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19 最強の武器の威力

「目線こっちお願いするでござる! んフフフ、良い、良いでござるよ〜。笑顔で決めポーズお願いするでコポォ!」


 クライヴさんが壊れた。


 6本の腕で巧みにカメラやレフ版を操って、許可した覚えもないのに写真を撮りまくっている。


 百歩譲って許可の件は武器を唐揚げに変えてしまったことと相殺してもいい。総菜だけに!



 ところで、決めポーズって何だ。

 メイドにそんなものあったか?



「止めなさい! どんどんアングルが下がってるじゃない! 正直キモいわよ!?」


「邪魔でござる! 退け、BBA! ゴフゥ!?」


 そう言うアナスタシアさんも、同性なのをいいことにボディタッチが激しい。

 そして、余計なことを言ったクライヴさんには良いのが入っていた。


「クライヴ、お前は以前もそれで振られたの忘れたのか? というか、我らの品位まで疑われる。――お前さんも、いい加減に顔を隠してくれ! 我が筋肉が止められん!」


 バッカスさんも、ポージングを決めながらにじり寄ってきている。

 これでも懸命に抵抗しているらしい。



 とにかく、言われるままにバケツを被り直す。

 特に、クライヴさんからこの世の終わりのような溜息が漏れたけれど、しばらくすると、彼らも理性を取り戻してくる。


 それでも、アナスタシアさんの吐息は妙に熱いし、バッカスさんも近づきはしないもののポージングは継続しているし、クライヴさんはカメラアングルが少し上がっただけだ。



「ああっ、ご無体な!」


 そして、理性を取り戻したからかどうなのかは分からないけれど、クライヴさんのカメラが、アナスタシアさんに没収された。


「もしこんな写真が世に流出してみなさい、大パニックが起きるわよ? いくら自己使用に限ると言っても――自己使用――ダメね。これは私が預かるわ」


「殺生でござるよ! 後生でござるよ! チクショーー!」


 駄々を捏ねて、バッカスさんに取り押さえられているクライヴさんを見ながら、この世界にもカメラがあるんだなあと、現実逃避気味に考えていた。

 どうにかして手に入れて、アイリスたちとの思い出作りや雪風の成長記録をつけたい。


 ドワーフたちに頼めば作れるのだろうか?

 それともアルにでもお願いしてみるか。




『神って何なの』


 三柱の魔王兼神が落ち着いたところで、朔が話を切り出した。


 落ち着いたといっても、クライヴさんは体育座りでさめざめと泣いていたけれど。


 いや、本当に、いろいろな意味で「神って何だ?」である。


「何って言われても、そういうものだとしか」


「人間とは何ぞや、と問われても困るだろう? ――お前さんの欲しがっているような答えとしては、主神に従っておる者もおるし、我らのように割と好きに生きておる者もおる」


「主神と会ったことのある者などは、聞いたことすらないでござるよ……」


 神が何なのかはよく分からないけれど、システムの管理下にない種子だからといって、必ずしも敵対するわけではないのだろうか?

 彼らの様子を見る限り、私と敵対しようという意思は感じない。


「では、何をもって神なんですか? 明確に区別するものってありますか?」


『恐らくシステムへの上位アクセス権とか、そんな感じのものじゃないかと思うんだけど』


「大体当たり。細かいことまでは教えられないけど、その解釈で間違いないわ」


「吾輩からも訊きたい。お前さん方の関係はどうなっておる? 種子がふたつ――という解釈で間違いないのか?」


『うん、おおむね合ってる――と思う。でも、ユノの方は種子より遥かに上位の存在か、種子の能力を兼ね備えた別の何かって可能性はあるけど』


「自分自身でも分からないのでござるか?」


『類似してるものを見たことある?』


「いえ。――そもそも、意思とか自我を持った種子に遭遇したこと自体初めてだもの」


「うむ。例外だらけの中で、更に例外と言われても、吾輩らとて全知には程遠いからな」


「それよりも、『場合によっては協力する』って言ったわよね? 具体的には何をしてくれるのかしら?」


『新たな種子が出現した時、回収して引き渡してもいい。ユノなら、天使や主神よりよっぽど上手く回収できるし、何なら活性化させて引き渡してもいい。もちろん、それでボクらに危害――は無理だとして、邪魔されないようには手を入れさせてもらうけど』


「俄かには信じがたいところもあるが――まずはお前さん方の言うとおり、世界の敵とならぬ存在かどうか見極めさせてもらわねばならん」


『それでいいよ。それと、ボクたちのことを誰から聞いてたの?』


「それは今は言えないわ。それに、お姉さんたちが話さなくても、近いうちに本人が接触してくるんじゃないかしら?」


「それよりも、そろそろ戻った方がいいだろうな。お前さんの顔を見た者どもがどうなっているか心配だ」


「残念だが仕方ないでござる。それで、次の撮影会はいつでござるか?」


 そんなものはない。

 というか、こんなにも壊れたクライヴさんを連れて戻るのは問題ではないのだろうか?

 もしかすると、こっちが素だったりするの?


◇◇◇


「コイツ、ザコどもだけじゃなく、クライヴまで(たぶら)かしやがった! とんだビッチだぜ!」


 違ったらしい。


 お互いに、神や種子辺りは他言無用ということで天空城に戻ると、ミーティアとソフィア、そしてギルバートが大勢の魔王たちに詰め寄られていて、そして、私には謂れのない罵声が浴びせられた。


 というか、基本的に他人に何を言われようと気にならない私でも、「ビッチ」呼ばわりには少しショックを受けた。


 しかし、それを口にしたのは蠅の魔王である。

 汚物に集る彼の感性は、普通の人とは真逆ということで納得――できるはずもなく、かといって近づきたくもないので、匿名で殺虫剤でも送ってやろうと思う。



「ちょっと、他人事みたいに見てないで何とかしてよ!? 何でアンタの顔見て魅了されたのの相手しなきゃいけないの!? そもそもアンタの城でしょうが!」


 などと、ソフィアに怒られたけれど、何のことか分からない。

 言葉とは、発して終わりではない。

 相手に届いて初めて言葉足りえるのだ。



「ユノ様、申し訳ありません。私たちの状況を話したところ、興味を持った者が――これほど集まるとは想像もしていなかったもので……」


 つまり、ここに集まっているのは全員移住希望者、若しくは間諜か?


「むしろ、お主に魅了された犠牲者というべきじゃろうな」


「やはり、そうやって甘い言葉や色仕掛けで戦力を集めて手駒とするつもりか! どうやって竜の目を逃れたのかは分からんが、そんなことが許されると思っているのか!?」


 骨の魔王が吠えた。

 死後? ではないと思うけれど、骨になってまで権力や欲望に支配されるとは、憐みすら感じてしまう。



「許してほしいなんて言った覚えはないのだけれど」


 どう説明したものかと頭を捻ったものの、上手い言葉が思いつかず、仕方がないのでせめて本音で話してみたら、どうも喧嘩を売ったような返答になってしまった。


「くくく、これだけのメンツを前にしてその傲慢さを貫けるとはな!――やはり我が眼に狂いはなかったようだな! 漆黒の翼を持つ者よ、やはり貴様とは決着を付けねばならぬようだな!」


「っ!? ――だからお前は黙ってろ!」


 蠅の魔王が挑発に乗りそうになっていたけれど、黒竜パイパーの横槍で気勢を削がれたようだ。



『ギルバートには加護を与えたし、これから来る子たちにも与えるけど、手駒として利用することは考えていないよ』


 やはり朔に任せるのが一番か。


「そんな寝言を誰が信じるっつーんだよ!?」


『だから、信じる信じないは好きにすればいいよ。それで敵対関係になって、戦争になったとしても、相手をするのは私ひとりで充分』


 更に喧嘩を売ってどうするの?


 殺気を感じたりはできないけれど、場の空気が変わったことくらいは分かるよ?



「珍しく好戦的ね」


「おおよそ喋っておるのは朔じゃろ。ユノがこんなにスラスラ喋るわけがない」


 そんな判別法があったとは――いや、そんなことよりも、分かっているならフォローしてほしい。


「やるなら覚悟はしておいた方がいいわよ? さっきクライヴも負けちゃったくらいだしね」


「んフフフ、拙者もまだまだだとフフフ、いや、フフフ修行が足りないというか、んフフフ失礼デュフフ」


 黒竜以上に様子のおかしいクライヴさんに、敵意を剥き出しにしていた人たちも、ただごとではないことを悟ったらしい。

 忌々しげな視線は変わっていないけれど、私に直接クレームをつけてくる人はいなくなった。


 その分、スパイを送り込むなどの工作が増えるのだろう。

 しかし、その辺りの対策はアイリスたちがしてくれているはずだ。

 何の心配も要らない。



 それより、クライヴさんの容態は、打ちどころが悪かった――のであればまだ理解できるのだけれど、ダメージを負うような攻撃はしていない、はずだ。

 少なくとも、魂や精神にもダメージは無い――いや、むしろ活性化している。


 もしかすると、お気に入りの得物を失ったことがショックだったのだろうか?

 しかし、素材や外見だけなら、朔がいくらでも複製を創れるものの、魔法の効果やシステム関連のことは再現できない。


 何かお詫びの品でも渡した方がいいのだろうか?


 といっても、今の手持ちにはろくなものがない。

 いや、お供え的にはお酒が最適か?

 御神酒とかいうし。


 だったら――と、私専用として、自動販売機のラインナップにも入っていないお酒《神殺し》。

 それを瓶に詰めて取り出す。

 ラベルに書かれた、“魔王”の文字がプレミア感を演出している。


 もちろん、このお酒はフィクションであり、現実の人物・団体とは一切関係無いし、目の前にいる本物の魔王たちとも一切関係ない。

 その上、日本語で表記してあるので、この世界でクレームをつける人はいないはずだ。

 それを無言でクライヴさんに手渡す。


「キターーーー! こ、これはユノ殿の気持ち!? ――んフフフ、困ってしまうでござるなあ。フフフこれはもうフフフ結婚するしかないでござるなあ! レッツ三々九度!」


「落ち着けクライヴ! 頼むからこれ以上恥を晒さないでくれ!」


「ユノちゃん、エサを与えちゃダメよ! もう、クライヴ――いい加減にしないと本当に殺すわよ!?」


 あれ?

 クライヴさんが更に錯乱した。

 彼はもう駄目かもしれない。



「闘神をあそこまで狂わせんのか……。強い奴なら戦ってみるのも一興かと思ったが、好奇心程度であんな無様晒すようなリスクは負えねえな」


 ライオンの獣人の魔王が、錯乱したクライヴさんの姿を見て戦意を失っていた。


「異性特効の魅了か何かか――厄介な」


「状態異常無効を持つ私には関係ないが――古竜が2匹もいるのは面倒だな。同性である邪眼のなら良い勝負ができるのではないか?」


「くだらん。――私の国や民を侵す者には容赦しないが、覇道には興味は無い。無駄な争いはせん――が、面白そうな奴らではある」


「どいつもこいつもバカばっかかよ。だが、いい気にしてられんのも今のうちだ。精々イキがっとけ」


 他の六大魔王も、それぞれ悪巧みしていたり、ひとり離れたところで呪詛を吐いていたり、堕天使はいつの間にか姿が消えていたりしているけれど、今ここで何かを仕掛けることは諦めたように見える。




「そういえば、ソフィアちゃんの出身は、魔族領の北部で合ってる?」


 そろそろ私の言葉を待っている移住希望の魔王たちに声をかけるべきかと思ったところで、空気を読まないアナスタシアさんが突然話を振ってきた。


「そうだけど?」


「何百年か前に消息を絶っていた吸血鬼の魔王――ソフィアちゃんと同じね。そいつが十数年前に復活して、また何かつまらないことをしてるらしいわよ?」


「その噂なら吾輩も聞いたな。お前さんと何か関係があるのか、誰かが裏で糸を引いておるのかまでは分からんがな。――そういえば、そこは【ヴィクター】の支配地域の近くだったな。何か知らんか?」


「――っ! ――情報感謝する。こちらでも調べておこう。それより――」


 私を非難する立場から一転、あからさまに知っているものの、嘘は見抜かれるので誤魔化しました的な態度のヴィクターさんこと骨。

 普通に考えれば、彼のようなタイプの人が、自分の支配地域の近くのことを知らないはずがない。



「――もしも想像どおりの魔王なら、訊きたいことがあるわ。詳しく聞かせてくれるかしら?」


 ヴィクターさんが苦し紛れに話題をすり替えようとするのを無視して、ソフィアがアナスタシアさんたちに問いかけた。

 こういった、魔王の空気を読まないところは羨ましくもある。


「詳しくは知らんが、付近の村から住人が消えておるとか」


「地理的に帝国の線も消せないんだけどね。どっちにしても放っておくことはできないわよねえ?」


「そう、ありがとう。――念の為に調べてみるわ。ユノ、手伝ってね」


 ただの里帰りになると思っていたのだけれど、当事者を捕まえられるなら何かヒントが見つかるかもしれない。

 ただ、アナスタシアさんたちからすると、これは骨の魔王に釘を刺しただけでなく、私の対応を見るための舞台に利用するつもりなのだろう。


 よし。

 台無しにしない程度に頑張ろう。

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