて罰を受けると考えているのだ。


「お前がどうしたいか分かってるじゃないか。後は残った問題をどうするかだろ? というより、最初からそのつもりで俺を頼ったんだろう?」


「ユノ様は俺を許してくれるだろうか? いや、俺のようなゴミカスが、ユノ様を頼るなど許されるのか?」


 憔悴(しょうすい)しっ放しのリックは、その豪胆な見た目からは想像もできない女々しさだったが、これからユノに悪事を告白しようとする心中を察すると、ギルバートにも責めることはできない。



「決意ができたら言ってくれ。そのときは可能な限り力になろう」


 リックが恐れていることは、ギルバートにもよく分かっていた。

 そして、ギルバートの励ましが何の役にも立たないことも分かっている。

 それでも、リック自身が決断することに意味があるのだ。

 それが間違いであったり、一般的に悪と呼ばれるものであったとしてもだ。


 決断はリックにしかできず、ギルバートにできることは、それを待つことだけだった。

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